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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2013年4月1日月曜日

新着論文(Ngeo #April 2013)

Nature Geoscience
April 2013 - Vol 6 No 4

Editorial
Message in a bottle
ボトルの中のメッセージ
海は文明の出したゴミを蓄積し続けてきた。海洋への投棄は禁止されているものの、海洋環境を保護するためにも沿岸部や河川のゴミをモニターしなければならない。

Correspondence
Test of a decadal climate forecast
十年間気候予測の試験
Myles R. Allen, John F. B. Mitchell & Peter A. Stott

In the press
Double trouble from space
宇宙空間からの2つのトラブル
Nicola Jones
2/15には地球からわずか27,000kmという近距離(月-地球間の10分の1程度)を45mの隕石が通過し、さらにその数時間前には17mの隕石がロシアの大気にて爆発し、大きな人的・物的被害をもたらした。ロシアの隕石はツングースカ大爆発以降の隕石衝突としては最大のもので、木星-火星間の小惑星帯からやってきたものと推定されている。NASAは地球に接近する可能性のある隕石9,738個を特定しており、そのうち1,379個は地球に被害を与える可能性がある'hazardous'のリストに挙げられている。

Research Highlights
Mantle vents
マントルの脱ガス
Geology http://doi.org/ks2(2013)
ロッキー山脈の湧水中のCO2とヘリウムの同位体分析から、地球のマントルに由来する揮発性物質が地下水に溶け断層などを通じてわき出していることが示された。北米などの大陸内部でもマントルの脱ガスが継続的に起きていることは非常に驚きである。

Deep-sea carbon fix
深海の炭素固定
Glob. Biogeochem. Cycles http://doi.org/ks3 (2013)
深海底の古細菌には無機的な炭素を有機物に固定する役割を持つものがいるが、Iberian marginの堆積物から、深海底へと輸送される有機物のうち、17%がそうした固定によってもたらされたものであることが示された。古細菌が生態系の基盤を支えていることを明確に示している。

Churning Mercury
水星をかき混ぜる
J.Geophys. Res. http://dx.doi.org/10.1002/jgre.20049 (2013)
水星には活発な火山活動が見られるが、水星のマントルは非常に薄いと考えられているため、継続的に安定したマントル対流を起こせるかどうかが議論を呼んでいる。MESSENGERの観測記録などをもとにしたモデルシミュレーションから、厚さ300km(水星の半径の12%に相当)という非常に薄いマントルでも水星の歴史を通して存在し得たことが示された。

Early oxidation
初期の酸化
Earth Planet. Sci. Lett. 366, 17–26 (2013)
24億年前のGOE(Great Oxidation Event)の際に、地球の酸素濃度は急激に増加した。カナダ・オンタリオの27.1億年前の頁岩の硫黄同位体分析と大気モデリングから、およそ27億年前にメタンに富んだ大気から酸化的大気へと移り変わっていたこと、さらにそうした過程がGOEの3億年先に起きていたことが示された。

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Research
News and Views
Gilded by earthquakes
地震で金メッキされる
Dave Craw
地震の際に形成される割れ目に地下深部流体が流れ込み急速に揮発すると、金が析出する可能性が示された。

Rise from below
下からの上昇
Alicia Newton
南極低層水(AABW)は南極で生成され、世界中の深層水を満たしている。1950年代以降AABWは温度上昇し、塩分濃度が低下しつつある。これまでに得られた温度・塩分観測記録から、年間70Gtもの淡水が注入されている可能性が示され、西南極から失われている氷床量の半分に相当するという。さらに塩分が最も低下している海域はAABWの形成域に近く、逆に遠い海域では淡水化はあまり顕著でない。そのため氷床からの淡水フラックスの増加が塩分濃度の低下の原因であると考えられる。一方、温度上昇の傾向はわずかには見られるが、有意ではない。

