Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年10月31日水曜日

新着論文(GRL)

A global picture of the first abrupt climatic event occurring during the last glacial inception
E. Capron, A. Landais, J. Chappellaz, D. Buiron, H. Fischer, S. J. Johnsen, J. Jouzel, M. Leuenberger, V. Masson-Delmotte and T. F. Stocker
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 39, L15703, 8 PP., 2012
前の間氷期から氷期に向かう時期(Glacial inception)の中でも特にGIS25としてグリーンランドアイスコアに記録されている千年スケールの気候変動は熱帯においてはほとんど確認されておらず、それが後に続く他のGIS(D/Oサイクル)に比べて小さい規模のものであったのか、或いは北半球特有のものであるかはよく分かっていない。アイスコアの高解像度のδ18OやδD、気泡中の空気のδ15N、δ18O2、CH4などからGIS25を復元。

New constraints on European glacial freshwater releases to the North Atlantic Ocean
Frédérique Eynaud, Bruno Malaizé, Sébastien Zaragosi, Anne de Vernal, James Scourse, Claude Pujol, Elsa Cortijo, Francis E. Grousset, Aurélie Penaud, Samuel Toucanne, Jean-Louis Turon and Gérard Auffret
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 39, L15601, 6 PP., 2012
イギリス南西部で採取された堆積物コア中の浮遊性有孔虫の群集組成のモダンアナログ法を用いて過去35-10kaのSSTを復元し、さらにG. bulloidesから得られたδ18Oから表層塩分を復元。氷期の氷河の河口付近にあると考えられるため、氷河の伸張の議論を行っている。HS1、HS2、HS3において大きな塩分低下が見られ、他の間接指標(淡水に棲息する藻類の量、N. Pacydermaの量など)とも整合的。AMOCに擾乱を与えたと考えられる。(また14-10kaに特に大きな海洋リザーバー年代が得られているらしい)

Satellite-based estimates of reduced CO and CO2 emissions due to traffic restrictions during the 2008 Beijing Olympics
Helen M. Worden, Yafang Cheng, Gabriele Pfister, Gregory R. Carmichael, Qiang Zhang, David G. Streets, Merritt Deeter, David P. Edwards, John C. Gille and John R. Worden
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 39, L14802, 6 PP., 2012
北京オリンピックの際には中国政府が空気の質の改善のために交通規制を行っていたが、その際に一酸化炭素と二酸化炭素がどのように変化するかのモニタリングがなされていた。それらの比をもとに自動車による化石燃料燃焼量を推定すると、一日に60±36Gtもの二酸化炭素が削減されていた計算になる。

Holocene sea-level change and Antarctic melting history derived from geological observations and geophysical modeling along the Shimokita Peninsula, northern Japan
Yusuke Yokoyama, Jun'ichi Okuno, Yosuke Miyairi, Stephen Obrochta, Nobuhiro Demboya, Yoshinori Makino and Hodaka KawahataGEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 39, L13502, 6 PP., 2012
下北半島の海岸段丘面の年代測定結果から、その段丘面は4,000年前の縄文海進(海水準が今よりも2m高かった)の際に形成されたものであることが分かった。また陸奥湾の堆積物コアの堆積速度の激減にもそれは現れている。さらに復元された海水準変動と地殻の弾性変形モデルとの結果は整合的であった。つまり、北米・ヨーロッパ氷床の融解は7,000年前に終了しているため、少なくとも南極氷床の融解は4,000年前には終了していたことになる。

The sequestration efficiency of the biological pump
Tim DeVries, Francois Primeau and Curtis Deutsch
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 39, L13601, 5 PP., 2012
海水中で有機物は様々なパスと時間スケールで変動しているため、炭素輸送速度は生物ポンプによる炭素固定の推定にはあまり向いていない。’固定の効率(表層に再び戻る前に生成された栄養塩や炭素がどれほど水柱中に留まるか)’を通して有機物の輸送量と炭素固定とが相関していることを示す。

2012年10月30日火曜日

新着論文(PO, BG, CP)

BiogeosciencesHigh-resolution interpolar difference of atmospheric methane around the Last Glacial Maximum
Biogeosciences, 9, 3961-3977, 2012
M. Baumgartner, A. Schilt, O. Eicher, J. Schmitt, J. Schwander, R. Spahni, H. Fischer, and T. F. Stocker
 メタンは温室効果ガスの一つであり、現在0.5W/m2の放射強制力を持っていると考えられている。メタンの濃度は北極・南極でわずかながら異なることが知られており、その差を生む原因はメタンの放出源が熱帯と北半球の湿地に偏っていることが一部考えられる。これらは自然のメタン放出の60-80%を担っていると考えられている。
 NGRIP、EDMLアイスコアから過去32kaの両極の大気中メタン濃度を高解像度で復元。ほんのわずかな違いが捉えられた。LGM付近で両極のメタン濃度差が3.7%と最も小さい値を示し、このことは北半球の夏の湿地の放出源が完全にゼロとなっていなかったことを示唆している。最終退氷期には両極の差は6.5%で一定の値を示した。ITCZの緯度方向の変化による大気の体積や撹拌の仕方の変化が原因か?

