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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年10月1日火曜日

新着論文(NCC#Oct2013)

Nature Climate Change
October 2013

Editorial
Campaign Climate
気候をキャンペーンする
一般大衆から盛り上がるタイプのよく組織された気候保護キャンペーンは、政治的な影響力においてIPCCに勝るかもしれない。

Commentaries
Climate protection can learn from the AIDS movement
気候保護はAIDSの動きから学ぶことができる
Jeremy Brecher &  Kevin Fisher
科学者、非政府機関や一般市民の世界的な協力体制を築き上げた国際AIDS会議(International AIDS Conference)の成功から、気候保護団体も学ぶことができる。

China's synthetic natural gas revolution
中国の合成天然ガス革命
Chi-Jen Yang &  Robert B. Jackson
中国は近年、石炭からの天然ガス合成巨大プラントへの投資を推し進めてきた。しかしながら、それに伴う炭素排出・水需要・広い範囲の環境影響はほとんど無視され、持続不可能な発展の道を辿る可能性がある。

Bias in the attribution of forest carbon sinks
森林の炭素吸収の寄与に関するバイアス
Karl-Heinz Erb,  Thomas Kastner,  Sebastiaan Luyssaert,  Richard A. Houghton,  Tobias Kuemmerle,  Pontus Olofsson &  Helmut Haberl
陸域の炭素吸収のかなりの部分はこれまでに(今も昔も)ほとんどが「森林管理の変化」というよりは、むしろ「環境の変化」が原因と誤って考えられてきた。

News Feature
Providing aid before climate disasters strike
気候の大災害が襲う前に手助けをする
Lisa Palmer
気候災害の回避が国際発展の一部となれば、人々の暮らしは守ることが可能かもしれない。

Market Watch
Pipe dream
不可能な夢
エクアドルの大統領Rafael CorreaはYasuní–ITTイニシアチブを破棄した。Anna Petherickが「そこから世界は何を学ぶことができるか」を問う。

Research Highlights
Sinking sea
沈みゆく海
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/ngx (2013)
2011年には全球の海水準が最大で7mmも低下した。人工衛星と現場での観測から、その原因がオーストラリア大陸と南米大陸における水の保存量の増加が原因であることが示唆。2010年の終わりから2011年にかけての「Southern Annular Modeによる大気循環場の変化」や「インドダイポールがSSTに与えた影響」と考えられている。

Living roofs
生きた屋根
Environ. Sci. Technol. http://doi.org/nq9 (2013)
急速な都市化がエネルギー需要の増加とそれに伴う温室効果ガス排出、大気汚染などを招いている。屋根を緑化することで温室効果ガス排出を減少させ、さらに大気汚染を軽減することも可能である。アトランタ州におけるグリーン屋根の導入コストの試算結果について。

Participatory planning
参加型の計画
Appl. Geog. 45, 22–28 (2013)
最近ますます政策決定者は地域的なスケールでの将来の気候に関連した影響評価を行っているが、その議論に一般市民が参加することの重要性については事例が少なくよく分からない。アラスカの事例から学ぶことができるかもしれない。

Biological invaders
生物的な侵入者
Glob. Change Biol. http://doi.org/nrc (2013)
外来種の侵入は生物多様性に大きな脅威となるが、気候変化によってその力学が増幅・減衰するかどうかはよく分かっていない。世界の100の悪者外来種を対象にしたモデルシミュレーションから、気候変化と土地利用変化がもとで特にヨーロッパ、北米大陸北東部、オセアニアにおいて外来種生息域のホットスポットが現れることが示唆。一部の外来両生類や鳥類には分布域の縮小も予測され、必ずしも悪いことばかりではないらしい。

Oscillating in synchrony
同期して振動する
J. Geophys. Res. Biogeosci. http://doi.org/nrb (2013)
 陸上の生態系は産業革命以降の人為的なCO2排出の25%を吸収したと試算されている。陸域炭素は全球の炭素循環の重要な構成要素となっているが、フィードバック・ループの中にあるため、その将来の振る舞いによっては人為的気候変化を抑制することも悪化させることもあり得る。そのため陸域炭素が気候変動・変化に対してどのように応答するかを理解することは必要不可欠である。
 人工衛星と現場での観測による陸域の炭素吸収の推定から、ENSOが陸上植物の一次生産に与える影響が大きいこと(全球の変動の40%を説明)が示された。気温や降水によってコントロールされる水利用可能性が重要な要因と考えられている。

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Research
News and Views
Mitigation policy: Health co-benefits
緩和政策:健康への恩恵
George D. Thurston
West et al.の解説記事。
気候変化への対応の努力は財政的・政治的障壁に直面してきた。新たな研究から、気候変化の緩和以外の手段によってそうした手段が正当化されることが示された。

