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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年6月27日木曜日

新着論文(Nature#7455)

Nature
Volume 498 Number 7455 pp407-532 (27 June 2013)

EDITORIALS
How do you sleep?
どのように眠りますか?
最近の睡眠パターンは我々を不健康にしている。そのため私たちが本当にどれほどの睡眠を必要としているのかを明らかにする時が来た。
[以下は引用文]
Scientists cannot say for sure how much sleep we need, or when we should take it.
科学者はどれだけ睡眠が必要かということ、いつ睡眠を取るべきかということを確実に言うことはできない。

Many workers at present, he says, could suffer from a form of social jet lag, forced to shuffle sleep patterns between the conflicting time zones of working and work-free days. The solution would be a profound change: restructure work and school schedules to better suit the biological clocks of the majority of the population, once we work out what they are.
「近年の多くの労働者は、勤務日と休息日で逆転した睡眠パターンを余儀なくさせられており、社会的な時差ボケに苦しんでいる」と彼は言う。解決するにはかなりの変化が必要だ。かつてそうであったように、多くの人間の体内時計をうまく調整することで、仕事と学校のスケジュールを再構成する必要がある。

People in many countries get as much as two hours less sleep a night than their ancestors did a century or so ago. That must have a consequence.
多くの国の人々は、100年くらい前の先祖に比べて2時間も短い睡眠しかとっていない。それは何らかの結果を生むに違いない。

WORLD VIEW
Europe should rethink its stance on GM crops
「ヨーロッパは遺伝子組換え作物に対するスタンスを再考すべきだ
第2世代の遺伝子組換え作物作成技術はこれまで反対意識をもつきっかけを作ってきたいくつかの問題を回避している」と、Brian Heapは言う。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Red Queen forces extinctions
赤の女王が絶滅を強制する
Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1239431 (2013)
過去66Maの間に絶滅したか多様性が減少した19種の祖先を同じくするほ乳類の化石記録を調べたところ、多様性の現象は新たな種の出現とともにゆっくり起こり、絶滅は急激に起きていた。生物は変わりゆく環境を追いながら進化し続けなければならないとする’赤の女王仮説’で説明できる可能性があるという。
>話題の論文
How the Red Queen Drives Terrestrial Mammals to Extinction
Tiago B. Quental, Charles R. Marshall

Vegetables’ daily rhythm
野菜の日周期
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2013.05.034 (2013)
収穫されたキャベツ(Brassica oleracea)はイモムシ(Trichoplusia ni)が嫌う分泌液を日周期で出すことで葉がかじられるのを防いでいる。通常の日周期と時間を変えて光を当てたキャベツ(スーパーで買ったもの)とで虫の食われ方を調べたところ、前者のほうがより齧られにくい(つまり妨害物質が効果的に分泌されている)ことが分かった。同じことが、ブルーベリー・さつまいも・にんじんで確認された。リズムによって栄養価にも影響がある可能性が指摘されている。

Shells show rise of Homo sapiens
殻がホモ・サピエンスの出現を物語る
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1304750110 (2013)
南アフリカの考古学遺跡から発掘されたカサガイの殻(limpet shell)のサイズを計測したところ、中期石器時代(200-50ka)のサイズが後期石器時代のものよりも大きかったことが分かった。これは人類の数が急増し、漁獲量が増えた可能性を物語っている。ホモ・サピエンスは100kaには貝のビーズの装飾品を作っていたことが分かっているが、当時はまだ人口は少なかったと考えられている。従って、人口が増えたのはそれからかなり後になってからだということになる。これは「文化的な発展は人口が増え、技術が広まりやすくなってからだ」とする従来の仮説と大きく食い違っている。
>話題の論文
Archaeological shellfish size and later human evolution in Africa
Richard G. Klein and Teresa E. Steele

Escargot on the go
移動中のエスカルゴ
PLoS ONE 8, e65792 (2013)
ヨーロッパに生息する11個体のカタツムリ(land snail; Cepaea nemoralis)のミトコンドリアDNAを分析したところ、7つの分類群のうち、アイスランドとピレネー山脈東部(ヨーロッパ南西部)にはわずか1種しかいないことが分かった。アイスランドで発見されている最古の化石は8,000年前のもので、初めて人が住み着いた年代と一致している。人々がガロンヌ川に沿って地中海と大西洋間を移動した際に人気のあったカタツムリを持ち運んでいた可能性がある。もしカタツムリ以外にもイベリア半島とアイルランドだけに生息する生物が見つかれば、より強固な証拠になる可能性が高い。

