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2013年3月14日木曜日

セミナーメモ(2013.3.14 @CCSR)

阿部彩子先生からメーリスで告知のあったCCSRセミナーに参加。

著名な気候研究者
Paul Valdes @ Bristol Univ.」
Klaus Keller @ Penn State Univ.」
Andrey Ganopolski @ PIK」
の3名による、全部で2時間半ほどのセミナー(休憩なしw)。

◎P. Valdes
過去120ka(最終間氷期から現在の間氷期まで)の気候変動をGCMを用いて復元。
使っているモデルは「Had CM3T」。イギリス・ハドレーセンターが開発したGCM。

GCMは計算コストが非常に大きいため、2000年ごとに小分けにして計算コストを減らすと言う工夫を施している。ただし、そのために千年スケールの気候変動は復元できないという難点がある。
軌道要素や温室効果ガスなどはインプットとして入れている。

1、ハインリッヒ・イベントについて
「北大西洋に注入された淡水は何Svだったのか?継続期間は何100年だったのか?」
を複数試してみて、AMOCの応答を調べる実験の紹介。

興味深かったのは、
「産業革命以前の気候バックグラウンド」
「HS3時の気候バックグラウンド」
で水まき実験を行った時に、
AMOCの強度に差はないが、一方で気温には大きな差が出るということ。

2、グリーンサハラ問題について
完新世中期にサハラ地帯に植生が広がっていたことが復元されているが、モデルではなかなか再現できていない。
→冬の雨の可能性?ダスト・フィードバックがモデルに組み込まれていないせい?

3、大気中のメタンの変動の再現
Ruddiman (early anthropocene) Hypothesis’について
古代人の農作・畜産によって、8ka頃からメタン濃度が自然変動から逸脱し、それがさらには次の氷期への氷河化(glacial inception)をも妨げた」という仮説の検証。
たしかに現在であれば水田や家畜のゲップなどから大量のメタンが放出され、一部温暖化に寄与しているのは明らか。
彼らの用いているGCMでは人間の影響がなくてもアイスコアから復元されている結果が再現でき、仮説を否定。

メタンのシンク(吸収源)は大気中にある。
メタンは大気で分解され、二酸化炭素になる。
さらにOHラジカル・植物由来のイソプレンなどによっても分解される。

◎K. Keller
ものすごく話すのが早くて、ほとんど聞き取れなかった…
科学者でもあり、社会学者でもある方。今回の話は気候変動のリスク評価などの話。

1、海水準予測
海水準の上昇予測がこれまで何度も刷新されてきたこと。
不確実性が時代とともに縮まるかと思いきや、地球システムの理解が進むにつれて逆に複雑化し、またモデル間の不確実性が大きいこともあり、大きくなったり、小さくなったりを繰り返している。
それによると最もあり得そうなのは、IPCCのBAUシナリオ(現在の速度で温室効果ガスを排出)で2100年に1.0 mの海水準上昇
ただし、リスク管理を行う上で重要なのは「予測の中心値」というよりは、
むしろ「予測の上限」と、「予測分布が正方向にどれだけ伸びているか(テーリング)」。

嵐・高潮などの効果が合わさって、たった「25 cm」の海水準上昇が生存リスクを1,000倍も大きくする可能性を強調。

2、気候変動と地球工学(geoengineering)
気候変動には勝者と敗者がいること、地球工学によって気候を制御できたとしても勝者と敗者が生まれること
海水準も下げて、気温ももとに戻すのが理想。だけどそんなにうまくいくか…?誰にも答えは分からない。

ツバル(やモルジブ)のように、海水準上昇が国家の消滅につながるような地域もある。
彼らほど地球工学や気候変動緩和に対する関心が強いが、幸い核を保有していないため発言力が小さいが(語弊があるかも)、もし核保有国だったら…状況は一変していただろう。

3、リスク評価と科学者
リスク評価は政策決定者の仕事、気候モデルを用いた将来予測は研究者の仕事。
ただし、相互作用がリスク評価にはとても大切(inverse decision analysis)。
気候学者は排出シナリオをもとに将来予測を行うが、もう一つ大事な視点は、
リスクとして容認できるかどうかを政策決定者から聞いた上で将来予測を行うこと。
それが気候変動緩和のインセンティブに繋がる?

◎A. Ganopolski
中程度の複雑性を持った地球システムモデル(Earth System Model with Intermediate Complexity; EMICs)を用いて過去2Maの氷期・間氷期サイクルの謎、そして将来予測を紹介。

使っているモデルは緯度方向に10º、経度方向に51ºに分けたボックスで構成される、極めてシンプルなもの。
植生モデル・炭素循環モデルなども組み込まれているが、海洋循環は非常に単純化されたものになっている。
ただしそれでもモデルで再現された海水準変動は復元のそれと極めてよく一致している。

1、ミランコビッチ・サイクル
過去3Maの氷期・間氷期サイクルの中で、およそ1MaにMPT(Mid Pleistocene Transition)があったことはよく知られているが、何故MPT後にミランコビッチ周期で卓越するはずの400kaサイクルが気候シグナルには十分なスペクトル・パワーで検出されないのか、という謎がある。

退氷は観測されているほど’早く’起きない。ダスト・フィードバックが重要なのかも?
特に氷期には高緯度にダストが大量に舞っていたことがアイスコアから復元されている。

氷期の80~100 ppmのCO2濃度の低下
→海の炭素循環(海洋循環と生物活動)が基本的に重要。
陸はシンクでもありソースでもあるため、おそらく±0。

2、将来予測
もし人間が温室効果ガスを排出していなかったら次の氷期はいつ訪れていたか?」に関する疑問。
北米やヨーロッパが氷床で覆われることは文明に破滅的な影響を与えるため(温暖化よりも寒冷化のほうが重大?)。

モデルを用いて将来予測を行っているが、結果は温室効果ガスを200, 240, 280, 340 ppmと人工的に振って、将来の軌道要素を与えることで計算されたものであり、地球システムを非常に単純化していることに注意が必要。

それによると、
280、340 ppm → 6,000年後にも海水準低下は起きない
240 ppm → 6,000年後には海水準が30 m低下
200ppm → 6,000年後には海水準が60 m低下
となるらしい。
また他の間氷期でも計算したところ、おおよそ同じ傾向が確認された。
すなわち、温室効果ガスによる放射強制力が氷期へ向かう上で非常に重要ということを意味している。