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2014年12月20日土曜日

前の間氷期に確認された大西洋子午面循環の急激な変化〜温暖化のアナログ?(Hayes et al., 2014, Science)

A stagnation event in the deep South Atlantic during the last interglacial period
Christopher T. Hayes, Alfredo Martínez-García, Adam P. Hasenfratz, Samuel L. Jaccard, David A. Hodell, Daniel M. Sigman, Gerald H. Haug, Robert F. Anderson
Science 346, 1514-1517 (19 December 2014).
より。

南大洋で採取された堆積物コア(ODP Site 1094、53.2°S、2807m)の分析から、最終間氷期(MIS5e)の大西洋子午面循環(AMOC)の変動を議論。



将来の温暖化のアナログとして、地表気温が現在よりも2℃ほど高く、海水準が6~8m高かった最終間氷期は広く注目を集めている。

今回筆者らが着目したのは、AMOCの安定性。パニック映画「デイ・アフター・トゥモロー」ほどの極端さはなくとも、AMOCが急激に変化すると北米・ヨーロッパ諸国だけでなく、全球の気候に大きな変化が生じる可能性が高い
そのため、温暖化した世界でAMOCがどのように振る舞うのか、どこまでは安定なのかの理解を深めることは緊急性を帯びている

筆者らは堆積物中の
▶︎自生ウラン(authigenic Uranium、底層水の酸素濃度の指標)
▶︎堆積物の集積度(focusing factor、堆積物がどこからどれだけ運ばれてきたのかの指標)
▶︎底性有孔虫の殻のδ13C(生物一次生産と海洋循環の指標)
▶︎生物源オパール(biogenic opal、生物一次生産の指標)
などを駆使し、AMOCの復元に取り組んだ。

年代モデルはTEX86温度計と南極の温度指標(δD)との対比によって作成しているという(大丈夫か??)。

分かったのは、最終間氷期の最温暖期を過ぎてもなお、AMOCに急激な変化が生じていたということ。
これは今年3月に同じくScienceから報告された、北大西洋の堆積物を用いた研究とかなり整合的な結果となっている。
Rapid Reductions in North Atlantic Deep Water During the Peak of the Last Interglacial Period
Eirik Vinje Galaasen, Ulysses S. Ninnemann, Nil Irvalı, Helga (Kikki) F. Kleiven, Yair Rosenthal, Catherine Kissel, David A. Hodell
Science 343, 1129-1132 (7 March 2014).

特に、127 kaから始まるaUのピークは、南からの酸素に富んだ南極底層水(AABW)の影響が小さくなり、底層水の酸素濃度が低下したことが原因と考えられる。
当時、海水準は上昇を続けており(2,000年で30 mほど上昇)、南極氷床の融解が続いていたことから、南極周辺の低塩分化に伴い海水密度が低下、最終的にAABW形成を阻害した可能性がある。
この一連のシナリオは、現在温暖化する世界で確認されている南極氷床の変動とも関連性が多く、たいへん興味深い(後述)。

また、大気中のCO2濃度もまたこの時期に急激に減少することが分かっている(290→270 ppm)。
AABWの形成が阻害された結果、深層循環が停滞し、深層水に炭素が留まったことが原因として考えられる。モデルシミュレーションからは、AABWが停滞すると、大気中のCO2濃度が下がるだけでなく、深層の温度が”上昇”することが分かっている(AABWは非常に冷たいため)。深層水の温度上昇は逆に大気中のCO2濃度を”上げる”効果があるため(ヘンリーの法則)、これら2つの影響が合わさった結果、正味では20 ppmほどの低下になったのだと説明できる。

AABWの停滞はしばらく続き(約3,000〜4,000年間)、やがて復活するが、その際には北大西洋深層水(NADW)の形成が弱まる。
こうした特徴は大西洋南北の堆積物コアのδ13Cがほぼ同期して変動していること(AABWの影響が強まり、軽い方へシフトする)、aUのピークが収束すること(底層水の酸素濃度が上昇)などに現れている。

こうした大西洋南北のシーソーのような変動の究極要因はこれまで「風系の変化」だと考えられてきたものの(熱帯収束帯やモンスーンの変化を伴う)、δ13Cの変動に時間的な差異がないことなどから、「深層水の密度」かもしれない。

間氷期には北米大陸に淡水供給源となる氷床が存在しないことなどから、従来、間氷期のAMOCは安定だと考えられてきたものの、大西洋南北で得られた2つの堆積物コアの分析から、必ずしもそうではないことが分かってきた。
AABWの形成が阻害されるような現象は現在の南極周辺の観測からも示唆されている。
例えば、
▶︎ウェッデル海での深い対流が1976年以来確認されていないこと
▶︎表層の温暖化・低塩分化
など。

将来、NADWまたはAABWどちらかの形成が阻害されると、片方の形成は逆に強くなる可能性が指摘されている。

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※以下はコメント
間氷期における南北シーソーの存在はたいへん興味深いが、将来の温暖化は海の成層化も招くため、今回提案されたモデル(南極周辺の熱塩のやり取り)がそのまま人為起源の気候変化のアナログになるのかに関しては疑問が残る。
最終間氷期が温暖だったのは軌道要素の変化によるものであり、温室効果ガス濃度が高かったことが原因ではない( CO2濃度は現在:~400 ppm、最終間氷期:~290 ppm)。
最終間氷期のAABWの停滞はたしかに最温暖期の後に訪れているが、まだ氷床融解は続いている。現在の間氷期では主要な氷床融解からすでに10,000年が経過しており、まったく違う気候場(氷床場?)であることにも注意しなければならない。
地球工学では大気中のCO2を、鉄肥沃による生物ポンプの活性化あるいは直接注入などでどこの海域に貯蔵するかなどが議論されているが、将来の深層循環の変化も考慮しなければならないだろう(いずれにしても底層水の酸性化は免れないことを覚悟しなければならないが)。