Aerosols suppress hurricanes
エアロゾルがハリケーンを抑える
Nature Geosci. http://dx.doi. org/10.1038/ngeo1854 (2013)
ダスト粒子がハリケーンの活動度に与える影響は知られているものの、人為起源のエアロゾルが与える影響はよく分かっていない。イギリス・ハドレーセンターの研究グループによるモデルシミュレーションから、20世紀前半に人為起源のエアロゾル排出量が急増したことで、大西洋の嵐の活動度が減少し、また20世紀後半に排出量が減少したことで逆に増加したことが示された。雲を介したフィードバックが原因と考えられている(エアロゾル強化→雲が明るく+滞留時間が長くなる→地表温度低下→ハリケーン弱化)。
>話題の論文
Anthropogenic aerosol forcing of Atlantic tropical storms
大西洋の熱帯低気圧の人為起源のフォーシング
N. J. Dunstone, D. M. Smith, B. B. B. Booth, L. Hermanson & R. Eade
 大西洋の熱帯低気圧(ハリケーン)は社会経済的に大きな影響を与えている。海表面温度との関連性は報告されているものの、その他の自然・人為起源のフォーシング(火山性エアロゾル・人為起源エアロゾル・ダスト・温室効果ガスなど)との関係性についてはまだよく分かっていない。
 気候モデルを用いて、個々の気候ドライバーが1860-2050年までの北大西洋の熱帯低気圧の頻度に与える影響を評価したところ、人為起源のエアロゾルが頻度を低下させていることが示された。20世紀末に急激にエアロゾル排出量が低下したことが頻度の増加を招いたことが分かった。エアロゾルがハドレー循環に影響することで嵐の頻度に影響したと考えられるが、将来もエアロゾル排出量とともに変化すると思われる。

SEVEN DAYS
NASA funding plan
NASAの基金計画
共和党員はNASAによる小惑星捕獲計画を棄却する法案を提出した。コストが高いことが一つの理由とされている。惑星科学部門から削減された予算は気候変化研究に割り当てられる。

Indonesian fires choke nearby countries
インドネシアの火災が近隣諸国を窒息させる
インドネシアで発生した大規模森林火災によってシンガポールとマレーシアがひどいもやに見舞われている。それを受けて、マレーシアでは非常事態宣言を発し、シンガポールは大気汚染が’健康を酷く害する環境レベル’を上回ったことを報告した。
>関連した記事(毎日新聞)
シンガポール:煙害拡大、インドネシアと非難合戦

Impact-factor list
インパクト・ファクターのリスト
最新の科学雑誌のインパクト・ファクターがThomson Reutersから6/19に出された。66の雑誌がself citation(自分の論文を自分で引用すること)を禁止するという新たな記録ができた。5月には科学者・研究機関・出版社がインパクト・ファクターを実績の参考にすることを批判する声明を出している。
>より詳細な記事
New record: 66 journals banned for boosting impact factor with self-citations
Richard Van Noorden

NEWS IN FOCUS
Gas drilling taints groundwater
天然ガス掘削が地下水を汚染する
Jeff Tollefson
化学分析から、地下水中のメタンとシェール・ガス掘削との関連性が明らかに。

Floating tubes test sea-life sensitivity
浮きチューブが海洋生物の感度を調べる
Hristio Boytchev
海の現場での実験(mesocosm experiment)によって海洋酸性化が生態系に与える影響が明らかになりつつある。スウェーデンのフィヨルドにて行われた実験の紹介。酸性化がピコプランクトンの生存を有利にすること、珪藻に害を与えること、DMS生産量を減少させること、巻貝やウニに悪影響を与えることなど、様々な知見が得られている。
[以下は引用文]
Marine scientists fear that the conditions will disrupt ecosystems by, for example, inhibiting some organisms’ ability to build shells. Yet the effects are unclear: in small-scale laboratory tests, certain species have proved surprisingly resilient, and some even flourish.
海洋科学者はそうした状態(海洋酸性化)が、ある種の生物が殻を作る能力を阻害するなどして生態系を崩壊させることを恐れている。しかしながら、その効果は不確かである。小規模の室内実験から、ある種の生物は驚くほどの耐性を示したり、場合によっては逆に栄えたりすることが証明されている。