Ocean acidification mediates photosynthetic response to UV radiation and temperature increase in the diatom Phaeodactylum tricornutum
Biogeosciences, 9, 3931-3942, 2012
Y. Li, K. Gao, V. E. Villafañe, and E. W. Helbling
大気中のCO2濃度上昇に伴い、海洋酸性化・温暖化・混合層の厚さの縮小が起きることが予測されており、有光層に生息する植物プランクトンは酸性化・温暖化のストレスに加えて、より強い紫外線に曝されることになる。20世代にわたる飼育実験によってそれらが珪藻(Phaeodactylum tricornutum)に与える影響を評価。特にUV-B(?)に曝した場合に害が大きいことが分かった。将来の珪藻の炭素固定に影響?

Climate of the Past
Timing and magnitude of equatorial Atlantic surface warming during the last glacial bipolar oscillation
S. Weldeab
Climate of the past, 8, 1705-1716, 2012
MIS3(75-25ka)における赤道東大西洋の温度復元。ハインリッヒイベントに対応した温暖化が確認された(AMOCへの擾乱が原因と考えられる、それまで高緯度に運ばれていた熱が低緯度に熱がこもる)。場合によっては温暖化はハインリッヒイベントが集結してからも2,300年間も及ぶ場合があり、継続期間と空間的なSST分布には風によって駆動される表層流が大きく寄与していると考えられる。

Paleoceanography
Sea surface temperature variability in the Pacific sector of the Southern Ocean over the past 700 kyr
Ho, S. L., G. Mollenhauer, F. Lamy, A. Martínez-Garcia, M. Mohtadi, R. Gersonde, D. Hebbeln, S. Nunez-Ricardo, A. Rosell-Melé, and R. Tiedemann
Paleoceanography, 27, PA4202, doi:10.1029/2012PA002317 
南大洋の太平洋セクターの高緯度海域から得られた堆積物コアのアルケノンを用いて過去700kaの古水温を復元。Uk'よりもUkを使った方がいいらしい(?)。氷期間氷期の温度変化は亜寒帯で~8℃、亜熱帯で~4℃と推定される。南大洋の他の海域で得られている温度復元結果と整合的であるため、南極周回流全体で同程度に水温が低下したと考えられる。また氷期にはACCが低緯度側に大きく移動していたことも分かった。

Deciphering the role of southern gateways and carbon dioxide on the onset of the Antarctic Circumpolar Current
Lefebvre, V., Y. Donnadieu, P. Sepulchre, D. Swingedouw, and Z.-S. Zhang
Paleoceanography, 27, PA4201, doi:10.1029/2012PA002345 
新生代の全球の寒冷化が始まる50Maののち、34Ma頃に南極氷床が成長し始めるが、その成長にはドレーク海峡とタスマニア海峡が開いたことが寄与していたと考えられている。しかし一方でCO2濃度の低下が原因とする説もあり、話題を呼んでいる。全球モデルを用いて地形が大気中CO2濃度と全球の寒冷化にどれほどするかを検証したところ、南極大陸周辺の海氷とbrineの形成が南北方向の密度差を生み出し、それが結果的に南極周回流の強化へとつながっていることが分かった。つまり、ACC自体が寒冷化の原因というよりは、ACCは寒冷化のフィードバックの一つと考えられる。

2012年10月27日土曜日

新着論文(Science#6106)

Science
VOL 338, ISSUE 6106, PAGES 429-568 (26 OCTOBER 2012)

Editors' Choice
Blowing in the Solar Wind
太陽風でたなびく
Astrophys. J. 759, L19 (2012).
Voyagerは1977年の打ち上げ以降、宇宙の深部へと進んでいるが、2007年に太陽風の影響が最も最低の値を示す空間を横断した(太陽系の端)。その6ヶ月前にTermination shockと呼ばれる、星間物質によって太陽風の速度が激減する境界を通過していた。しかし2011-2012年にVoyagerから送られてきたプラズマのデータはTermination shock通過直後と同程度の値を示し、再度太陽風の影響が増加したことを示している。

