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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年11月10日土曜日

新着論文(Science#6108)

Science
VOL 338, ISSUE 6108, PAGES 713-852 (9 NOVEMBER 2012)

Editors' Choice
特になし

News of the Week
Science Unclear on GM Crops
科学が遺伝子組み換え作物を明らかにする
インドの新しいscience ministerに就任したS. Jaipal Reddyは遺伝子組み換え作物に対して非常に懐疑的な立場を取っている。最近インド政府の科学諮問機関は遺伝子組み換え作物に対して支持することを公表したが、専門家パネルは逆に10年間の栽培実験禁止期間を設けるよう最高裁判所に推奨するなど、インドにおいてはホットな話題の一つとなっている。

Megadam Gets Green Light
メガダムにゴーサインが出た
ラオスを流れるメコン川下流のXayaburiに新たなダムが建設される。近隣のカンボジアやベトナムは生態系に与える影響を心配している。建設されるダムはタイによって開発され、電力は周辺国に販売されることになる。このダム以外にも11の新設ダムの建設が予定されており、メコン川の生態系や水・物質循環を激変させると考えられる。

Rare Whales Spotted In New Zealand
珍しいクジラがニュージーランドに打ち上げられる
2010年にニュージーランドに打ち上げられた2頭のクジラはバハモンドオウギハクジラ(spade-toothed beaked whales; Mesoplodon traversii)であることがDNA分析から分かった。これらの種はこれまで3つの頭蓋骨の一部しか見つかっておらず、現在生息しているのかどうかすら知られていなかった。主に南太平洋の深海に生息してイカや小魚類を食べており、表層にはまれにしか現れないらしい。

News & Analysis
Did Pulses of Climate Change Drive the Rise and Fall of the Maya?
気候変動のパルスがマヤ文明の盛衰を左右した?
Heather Pringle
Douglas Kennett率いる国際研究グループがBelizeのYok Balum洞窟(マヤ文明の中心都市から200km圏内)にて採取した鍾乳石から過去2,000年間のほぼ1年スケールの連続した気候変動記録を復元した。特に酸素同位体から復元された降水量は、マヤ文明が湿潤な時期には栄え、乾燥した時期には衰退していたことを物語っている。ITCZの南北移動が降水量変動の原因と考えられる。考古学分野ではまだ気候変動が文明の盛衰を決定づけたという提案について共通理解は得られていないが、考古学者のJason Yaegerは気候変動も重要な変動要因の一つと考えている。

Question of Martian Methane Is Still Up in the Air
火星のメタンに関する疑問がまだ空中に浮かんでいる
Richard A. Kerr
新たにCuriosityが送ってきた大気の化学組成の結果によると、メタンは0-5ppmしか大気中に含まれていないらしい。地上や衛星による観測からはメタンがある程度検出されていたものの、それは一時的なものであったのかもしれない。もし火星の地殻にバクテリアが存在し、それが火星の季節的に一時的に放出されていたとしても、20-35ppmは検出されても良いというモデルの示唆もある。そもそも大気中にないのか、或いはあっても大気中の化学反応で失われているのか、まだ決着はついていない。

News Focus
Weather Forecasts Slowly Clearing Up
天気予報がゆっくりと晴れる
Richard A. Kerr
コンピューターの力の進展や新たな観測のおかげで、天気予報の精度は向上しているが、ある種の天気はまだ再現されていない。

One Sandy Forecast a Bigger Winner Than Others
あるSandyの予測が他に比べてはるかに大きな勝利を得た
Richard A. Kerr
ハリケーン「Sandy」を再現したヨーロッパの中規模天気予測全球モデルは存在するもののうち最もコンピューターのパワーが強いことの利点を浮き彫りにしている。

Perspectives
Constraining Cloud Feedbacks
雲フィードバックを制約する
Karen M. Shell
単純な診断モデルが雲の特性を測定する必要性の裏をかき、気候感度推定を改善する手助けとなる。

Reports
Tissint Martian Meteorite: A Fresh Look at the Interior, Surface, and Atmosphere of Mars
Tissint火星隕石:火星の内部・表面・大気の新たな視点
H. Chennaoui Aoudjehane, G. Avice, J.-A. Barrat, O. Boudouma, G. Chen, M. J. M. Duke, I. A. Franchi, J. Gattacceca, M. M. Grady, R. C. Greenwood, C. D. K. Herd, R. Hewins, A. Jambon, B. Marty, P. Rochette, C. L Smith, V. Sautter, A. Verchovsky, P. Weber, and B. Zanda
Tissintと名付けられた火星の隕石は地球に落下する瞬間が目撃されている隕石のうち、5番目に相当する。鉱物学的・岩石学的・地球化学的分析から、火星表面の風化の特性が明らかになった。その結果は衛星観測記録とも整合的である。Tissintの宇宙線照射年代は他の多くのシェルゴタイトのそれと類似しており、同様のイベントによって火星から吹き飛ばされたものと考えられる。