Rusty meltwaters
錆びた融水
Rob Raiswell
世界の海洋の大部分では鉄が植物プランクトンによる海洋一次生産を制限していると考えられている(鉄仮説)。グリーンランド氷床における融水の溶存鉄濃度の測定から、氷河の浸食によって北大西洋に大量の鉄が供給されていることが示唆されている。

Life in an oceanic extreme
海洋の極限における生命
Eric Epping
めったに洪水などが起こらない深海底では食糧が足りず、生物活動が抑えられると考えられていたが、マリアナ海溝のような場所でも活発な微生物の活動が見られることが分かった。

Letters
Little net clear-sky radiative forcing from recent regional redistribution of aerosols
近年のエアロゾルの分布変化による晴天放射強制力の小さな総合変化
D. M. Murphy
 エアロゾルは太陽放射を吸収・散乱することで大気のエネルギーバランスを決定している。エアロゾルは温室効果ガスと違い、全球に不均質に存在しているため、エアロゾルの地域分布は気候にも影響を及ぼすと思われる。
 人工衛星観測とモデルシミュレーションから、予想に反して、エアロゾルの生成源がヨーロッパから東南アジアに移ったにもかかわらず、晴天時の放射強制力にはほとんど影響が見られないことが分かった。今回用いた観測では全球的な光学的深さの平均値や雲への間接効果を評価することが難しいが、過去12年間のエアロゾル分布の変化は総じて全球の放射強制力には直接的な影響を及ぼしていないことが示された。

Increase in the range between wet and dry season precipitation
雨期と乾期の降水の幅の増加
Chia Chou, John C. H. Chiang, Chia-Wei Lan, Chia-Hui Chung, Yi-Chun Liao & Chia-Jung Lee
地球温暖化の結果、大気の水分保有量が増加し、水循環を強化すると考えられている。陸上の観測記録から、雨期はより湿潤になり、乾期はより乾燥化していることが示された。年降水量が顕著に変化しなくとも、季節的な降水が変化し、干ばつ・洪水などの頻度が変化すると考えられる。

Simulated resilience of tropical rainforests to CO2-induced climate change
シミュレーションされた熱帯雨林のCO2による気候変動に対する回復力
Chris Huntingford, Przemyslaw Zelazowski, David Galbraith, Lina M. Mercado, Stephen Sitch, Rosie Fisher, Mark Lomas, Anthony P. Walker, Chris D. Jones, Ben B. B. Booth, Yadvinder Malhi, Debbie Hemming, Gillian Kay, Peter Good, Simon L. Lewis, Oliver L. Phillips, Owen K. Atkin, Jon Lloyd, Emanuel Gloor, Joana Zaragoza-Castells, Patrick Meir, Richard Betts, Phil P. Harris, Carlos Nobre, Jose Marengo & Peter M. Cox
将来の気候変動に対して熱帯雨林の炭素量がどのように変化するかはよく分かっていない。不確実性はモデルにおける植生の表現と将来の温度・降水変化予測の2つに集約される。22のモデルを用いて様々な排出シナリオに従って将来予測を行ったところ、1つのモデルだけが21世紀末に炭素を失うことを予測した。中・南米の熱帯雨林を除いて、森林は将来の気候変動に対しても耐えることが示唆される。

Greenland meltwater as a significant and potentially bioavailable source of iron to the ocean
大量かつ生物が利用可能な鉄の海への供給源としてのグリーンランドの融水
Maya P. Bhatia, Elizabeth B. Kujawinski, Sarah B. Das, Crystaline F. Breier, Paul B. Henderson & Matthew A. Charette
グリーンランド氷床は「氷河性堆積物の輸送」や「ダストの生成」を通してだけでなく、融水を通しても鉄を海へと供給する役割を担っていることが、氷床南西部の融水の直接測定から分かった。粒子状の鉄が溶存鉄よりもはるかに多く存在し、さらにその半分は生物が利用可能な形で存在している。氷床全体に拡大することが可能であれば、およそ0.3Tgの鉄が北大西洋にもたらされていることになり、温暖化とともにその量は増加することが示唆される。

