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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年7月11日木曜日

新着論文(Nature#7457)

Nature
Volume 499 Number 7457 pp125-248 (11 July 2013)

EDITORIALS
Headline message
ヘッドラインのメッセージ
科学コミュニケーションは変わりつつあるが、研究報告(investigative reporting)は依然として重要である。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Crops ingrained in Iranian past
イラン人の過去に染み付いた作物
Science 341, 65–67 (2013)
約12kaのイランの考古学遺跡で掘られた8mの穴には、116種に及ぶ植物の遺骸が残されていた。うち10%ほどが野生の小麦のものであり、9.8kaには20%が小麦を占めた。この頃、肥沃な三日月地帯で耕作が始まったことを裏付ける証拠となった。
>関連した記事(Science#6141 "Perspectives")
The Roots of Cultivation in Southwestern Asia
南西アジアの耕作の起源
George Willcox
イランのザグロス山脈で発見された初期の作物栽培の証拠はいつ・どこで人類が野生の穀物類を栽培し始めたのを解明する助けになる。

>話題の論文
Emergence of Agriculture in the Foothills of the Zagros Mountains of Iran
イランのザグロス山脈の丘陵地帯における農業の出現
Simone Riehl, Mohsen Zeidi, and Nicholas J. Conard
栽培用の穀物(domesticated cereals)の起源がイラン中心部であることの意味は長いこと議論されてきた。ザグロス山の丘陵地帯に位置する新石器時代の遺跡(Chogha Golan)には2,200年にわたる野生植物の栽培の連続した考古学記録が残されており、また栽培用の穀物が初めて出現した地でもある。イランにおけるもっとも初期の長期的な植物管理の記録であると思われる。

Drought-busting cyclones
干ばつ壊しのサイクロン
J. Clim. http://dx.doi. org/10.1175/JCLI-D-12-00824.1 (2013)
1895-2011年の干ばつやサイクロンの記録を含む観測記録の解析から、サイクロンがアメリカ南東部(特に内陸部)における干ばつの13%を終わらせていたことが示された。過去100年間の北大西洋の温暖化と偏西風の弱化が、サイクロンをより内陸部へと侵入しやすくさせていることが原因と考えられる。
>話題の論文
Tropical cyclones and drought amelioration in the Gulf and Southeastern Coastal United States
Justin T. Maxwell, Jason T. Ortegren, Paul A. Knapp, and Peter T. Soulé

Nuclear bombs mark tusks and teeth
核爆弾が象牙と歯に印をつける
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1302226110 (2013)
1950-60年代に行われた大気中核実験によって生じた人為起源の放射性炭素(bomb-14C)は植物や動物の身体に取り込まれている。象牙、象の歯、カバの犬歯などの放射性炭素を測定することで、その動物が生きていた年代を特定でき、密輸禁止法(anti-poaching law)が制定された後に殺されたかどうかを調べることもできる。また安定同位体(δ13C)からは食べていた植物のタイプを推定することが可能である。
>話題の論文
Bomb-curve radiocarbon measurement of recent biologic tissues and applications to wildlife forensics and stable isotope (paleo)ecology
Kevin T. Uno, Jay Quade, Daniel C. Fisher, George Wittemyer, Iain Douglas-Hamilton, Samuel Andanje, Patrick Omondi, Moses Litoroh, and Thure E. Cerling
東アフリカで採取された29の(年代が既知の)草食動物遺骸(歯、象牙、毛、角など)と植物組織について放射性炭素年代測定を行った。1955年以降の試料であれば、0.3-1.3年という精度で年代決定が可能であることが示された。また象牙や歯の成長速度や成長様式を推定するためにより高解像度の分析も行われた。ワシントン条約(CITES)で禁止されている密輸の抑制にもbom-14Cを用いた手法が役に立つかもしれない。

SEVEN DAYS
Jason’s quest ends
ジェイソンの静かな終焉
海面高度観測衛星のJason-1のターミナルシステムに不具合が生じ、運用が停止したことが先週NASAから公表された。2001年に打ち上げられ、6年以上継続した優秀なミッションであった。Jason-2が2008年に打ち上げられており、Jason-3も2015年に打ち上げられる予定となっている。

Record warming
記録的な温暖化
世界気象機関によると、2000年代に過去に例のない気温(1850年以降の観測記録から)を経験した国の数が増えているという。陸上気温・海水温がこれまでで最も高かった10年間は1991-2000年の平均と比較して0.21℃高い14.47℃と推定されている。WMO事務局長のMichel Jarraudによれば、この温暖化の速度は”例がないものだ”という。