The Core from Above
上空からの核
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 10.1073/ pnas.1207346109 (2012).
地球のコアは固体の内核と液体の外核でできており、それにより地磁気が発生していると考えられている。逆に地磁気の変動を観測することで核の状態を知ることができる。さらに重力場の変動からも核の状態を知ることができるが、人工衛星で重力を観測する際には海水や河川などの流体の変動を補正しなければならない。Mandeaほかはアフリカ地下深部を中心とした変動を観測し、コア・マントル境界の密度の不均質性や相互作用によって説明が可能だとしている。

News of the Week
Fisheries Data Restricted to Protect Trade Secrets
貿易の秘密を保護するために漁業のデータを制限
NOAAは個々の漁船に観察者を乗船させて「どの魚を」「どれほど」「どの海域で」「どのような漁具を用いて」捕獲したかのデータを収集していたが、そうして集積されたデータの公のアクセスを制限する措置を取ろうとしている。

Doubling Biodiversity Aid
生物多様性への援助が2倍に

A 10-Year Ban for GM Field Trials?
10年間の遺伝子組み換え作物の試験栽培の禁止?
インドの科学有識者パネルは、遺伝子組み換え食品・作物(昆虫に強い綿の栽培など)の試験栽培に対する10年間の禁止期間を設けることを要請した。10年間かけて監視機関の設立や健康・環境影響の評価を行うことを目的としている。この提案自体はまだ完全に可決されたわけではなく、いまなお熱い議論を呼んでいる。ワクチンの専門家であり、バイオテクノロジー局の秘書のMaharaj Kishan Bhanは「気候変動と人口増加に対して食料生産を維持するためにも遺伝子組み換えを推進する必要がある」と言う。
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Rogue Geoengineering Experiment
Rogueの地球工学実験
British Columbia・Haida Gwaii(カナダ西部)の311km沖にて改造した漁船を用いて海洋表層に鉄を散布する地球工学の実験が一般企業によって国際的なコンセンサスがないまま実行されたことが、環境汚染や違法ゴミ投棄などの違法行為に相当するのではないかとして議論を呼んでいる。鉄散布の前後の衛星観測データから植物プランクトンの増殖量の変化を観察するというシンプルな実験であったらしい。渦による輸送により、散布海域から1,000kmも離れたところまでその影響は及ぶと考えられる。
>より詳しい情報(Science)はこちら
>Natureの記事はこちら

Sharper, Sharper, and Sharper Still
さらに鮮明に、さらに鮮明に、まださらに鮮明に
Voyerger 2が1986年に天王星を撮影したときの画像はそれをいくら画像処理してもその特徴がよく分からなかった。しかし今では技術と観測機器の性能が向上したおかげで天王星の姿が鮮明に分かるようになってきた。例えば天王星の雲には縞状の構造があり、また北極には地球の夏に見られるような積乱雲状の雲があることが分かった。

Small Satellite, Big Mission
小さい人工衛星だが大きなミッション
ヨーロッパ宇宙局は2017年にCharacterizing Exoplanets Satellite (Cheops)を打ち上げる予定。未だ見つかっていない系外惑星の探査というよりは、既に知られている系外惑星の詳細な観測を行うことを目的としている。

French Opinion on GM Study
遺伝子組み換え研究に対するフランスの意見
「遺伝子組み換えトウモロコシでマウスが死亡した」実験に関して、フランスの評議会(ANSES)は実験の手法・統計・解釈の点で問題があったと結論づけた。
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News & Analysis
Prison Terms for L'Aquila Experts Shock Scientists
L'Aquilaの専門家に対する禁固刑が科学者に衝撃を与える
Edwin Cartlidge
2009年にL'Aquilaを襲った地震で犠牲者と大きな被害が出たことについて、事前に「安全宣言」を出した地震学の専門家7名に対して6年の刑期が求められている。

Questions About Japanese Researcher Go Back Years
日本の研究者(森口氏)に関する疑問を何年も遡る
Jennifer Couzin-Frankel and Dennis Normile
嘘のハーバードの肩書きの下でなされた革新的な幹細胞の実験が、研究のエンタープライズ(冒険心?)に関する疑問を浮上させている。

