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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2013年2月21日木曜日

新着論文(Nature#7437)

Nature
Volume 494 Number 7437 pp281-396 (21 February 2013)

EDITORIALS
Net gains
総漁獲
問題のスケールを推定することで、危険なレベルの過剰漁業を食い止めることができるかもしれない。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Harder rains in a hotter climate
より暖かい気候におけるより激しい雨
Nature Geosci. http://dx.doi.org/10.1038/ ngeo1731 (2013)
温暖化が進むことで激しい雨が増えることが予想されているが、どのような種類の雨が降りやすくなるかについてはよく分かっていない。ドイツにおける数ヶ月間の雨と雲の観測記録から、これまでの予想通り、暖かくなればなるほど雨が強くなることが示された。しかし「大気が保有できると考えられる水の量の増加の早さ」以上に「急に降る雨の量が早く増加している」ことも示された。従って温暖化した世界では気まぐれな降水のパターンが支配的になるかもしれない。
>問題の論文
Strong increase in convective precipitation in response to higher temperatures
Peter Berg, Christopher Moseley & Jan O. Haerter
ドイツにおける雲と降水の観測から、前線型の降水はクラウジウス・クラペイロンの理論に基づいた降水をしているが、一方対流型の降水の量は理論を超えた速度で増加していることが分かった。従って、温暖化によって後者のタイプの降水がより敏感に応答すると考えられ、異常な降水において支配的になると考えられる。

Bright nights speed birds’ lives
明るい夜は鳥の生活を早くする
Proc. R. Soc. B 280, 20123017 (2013)
都市部の夜間の明るさを想定して、クロウタドリ(European blackbirds)を明るい状態(街灯の20倍低い光量)と暗い状態とで飼育し比較したところ、明るい環境で生活している鳥ほど繁殖に向けた生理学的な発達が1ヶ月も早まっていることが分かった。

Microbes make melamine toxic
微生物がメラミンを毒にする
Sci. Transl. Med. 5, 172ra22 (2013)
メラミンは2008年に中国でその毒性が子供のミルクにて発見されたことで話題になったが、腸内細菌によってその毒性の一部を獲得しているらしい。バクテリアの一種がメラミンをシアヌル酸に変換し、腎臓疾患を引き起こすことがマウスを用いた実験で示された。

Tough life in the tropics
熱帯の大変な生活
熱帯域は温帯域に比べると、外来種が少ないが、それは熱帯では補食がより厳しいことが原因であることがホヤを用いた野外実験から示された。より複雑な生態系が外来種が根付くことを防いでいるらしい。

SEVEN DAYS
Chernobyl collapse
チェルノブイリの崩壊
ウクライナのチェルノブイリ原発4号機の屋根と外壁が雪の重みで落下した。幸い放射線の漏れは検出されていない。1986年の事故後、周囲をコンクリートで固める工事が行われており、2016年に完成予定とのこと。

MORE POWER FROM THE WIND
風からより多くの電力を
アメリカと中国は昨年13GWクラスの風力発電所を新たに設置した。現在世界の風力発電(282.4 GW)のうち、中国が75.6 GWで4分の1以上を占めている(2位がアメリカ)。世界的には5.4 GWが北ヨーロッパなどの洋上風力発電によって賄われている。

NEWS IN FOCUS
Dark-matter hunt gets deep
ダークマター探しがより深く
Eugenie Samuel Reich
中国は世界で最も深い量子物理学の実験を始める。

China slow to tap shale-gas bonanza
Jeff Tollefson

Oil money takes US academy into uncharted waters
Helen Shen

FEATURES
Concrete solutions
解決策を固める
Ivan Amato
セメント生産は温室効果ガスの排出の大きな部分を占めている。しかしその削減は知られている中で最も複雑な物質の一つを制御することを意味する。

COMMENT
Does catch reflect abundance?
漁獲は豊富さを反映する?
毎年の漁獲量から漁業の健康度を推し量ることについては研究者でも意見が分かれている。

A reality check on the shale revolution
シェール革命に対する現実度のチェック
「アメリカにおいてはシェールガス・オイルの生産が加熱しており、そのコストは低く見積もられている」とJ. David Hughesは言う。

