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2013年10月2日水曜日

シンポジウムメモ(海洋酸性化とサンゴ礁 2013.10.1)

本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールにて行われた、国際シンポジウム「海洋酸性化とサンゴ礁」に参加してきました。

茅根創さんと栗原晴子さんの共同主催で開かれた、参加費無料の国際シンポジウムでした。
今回のゲストは非常に豪華で、先日の井上志保里さんのNature Climate Change論文に関連した、世界各地のCO2 seep(火山性のCO2が海低下から吹き出し、自然の酸性化が起きているところ)が海洋酸性化のアナログになるか、といった話も多くありました。

他にもバミューダ海域やグレートバリアリーフの炭酸系モニタリングやメソコスモ酸性化実験など、興味深い話が多くあり、大変勉強になりました。

以下にメモを残しておきます。

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1、茅根創
サンゴ礁への脅威はローカルなものとグローバルなものと様々ある。
例えば、ローカルな影響としては堆積物流入や漁業、富栄養化など。
サンゴは特に貧栄養の海水に適応した種のため、少しの栄養塩の変化にも敏感に応答する。
グローバルなものとしては温暖化による白化現象、海水準上昇や海洋酸性化が挙げられる。

サンゴ礁内の炭酸系は昼と夜でも劇的に変化する。
例えば、サンゴ礁の礁原(reef flat)では堆積物を構成する高Mg方解石が夜間に溶けることで、また生物の呼吸によって、アルカリ度が増加し、全炭酸も増加する。

これまでFabriciusやHall-Spenceerなどの研究によって、「サンゴ礁は酸性化が進むと大型藻類や水草が卓越する環境に置き換わる」と考えられてきたが、鹿児島県・硫黄鳥島のCO2 seepの観測から、「ソフト・コーラルが卓越する環境に置き換わる」という新たな予測が得られた。

2、Fabricius, K.
パプアニューギニアのCO2 seepによる観測から、酸性化が進むにつれて、最初に指状のサンゴが淘汰され、続いて塊状のハマサンゴ類が淘汰され(生体組織の下の骨格はボロボロに溶解していることも)、最後に大型藻類が卓越することが分かった。またpHが7.5という環境ではサンゴの姿は見られず、代わりに水草が別の生態系を形成していた。
サンゴが生きているときは(おそらく生体作用によって炭酸系をコントロールすることによって)骨格の溶解は免れるが、酸性化が進行するにつれて不飽和の海水が炭酸塩を溶かすことになる。

サンゴ礁は地表面積に占める割合は小さいものの、海洋生物の25%が棲息するともされ、極めて生物多様性が大きいホットスポットとなっている。

CO2 seep環境の特徴は海水炭酸系の変動が極めて大きいことで、また非常にランダムな変動をしている(海水混合が主要因?)。
また現実には海洋酸性化と同時に温暖化も進むと考えられるため、CO2 seepは必ずしも完全な将来のアナログとは言えない。

3、Hall-Spencer, J.
北極海で最大の、高緯度域の中層(200 - 500 m深)に存在するRost Reefについて。
おそらく栄養塩がもっとも豊富で、動物プランクトンを多く摂食できることが、従属栄養である深海サンゴの生存にとって重要であると思われる。
しかし、NADWによって人為CO2が効率良く深層へと運搬されるため、海洋酸性化の影響が早く生じると思われる。
商業用の魚も多く棲息しており、水産学的にも重要。

ヨーロッパ周辺はCO2 seepが非常に多く、その一つの理由としては埋没した炭酸塩が地下深くの熱と反応し、以下の分解反応が進行することが考えられる。
CaCO3 → CaO + CO2

食事の量をコントロールした酸性化実験などを通して、栄養状態は海洋酸性化への応答に大きく影響することが示されている。

4、Andersson, A.
政策決定者向けに海洋酸性化のメカニズムを紹介するとき、「バイクの排ガスを海水に溶け込ませ、pHの変化を直接見てもらう」という方法が非常に効果的。

サンゴ礁内の礁原だと、深さ20mという比較的海水の交換も進んでいそうなところでも、炭酸系が石灰化生物によって大きく変動する。
バミューダ島の場合、全炭酸とアルカリ度は冬期は極めて均質だが、夏期は沿岸部から外洋にかけて大きな傾きが見られる。
しかし、pHで見ると年間を通して均質で、これはDIC-TAプロットで傾きがちょうどpHのものと一致することが原因。

サンゴが棲息するような沿岸域のモニタリングが行われている例は非常に限られている。

5、Dubinsky, Z.
草原や森林では、生態系を支える一次生産者のバイオマス量はそこに住む生物のそれに比べて非常に莫大な量である。
一方のサンゴ礁では、サンゴそのもののバイオマス量は大したことはないにも関わらず、非常に豊かな生態系を形成している。

サンゴは同じ種でも様々な色を示し、それを決定している一つの要因は褐虫藻の密度であると思われる。
光が多い環境(表層)と少ない環境(より深い場所)では前者がより白く、後者がより黒い。

6、Kline, D.
グレートバリアリーフのHelon島におけるメソコスモ温暖化・酸性化実験の結果について。
将来、サンゴの死亡率の増加(白化現象)や、生物による穿孔の度合いが増す(酸性化によって骨格が脆くなる)と思われる。
興味深かったのは、穿孔にpH計を差し込んで、pHを実測していたこと。穿孔動物がどのようにして穴を穿つのかを明らかにする上で重要なプロセスの理解に繋がるかもしれない。

7、栗原晴子
瀬底で採取された、コユビミドリイシ(Acropora digitifera)の酸性化実験から石灰化率に変化が生じないという結果が得られた。
さらに沖縄本島の北部で得られた同じコユビミドリイシが今度は酸性化実験で石灰化率に変化が生じた。
同じ種でも個体(群体)ごとに酸性化への応答は異なる可能性があり、それは遺伝子(Ca ATPaseなど)と関係があるかもしれない。

ウニは生育段階ごとに酸性化の影響が異なる。他の甲殻類や軟体動物などでもやはり幼生と成体では異なる応答を示す。
繁殖のサイクルもまた考慮しなければならない。
海洋酸性化によってウニの孵化の時期が1ヶ月変化するという観察も得られた。

8、Munday, P.
魚への海洋酸性化の影響は明瞭には見られないが、実は感覚器官などに影響が生じている可能性がある。
例えば酸性化海水でクマノミ類を飼うと、巣の近くにおける行動に変化が生じていることなども分かっている。
視覚・聴覚・嗅覚・記憶力・注意力など、神経系に酸性化が影響する可能性があり、それは受容体にイオンが関与していることと関連があるかもしれない。

また魚の血液のpCO2は海水のものと非常に近いため、海水のpCO2上昇が体内に何らかの影響を及ぼすかもしれない。