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2014年9月15日月曜日

『変化する地球環境』(木村龍治, 2014年, 放送大学叢書)

変化する地球環境〜異常気象を理解する
木村龍治
放送大学叢書、2014年(¥1,700)

僕自身、タイトルに惑わされて図書館で借りたわけであるが、本書の内容は気候変化問題とはほとんど関係なく、日々の気象現象を数式を用いずにほぼ文章のみで巧みに説明した書籍である。

それもそのはず、本書は放送大学で教材として扱われた内容を書籍に書き下ろしたものである。

著者は東京大学理学部物理学科出身の木村龍治氏。東大・海洋研の名誉教授であるので、現・大気海洋研究所の関係者であれば誰でも知っている気象学の重鎮である。

本書は気象に関わる話題を幅広く紹介しており、大気・海洋の循環系の日〜年変動を大変分かりやすく説明している。

身近な例をもとに、より大きなスケールの気象現象を説明しており、一般の人にも馴染みやすい内容となっている。

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以下は苦言である。

タイトルに惑わされるが、気候変化の話題はほとんど触れられない。

赤祖父氏と似た印象を受けたが、人為的気候変化が気象現象に及ぼす影響に関してかなり懐疑的であると感じた。

というのも、豪雪・大雨・巨大台風(最近フィリピンを襲ったHiyanなど)などの’極端な’気象現象は発生頻度こそ少ないものの、小規模から大規模まで様々なスケールで生じる気象現象の範疇に収まるからである。

将来、温室効果ガスがもたらす悪影響の一環として気象現象の極端化・台風の強化(頻度は低下)などが予測されている。
その影響がすでに現れ始めていることは、日々のニュースで「観測史上例にない」「記録更新」「異常」などのゴシップがお茶の間を賑わしていることからもその片鱗を実感していただけよう。
しかし、筆者は気候モデルを用いた将来の気候変化予測の結果をおそらくほとんど信じていない。

それは一流の気象学者だからこそそうなのだと思うが、3日後の気象をいくら精度を上げたコンピューターシミュレーションを駆使しても予測できない人間が、10年後・50年後・100年後の気候を予測するなどもってのほかという筆者の考えからきているのではないかと想像する。

「気象と気候は全く別物である」、ということは主に気候モデルを用いた研究者が広く主張することではあるが、3日先の天気や10年先の同日の天気をどの国の最新鋭のコンピューターシミュレーションを用いても正確に予測できないのは僕も認めるが、平均場としての気候の予測の信頼性はそれなりに高いと、信じてやまない。
むろん、所詮人間が作ったバーチャルな地球の再現である以上、人が知り得る過程しかそうしたモデルに組み込まれていないことは言うまでもない。
雲・エアロゾル相互作用の微物理、宇宙線や地磁気変動の気候への影響、陸上炭素リザーバーの気候感度など、まだよく理解できていないことも多いのもまた事実であると認めざるを得ない。

異常気象や気候変化といった最近の話題ではなく、一般的な気象学を知る上で、参照していただきたい書籍である。

より良い売れ行きに繋がりそうな、センセーショナルなタイトルにした(著者の意志とは裏腹に?)出版社の編集部には嫌悪感を感じずにはいられない。