News Focus
Food Labeling Issue Tops State Ballot Questions
食品のラベリング問題が州の投票者の質問のトップに
Meghna Sachdev
カリフォルニア州の議題番号37(200の遺伝子組み換え食物にラベリングをすることを要求する)は一般市民に対し遺伝子組み換え食品に対する間違ったメッセージを送ることになると科学者は言う。遺伝子組み換えという言葉が他の商品とは’違う’という印象を消費者に植え付け、購買意欲を削ぐ可能性があるという懸念である。

Letters
A Curiosity Moment for Tropical Biology?
熱帯の生物学に対する興味深い瞬間?
Charles H. Cannon
キュリオシティーが火星に降り立ったことには驚いたが、一方で我々は熱帯雨林の調査にそれほど多額の資金を投入したことがあるだろうか?今こそ惑星探査で培った技術を地上の観測に応用するときである。

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Perspectives
The Risks of Overfishing
過剰漁獲のリスク
Ellen K. Pikitch
現在世界中で行われている漁業が個々の魚だけでなく、海洋生態系全体にまで影響を及ぼしている。

Measuring Solar Magnetism
太陽の磁場を測定する
Alfred G. de Wijn
太陽の大気の磁場を正確に測定するにはどうすれば良いのだろう?

Did Australopiths Climb Trees?
アウストラロピテクスは木に登っていたか?
Susan Larson
若者のアウストラロピテクスの肩の骨は現存する猿のそれと類似しており、木登りが2足歩行をしていた人類の祖先にとっても重要であったことを示唆している。

Fishing for Answers off Fukushima
福島沖の漁業に対する答え
Ken O. Buesseler
福島沖の魚の放射性物質のレベルは変動が大きく、また事故後上昇したままである。それは放射の原因となる物質の流入が継続していることを示している。
>BBC NEWSの記事はこちら
>Scienctific Americanの記事はこちら
>The Guardianの記事はこちら
>ウッズホール海洋研究所のプレスリリースはこちら

Research Article
Detecting Causality in Complex Ecosystems
複雑な生態系から因果関係を検出する
George Sugihara, Robert May, Hao Ye, Chih-hao Hsieh, Ethan Deyle, Michael Fogarty, and Stephan Munch
非線形系の空間復元に基づいた新しい手法は、相関と因果関係を区別することができる。

Reports
Feathered Non-Avian Dinosaurs from North America Provide Insight into Wing Origins
北米から発掘された飛べない恐竜の羽が翼の起源に対する知見を与える
Darla K. Zelenitsky, François Therrien, Gregory M. Erickson, Christopher L. DeBuhr, Yoshitsugu Kobayashi, David A. Eberth, and Frank Hadfield
羽の生えた獣脚類の恐竜化石は、動物の羽の機能進化に関する知見を得るための魅力的な研究対象の一つである。カナダのAlbertaの上部白亜紀の地層から発掘されたダチョウ恐竜(オルニトミムス; ornithomimosaurs)の化石は糸状の羽が生涯において身体を覆っていたこと、羽状の構造が大人の前脚に見られることを示している。つまり前脚の羽は生殖行動に用いられていたことを物語っている。

Australopithecus afarensis Scapular Ontogeny, Function, and the Role of Climbing in Human Evolution
アウストラロピテクス・アファレンシスの肩甲骨の発生、機能、人類進化における木登りの役割
David J. Green and Zeresenay Alemseged
霊長類の歩行に関する適応を研究する上で肩甲骨の形態が役に立つが、それらの化石記録が得られることは稀である。エチオピアから発掘された子供のアウストラロピテクス・アファレンシスの肩甲骨の化石は、ぶら下がり行動をする猿の特徴と類似しており、木登り行動を行っていたことを示唆している。

Status and Solutions for the World’s Unassessed Fisheries
世界の評価されていない漁業の状況と解決策
Christopher Costello, Daniel Ovando, Ray Hilborn, Steven D. Gaines, Olivier Deschenes, and Sarah E. Lester
先進国のよく監視されている漁業は持続可能な漁業へと向かいつつあるが、残りの80%はほとんど監視されておらず評価がなされていない。「小型の評価されていない漁業」は「大型のよく評価されている漁業」に比べて悪い状態にあり、また大型・小型の魚の資源量は低下し続けていることが分かった。正しい管理を行うことで資源量や漁獲量が改善することが示唆される。

2012年10月25日木曜日

新着論文(Nature#7421)

Nature
Volume 490 Number 7421 pp445-576 (25 October 2012)

