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2018年3月20日火曜日

いつ海外に出るか、出られるか

先日研究所のメーリスで海外学振の書類提出に関するメールが来て、ふと自分の出せる年限について調べてみたところ、実は今年が最後だということに気づいた。

海外学振の申請要件はいくつかあり、その中に「採用日において学位取得後5年未満」がある。
私が学位を取得したのは2015年3月末。もし来年申請をした場合、以下の通りになり、申請要件を満たさないことになってしまう。

2015年3月 学位取得
2016年3月 学位取得1年経過
2017年3月 学位取得2年経過
2018年3月 学位取得3年経過(←今ココ!)
2019年3月 学位取得4年経過
2019年4月 海外学振申請締切(所内締切)
2020年3月 学位取得後5年経過(制度的にアウト!)
2020年4月 海外学振採用スタート

学位を取得してからちょうど「3年」だしまだ余裕あるな、という感覚でいたけど、実は今年が海外学振の申請最後の年。
私もかなり無知なところがあって、例えば知り合いで、「助教になってから海外学振になって給料2倍取りで(年収倍増!)、かつ教務を放り出して自由を謳歌してる!」
みたいな話を聞くものだから、当然自分もそれを目指そうと思っていたわけで。
でもよくよく考えると、その先輩は学位取得後すぐに助教になった(ポスドクや学振PDを経ずに)方々で、かつ学振の制度的にも「学位取得後5年未満」という要件はわりかし最近できた縛りということで、最後の申請チャンスの締切が1ヶ月後に控える今日になってようやく条件が厳しいということを実感した次第。


〜そもそも何故海外経験にこだわるのか?〜

色々あるけど、
・海外経験を通じて海外の先端をゆく研究者たちが日々どのように研究に勤しみ、研鑽しているのかを身を以て実感したい
・海外流のPIの研究室運営について学びたい
・欧米の研究者とも対等に議論/交渉できる語学力を身に付けたい
・妻子にも英語圏の文化を体験させたい(子供に関してはのちの語学力にとって、年齢如何では非常に重要)
・海外の共同研究者とのハブを作ることで研究の幅を広げたい
・海外の研究機関が有する貴重なサンプルを入手したい
・(海外の研究機関に在籍したというお墨付き/履歴が欲しい)
などが挙げられるかと思う。

これは自分自身が思うことだけでなく、実際に海外経験をされた日本で活躍する先輩の研究者の方々からいただいたアドバイスによるところが大きい。

井の中の蛙、大海を知らず。より広大な科学の地平を見渡すためにも不可欠なプロセスだと思う。日本の場合、必ずしも海外経験が採用の可能性を上げることに直結するわけではないとしても、ね。

〜〜〜

いまは学振PDの1年目が終わろうとしている年。あと2年はこの自由な期間を謳歌でき、研究者としても脂がのりにのって精力的にデータを取れるし、自分の研究のことだけしか考えなくていい至高の期間!
自由な期間を3年満了して自分の糧にするのも一つの選択肢。
でも今のご時世民間企業ほど引く手数多ですぐ就職できるという保証はなく、条件の良い公募が出たらとにかく「頼むから当たれー!」という気持ちで公募書類を送りつける人の方が当然ながら多いかと思う。
だって学振PDが終わって、その後職につけない可能性も大いにあるんだよ?
30歳過ぎて無職?
次の職が得られるまで奥さんのヒモ?
独身者は貯金を切り崩してなんとか生き延びる?
アカデミックの世界から離れてアルバイト生活?
雇用形態によっては収入が大幅減?
私も当然良い公募があれば応募し続けている(そして落ち続けている)立場で、もちろん就業条件や募集内容とのマッチング、職場の立地(日本国内どこでも)、研究v.s.教務のバランスなどを加味して公募書類を送るかを決めているけど、正直それほど余裕はない。

海外に行く、という選択肢に関しても、それによって自分の目指す研究が大幅に進展するのか、という問いが常につきまとう。
私自身がやっている研究は、正直なところ、日本における実験施設でほぼすべて海外に匹敵、或いはそれを凌駕する結果が出せるのもまた一つ。日本でやっている研究者も少ないものだから、テーマも選び放題。
だからこそ「敢えて海外に行く理由があるの?」と揶揄されてしまうこともしばしば。
でも私自身はできれば若いうちに是が非でも海外経験を積んで、見識を深め、より国際的な(そして日本を拠点として活動する)研究者になりたいと思うからこそ、どうにかこじつけてでも海外に行く手段を考えずにはいられない。

