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2014年10月31日金曜日

これまででもっとも細かい大気CO2濃度記録:最終退氷期(Marcott et al., 2014, Nature)

Centennial-scale changes in the global carbon cycle during the last deglaciation
Shaun A. Marcott, Thomas K. Bauska, Christo Buizert, Eric J. Steig, Julia L. Rosen, Kurt M. Cuffey, T. J. Fudge, Jeffery P. Severinghaus, Jinho Ahn, Michael L. Kalk, Joseph R. McConnell, Todd Sowers, Kendrick C. Taylor, James W. C. White & Edward J. Brook
Nature 514, 616–619 (30 October 2014)

より。
西南極氷床から得られたアイスコア(WDC)の、これまでで最も高い解像度の最終退氷期(20-10ka)における大気CO2濃度変動記録を報告。

これまでの研究で南極の気温と大気中のCO2濃度が氷期-間氷期という数万年のタイムスケールで極めて類似した変動を示していたことから南極周辺海域(南大洋)がCO2濃度をコントロールしていることが指摘されていた。
しかしながら、氷の中に空気が捕獲される過程で拡散や混合といった影響を被るために、積雪速度の小さい南極氷床から得られるCO2濃度の記録は時間解像度が低かった(Law Domeのように完新世における高解像度の記録を提供しているアイスコアもあるが;Rubino et al., 2013)。
それでも、グリーンランド・アイスコアには多くの炭酸塩不純物が混入しており、大気のCO2濃度を復元するのには適さないため、南極アイスコアが頼みの綱という事情がある。

西南極で行われたアイスコア掘削では、驚くほどの積雪速度が見られ、さらに微量空気の分析技術の向上もあり、最終退氷期における超・高時間解像度のかつ高精度のCO2測定が可能となった。

これまでに、ヤンガードリアス期の終わりを告げる11.7kaと、ボーリング・アレレード期の始まり(かつMWP-1a海水準上昇;Deschamps et al., 2012)を告げる14.8ka数百年で10ppmという規模のCO2のパルス的な変動が確認されていたが、WDCアイスコアから新たに16.3kaにもCO2の急上昇があることが発見された。

他にもこれまでのアイスコア記録との対比を行っているが、細かい変動パターンだけでなく、大きなトレンドでも違っているところが散見され、たいへん興味深い。フィルン中のスムージングの効果がたいへん大きなものであることが伺える。

詳しく学びたい人は拙ブログ記事
なども参照のこと。

他のダスト指標との比較から(非海塩起源CaとH2O2)、これが実際に大気のシグナルであることを確認している。
興味深いのはこうしたパルス的な変動は必ずしも南極の気温との対応が見られないことであり、2つのモードが存在するのではないかと筆者らは述べている。
南極気温との対応が良い、より長い時間スケールの変動成分と、対応がない短い時間スケールの変動成分の2つということになる。とりわけ後者の変動は気候・炭素循環モデルではまったく再現できていない、百年スケールの変動である。
目を引くのはこうしたパルス的上昇のあと平坦な期間が1,000-1,500年間続くことで、そのメカニズムを明らかにすることがより良い炭素循環の理解につながるものと期待される。

年代モデルは「WDC06A-7」に基づいており、年代のタイポイントとしても使えるメタンの濃度変動を用いて、グリーンランドの気候変動、中国鐘乳石、世界各地の堆積物コア(とくにMcMunus et al. (2004)の231Pa/230Th記録@北大西洋とAnderson et al. (2009)のOpal Flux@南大洋)とを比較し、CO2濃度上昇のメカニズムを考察している。
中心的な役割はおそらく大西洋子午面循環(AMOC)である。AMOCへの擾乱が南大洋の海洋循環に影響し、それがさらに氷期に深海に蓄えられていた炭素を大気へと放出したという点はこれまでの研究とまったく同じである(Kubota et al., 2014; Sigman et al., 2010; Anderson et al., 2009; Toggweiler et al., 2006など)。

またメタン変動そのものも陸域炭素の変動(気温・降水などに影響される)の指標になる。CO2濃度・メタン濃度変動を併せて全球炭素循環を考察することで、よりもっともらしい説明が可能になる。
14.8kaと11.7kaのパルスは擾乱を受けていたAMOCが急激に回復し、北半球が温暖化するタイミングと一致している(オーバーシュート)。
そうしたオーバーシュートを対象にしたモデル研究もすでになされている。Kohler et al. (2011)では、14.8kaのCO2パルスの規模は30ppmほどであったとされ、フィルン中のスムージングの結果、10ppmほどの変動に見えるのだということをDome CアイスコアのCO2記録から考察している。ただし、14.8kaのオーバーシュートは高解像度のWDCには見られていない(16.8kaと11.7kaにはわずかに見られる)

16.3kaには、CO2・メタンともに急増しており、それは北大西洋への氷山流出イベントのタイミングと一致している(ハインリッヒイベント1)。全球の広い部分の寒冷化に伴う大気循環の変化が南大洋の偏西風に影響したか(エクマン輸送を介して湧昇を強化)、寒冷・乾燥化が陸域炭素を大気へと放出したのかもしれない。
そうした変動はメタン濃度の低下につながると期待されるが、実際にはわずかに増加している。その原因は熱帯収束帯の南下によって赤道南部の熱帯雨林の降水量が増したことが北半球中緯度の降水量低下の効果を打ち消したからなのかもしれない。

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引用文献
・Anderson et al., 2009, Science
・Deschamps et al., 2012, Nature
・Kohler et al., 2011, Climate of the Past
・Kubota et al., 2014, Scientific Reports
・McManus et al., 2004, Nature
・Rubino et al., 2013, Journal of Geophysical Research: Atmosphere
・Sigman et al., 2010, Nature
・Toggweiler et al., 2006, Paleoceanography

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以下はコメント

WAISの記録はスムージングの効果を極めて軽微にしか受けていないとしているが、それは果たして信頼できるのだろうか?

今後さらに高解像度の記録は得られるかもしれない。それでもなお、フィルン中のスムージングは避けがたい物理現象である。
そういう意味では、季節レベルの記録を有するサンゴ骨格は勝っている。アイスコアの痛いところを突く形で、何か面白い研究はできないものか。