Development and Disintegration of Maya Political Systems in Response to Climate Change
気候変動に対応したマヤの政治機構の発展と崩壊
Douglas J. Kennett, Sebastian F. M. Breitenbach, Valorie V. Aquino, Yemane Asmerom, Jaime Awe, James U.L. Baldini, Patrick Bartlein, Brendan J. Culleton, Claire Ebert, Christopher Jazwa, Martha J. Macri, Norbert Marwan, Victor Polyak, Keith M. Prufer, Harriet E. Ridley, Harald Sodemann, Bruce Winterhalder, and Gerald H. Haug
マヤ文明の盛衰に気候変動が及ぼした影響についてはよく分かっていない。BelizeのYok Balum洞窟から採取された石筍のδ18Oから過去2,000年間の降水量の変動を復元したところ、雨が多かった時期に人口が増加し、政治の中心が急増していたことが分かった。逆にその後の乾燥か傾向の時には人口低下とが起きていたことが分かった。

A Less Cloudy Future: The Role of Subtropical Subsidence in Climate Sensitivity
より雲が少ない未来:亜熱帯の沈静化が気候感度に与える影響
John T. Fasullo and Kevin E. Trenberth
対流圏中層の相対湿度が雲に与える影響を評価。相対湿度の季節変動を介して熱帯と亜熱帯がテレコネクションで繋がっており、この共変関係が温暖化した後も継続することが分かった。多くのモデルが雲の気候感度を低く見積もっているため、おそらくバイアスがかかっていると考えられる。

Corals Chemically Cue Mutualistic Fishes to Remove Competing Seaweeds
サンゴがそれと相利共生する魚に対して海藻の侵略を防ぐために化学的に合図を送る
Danielle L. Dixson and Mark E. Hay
ミドリイシ属のサンゴ骨格はサンゴ礁の構造的な複雑さの大部分を担っているが、有毒な海藻の脅威には脆弱である。Acropora nasutaはそれと共生するgoby fish (Gobiodon histrioまたはParagobiodon echinocephalus)に化学的な合図を送ることで有毒な海藻であるChlorodesmis fastigiataを排除している。海藻が近づくか、または海藻の化学抽出物が近づくとサンゴは独特の匂いを発し、魚がそれを察知して海藻による被害を軽減させている。逆にこの藻類を食べることで魚はより有毒になっていくらしい。この関係性は陸上のアリと植物の関係に類似しており、サンゴが隠れ家と食料を与え、見返りにサンゴに対する脅威を魚が除外している。

Technical Comments
Comment on “Glacial Survival of Boreal Trees in Northern Scandinavia”
Hilary H. Birks, Thomas Giesecke, Godfrey M. Hewitt, Polychronis C. Tzedakis, Jostein Bakke, and H. John B. Birks
Parducci et al. (2012, Science)は氷期におけるスカンジナビアにもマツ属(Pinus)やトウヒ属(Picus)が生息していたことを報告しているが、コンタミの影響が捨てきれない。生息に適した場所がないこと、両方の種が退氷期の温暖化によって見かけ上絶滅していることなどを考慮すべき。

Response to Comment on “Glacial Survival of Boreal Trees in Northern Scandinavia”
Laura Parducci, Mary E. Edwards, K. D. Bennett, Torbjørn Alm, Ellen Elverland, Mari Mette Tollefsrud, Tina Jørgensen, Michael Houmark-Nielsen, Nicolaj Krog Larsen, Kurt H. Kjær, Sonia L. Fontana, Inger Greve Alsos, and Eske Willerslev
Birks et al.は我々の提案に疑問を呈しているが、我々のデータに対する彼らの解釈について反論する。我々の測定方法は厳密であり、コンタミによって説明するのは難しい。また彼らの解釈は他の地質学的な解釈とも整合しない。

>問題の論文はこちら
Glacial Survival of Boreal Trees in Northern Scandinavia
Laura Parducci, Tina Jørgensen, Mari Mette Tollefsrud, Ellen Elverland, Torbjørn Alm, Sonia L. Fontana, K. D. Bennett, James Haile, Irina Matetovici, Yoshihisa Suyama, Mary E. Edwards, Kenneth Andersen, Morten Rasmussen, Sanne Boessenkool, Eric Coissac, Christian Brochmann, Pierre Taberlet, Michael Houmark-Nielsen, Nicolaj Krog Larsen, Ludovic Orlando, M. Thomas P. Gilbert, Kurt H. Kjær, Inger Greve Alsos, and Eske Willerslev
ヨーロッパ氷床が存在したために、氷期のスカンジナビアには木が存在しなかったと考えられていた。しかし堆積物コア中に含まれるDNAや花粉の分析から、針葉樹が氷床中の避難所において一部生息し続けていた可能性があることが分かった。気候変動に対する木の生き残り方や広がり方に対する現在の見方は間違っている?