Marine biologist Ulf Riebesell says that these results tell only part of the story: scientists need to scale up and examine whole ecosystems. Lab studies of isolated species ignore variables such as competition, predation and disease, he says. Even minor effects of acidification on the fitness of individual species — especially small photosynthetic organisms such as phytoplankton — can upset food chains, eventually harming larger species. “If you only focus on the lab results, you are being misled,” he says.
海洋生物学者のUlf Riebesellは「こうした結果は物語の一部を伝えてくれるに過ぎない」と言う。科学者は全生態系へとスケールアップして調べる必要がある。隔離した生物の室内実験では競合・補食・病気といった要因を無視していると彼は言う。海洋酸性化が個々の種(特に植物プランクトンのような小型の光合成生物)の健康状態にわずかな影響をもたらしただけでも、食物連鎖を混乱させることがあり、最終的には大型生物を害する。”もし室内実験の結果だけに注目していると、勘違いさせられる”と、彼は言う。

COMMENT
Chronobiology: The human sleep project
時間生物学:人間の睡眠プロジェクト
「睡眠の真の役割を明らかにするために、研究者は数千あるいは数百万人の(実験室ではなく)現実世界のデータを収集する必要がある。」と、Till Roennebergは言う。

Marine science: Get ready for ocean acidification
海洋科学:海洋酸性化の心構えをする
「気候が温暖化するとともに海水が酸性化したときに生態系にどのような影響が出るかを、より複雑な実験系にして調べる必要がある」と、Sam DupontとHans Pörtnerは主張する。
[以下は引用文]
The combined effects of local variability in acidity, temperature and human-made eutrophication or pollution may be more detrimental than for each factor alone.
酸性化、温度、人間による富栄養化あるいは汚染のローカルな変動の組み合わさった影響は個々の要因の影響よりも損害が大きいかもしれない。

To understand what future oceans might look like, marine scientists need to assess how whole ecosystems respond to rising acidity over time frames that are long enough to track generations of organisms to see which ones die or adapt.
将来の海がどうなるかを理解するためには、海洋科学者はどのようにして生態系全体が、生物が世代を通じて死ぬかそれとも適応するかを見れるほどの長い時間をかけて、時間とともに増す酸性度に応答するかを評価する必要がある。

Ocean acidification is already affecting marine ecosystems and their services to humankind. In light of the millennia it will take to reverse changes in ocean chemistry, we believe that research should be oriented towards finding solutions, rather than to simply documenting the disaster. Ultimately, only the reduction of atmospheric CO2 levels will alleviate the challenges of ocean acidification. 
海洋酸性化はすでに海洋生態系とそれが人間に与えるサービスにも影響している。海洋の化学変化を打ち消すには数千年という時間がかかることを考えると、研究は単に災害を伝えることに留まらず、むしろ解決策を模索することに向けるべきだと我々は信じている。究極的には、大気中のCO2濃度を下げることだけが海洋酸性化を軽減できるのである。

We can also buy some time through reducing human pressures such as overfishing, eutrophication and pollution.
過漁獲、富栄養化、汚染といった人間の圧力を軽減することによっても時間稼ぎをすることができる。

CORRESPONDENCE
Brazil: Nuclear plans add to pressure on Caatinga
ブラジル:新たな原子力計画がカーティンガをさらに圧迫する
Erika dos Santos Nunes

Conservation: Relaxed laws imperil Australian wildlife
保全:緩和された法律がオーストラリアの野生生物を脅かす
Euan G. Ritchie