Solar plane completes coast to coast
太陽光発電飛行機が岸から岸への飛行を完遂
太陽光発電のみで飛行する航空機(Solar Impulse HB-SIA)が、昼夜かけてアメリカ大陸を横断(飛行距離5,650km)することに成功した。太陽光パネルの総重量は400kgで、航空機自体の重量の25%以上を占める。
>関連した記事
Solar power: A flight to remember
Vicki Cleave
Nature 451, 884-886 (2008) "News Feature"

Pluto moons named
冥王星の衛星に名前がついた
冥王星の小さな2つの衛星はKerberosStyxと名付けられた。インターネット投票で1位を獲得したVulcan(スタートレックにちなむ)は残念ながら落選した。
>関連した記事(CNNニュース)
冥王星の月の名決定、スター・トレックファン失望

Power pullout
電力の撤退
運用問題を巡る論争の結果、DESERTEC基金が産業コンソーシアムから撤退することが公表された。DESERTECはサハラ砂漠や中東で太陽光・風力発電しアフリカ・ヨーロッパ各地へ電力を輸送する計画で、総額4,000億ユーロ。2050年には125GWの電力が供給される計画となっている。
>より詳細な記事
Management row threatens to blow Sahara solar dream
Quirin Schiermeier

Pyramid destroyed
ピラミッドが破壊される
Peruにて、4,000年前のピラミッドを重機で破壊した不動産開発業者が罰金を科せられた。
>より詳細な記事
Researchers lament destruction of ancient Peruvian pyramid
Nuño Dominguez

Russian crash
ロシアのクラッシュ
7/1にロシアが打ち上げたロケットがカザフスタンにてクラッシュした。無人ロケットでGPSの代わりとなるGLONASS人工衛星が搭載されていた。同じ日、インドは自国初となる7つ人工衛星で構成されるナビゲーション・システムのうちの1番目の衛星の打ち上げに成功した。

Carbon market lift
炭素市場の引き上げ
ヨーロッパ議会は一時的に炭素市場における炭素排出にかけられる価格を引き上げる計画を認可した。
>より詳細な記事
Europe’s politicians vote to resuscitate carbon market
Richard Van Noorden

TREND WATCH
KNOWN NEAR-EARTH OBJECTS PASS 10,000 MARK
知られている地球近傍の物体が10,000件を超す
先月、ハワイの望遠鏡が地球から2億km圏内にある小惑星・隕石として1898年以来で1万件目の小惑星(2013 MZ5)を特定した。1998年にCatalina Sky Surveyが打ち上げられてからNASAによる地球近傍物体(Near-Earth object; NEO)発見が相次いだが、知られているNEOのうち14%は直径110mを超し、750万km以内にあり、災害の可能性があると認識されている。

NEWS IN FOCUS
Teething troubles at huge telescope
巨大望遠鏡の初期のトラブル
Alexandra Witze
鏡を二つ備える大双眼望遠鏡(Large Binocular Tele­scope; LBT)は設置に2億ドルを要し、2005年と2008年にはそれぞれの鏡が使えるようになったものの、現在天文学者が使える時間は60%に限られている。

FEATURES
Climate change: The forecast for 2018 is cloudy with record heat
気候変化:2018年の予報は記録的な暑さとともに曇りがち
Jeff Tollefson
近未来予測の努力が始まっているが、これまでのところあまり当てにならないものが得られている。

COMMENT
Energy: The smart-grid solution
エネルギー:スマート・グリッドの解決策
Massoud Aminが、アメリカにおける大規模停電が起きないように電気インフラをどのように自己回復できるもの(self-healing)にすべきかの概略を語る。

CORRESPONDENCE
History: Don't glorify Arab astronomy
歴史:アラブの天文学を美化してはいけない
Carlo Rovelli

Shale gas: Pollution fears in China
シェールガス:中国における汚染の恐怖
Hong Yang, Roger J. Flower & Julian R. Thompson

Shale gas: Surface water also at risk
シェールガス:表層水もまたリスクに曝されている
Guangming Zeng, Ming Chen & Zhuotong Zeng

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RESEARCH
BRIEF COMMUNICATIONS ARISING
Can ovarian follicles fossilize?
卵巣の卵包は化石化できるのだろうか?
Gerald Mayr & Albrecht Manegold

Zheng et al. reply
Zheng et al.の返答
Jingmai O’Connor, Xiaoting Zheng & Zhonghe Zhou

>話題の論文
Preservation of ovarian follicles reveals early evolution of avian reproductive behaviour
卵包の保存から明らかになる鳥類の生殖行動の初期進化
Xiaoting Zheng, Jingmai O’Connor, Fritz Huchzermeyer, Xiaoli Wang, Yan Wang, Min Wang & Zhonghe Zhou
Nature 495, 507-511 (2013)
中国から発掘された初期の鳥の化石から、機能していた卵巣は一つだけであったことが示された。現生鳥類と比べて代謝速度が低かったために原始的形態を保持していたことを示している。