Oceanography: Deep ocean freshening
海洋学:深海の淡水化
Nathaniel L. Bindoff &  William R. Hobbs
伝統的に「海の表層水は早く流れ、深層水は安定である」という見方がある。新たな研究から、南大洋の深層水が急速に淡水化・温暖化しており、その変化が遠く離れた赤道域まで広がっていることが示されている。

Carbon Storage: A permafrost carbon bomb?
炭素貯蔵:永久凍土の炭素爆弾?
Claire C. Treat &  Steve Frolking
Elberling et al.の解説記事。
永久凍土の土壌炭素が将来どうなるかは水循環による。

Soil carbon: Microbes and global carbon
土壌炭素:微生物と全球の炭素
Joshua Schimel
Wieder et al.の解説記事。
微生物の身体にどれほどの有機物が取り込まれるかが、温暖化した世界で土壌(地球の主要な有機物の貯蔵場所)が炭素を吸収するのか・放出するのかを決定する。

Perspective
Benefits of tree mixes in carbon plantings
炭素植樹において木を混ぜることの恩恵
Kristin B. Hulvey,  Richard J. Hobbs,  Rachel J. Standish,  David B. Lindenmayer,  Lori Lach &  Michael P. Perring
炭素を保存する目的で植林が世界的に増加しているが、木の多様性が炭素の保存量にどのように影響するかなどについてはよく分かっていない。モノカルチャー的な植林に対して木を混ぜることの恩恵をレビュー。

Review
The role of satellite remote sensing in climate change studies
気候変化研究における人工衛星リモートセンシングの役割
Jun Yang,  Peng Gong,  Rong Fu,  Minghua Zhang,  Jingming Chen,  Shunlin Liang,  Bing Xu,  Jiancheng Shi & Robert Dickinson
人工衛星によるリモセンは短期間の気候システムの変動の理解において大きく貢献している。気候モデルや従来の観測では検出されていない、リモセン独自の発見についてレビューし、長期的な気候変化のトレンドを厳密に検出するための将来の課題を述べる。

Letters
Co-benefits of mitigating global greenhouse gas emissions for future air quality and human health
将来の大気の質と人間の健康に対する全球的な温室効果ガス排出の削減の恩恵
J. Jason West,  Steven J. Smith,  Raquel A. Silva,  Vaishali Naik,  Yuqiang Zhang,  Zachariah Adelman, Meridith M. Fry,  Susan Anenberg,  Larry W. Horowitz &  Jean-Francois Lamarque
温室効果ガスの排出削減はそれとともに排出される大気汚染物質も軽減するため、人間の健康向上につながると思われる。それによって防ぐことができる大気汚染とそれが原因で起きる人の死亡率が推定され、その価値はCO21トンあたり50-380米ドルと見積もられた。こうした隠れた価値が温室効果ガス削減にあることが示された。
>Nature姉妹紙 ハイライト
温室効果ガス排出量削減の健康上の効用

Long-term CO2 production following permafrost thaw
永久凍土の融解に続く長期的なCO2生産
Bo Elberling,  Anders Michelsen,  Christina Schädel,  Edward A. G. Schuur,  Hanne H. Christiansen,  Louise Berg,  Mikkel P. Tamstorf &  Charlotte Sigsgaard
1996-2008年にわたるグリーンランド北東部の永久凍土における野外調査と室内実験から、表層の活発な層の厚さは年間1cm以上の早さで増加しているものの、全体としての炭素保存量には有為な変化は見られなかった。室内実験からは好気的な環境下では炭素が早く移動する可能性があるが、飽和状態では炭素は数十年間にわたって安定であることが示唆された。

Observed changes in the albedo of the Arctic sea-ice zone for the period 1982–2009
北極の海氷帯の1982-2009年にかけて観測されたアルベドの変化
Aku Riihelä,  Terhikki Manninen &  Vesa Laine
北極圏ではアルベド(太陽光の反射率)がエネルギー収支に大きな影響を与えており、気候のモデル化にも必要不可欠なものである。1982-2009年にかけて行われた海氷の観測から、晩夏の海氷のアルベドが次第にくすんでいることが分かった。しかもそのアルベド低下の速度は加速度的に増加していることも示された。

Adapted conservation measures are required to save the Iberian lynx in a changing climate
変わりつつ気候の下ではイベリアオオヤマネコを守るための適切な保全手段が必要とされる
D. A. Fordham,  H. R. Akçakaya,  B. W. Brook,  A. Rodríguez,  P. C. Alves,  E. Civantos,  M. Triviño,  M. J. Watts &  M. B. Araújo
イベリアオオヤマネコは絶滅の危機に瀕している。気候変化・獲物の獲得・人間による介入などを考慮したモデルシミュレーションから、今後50年間に絶滅する確率が高いことが示された。しかし、もし注意深く計画された放流(reintroduction)計画があれば今世紀中の絶滅は回避できることも示された。

