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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年9月12日木曜日

新着論文(Nature#7566)

Nature
Volume 501 Number 7466 pp135-274 (12 September 2013)

EDITORIALS
Under threat
危機に瀕している
アメリカの法律において、オオカミの絶滅危惧種としての扱いが失われようとしている。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Power from deep-sea vents
深海の吹き出し口からの電力
Angew. Chem. http://doi.org/ f2dtrm (2013)
JAMSTECと理研の共同研究グループは熱水噴出口における化学的な傾きを利用し、プラチナを陰極、イリジウムを陽極として21mWの電力を発電することに成功した。天然の噴出し口と掘削して新たに作った噴出し口から得られた電力によって、1,000mの深海で3つのLEDを点灯させることに成功した。

Meet the world’s largest volcano
世界最大の火山に出くわす
Nature Geosci. http://doi.org/ nqd (2013)
太平洋北西部において、単一の火山としては世界最大で、火星のオリンポス山に匹敵するほどの巨大海底火山が発見された。Texas A & M大学にちなんでTamu山塊と名付けられたこの火山は、日本から1,500km東に位置する、シャツキー海台の一部である。地震波探査から、一つの火口から噴出したと思われる溶岩の構造が確認された。1億4,000万年前頃のものと考えられている。
>より詳細な記事(Nature NEWS)
Underwater volcano is Earth's biggest
Alexandra Witze
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
太平洋の海底で世界最大の火山を発見か
>話題の論文
An immense shield volcano within the Shatsky Rise oceanic plateau, northwest Pacific Ocean
William W. Sager, Jinchang Zhang, Jun Korenaga, Takashi Sano, Anthony A. P. Koppers, Mike Widdowson & John J. Mahoney

US forests grow to be different
アメリカの森林は違ったように育つ
PLoS ONE 8, e72540 (2013)
アメリカ北東部において森林は回復しつつあるが、ヨーロッパからの入植者が森林を切り開いた400年前のものとは全く異なるものとなっていることが、1620-1825年における歴史記録から分かった。種そのものは同じであるが、その組成が全く異なるという。

Clumping caterpillars
集まる毛虫
J. Exp. Biol. http://doi.org/npp (2013)
毛虫が集まって塊を作ることの意義はエネルギーや水分を節約するためとする説もあるが、よく分かっていない。Cape Lappet moth caterpillars(Eutricha capensis)の観察から、そうではなく、別の要因が関係している可能性が示唆された。筆者らは成長率を増加させるためか、多く集まることでより安全になるためではないかと考えている。

SEVEN DAYS
Gas phase-down
ガスの段階的縮小
9/6に、G20がモントリオール議定書のもとHFCsの排出削減に同意することを決定した。バンコクにおいて10月に開かれる会議にて条約の修正がさらに議論されることとなっている。

Carbon-tax repeal
炭素税の廃止
オーストラリアの新首相Tony Abbottは前の政府が定めた炭素税を廃止することを約束した。しかしこれから議会と戦う必要がある。

NASA homes in on next Mars landing site
NASAが次の火星の着陸地点の的を絞る
NASAの次の火星ミッション(InSight; Interior Exploration Using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport)の着陸地点が4つに絞られた。これまでの探査機と同様、赤道付近の平らな地点(Elysium Planitia)が対象となっている。
>関連した記事(Science#6097 "News of the Week")
InSight to Probe Martian Innards
火星内部を調べるためのInSight
2016年にNASAは火星の地殻・マントル・コアを調査し、火星がいかにしてマグマ玉から進化したのかを調べるミッション(InSight)を実行する。地上探査機はPhoenix着陸船を用いて火星へと輸送される。努力を最低限に抑えるため、小規模の地震や隕石衝突によって起きる振動を探知し、火星内部を探る計画。温度計は数m掘削して地下に据えられ、火星の熱史を明らかにする。

Ocean contest
海のコンテスト
近年の海洋酸性化による海水のpHの変化はわずかであり、さらに現行のセンサーでは長期間・広範囲をカバーできないという問題があるため、pHモニタリングの向上が課題となっている。それを受けて、「X Prize Foundation」と「アメリカ人慈善活動家でGoogle会長の妻・Wendy Schmidt」は、海のpHを最も正確に、効果的に計ることのできる機器を開発したものにそれぞれ100万ドルを賞金として与えることを公表した。
>より詳細な記事(NATURE NEWS BLOG)
$2-million X prize seeks new sensors to study ocean acidification
Sarah Zhang

Lunar orbiter up
月の人工衛星が打ち上がる
月の大気分子とダストを観測するAtmosphere and Dust Environment Explorer(LADEE)が9/6にNASAによって打ち上げられた。30日後には月に到達し、地表から20-50kmを飛行し、試料を採取する。
>より詳細な記事(NATURE NEWS)
Moon mission to suck up lunar dust
Devin Powell

Labour row ends
労働者の喧嘩が終わった
ALMA宇宙望遠鏡施設の労働者のストライキが開始から17日たってようやく終結した。シフト時間を短くすること、4%の給料のアップ、ボーナス支給などに関する二年間の契約が結ばれた。

