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2013年1月26日土曜日

最終間氷期の温暖期のグリーンランド氷床の気温と高度

Eemian interglacial reconstructed from a Greenland folded ice core
グリーンランドの折り畳まれたアイスコアから復元されたEemian間氷期
NEEM community members
Nature 493, 489-494 (2013)

より。

’最終間氷期(MIS5e, Eemian interglacial, ~125ka)’は現在の間氷期よりも暖かく、海水準も6〜8メートル高かったと考えられています。
将来の温暖化の過去のアナログとしては最も近い地質時代(完新世の温暖期を除くと)に相当します。

この論文では、NEEM (North Greenland Eemian Ice Drilling)’計画によって得られたグリーンランド氷床アイスコアの最終間氷期に相当する部分から復元された、気候が現在よりも温暖だった時のグリーンランドの気温と高度(つまり氷床の厚さ)の復元結果について報告しています。



グリーンランド氷床で行われた氷床掘削によって得られたアイスコアのうち、現在のところ最も連続した・長い記録が得られているのがNGRIPアイスコアです。

このアイスコアでは基盤岩に近い部分は氷床流動による擾乱が激しく、120kaまでしか遡れず、MIS5eの部分については気候シグナルを復元することができませんでした。

新たに得られたNEEMのアイスコアは最下部がMIS7(~244ka)まで達していると推定されていますが(最下部には基盤岩起源と思しき岩屑が多く含まれる)、最終間氷期の部分は特に擾乱が激しく、RES(Radio Echo sounding)法を用いた地下探査でも、この辺りの氷床が折畳まれていることが見えています。
そのため、例えばアイスコアが欠損していたり、2度出現したり、不連続面が存在することが分かっています。

それらを特定する際に、他のアイスコア(EDML、NGRIP)との対比が役に立ちます。
例えばCH4やN2Oなどは大気中でよくかき混ぜられるため、アイスコアの年代の対比によく用いられますが、そうした濃度がスパイク的に変動している部分についてはアイスコアが擾乱を受けたことの証拠(氷床流動や、氷床表面の融解)と考えられます。

雪の性質が気候によって変化することから、雪の結晶の半径、結晶方向、アイスコアの粘度などが大きく変わる部分があることが分かり、それはMIS5の終わりと次の氷期への移行時期に相当していることも分かりました。

氷期の氷ほど変形を受けやすく、RESから分かっている擾乱が激しい層準もちょうど氷期の部分に相当しています。つまり、MIS5の部分は擾乱をそれほど被っていないことが示唆されます。

以上の特徴から、著者らは変形の影響が少ないと思われる部分についてのみ考察を行っていますが、それはMIS5の温暖期をうまくカバーしています(127-115ka)。

年代モデルにはEDML南極氷床アイスコアのものを採用しています。

EDMLとNEEMアイスコアのδ18Oiceを比較すると、MIS5の始まりの時期(128.5-126ka)にも逆転現象が起きていることが分かりました(グリーンランドが寒冷化する一方で、南極が温暖化)。これは最終退氷期や最終氷期にも同様の現象が確認されていることから、AMOC(大西洋子午面循環)の変動を介したバイ・ポーラー・シーソー(bi-polar seesaw)と解釈されています。


筆者らはNEEMアイスコア中の空気含有量から過去の氷床高度を推定しています。
しかしながら氷床は頂上付近でも常に流動しているため、高度変化を補正する必要があります。
それには3次元の氷床流動モデルを用いていますが、それによって高度が「330 ± 50 m」ほど現在よりも高い位置にあったことが分かりました。
空気含有量から求められた当時の高度の推定値「540 ± 300 m」と併せて、最終的に高度は現在よりも「210 ± 350 m」高かったと結論づけられました。
温暖だったのに氷床が厚いというのは多少違和感があるかもしれませんが、同時に降水量も増加したことが原因と考えられます(そのため下流の氷河流出速度は増大)。

続いてδ18Oiceから当時の気温が推定されました。気温の復元には降水量・高度・気温減率の変化も考える必要がありますので、さらなる誤差要因になりますが、最終的に気温は現在よりも「8 ± 4 ℃」高かったと推定されました。

MISを通して氷床の高度はグリーンランドにおける夏の日射量の減少に同期して減少しますが、どれほど変化したかは、温度の変化を補正する必要があります。
それによってその後6,000年間で(128-122ka)、高度が「210 ± 350 m」から「-130 ± 300 m」に変化し、正味で「400 ± 350 m」減少したと推定されています。

以上、かなりややこしい説明になってしまいましたが、まとめると、

127ka頃のMIS5eの最温暖期(現在よりも8℃ほど温暖化)ののち、6,000年間にわたって氷床が融け、高度が400mほど低下した」ことになります。

この結果は従来考えられてきたよりも小さく、グリーンランド氷床が温暖化に対してあまり敏感でないことを物語っています。
ただし、MIS5には海水準が6〜8メートル高かったことが他の独立した指標から示されているため、残る南極氷床がもっと融けていたことになります。

2012年夏にはグリーンランド氷床の表面の98.6%で融解が確認され、世界の研究者たちを驚かせました。氷床が融解を経験したことは、NEEMアイスコアのMIS5に相当する層準にも同様に記録されています。


The extreme melt across the Greenland ice sheet in 2012
グリーンランド氷床の大部分における2012年の極端な融解
S. V. Nghiem et al.
Geophysical Research Letters 39, DOI: 10.1029/2012GL053611 (2012)

NEEMによる研究結果は、グリーンランド氷床が温暖化に対してどのように応答するか、閾値がどこにあるかなどの研究に方向性を提供するものと期待されています。