※時間の都合で簡略版

RESEARCH HIGHLIGHTS
How to move a 4-tonne statue
どのように4トンの像を動かすか
J. Archaeol. Sci. http://dx.doi.org/10.1016/ j.jas.2012.09.029 (2012)
イースター島のモアイ像を先住民が丘まで移動させたとき、彼らは像が歩くように左右に揺らしながら動かしていた可能性がある。水平な道は丸太を使って転がしていたようだが、坂道は丸太ではなく’歩かせていた’かもしれないという。上り道の道端には背中を下にして倒れているモアイ像の残骸が多く、逆に下り坂ではうつぶせに倒れているモアイ像が多く残っている。この方法で高さ3メートルあるモアイ像の模型を18人かけて40分で100m進ませることができたという。

Moon spun off from Earth
月は地球から派生した
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1226073; http://dx.doi.org/10.1126/ science.1225542 (2012)
ジャイアント・インパクトにおける月の形成モデルについて。衝突の際に地球が現在よりも早く自転しており、衝突によって放出された岩屑が集積することで月が形成されたとすると、2つのシナリオが考えられるらしい。1つのモデルでは従来考えられていたよりも大きな天体を衝突させる必要があることが示され、もう1つのモデルでは小さい天体でも良いがより早く衝突させる必要があることが示された。

Super-reflective fish skin
非常に反射しやすい魚の皮膚
Nature Photon. http://dx.doi. org/10.1038/nphoton.2012.260 (2012)
タイセイヨウニシン(Atlantic herring; Clupea harengus)、ヨーロッパイワシ(European sardine; Sardina pilchardus)、キビナゴ(sprat; Spratus spratus)といった魚は光を良く反射することが知られているが、その理由はどうやら細胞質とグアニンの結晶でできた層が互層になっていることが原因らしい。その混合比がある範囲になると光を良く反射するという。発光ダイオードなどの光学装置への応用が期待される。

A more accurate carbon clock
より正確な炭素の時計
Science 338, 370–374 (2012)
日本の湖から採取された長さ70mほどの堆積物の記録によって、放射性炭素年代の精度が飛躍的に向上する。これによって考古学などにおける重要な出来事(例えばネアンデルタール人と人類の交代など)の年代決定がより確かになる。

Sudden rupture in deadly earthquake
死を招く地震の急激な破壊
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1029/2012GL052516 (2012)
2008年5月12日に起きた四川大地震では69,000人もの人が亡くなったが、その原因となったのは2回目の破壊による地震であったらしい。中国に張り巡らされた地震ネットワークのデータを解析したところ、震源の近くの地殻は最初の30秒は応力に持ちこたえたらしい。そしてその後破壊を伴って12.5mも滑ったらしい。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Signs of instability
不安定の兆し
Juergen Mienert
海洋底堆積物中のガスハイドレート(天然ガスを捕獲している物質)が従来考えられていたよりも深くに存在することは、ハイドレートが不安定化しつつあり、数Gtものメタンを放出する可能性があることを示唆している。

LETTERS
Recent changes to the Gulf Stream causing widespread gas hydrate destabilization
湾流の最近の変化が広い範囲でのガスハイドレートの不安定化を引き起こしている
Benjamin J. Phrampus & Matthew J. Hornbach
湾流が流れる大西洋の東海岸においては非常に温度躍層が深く(~1,000m)、湾流による熱輸送が深海底に存在するメタンハイドレートの安定性に大きく寄与していると考えられる。ノースカロライナ州の沖の大陸斜面におけるメタンハイドレートの深度分布は、現在の温度・圧力から予想されるメタンハイドレートの分布とは異なっており、完新世以降の温度変化がその主要因として考えられる。不安定化しているメタンハイドレートの範囲は約10,000km2と推定され、もし中層水の温度が5℃上昇すると、PETMと同じ規模の温暖化と海洋酸性化が起きる可能性がある。過去5,000年間において湾流に起きた変化によって2.5Gtに相当するメタンハイドレートが現在不安定化している(PETMを引き起こすのに必要な量の0.2%)。この不安定状態はあと数世紀は持続すると考えられ、さらに北西大西洋に限らず他の西岸境界流海域や北極海においても同時に進行していると予想される。そのため2.5Gtのメタンハイドレートというのは見積もり値としては最低値であり、世界全体のほんのわずかに過ぎない。メタンハイドレートが崩壊して海水中に放出され、それが結果的に大気に放出された時に気候に与える影響については不確かなままである。また同時に津波を発生する規模の大陸斜面の崩壊も起きる可能性が示唆される。

新着論文(PNAS, Geology)

