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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年11月26日月曜日

新着論文(EPSL, GCA)

Earth and Planetary Science Letters
Volumes 357–358, Pages 1-424, 1 December 2012
High-resolution tephrochronology of the Wilson Creek Formation (Mono Lake, California) and Laschamp event using 238U-230Th SIMS dating of accessory mineral rims
Jorge A. Vazquez, Marsha I. Lidzbarski
火山灰(allaniniteとzircon)の238U-230ThをSIMSで年代測定し、カリフォルニアのMono湖の堆積物の年代モデルを構築。従来考えられていたMono Lake excursionはLaschamp eventと同一のものらしい。

Measurements and numerical simulation of fabric evolution along the Talos Dome ice core, Antarctica
M. Montagnat, D. Buiron, L. Arnaud, A. Broquet, P. Schlitz, R. Jacob, S. Kipfstuhl
Talos Domeアイスコアの流動モデルについて。

Carbonate platform evidence of ocean acidification at the onset of the early Toarcian oceanic anoxic event
Alberto Trecalli, Jorge Spangenberg, Thierry Adatte, Karl B. Föllmi, Mariano Parente
early Toarcian OAE(ジュラ紀初期:~183Ma)には大きな炭素同位体の負のシフトが確認されており、大気海洋に大量のCO2がもたらされたことで海洋酸性化が生じていたと考えられている。イタリアから得られた地層の調査から、early Toarcian OAEを挟んで生物源炭酸塩(二枚貝や石灰藻類など)が無機化学的な炭酸塩の沈殿へと変化していたことが分かった。またこれらの応答は飼育実験によって確かめられている生物の応答とも整合的である。

Melting ice sheets 400,000 yr ago raised sea level by 13 m: Past analogue for future trends
David L. Roberts, Panagiotis Karkanas, Zenobia Jacobs, Curtis W. Marean, Richard G. Roberts
MIS11は第四紀で最も暖かく、長く継続した間氷期である。また軌道要素も現在と類似していることから、将来の気候変動のアナログになり得ると考えられている。潮間帯の指標を用いて南アフリカ沿岸部のMIS11における海水準を推定。テクトニクス的には安定で、GIA(glacio-isostatic adjustment)も少ない地域と考えられている。MIS11には海水準は今よりも13 ± 2 m高かったと推定される。また950mにも内陸側に入り込んだ海蝕台の存在は、この高海水準が長期間安定に存在したことを物語っている。また13mという量はグリーンランドと西南極氷床をすべて融解させたときの海水準に相当し、人為起源の影響なしにも現在よりも高い海水準が可能であったことを示している。

Glacial shortcut of Arctic sea-ice transport
Michael Stärz, Xun Gong, Rüdiger Stein, Dennis A. Darby, Frank Kauker, Gerrit Lohmann
証拠が不足していることからLGMにおける北極海の海氷流動についてはよく分かっていない。地域的なモデルシミュレーションから、現在と異なる様相で流動していた可能性が示唆される。またモデル結果は堆積物に記録されている引っ搔き傷の方向(氷山が移動した方向と考えられる)とも整合的である。またLGMに海氷は完全に停止していなかったことを示唆している。

Reconstructing deglacial North and South Atlantic deep water sourcing using foraminiferal Nd isotopes
A.M. Piotrowski, A. Galy, J.A.L. Nicholl, N. Roberts, D.J. Wilson, J.A. Clegg, J. Yu
堆積物コアから得られたNd同位体(εNd)から過去の海水循環を復元するには堆積物中で確かに海水のεNdが保存されているかどうかが重要である。南大西洋のDeep Cape海盆で採取された堆積物コア中の浮遊性有孔虫の殻の表面にコーティングされたFe-Mn酸化物を還元的にリーチングして得られた溶液のεNdが確かに深層水のεNdを保存していることが分かった。北西大西洋から得られた堆積物コア中のバルク堆積物を用いて最終退氷期の深層水のεNdを復元したところ、氷期の値から完新世の(現在の)値に変化していることが分かった。

Records of Neogene seawater chemistry and diagenesis in deep-sea carbonate sediments and pore fluids
J.A. Higgins, D.P. Schrag
海洋堆積物中の間隙水は過去の海水組成を保存している。しかし、堆積後の過程において続成作用を被ることもある。ODP site 807から得られた堆積物中の間隙水のδ24Mgは深さとともに増加し、一方で堆積物のδ24Mgはほとんど変化していなかった。さらに間隙水のδ44CaとSrのデータと併せて解釈したところ、「Neogene以降の海水のMg濃度の増加」と「低マグネシウム方解石の続成」によって支配されていることが分かった。Mg/Ca古水温計は温度を高く見積もる可能性がある。またδ224Mgは続成に強く、有孔虫の殻のδ24Mgから過去の海水のδ24Mgを復元するのは可能かもしれない。