NEWS & VIEWS
Geophysics: A third way to rift continents
地球物理学:大陸を持ち上げる第3の方法
W. Roger Buck
大陸の隆起は遠隔地からの影響によって説明されることが多いが、室内実験から別の力学(遅い火山活動)でもローカルな隆起が起きる可能性が提示された。
>話題の論文
Generation of continental rifts, basins, and swells by lithosphere instabilities
Loïc Fourel Laura Milelli, Claude Jaupart, Angela Limare

Earth science: A holistic approach to climate targets
地球科学:気候変化緩和目標に対する全体的なアプローチ
Joeri Rogelj
Steinacher et al.の解説記事。
複数の気候変化緩和目標を達成するために許容される炭素排出量は、気温変化のみを目標にしたものよりもはるかに小さいことが示された。

LETTERS
Formation of sharp eccentric rings in debris disks with gas but without planets
ガスを必要とするが惑星は必要としないデブリ円盤の中の鮮明な離心環の形成
W. Lyra & M. Kuchner
デブリ円盤(我々の太陽系のカイパーベルトに似たもの)の中に見られる狭い輪は隠れた惑星が存在する証拠と考えられてきたが、むしろ「ガスとダストの相互作用」と「最近特定された光電子の不安定性(photoelectric instability)」によって引き起こされていると思われる。

Allowable carbon emissions lowered by multiple climate targets
複数の気候変化緩和目標によってより小さくなる許容可能な炭素排出量
Marco Steinacher, Fortunat Joos & Thomas F. Stocker
これまで温暖化を産業革命以前と比較して2℃以下に抑えるという目標に沿って許容できる炭素排出量が設定されてきた。しかしながら、中程度の複雑性を持った地球システムモデル(EMICs)を用いたシミュレーションから、海水準上昇・海洋酸性化・陸上一次生産量・温暖化に関する複数の目標を達成するにはかなり大幅な削減が必要であることが示された。従って、温度変化の抑制目標だけでは人為起源の排出が招くあらゆるリスクを全体的に抑制することはできないことを意味する。

Characterization and implications of intradecadal variations in length of day
1日の長さの十年内変動の特徴の説明とその含意
R. Holme & O. de Viron
地球自転の変動は明確な5.9年周期と慣性モーメントのジャンプを示している。それが地磁気変動(ジャーク)と相関があることから、それが地球のコアを起源とするものであることを示唆している。電気伝導度、さらには地球深部マントルの組成や鉱物学に対しての制約が与えられるかもしれない。

Gene expression in the deep biosphere
地下深部生命圏における遺伝子発現
William D. Orsi, Virginia P. Edgcomb, Glenn D. Christman & Jennifer F. Biddle
 海底下堆積物の中に広範な種類の微生物からなる地下生物圏が存在することが明らかになっている。おそらく全球の生物地球化学的循環に重要な役割を担っていると思われるが、その活動はよく分かっていない。
 Peru縁辺で採取された、海底下159mの嫌気的堆積物に棲む微生物の遺伝子発現を分析したところ、アミノ酸・糖・脂質の嫌気的代謝が代謝プロセスの大半を占めていることが分かった。また細胞分裂に関連した転写産物は微生物の細胞密度と相関が見られることから、バイオマスの入れ替え(biomass turnover)には現在進行形の細胞分裂が寄与していることが示唆される。

Pan genome of the phytoplankton Emiliania underpins its global distribution
Emiliania属の植物プランクトンの汎的ゲノムがその全球的な分布を支える
Betsy A. Read et al.
 円石藻は、2億年以上にわたって地球の気候・炭素循環に影響を与え続けてきた海洋植物プランクトンである。円石藻は時折異常繁殖(ブルーミング)を起こし、それは宇宙からも観察できるほどの規模である。
 円石藻Emiliania huxleyiのCCMP1516株から得た、ハプト植物門として初めての参照ゲノム配列(reference genome)と、それ以外の13の単離株(isolates)から得た塩基配列を報告する。解析の結果、パンゲノムの存在が明らかになった。ゲノムレベルで高い多様性があり、これがさまざまな代謝レパートリーに反映されていることが明らかになった。これが赤道から亜北極地域にまたがる幅広い海域で生息できる能力と、さまざまな環境条件のもとでブルーミングを引き起こす能力を支えていると思われる。
>筑波大学のプレスリリース
海洋生態系で重要な役割を演じてきた円石藻類のゲノムを解読(白岩善博 教授)