PNAS
☆16 October 2012; Vol. 109, No. 42
Oxygen isotopes in tree rings are a good proxy for Amazon precipitation and El Niño-Southern Oscillation variability
Roel J. W. Brienen, Gerd Helle, Thijs L. Pons, Jean-Loup Guyot, and Manuel Gloor
アマゾンの木の年輪に沿ったδ18Oが降水の指標として使えそう。わりと遠方の雨のδ18Oやアンデス山脈のアイスのδ18Oとも良く合うらしい。

Evidence for the respiration of ancient terrestrial organic C in northern temperate lakes and streams
S. Leigh McCallister and Paul A. del Giorgio
陸域の河川や湖沼などからCO2が放出されていることは広く認識されているが、そのパスやメカニズムについてはよく分かっていない。ケベックの温帯淡水系で微生物によって分解されている有機物(CO2放出)を直接放射性炭素で年代測定。1,000-3,000年という古い年代値を持っている。

☆23 October 2012; Vol. 109, No. 43
特になし

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Geology
☆1 October 2012; Vol. 40, No. 10 
Enhanced seasonality of precipitation in the Mediterranean during the early part of the Last Interglacial
Alice M. Milner, Richard E.L. Collier, Katherine H. Roucoux, Ulrich C. Müller, Jörg Pross, Stavros Kalaitzidis, Kimon Christanis, and Polychronis C. Tzedakis
地中海東部へのsapropel(有機物に富んだ堆積物)の沈殿はアフリカモンスーンが強かった時期に降水量が増加していたことを物語っている。泥炭地の堆積物コアの様々なプロキシから最終間氷期の前期(130-119ka)のギリシャ北東部の降水の季節性を復元。当時の夏は非常に蒸発が盛んであった。一方で冬の降水が非常に多く、sapropelを沈殿させる元になっていたらしい。

Mid-Pacific microatolls record sea-level stability over the past 5000 yr
Colin D. Woodroffe, Helen V. McGregor, Kurt Lambeck, Scott G. Smithers, and David Fink
クリスマス島(Kilitimati)の化石サンゴから過去6,000年間の海水準変動を復元。microatoll(死んだサンゴの化石の上または横に次の生きたサンゴが定着すること)を辿ると過去6,000年間にほとんど海水準が変化しておらず、他の地域と異なり少なくとも0.25mの変動に収まっていたらしい。far-fieldであることとテクトニクス的に安定であることで、汎世界的な海水準上昇と氷床融解後のアイソスタシーの再編とがうまくキャンセルした結果と考えられる。

Seasonal Laurentide Ice Sheet melting during the "Mystery Interval" (17.5–14.5 ka)
Carlie Williams, Benjamin P. Flower, and David W. Hastings
最終退氷期のMistery Interval(Heinrich Stadial 1; H1)とYounger Dryasにおいて北半球の気候は千年スケールの急激な寒冷化を経験していたが、その原因として考えられているローレンタイド氷床の融氷水の大西洋への流入はYDにおいては確かめられているものの、H1においてはまだよく分かっていない。メキシコ湾のOrca海盆の堆積物コアの浮遊性有孔虫のMg/Caとδ18Oからδ18OSWを計算したところ、17.5 - 12.9 kaの間に3回の融氷水のインプットがあったことが示唆される。特に夏の融水が冬期の海氷形成に寄与し、極端に寒い冬をもたらした可能性がある。

☆1 November 2012; Vol. 40, No. 11 
Negative C-isotope excursions at the Permian-Triassic boundary linked to volcanism
Jun Shen, Thomas J Algeo, Qing Hu, Ning Zhang, Lian Zhou, Wenchen Xia, Shucheng Xie, and Qinglai Feng
顕世代史上最も大きな絶滅が起きたP/T境界においては炭酸塩と堆積物のδ13Cが不の方向に大きくシフトしていたことが分かっている。中国の地層から、δ13Cの負のエクスカージョンが見られる時に厚い火山灰が堆積していることが分かった。火山灰の起源は従来考えられていたテチス海の沈み込み帯起源というよりもむしろシベリア・トラップ起源と考えられる。

Late glacial fluctuations of Quelccaya Ice Cap, southeastern Peru
Meredith A. Kelly, Thomas V. Lowell, Patrick J. Applegate, Colby A. Smith, Fred M. Phillips, and Adam M. Hudson
最終退氷期においては北半球の温暖化と南半球の寒冷化という逆の傾向(バイポーラーシーソー仮説)が確認されていたが、特にACR(B/A)やYDの時期において温度の逆転が報告されている(※H1も)。ペルー南東部の氷冠は17.2ka頃から後退し始め、12.5 - 12.4kaの間(YDの始まり)に再度成長していたことが分かった。