TREND WATCH
OIL SAND EXPORTS
オイルサンド輸送
カナダのアルベルタ石油砂からの石油生産量が今後増加するかどうかは、既に限界が近づいているパイプラインを新たに敷設できるかどうかにかかっている、という報告書が出された。一方で環境団体はCO2排出量の多い石油砂からの石油生産を停止するよう求めている。

NEWS IN FOCUS
Grey wolves left out in the cold
オオカミが仲間はずれに
Chris Woolston
アメリカの保護の対象からオオカミを外すという計画に対して抗議の声が寄せられている。

Hackles rise over privatization plan
民営化計画に対して怒る
Daniel Cressey
イギリスの自然環境研究諮問委員会(Natural Environment Research Council)は4つの研究機関を切り離す考えだが、科学者らは長期データが失われてしまうことを恐れている。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Geochemistry: Sulphur from heaven and hell
地球化学:天国と地獄からの硫黄
Nicolas Dauphas
Labidi et al.の解説記事。
大西洋の海嶺の下からもたらされた岩石の硫黄同位体記録から、地表の硫黄のかなりの部分がコア形成時の残存物であることが示された。

Astrochemistry: Extracts of meteorite
宇宙化学:隕石の抽出物
Andrew Mitchinson
去年カリフォルニアの大気中で空中分解した炭素質隕石(Sutter’s Mill meteorite)から、これまで他の隕石からは確認されていなかったタイプの有機物が確認された。酸素に富み、親天体における酸化過程で生成されたと思われる。地球の初期生命の誕生にも貢献した可能性が示唆されている。
>話題の論文
Processing of meteoritic organic materials as a possible analog of early molecular evolution in planetary environments
Sandra Pizzarello et al.
PNAS Early Edition

LETTERS
Changes in North Atlantic nitrogen fixation controlled by ocean circulation
海洋循環によって駆動される北大西洋の窒素固定の変化
Marietta Straub, Daniel M. Sigman, Haojia Ren, Alfredo Martínez-García, A. Nele Meckler, Mathis P. Hain & Gerald H. Haug
 氷期-間氷期スケールの大気中CO2濃度の変動の一部は窒素循環の変化に伴う海洋一次生産の変化(生物ポンプ)が担っていたと考えられている。窒素循環の中でも特に窒素固定は海洋の植物ピランクトンにとって利用可能な窒素の大部分を供給する重要な過程である。
 カリブ海から採取された堆積物コアの過去160kaの浮遊性有孔虫の殻のδ15N分析から、窒素固定の変化を復元したところ、23ka周期が確認された。おそらく軌道要素(歳差運動)の変化によって、赤道湧昇による過剰リン酸の供給量が変化したことが原因と思われる。またNADWもMIS6と4には沈み込みが浅くなっており(GNAIW)、それによって南大洋からのAAIWの貫入が抑えられたことにより、リン酸に富んだ深層水がもたらされにくくなったことも一因と思われる。現代の観測からは窒素固定を支配する要因は多数報告されているものの、氷期間氷期サイクルにおいてはリン酸が究極的な駆動要因であり、それはさらに海洋循環と関係していたと考えられる。
>関連した記事(Nature 注目のハイライト
窒素固定は北大西洋の循環によって支配されている

Retardation of arsenic transport through a Pleistocene aquifer
更新世帯水層を通したヒ素輸送の遅れ
Alexander van Geen, Benjamín C. Bostick, Pham Thi Kim Trang, Vi Mai Lan, Nguyen-Ngoc Mai, Phu Dao Manh, Pham Hung Viet, Kathleen Radloff, Zahid Aziz, Jacob L. Mey, Mason O. Stahl, Charles F. Harvey, Peter Oates, Beth Weinman, Caroline Stengel, Felix Frei, Rolf Kipfer & Michael Berg
 南・東南アジアにおいて井戸水のヒ素汚染が問題となっている。完新世の帯水層がこうしたヒ素汚染の発生源となっているが、一方で更新世の帯水層にはほとんどヒ素は見られない。
 地下水の汲み上げによって地下水の流動状態と帯水層の酸化還元状態が変化し、完新世の帯水層から更新世の帯水層へ、ヒ素の汚染が120 m以上も水平方向に進行していることが示された。

Non-chondritic sulphur isotope composition of the terrestrial mantle
地球のマントルのコンドライト的でない硫黄同位体
J. Labidi, P. Cartigny & M. Moreira
地球のマントルの硫黄同位体は不均質であるが、その片方のエンドメンバーは従来考えられてきたよりも硫黄同位体が軽く、コンドライト的ではない。これは、コア-マントルの分化によって説明できるという。
>関連した記事(Nature 注目のハイライト)
マントル内の分別された硫黄
RETRACTION
Retraction: Bird-like fossil footprints from the Late Triassic
撤回:三畳紀後期の鳥のような足跡の化石
Ricardo N. Melchor, Silvina de Valais & Jorge F. Genise
アルゼンチン北西部のSanto Domingo層から得られた鳥の足跡様の化石は、当初三畳紀後期のものと考えられたが、新たな年代測定から始新世のものであることが分かったため、以前の論文を撤回する。
>話題の論文
Bird-like fossil footprints from the Late Triassic
Ricardo N. Melchor, Silvina de Valais & Jorge F. Genise
Nature 417, 936–938 (2002)