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2017年1月20日金曜日

最終間氷期の全球平均水温のコンパイル(Hoffman et al., 2017, Science)

Regional and global sea-surface temperatures during the last interglaciation
Jeremy S. Hoffman, Peter U. Clark, Andrew C. Parnell, Feng He
Science 355, 276–279 (20 Jan 2017)
より。

最近、論文概説が形骸化していたので、急ぎまとめる次第。

海底堆積物コアの復元水温記録のコンパイルから、地域ごと(低緯度・低緯度以外、など)の温度を誤差を含めて評価し、現在と対比。




最終間氷期は現在の間氷期を理解する上で、また温暖化のアナログとの兼ね合いで注目される地質時代の一つ。
約12万年前と、”比較的”最近なので、よく研究がなされる。グリーンランド・南極のアイスコアや中国の鍾乳石による年代が高精度に定まった記録が存在するため、地質記録の年代モデルを構築しやすいという利点もある。

当時海水準は5~9mほど上昇していたと推定されており、グリーンランドから氷床が消失していたとも言われている(※ただし、一部残っていたという説もあり、議論が続いている)。
表層気温については現在(人為的温暖化前の後期完新世の自然状態)と同程度とする研究から、2℃ほど温暖だったとする研究まで幅があるそう。

これまで幾多の研究が最終間氷期の水温復元を行っているが(またこうしたコンパイル研究も多数行われているが)、彼らの研究の新規性はおそらく
(1)年代モデルの構築に関する戦略
(2)各地域ごとにもっとも温暖になる時期がわずかに異なることを考慮したこと
にあると思われる。

彼らがまとめたのは、
・円石藻のバイオマーカーの一つ、アルケノン
・浮遊性有孔虫殻のMg/Ca比
・生物群集組成を利用した経験的水温復元(transfer function)
の3つの古水温記録である。

生物群集組成の記録は他の2つに比べて温度変化を過小評価する傾向があるらしい。
また記録によっては年平均や夏の水温の復元になっているため、そうした違いもしっかり考慮。

まず各海盆の鍵となる堆積物コアを設定し(おそらく時間解像度が十分なもの)、それとアイスコア・鍾乳石との記録を対比して年代モデルを設定。
その鍵堆積物コアの年代モデルを、底生有孔虫酸素同位体層序を利用して、他の地域(緯度)の海底堆積物コアに同期させた。
実際にはすべての年代モデルに誤差が伴うので、そうした誤差をすべて伝播させ、誤差付きの記録を作成。最終的には全記録を地域ごとにまとめた。

そうしてまとめた全球平均水温の復元結果を見てみると、
最終間氷期の最温暖期はHadSSTの1870-1889年の気候値と比較して「0.5 ± 0.3 ℃」ほど温暖、1995-2014年の気候値と「同程度」(現在は温暖化が進行しているため)であることが分かった。

地域ごとに見てみると、
低緯度域の復元水温は1870-1889年の気候値と同程度であるのに対し、低緯度以外(>23.5°)の復元水温はかなり高い結果に(南北半球ともに、1870-1889年の気候値と比較して「約1℃」高い)。

また、南北半球でも最温暖期に達するまでの道筋が異なり(復元曲線の形が異なる)、例えば北半球の低緯度以外(>23.5°N)が最温暖に達するのは約12.5万年前なのに対し、南半球のそれは4,000年ほど先行している。
大西洋にのみ着目しても、最温暖期に達するまでの道のり、その後寒冷化し最終氷期へと向かう道のりについて大きな違いが確認された。

最終間氷期の始まり頃(約13万年前)、大西洋の北半球高緯度はなかなか暖まらないが、それを説明するのは
淡水フラックスの増大による大西洋子午面循環の弱化
➡︎溜まった熱が北半球ではなく、南半球に伝播(バイ・ポーラー・シーソー仮説)
かもしれない。
バイ・ポーラー・シーソーによる熱伝播に加え、海氷・温室効果ガスによる放射強制の結果として南半球の温暖な状態はしばらく維持され、南北半球の温度の変遷史に時間的な差が生まれ、南北で対照的な復元曲線が得られたものと推測される。