Twentieth-century warming revives the world’s northernmost lake
Bianca B. Perren, Alexander P. Wolfe, Colin A. Cooke, Kurt H. Kjær, David Mazzucchi, and Eric J. Steig
北極圏の湖において生態系が近年激変しているが、それが気候の温暖化によるものか人為起源の反応性の高い窒素(reactive nitrogen; Nr)の沈着が原因かははっきりと分かっていない。グリーンランド北部の湖の堆積物コアを採取し、微化石(珪藻、黄金色藻など)の分析を行い、過去3,500年間の環境変動を復元。2,400年前に姿を消し、20世紀になって再び出現していたことが分かった(特にAD1980年以降に急増)。大気由来の栄養塩の沈着を伴っていないため、夏の温暖化が主な原因と考えられる。過去2,400年間では近年の変化は例がなく、温暖化が環境・生態系の変化の主要因と考えられる。

Mild Little Ice Age and unprecedented recent warmth in an 1800 year lake sediment record from Svalbard
William J. D’Andrea, David A. Vaillencourt, Nicholas L. Balascio, Al Werner, Steven R. Roof, Michael Retelle, and Raymond S. Bradley
将来の気候変動予測のためにも高緯度域の気候変動を予測することが重要である。Svalbardの湖から得られた堆積物コアのアルケノン分析から過去1,800年間の夏の古水温を復元。年代モデルは火山灰と210Pbによって求めている。小氷期には氷河が成長していたことが知られているが、夏の水温は特に低下していなかったため、降水量の変化が原因と考えられる。特に近年の温暖化が顕著。

A subseafloor carbonate factory across the Triassic-Jurassic transition
Sarah E. Greene, David J. Bottjer, Frank A. Corsetti, William M. Berelson, and John-Paul Zonneveld
T/J境界(三畳紀-ジュラ紀)は生物の大量絶滅とともに炭酸塩の不在を伴っている(海洋酸性化を示唆)。境界の直後にこれまで二次続成の結果と考えられてきた炭酸塩堆積物が見つかっていたが、異なる3地点について詳細に調べたところ、堆積物と海水の境界のすぐ下で堆積したものである可能性が示唆された。海洋酸性化で表層の炭酸塩は消滅してしまったが、その後の回復過程においては堆積物の下で炭酸塩が復活していた可能性がある。

Hotspots in the Arctic: Natural archives as an early warning system for global warming
Robert F. Spielhagen
北極周辺の予想を遥かに超えた近年の温暖化について。
※そのうち記事にまとめます。

2012年10月22日月曜日

新着論文(PALAEO3)

Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
Volumes 363–364, Pages 1-192 (20 November 2012)

Late Permian to Early Triassic environmental changes in the Panthalassic Ocean: Record from the seamount-associated deep-marine siliceous rocks, central Japan
Hiroyoshi Sano, Takuya Wada, Hiroshi Naraoka
中部日本の美濃帯のP/T境界に相当する頁岩層(パンサラッサ海の海山に堆積した遠洋堆積物と考えられている)のTOCと有機物の炭素同位体を測定。P/T境界を挟んでTOCが大きく増加し、表層における一次生産量の増加と海洋無酸素状態が示唆される。一方、δ13CorgはP/T境界の前に最も低い値を示し、シベリア洪水玄武岩起源のδ13Cの軽いガスが大気中に放出されたことを示唆している。P/T境界の海洋無酸素により放散虫は大量絶滅するが、テチス海やパンゲア大陸の沿岸部に比べて早く回復していたことが分かった。

Late Quaternary productivity changes from offshore Southeastern Australia: A biomarker approach
Raquel A. Lopes dos Santos, Daniel Wilkins, Patrick De Deckker, Stefan Schouten
オーストラリア南東部で得られた堆積物コアの浮遊性有孔虫(G. bulloides)のδ13C、TOC、珪藻・ハプト藻バイオマーカーを用いて過去140kaの海洋環境変動を復元。最終退氷期とMIS4/3移行期にδ13Cが大きく低下し、南大洋起源の水が到達していたことが示唆される。しかしTOCやアルケノンのフラックスから示唆される一次生産はLGMで最も高く、一方で珪藻が最も多かったのは最終間氷期とMIS3であった。これらは主に南半球の偏西風の強弱とケイ酸濃度によって支配されている?