Strong latitudinal patterns in the elemental ratios of marine plankton and organic matter
海洋のプランクトンと有機物の元素比に見られる強い緯度パターン
Adam C. Martiny, Chau T. A. Pham, Francois W. Primeau, Jasper A. Vrugt, J. Keith Moore, Simon A. Levin & Michael W. Lomas
植物プランクトンと粒子状有機物の元素組成の全球分布の評価から、レッドフィールド比が緯度ごとに変化することが見いだされ、明瞭な関係性が確認された。様々な海域の生態系ごとに、独自の炭素・窒素・リン循環が成り立っているものと推測される。

High rates of microbial carbon turnover in sediments in the deepest oceanic trench on Earth
地球最深の海溝の堆積物中の微生物による高速の炭素入れ替え
Ronnie N. Glud, Frank Wenzhöfer, Mathias Middelboe, Kazumasa Oguri, Robert Turnewitsch, Donald E. Canfield & Hiroshi Kitazato
海洋堆積物においては微生物が有機物分解をコントロールしている。有機物分解は栄養塩を海に放出し、有機物の保存などを調整しており、炭素循環を考える上でも非常に重要なプロセスである。一般に深さが増すごとに生物活動は低下すると考えられているが、マリアナ海溝の地球最深部において採取された堆積物の酸素消費量の分析から、微生物活動が非常に活発であることが示された。210Pbの分析から、有機物堆積速度も非常に早いことが示された。

Synchronization of the climate system to eccentricity forcing and the 100,000-year problem
気候システムの離心率強制力に対する同調と10万年問題
José A. Rial, Jeseung Oh & Elizabeth Reischmann
氷期-間氷期サイクルにおいて卓越する10万年周期はミランコビッチ理論における地球軌道の離心率の10万年周期に一致する。しかしながら、離心率の変化による日射量の変動は極めて小さく、何故それが氷期-間氷期サイクルの気候変動を引き起こすのかが大きな謎とされている(100-kyr problem)。さらに1.2Maのmid-Pleistocene transition (MPT)において卓越周期が4.1万年周期から10万年周期へと変わったことも説明されていない。非線形的な気候システムの変動が41.3万年の離心率のサイクルに同調した結果であることを示す。

Flash vaporization during earthquakes evidenced by gold deposits
金の沈殿から証拠づけられる地震の際の急速な揮発
Dion K. Weatherley & Richard W. Henley
流体に満たされた地殻の割れ目を数値モデルで再現したところ、地震の際に急速に割れ目が拡大することで圧力が低下し、流体が揮発し、さらに金が沈殿することが示唆される。

Articles
High-velocity collisions from the lunar cataclysm recorded in asteroidal meteorites
隕石に記録された月の大異変による高速衝突
S. Marchi, W. F. Bottke, B. A. Cohen, K. Wünnemann, D. A. Kring, H. Y. McSween, M. C. De Sanctis, D. P. O’Brien, P. Schenk, C. A. Raymond & C. T. Russell
月は40億年前に重爆撃(頻繁な天体衝突)を経験したと考えられている。隕石のアルゴン-アルゴン年代測定から、当時非常に高速の天体衝突が起きていた可能性が示唆される。

Isotopic ratios of nitrite as tracers of the sources and age of oceanic nitrite
海洋の硝酸の供給源と年代のトレーサーとしての硝酸の同位体比
Carolyn Buchwald & Karen L. Casciotti
海水は栄養塩である硝酸に枯渇しているが、有光層のある深さで最大値をとることが謎とされている。アラビア海をモデルケースとし、硝酸の酸素・窒素同位体の挙動を室内実験やモデルで再現したところ、アンモニア酸化が硝酸の主たる供給源であることが示された。