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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年6月20日木曜日

新着論文(Nature#7454)

Nature
Volume 498 Number 7454 pp271-400 (20 June 2013)

EDITORIALS
Risk management
リスク管理

地震災害のデータを蓄積し、計算するツールは重要なものであるが、どのように解釈し、そうしたリスクに対応するかは結局のところ個人次第である。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Salt water fuels nitrogen release
塩水が窒素放出を促進する
Glob. Change Biol. http://dx.doi. org/10.1111/gcb.12287 (2013)
アメリカ・ノースカロライナ州における湿地の調査から、2007-2012年にかけて起きた干ばつが土壌中の微生物によるアンモニア消費を抑制した結果、それが海へと流出していることが示された。またそうした窒素放出は人為起源の肥料由来の窒素が原因で、回復した湿地ほど多いことが分かった。沿岸湿地の保護政策には人間活動・気候変化・海水準上昇など、様々な要因を考慮しなければならない。

Magnetic energy of supernovae
超新星爆発の磁気エネルギー
Astrophys. J. 770, 128 (2013)
通常の超新星爆発よりも5-100倍ほど明く輝く超新星爆発(super-luminous supernovae)の観測から、放射性ニッケルの発光だけでは不十分で、その発光はマグネター(高速回転する中性子星で、強力な磁場を放つ)のものに類似していることが分かった。

Diving is in the blood
ダイビングは血の中で
Science http://dx.doi.org/10.1126/science. 1234192 (2013)
上手に潜水する哺乳類には筋肉中の酸素貯蔵に関連するタンパク質(ミオグロビン)の適応の関連性が存在することが明らかに。クジラの祖先が陸から海へと生息場を移したのは始新世(56-34Ma)と考えられているが、研究グループの推定によると、その際に潜水能力は1.6分から17.4分に増加したものと考えられている。
>関連した記事(Science "Perspectives")
Better Oxygen Delivery
より上手な酸素供給
Enrico L. Rezende
上手な酸素供給への進化は、それに熟練を要したライフスタイルの出現に伴っていた。長く潜水するクジラ・高地に生息する動物などについて。

>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
海生哺乳類が長く潜水できる理由

Acidic waters do not toughen corals
酸性化した水はサンゴを堅くしない
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1301589110 (2013)
海洋酸性化によって石灰化生物に負の影響が生じると考えられている。メキシコ・ユカタン半島における天然の酸性化した海水に生息するハマサンゴの一種(Porites astreoides)に対する調査から、周囲の酸性化海水に侵されていないサンゴに比べると、成長速度が低く、穿孔動物による浸食度が大きいことが示された。酸性化した海水に生息していながら、2100年に訪れるであろう海洋酸性化の規模には適応できないだろうと推測されている。
>話題の論文
Reduced calcification and lack of acclimatization by coral colonies growing in areas of persistent natural acidification
Elizabeth D. Crook, Anne L. Cohen, Mario Rebolledo-Vieyra, Laura Hernandez, and Adina Paytan
ユカタン半島に生息するPorites astreoidesの石灰化速度が酸性度が増すごとに低下していることがCTスキャンを用いた高精度の分析から明らかに。また穿孔動物による骨格浸食の影響も酸性化するほどに増加することが示された。室内の酸性化実験の結果と整合的であることから、Porites astreoidesは生まれたときから常に酸性化した海水に曝されていながら、低いΩargの海水に適応できていないことが示された。

A fluorescent protein from eels
ウナギから得られた蛍光タンパク質
Cell http://dx.doi.org/10.1016/ j.cell.2013.05.038 (2013)
ニホンウナギの筋肉から蛍光タンパク質が発見され、脊椎動物からのものとしては初の発見となった。日本語のウナギにちなんで'UnaG'と名付けられた。
>より詳細な記事
First fluorescent protein identified in a vertebrate
Monya Baker

Turtle tots chase warm spots
カメの子は暖かい場所を追いかける
Biol. Lett. 9, 20130337 (2013)
中国沼ガメの卵の片面を1週間暖めると、胚が暖かい方に寄ることが示された。しかし33℃を超すと逆側に寄った。卵内部の流体運動のせいというよりは、生体反応であると考えられている。
>より詳細な記事
Unhatched turtles move to beat the heat
Karen Ravn