CORRESPONDENCE
Inertia is speeding fish-stock declines
慣性が漁業資源の減少を加速させている
Kelly Swing

CAREERS
Pressure to perform
義務を果たすことのプレッシャー
Karen Kaplan
話すことで科学者は自分の仕事を示す機会を得るが、インパクトを与えることは難しい。

Ticket to everywhere
どこにでも行けるチケット
Peter Fiske
「PhDの化石化(The fossilization of the PhD)は学生、雇用主、科学全般を害する」と、Peter Fiskeは主張する。PhDでも分野を超えて広く学ぶ必要性があり、それがPhDを獲得してからの雇用へと繋がるということ。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Of humans, dogs and tiny tools
人類の所有物としての犬と小さな道具
Peter Brown
遺伝子データは4,230年前にインドからオーストラリアへとヒトが渡ったことを物語っているが、その時にヒトが連れて行った犬や持っていった道具が与えた影響は先行研究との間に食い違いが見られる。

Global warming and tropical carbon
地球温暖化と熱帯の炭素
James T. Randerson
大気中のCO2測定の画期的な使用法によって、20世紀の炭素循環の気候変動に対する応答範囲が制約され、熱帯雨林が枯れてしまう可能性が低くなった。

Killers of the winners
勝利者の殺し屋
David L. Kirchman
SAR11に属する海洋微生物に感染するウイルスがついに発見され、遺伝子が解読された。SAR11はどこにでもいるため、これらのウイルスは海において最も豊富に存在し、生物圏全体に影響を及ぼしているかもしれない。

LETTERS
Sensitivity of tropical carbon to climate change constrained by carbon dioxide variability
二酸化炭素変動から制約される気候変動に対する熱帯雨林の炭素の感度
Peter M. Cox, David Pearson, Ben B. Booth, Pierre Friedlingstein, Chris Huntingford, Chris D. Jones & Catherine M. Luke
熱帯雨林地域からの炭素放出は将来の温暖化を加速させる可能性がある。しかしその程度についてはモデル間でも食い違いが見られ、不確かなままである。水循環の変化に伴うバイオマス量・土壌呼吸量・光合成量などの種々の変化のバランスについてもモデル間で食い違うという問題がある。
 熱帯雨林における温度とCO2濃度の変化の観測データやモデル間比較から、「温暖化に対する炭素保存量の変化の感度」と「熱帯の温度偏差と大気中CO2濃度の年間変化率の感度」との間に線形関係があることが示され、それに基づき将来予測を行うと、熱帯地域で(30ºN - 30ºS)1℃の温暖化ごとに「53 ± 17 Gt」の炭素放出を担うことが示された。これはCO2による施肥効果により、アマゾンの熱帯雨林が劣化してしまうリスクが大幅に低くなることを意味する。しかしながら、温暖化がエアロゾル量の低下やCO2以外の温室効果ガスによって引き起こされた場合には、より確実に炭素が熱帯から失われてしまうことがモデルからは示されている。

Ecosystem resilience despite large-scale altered hydroclimatic conditions
大規模に変化した水気候状態にも関わらず生態系は耐える
Guillermo E. Ponce Campos et al.
 近年、北米、アフリカ、ヨーロッパ、アマゾン地方、オーストラリアにおいて、高温を伴う大規模な干ばつが発生し、陸上生態系、炭素収支および食糧確保に大きな影響を与えている。
 20世紀後半と21世紀前半(高温を伴う大規模な干ばつが頻発)のデータを比較することで、生態系の干ばつに対する耐性を評価。「降水量の低下」や「暑い干ばつ時の強い雨」に対して生態系全体では耐えることが示された。しかしながら、暑い干ばつが長く続くことへの耐性には閾値があることも示された。

Abundant SAR11 viruses in the ocean
海に豊富に存在するSAR11のウイルス
Yanlin Zhao et al.
海洋で最も豊富に存在するバクテリアであるSAR11の微生物群からウイルスが単離された。この微生物群はウイルス感染に耐性があると考えられていたため、SAR11だけでなくウイルスもまた海洋の生物地球化学的循環・炭素循環に大きな役割を果たしていると考えられる。