OBITUARY
Joe Farman (1930–2013)
John Pyle & Neil Harris
オゾンホールの発見者。

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RESEARCH
BRIEF COMMUNICATIONS ARISING
Diatom flickering prior to regime shift
レジームシフトに先立つ珪藻のフリッカー現象
Jacob Carstensen, Richard J. Telford & H. John B. Birks
地球温暖化が生態系に与える影響が広く調査されている。Wang et al.は中国の洱海(Lake Erhai)の調査から、珪藻の群集組成のレジームシフトが2001年頃に起きたことを報告しているが、それはデータの処理の仕方の問題であることを指摘。
>話題の論文
Flickering gives early warning signals of a critical transition to a eutrophic lake state
フリッカー現象は湖沼の富栄養状態への臨界遷移の早期警告シグナルとなる
Rong Wang, John A. Dearing, Peter G. Langdon, Enlou Zhang, Xiangdong Yang, Vasilis Dakos & Marten Scheffer

Wang et al. reply
Wang et al.の返答
Rong Wang, John A. Dearing, Peter G. Langdon, Enlou Zhang, Xiangdong Yang, Vasilis Dakos & Marten Scheffer

NEWS & VIEWS
Animal behaviour: Brain food
動物行動:脳の食べ物
Marian Turner
昆虫の脳のカロリー消費に関して。

LETTERS
Multi-periodic pulsations of a stripped red-giant star in an eclipsing binary system
食連星系における外層をはぎ取られた赤色巨星の多重周期の脈動
Pierre F. L. Maxted, Aldo M. Serenelli, Andrea Miglio, Thomas R. Marsh, Ulrich Heber, Vikram S. Dhillon, Stuart Littlefair, Chris Copperwheat, Barry Smalley, Elmé Breedt & Veronika Schaffenroth
低質量の白色矮星は破壊された赤色巨星の名残である。低質量白色矮星の前駆天体の質量と半径の測定から、厚い水素の外層の存在が明らかに。急速に冷えた白色矮星の場合は、パルサーの伴星からの放射、または殻フラッシュ現象によって、厚い水素の外層を失ってしまった可能性が高い。

Lifespan of mountain ranges scaled by feedbacks between landsliding and erosion by rivers
河川浸食と地すべりとの間のフィードバックによって決まる山脈の寿命
David L. Egholm, Mads F. Knudsen & Mike Sandiford
テクトニック的に活発な山脈と不活発なものとで見られる河川浸食速度の変動は、基盤岩を河川が下刻することと地滑りとの双方向的なつながりが関連していることがシミュレーションから示された。この知見は、テクトニック活動が終わった後、数億年にわたって急な山脈地形が保持されていることのもっともらしい物理的説明になるという。

Stability of active mantle upwelling revealed by net characteristics of plate tectonics
プレートテクトニクスの総合的な特徴から明らかになる活発なマントル上昇の安定性
Clinton P. Conrad, Bernhard Steinberger & Trond H. Torsvik
全球的なマントルの流れのパターンは、表面のプレートの総体的な動き(収束・発散)によって得られることを示す。現在のプレート運動については、東アジアに双極子収束があり、中央アフリカと太平洋中央部に四重極子発散があることが分かった。これらの位置はその下のマントル流の双極子と四重極子の位置とほぼ一致しており、プレート運動のこうした’総合的な特徴(net characteristics)’から深部の流れのパターンが明らかになることを示している。四重極子発散の位置は、過去2億5000万年間大きく動いておらず、アフリカと太平洋の下のマントル上昇流が長期的に安定していることを示唆している。これらの領域を中心として全球のマントル流が形成された?

Elastic energy storage in the shoulder and the evolution of high-speed throwing in Homo
ヒト属の肩の弾性エネルギー保存と高速投げの進化
Neil T. Roach, Madhusudhan Venkadesan, Michael J. Rainbow & Daniel E. Lieberman
 ヒトは霊長類の中で唯一高速かつ高精度にものを投げることができるが、いつ・どのように・なぜ能力が進化したのかを示す証拠が存在しないことからその進化についてはよく分かっていない。
 ヒトがものを投げる優れた能力は、弾性エネルギーの保存と肩におけるエネルギー解放を可能にする解剖学的特徴に起因することが明らかに。そうした特徴はすでに200万年前のホモ・エレクトス(Homo erectus)に現れており、狩りの手段として重要な役割を担っていたと考えられる。