いまは夫婦共働きが普通。私の配偶者は東京の民間企業で働いており、勤め先の定める産休・育休の期間があり、海外に連れて行ける期間は限られている(連続して望み通り2〜3人の子供をもうけ、育休をどれほど得られるかも不確定性が大きい)。
出産前/後に私が単身海外に飛び出して数年間研鑽するという選択肢もあるとはいえ、できることなら一緒に同行してもらい、ともに育児に励みたいし、彼女自身にも海外経験を積ませたい(幼児はともかく、乳児にはほぼ無意味な経験だと思うけど)。もちろん私が不在の間に妻とその両親に育児の負担を押し付けてしまうことも忍びないし、それは避けたい。
もちろん私の都合で海外に渡るからという理由で退職させ、女性の社会進出を妨げるようなこともしたくない。妻が育休取得後に社会復帰するという前提で、かついかにして家族全員で海外に渡るか(当然、金銭的な負担も考慮した上で)について考えを巡らせずにはいられない。

RPDという学振の制度もある。男女問わず、出産・育児で3ヶ月以上研究活動を停止したことを”証明”できれば応募できる。学振PDと同じ給与で、3年間研究に専念できる。子供が生まれるたびに申請する権利が得られるが、応募者の年齢制限がないこともあり、採択率は決して高くない(受かったという知人はごく一握り)。
例えば、すぐにどこかの大学に助教で採用されたとする。数年間研究に勤しみ、子作りにも勤しみ、子供を授かったとする。予めRPDに申請し採用されていたという前提のもとで、一応は海外に渡ることも可能ではある。
ただしその条件は厳しく、
・出身大学以外を受け入れ研究機関とする必要がある(一応義務ではなく、推奨)
・RPDも学振の特別研究員であり、兼任は許されず、大学の助教を辞職する必要がある
一応学振の特別研究員ということで、海外渡航は”推奨”されている(と理解している)。
ただ、現実には子育ての都合や受け入れ研究機関が国内であることから、RPDを使って海外に渡航する研究者は少ないのではないかと想像する。

海外渡航用のRPD制度(RRA)も設けられているが、年間5名程度しか採用されていないことからも、その道は極めて険しいと言わざるを得ない。

海外に渡るのに、海外学振という制度に拘りすぎる必要もないのかな、と色んな先輩方の経験からも思うことがある。
そもそも、いまの学振PDでも、3年の採用期間のうち1年半は海外に滞在する権利がある。研究費のつかない海外学振よりも、下手したら(行き先いかんでは)経済的には学振PDの方が状況は優れている。
また各研究機関でも海外の研究機関に滞在する権限を与えているケースもある。
JAMSTECには一年間の海外渡航権利があるということらしいし、産総研にも似た制度がある。
大学の教員にもサバティカル制度など、海外に渡ることが認められているケースもある。

例えば、私がいま海外学振に応募して、もしうまく採用されて2019年4月から渡航することになっても、家族計画的にも(特に出産のタイミング)、研究の進展的にも、不確定要素が大きく得るものもさほど大きくはないだろう。
それよりは、腰を据えて今の研究計画を進めて日本で世界最高峰のデータを蓄積するほうが、今後の自分の研究者人生にとって(+下手したら海外に渡るタイミングを完全に逃すかもしれないけど)、プラスが大きいかもしれない。
或いは、来年子供を授かったとして(そして特に就職先にも恵まれなかったら)、学振PDの最終年度に、妻の産休・育休制度を活用して、1年くらい海外で過ごすという選択肢もあり得るかもしれない。

今やっている研究結果をトップジャーナルにしっかり載せて業績を積み重ね、その上で妻子を連れて海外に渡る。
望み過ぎかもしれないけど、それを実行に近づけるためにも、まずは日本でできることをやり切ることが肝要なんだと思う。

不確定要素は本当に…本当に多い。
子供を授かるかどうかにしても、子作りをいつ始めるかどうかの決断にしても、いつ海外に渡るか/国内に留まるかにしても。
研究者のキャリアパスの決断は実に難しい。自分がその舵を取っていると分かっていても。