Geochimica et Cosmochimica Acta
Volume 99,  Pages 1-330, 15 December 2012
Reconstruction of the Nd isotope composition of seawater on epicontinental seas: Testing the potential of Fe–Mn oxyhydroxide coatings on foraminifera tests for deep-time investigations 
Guillaume Charbonnier, Emmanuelle Pucéat, Germain Bayon, Delphine Desmares, Guillaume Dera, Christophe Durlet, Jean-François Deconinck, Francis Amédro, Alexandra T. Gourlan, Pierre Pellenard, Brahimsamba Bomou
海洋底堆積物中の鉄・マンガン酸化物のNd同位体(εNd)が深層水循環のプロキシとして利用されているが、海洋循環をトレースするには深層水が形成される海域や沿岸部の海水のεNdを知る必要がある(沿岸部の浸食起源物質のコンタミ)。地上に露出した白亜紀の地層中の有孔虫の殻をコーティングしている鉄・マンガン酸化物のεNdからも古い時代の海洋循環が復元できるかどうかを調査したところ、同層準の魚の歯のεNdとも類似した値が得られることから、プロキシになる可能性が示唆される。OAEを調べる上でも有用かもしれない。

High-precision and high-resolution carbonate 230Th dating by MC-ICP-MS with SEM protocols
Chuan-Chou Shen, Chung-Che Wu, Hai Cheng, R. Lawrence Edwards, Yu-Te Hsieh, Sylvain Gallet, Ching-Chih Chang, Ting-Yong Li, Doan Dinh Lam, Akihiro Kano, Masako Hori, Christoph Spötl
MC-ICP-MSのSEM機能を用いてU/Th年代測定の手法を開発。化石のサンゴ試料の場合、‰レベルの精度を実現するには10 - 50 mgの試料が必要らしい。また十分にウラン濃度が高い鍾乳石の試料(5 - 100kyr)の場合、5‰の精度を実現するには20 - 200 mgの試料が必要になる。水・岩石・堆積物などの試料にも応用可能だという。

Factors controlling the silicon isotope distribution in waters and surface sediments of the Peruvian coastal upwelling
Claudia Ehlert, Patricia Grasse, Elfi Mollier-Vogel, Tebke Böschen, Jasmin Franz, Gregory F. de Souza, Ben C. Reynolds, Lothar Stramma, Martin Frank
ペルー沿岸部の湧昇帯における海水と珪藻の殻のδ30Siを測定。南ほど海水δ30Siが低く、南大洋起源の中層水の水平混合と、水柱および堆積物表層において活発な溶解(remineralization)が起きていることを示唆している。南北方向の変動が大きく、ケイ酸の濃度と珪藻による利用効率によって支配されていると考えられる。海底堆積物のコアトップ中の珪藻殻のδ30Siは期待と同じ変動幅を持っていることが分かった。一方生物源シリカのδ30Siはスポンジ針(sponge spicules)などによってコンタミを受けている可能性があるため、解釈に注意が必要である。

Skeletal growth dynamics linked to trace-element composition in the scleractinian coral Pocillopora damicornis
Chloe Brahmi, Christophe Kopp, Isabelle Domart-Coulon, Jarosław Stolarski, Anders Meibom
ハナヤイシサンゴの一種(Pocillopora damicornis)の骨格に取り込まれるSrを86Srによってラベリングし、NanoSIMSでマッピング。さらにMg/Caも同時に測定したところ、Mg/Ca比は変動が大きく、2.2 - 13mmol/molで変動し、成長速度と正相関が見られた。一方Sr/Ca比は変動が大きいものの(6.5 - 9.5 mmol/mol)、成長速度ともMg/Caとも相関を示さなかった。Rayleigh fractionation modelでは説明ができないらしい。

Carbonate clumped isotope variability in shallow water corals: Temperature dependence and growth-related vital effects
Casey Saenger, Hagit P. Affek, Thomas Felis, Nivedita Thiagarajan, Janice M. Lough, Michael Holcomb
炭酸塩のclumped isotope温度計(Δ47)が生体効果のない温度計として(さらに酸素同位体などのように過去の海水の酸素同位体を仮定する必要もない)有用だと考えられていたが、生物源炭酸塩のΔ47の測定値は期待値からは離れており、’生体効果’の存在を暗示している。紅海から得られたハマサンゴ骨格の成長方向に沿ってΔ47を測定したところ、8℃も低く温度を見積もる可能性があることが分かった。他のサンゴについても測定したところ、様々な要因が関与している可能性が示された(塩分、有機物のコンタミ、研究室ごとの測定法など)。マルチプロキシだったら割と信頼度は高いかも?