Prediction of seasonal climate-induced variations in global food production
季節気候によって引き起こされる世界の食料生産の変動の予測
Toshichika Iizumi,  Hirofumi Sakuma,  Masayuki Yokozawa,  Jing-Jia Luo,  Andrew J. Challinor,  Molly E. Brown,  Gen Sakurai &  Toshio Yamagata
食料市場の変わりやすさはますます増加しつつあり、異常気象の頻発はより頻繁に食料価格が高騰することに繋がると思われる。過去の主要作物の不作をもとに作物シミュレーションの信頼性が再評価され、季節予測が世界の食料生産をモニタリングする上で役に立つことが示唆された。

Global soil carbon projections are improved by modelling microbial processes
微生物過程をモデル化することで全球の土壌炭素の予測は向上する
William R. Wieder,  Gordon B. Bonan &  Steven D. Allison
地球システムの中で土壌炭素の気候変化に対する応答は非常に簡略化されていることが一般的である。土壌の微生物による炭素循環を取り入れた地球システムモデルが観測によく合う土壌炭素プールを再現できることが示された。従来のモデルに比べて、気候変化に対する土壌炭素の応答が21世紀を通して非常に大きな変動を示すことも予測された。

Coastal habitats shield people and property from sea-level rise and storms
沿岸生態系が人々と財産を海水準上昇と嵐から守る
Katie K. Arkema,  Greg Guannel,  Gregory Verutes,  Spencer A. Wood,  Anne Guerry,  Mary Ruckelshaus, Peter Kareiva,  Martin Lacayo &  Jessica M. Silver
異常気象・海水準上昇・沿岸生態系の劣化のどれもが沿岸部のかかえるリスクを悪化させている。アメリカの沿岸部を対象にしたリスク評価から、手つかずの礁や沿岸植生によって損失の可能性と規模が減少することが示された。
>関連した記事(Nature#7458 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
Conserved coasts curb storm damage
保全された沿岸が嵐の被害を抑制する
スタンフォード大の研究グループによる調査から、沿岸生態系を保全することによってアメリカ沿岸部に住む人々に対する海水準上昇や嵐の被害が半減する可能性が示された。特にフロリダ・ニューヨーク・カリフォルニアで効果が大きいという。

Global imprint of climate change on marine life
気候変化が海洋生物に与えている全球的な証拠
Elvira S. Poloczanska,  Christopher J. Brown,  William J. Sydeman,  Wolfgang Kiessling,  David S. Schoeman,  Pippa J. Moore,  Keith Brander,  John F. Bruno,  Lauren B. Buckley,  Michael T. Burrows,  Carlos M. Duarte,  Benjamin S. Halpern,  Johnna Holding,  Carrie V. Kappel,  Mary I. O’Connor,  John M. Pandolfi, Camille Parmesan,  Franklin Schwing,  Sarah Ann Thompson &  Anthony J. Richardson
全球の海洋を対象にして、1,735種の海洋生物が気候変化にどのように応答するかを評価したところ、全体の81-83%が予測される応答(分布・季節学・組成・個体数・石灰化率など)を実際に示していることが分かった。生息地のシフトは海洋表層水温の変化に合わせて生じていることも分かった。陸域と同程度か、或いはそれを凌ぐ早さで、海洋生態系の分布域も変化しつつある。

Articles
Attributing the increase in atmospheric CO2 to emitters and absorbers
大気中のCO2の増加を排出者と吸収者に分ける
P. Ciais, T. Gasser, J. D. Paris, K. Caldeira, M. R. Raupach, J. G. Canadell, A. Patwardhan, P. Friedlingstein, S. L. Piao & V. Gitz
陸域の吸収源に関する2つの異なる仮定をもとに、大気中のCO2濃度増加の原因となる排出の地域性を評価。産業革命以前と比較した現在のCO2濃度の増加分は、先進国が最も多くの原因を負っていることが明瞭に示された。一方で発展途上国の寄与の割合は彼らの積算排出量よりも多くなっており、その原因としては途上国の排出が最近起きていることに起因する。今後ますます排出量が増加すれば、発展途上国の寄与はますます増加することになる。またそれは特に熱帯雨林をはじめとする森林を多く有する地域における炭素吸収の大きさにも依存するため、将来の土地利用変化にも強く依存する。

Future distribution of tundra refugia in northern Alaska
将来のアラスカ北部におけるツンドラの避難地の分布
Andrew G. Hope,  Eric Waltari,  David C. Payer,  Joseph A. Cook &  Sandra L. Talbot
北極圏のツンドラ生態系が減退するにつれ、北方生態系がより北へと広がりつつある。それとともに人間の活動も増加しつつある。アラスカ北部をモデル地として、将来のツンドラ生態系の避難地の可能性を探った。