Marine dumping detailed
海洋へのゴミ投棄がより詳細に
Deep-Sea Res. I http://dx.doi. org/10.1016/j.dsr.2013.05.006 (2013)
モントレー水族館研究所(MBARI)の研究グループの22年間にわたる西海岸・ハワイ島周辺海域の潜水調査から、人為起源のゴミが調査海域の1.49%という広範囲で見つかった。主にプラスチックゴミ(32%)や金属ゴミ(23%)で、2,000mを超す深海でその大部分が発見された。こうしたゴミが深海生態系に与えている影響は過小評価されている可能性があるという。
>話題の論文
Debris in the deep: Using a 22-year video annotation database to survey marine litter in Monterey Canyon, central California, USA
Kyra Schlining, Susan von Thun, Linda Kuhnz, Brian Schlining, Lonny Lundsten, Nancy Jacobsen Stout, Lori Chaney, Judith Connor

>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
モントレー湾の海底ゴミ

>関連した記事(MBARIのプレスリリース、動画あり)
MBARI research shows where trash accumulates in the deep sea

Early animals’ revealing tracks
初期の動物の存在を示す跡
Geology http://dx.doi. org/10.1130/G34424.1 (2013)
カナダで見つかった560Maの生痕化石はこれまで見つかっている中で最古のものの一つである可能性が高い。オクスフォード大の研究グループは、Aspidellaと名付けられた生物が這ったと思われる跡の化石を新たに見つけた。エディアカラ生物群の一種と思われ、水中に生息していたと考えられている。
>話題の論文
Evidence for Cnidaria-like behavior in ca. 560 Ma Ediacaran Aspidella
Latha R. Menon, Duncan McIlroy and Martin D. Brasier

SEVEN DAYS
Peruvian forests
ペルーの森林
ペルーのアマゾン熱帯雨林における年間の森林破壊量が2010年から2011年にかけて減少したことが報告されている。人工衛星画像を用いたモニタリングを森林保全に生かした例としては、ブラジルに次ぐ。

Money for Mars
火星のためのお金
長年の分割払いののち、ヨーロッパ宇宙航空局は火星の生命探査プロジェクト(ExoMars)のための契約金の支払を終えた。2016年に探査機が打ち上げられ、2018年には地上探査機が火星に降り立つことが計画されている。

NEWS IN FOCUS
NASA sets sights on the Sun
NASAが太陽に見張りをつけた
Alexandra Witze
NASAのIRIS(Interface Region Imaging Spectrograph)計画は太陽の表面とコロナの間の層を細かく調査する。

Dog genetics spur scientific spat
犬の遺伝子が科学的な喧嘩に拍車をかける
Ewen Callaway
犬の家畜化をめぐって研究者間でも意見が分かれている。

Space rovers in record race
記録レース中の宇宙探査機
Alexandra Witze
1970年代のソ連が送り込んだ月の探査機の残した記録は、NASAのOpportunityによる記録を超えるものであることがデータの見直しから明らかに。

FEATURES
Seismology: Quake catcher
地震学:地震キャッチャー
Joanne Baker
地震による死者数が増えていることをうけて、Ross Steinは将来の災害を軽減するための全球的なリスクモデルを構築している。

COMMENT
Communication: Positive energy
コミュニケーション:前向きのエネルギー
「エネルギー不足と気候変化に対する態度を改めるためにも、’危険’や’損失’といった後ろ向きな考えよりも、’移行’や’解決’といった前向きな考えに集中しなければならない」と、Chris Nelderは言う。

CORRESPONDENCE
Environment: Use oil wealth to save Brazil's biodiversity
環境:ブラジルの生物多様性を守るために石油が生んだ富みを使え
Renan de França Souza, Roberto Leonan Morim Novaes & Saulo Felix
2,000mの海底で発見された石油がブラジル沿岸部の経済を潤しており、それは今後も増加すると見込まれている。そうした利益を沿岸部の豊かな生態系を保護するため、人々を教育するためにも使用すべきだ。

Policy: Social change vital to sustainability goals
政策:持続可能な目標達成のために必要な社会の変革
Albert V. Norström

Young scientists: Public engagement should start early
若手科学者:公衆関与は早くから始めるべきだ
Bernard Slippers
現在のような、実績重視の評価では若手科学者が公衆関与に目が向くきっかけを生みにくい。ポスドク教育の中には社会的な責任・公衆へのコミュニケーション・リーダーシップなどの訓練を組み込むべきだ。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Atmospheric science: The seeds of ice in clouds
大気科学:雲中の氷の種
Thomas Koop & Natalie Mahowald
雲中の凝結核の調査から、大気中の鉱物ダストが雲形成の主要な部分を負っていることが示された。2人の専門家が、この観測事実が雲の凝結や大気エアロゾルを研究する科学者たちに与える波及効果について議論する。
Atkinson et al.の解説記事。
Rare but active
まれだが、反応性が高い
Thomas Koop
Not all dust is equal
すべてのダストが平等なわけではない
Natalie Mahowald

Behavioural biology: Archaeology meets primate technology
行動生物学:考古学が霊長類の技術に出会う
Andrew Whiten
石のハンマーを使って木の実を割る野生のオマキザルの研究から、彼らの技術の時空間的なパターンが明らかに。そうした行動は考古学という観点でも研究できる可能性が高い。

Biomimetics: Flying like a fly
生体模倣技術:ハエのように飛ぶ
David Lentink
生物学者が昆虫の飛行形態を明らかにしたとき、その飛行力学を真似た機械を作ることの着想が生まれた。微小工学技術の発展により、世界初のハエ型ロボットが生み出された。

LETTERS
The rapid assembly of an elliptical galaxy of 400 billion solar masses at a redshift of 2.3
赤方偏移2.3における太陽質量の4000億倍の質量を持った楕円形銀河の急速な集合
Hai Fu et al.

Volcanism on Mars controlled by early oxidation of the upper mantle
上部マントルの初期の酸化によってコントロールされる火星の火山
J. Tuff, J. Wade & B. J. Wood
火星のGusevクレーターにおいて探査機Spiritが観測した37億年前の火星の岩石の組成は、酸化された表層物質がマントルの最上部と火星史の初期に混ざったことを物語っている。そうした酸化過程はより最近の火山岩には影響をあまり与えていないことが明らかに。

The importance of feldspar for ice nucleation by mineral dust in mixed-phase clouds
混合フェーズの雲の中の鉱物ダストによる氷の核形成における長石の重要性
James D. Atkinson, Benjamin J. Murray, Matthew T. Woodhouse, Thomas F. Whale, Kelly J. Baustian, Kenneth S. Carslaw, Steven Dobbie, Daniel O’Sullivan & Tamsin L. Malkin
 雲の凝結は、氷晶核エアロゾル粒子に関係していることがある。乾燥地域から放出される鉱物ダストは、最も重要な氷晶核の1つであると考えられている。これまで、その中でも大部分を占める粘土鉱物に大きな注目が寄せられてきた。
 全球のエアロゾルモデル研究から、ダストの中でも特に量が少ない長石が、混合フェーズの雲(液体の水と氷の両方を含む)においては、特に支配的な役割を負っていることが明らかに。粘土鉱物は比較的重要でないことも示された。長石の氷晶核は全球に分布しており、約−15°C以下の温度における氷結に寄与する地球大気の氷晶核の大部分を、長石粒子が占めている可能性がある。

A Jurassic avialan dinosaur from China resolves the early phylogenetic history of birds
中国から産出したジュラ紀の翼竜が鳥類の初期の発生系統学的歴史を紐解く
Pascal Godefroit, Andrea Cau, Hu Dong-Yu, François Escuillié, Wu Wenhao & Gareth Dyke
中国・遼寧省の中期-後期ジュラ紀に相当するTiaojishan層群で発見された新たな翼竜の完全な化石が記載され、包括的な系統学分析によってParaves系統群の基底部に含められた。