Reconstruction of vertical temperature gradients in past oceans — Proxy data from the Hauterivian–early Barremian (Early Cretaceous) of the Boreal Realm
Jörg Mutterlose, Matthias Malkoc, Stefan Schouten, Jaap S. Sinninghe Damsté
ドイツとイギリスの泥岩層からTEX86を抽出し、白亜紀初期の水温を復元。安定して温暖な気候であったことが分かった(24-26℃)。このことは白亜紀の気候が極域でも亜熱帯的であったことと整合的である。また同層準のベレムナイトの殻の酸素同位体から求められる水温とは大きく食い違っており、これは塩分の変化かベレムナイトの生息水深の問題と考えられる。ベレムナイトが温度躍層よりも下に棲息していたとすると、水柱の温度差は4-5℃、温度躍層の下の塩分は38‰という計算になる。

The spatial (nearshore–offshore) distribution of latest Permian phytoplankton from the Yangtze Block, South China
Yong Lei, Thomas Servais, Qinglai Feng, Weihong He
PETMの温暖期を挟んで哺乳類の体長が小型化したことが知られている。コロラド州の地層から得られた今は絶滅してしまった哺乳類の化石(歯など)から、PETM後に南部に棲息していた小型の哺乳類が棲息範囲をより北へ広げていたことが分かった。温暖化すると生物がより北へ移動するというモデルと一致する結果が得られた。

2012年10月21日日曜日

湖の堆積物から大気の放射性炭素を復元することの意義

A Complete Terrestrial Radiocarbon Record for 11.2 to 52.8 kyr B.P.
11.2 - 52.8 kyrの間の完全な陸域の放射性炭素の記録

Christopher Bronk Ramsey, Richard A. Staff, Charlotte L. Bryant, Fiona Brock, Hiroyuki Kitagawa, Johannes van der Plicht, Gordon Schlolaut, Michael H. Marshall, Achim Brauer, Henry F. Lamb, Rebecca L. Payne, Pavel E. Tarasov, Tsuyoshi Haraguchi, Katsuya Gotanda, Hitoshi Yonenobu, Yusuke Yokoyama, Ryuji Tada, and Takeshi Nakagawa

Refining the Radiocarbon Time Scale
放射性炭素時間スケールの改訂

Paula J. Reimer
より。

放射性炭素年代を暦年代に較正するやり方については前回の記事(「INTCALのお話」)で簡単にご紹介したので、今回はScienceに投稿されたBronk Ramsey et al. (2012)の論文の重要性・意義に焦点を当てて解説したいと思います。

新着論文(EPSL, GPC, MG, QSR)

※論文アラートより

A deep Eastern Equatorial Pacific thermocline during the early Pliocene warm period    
Earth and Planetary Science Letters, Volumes 355–356, 15 November 2012, Pages 152-161 
Heather L. Ford, A. Christina Ravelo, Steven Hovan
Pliocene初期には東赤道太平洋の湧昇域の表層水温は現在よりも高かったことが知られている。しかしこの時の温度躍層の時空間変動はあまり良くわかっていない。50-100m深に生息するGloborotalia tumidaの殻のMg/Caから温度躍層の水温変動を復元。Pliocene初期には約4〜5℃ほど高く、温度躍層は深くなっていたらしい。4.8-4.0Ma頃に急激に温度低下するが、パナマ海峡による制限が関係していると考えられる。その後南東貿易風が強化され、現在のような温度躍層が形成されている。赤道湧昇帯の変動が全球の大気海洋循環に影響し、温暖なPlioceneから寒冷なPleistoceneへと変移したと考えられる。

Evolution of the El Nino-Southern Oscillation in the Late Holocene and Insolation Driven Change in the Tropical Annual SST Cycle
Global and Planetary Change, Available online 13 October 2012, Pages 
Paul Loubere, Winifred Creamer, Jonathan Haas
南米の湖の記録は過去3,000年間に東赤道太平洋におけるエルニーニョの発生頻度が上昇していることを示唆している。ペルー中部の遺跡から発掘された砂浜に生息する貝の化石(Mesodesma donacium)から、過去のSSTの季節変動を復元。4.5-2.5kaにかけてSSTの季節変動が現在よりも大きくなっており、ENSOが強化されていた可能性が示唆される。日射量変動が原因か?

Glacial to Holocene changes in the surface and deep waters of the northeast Indian Ocean
Marine Geology, Available online 10 October 2012, Pages 
Syed M. Ahmad, Hongbo Zheng, Waseem Raza, Bin Zhou, Mahjoor A. Lone, Tabish Raza, Gorti Suseela
インド洋北東部(ベンガル湾)で採取された堆積物コア中の浮遊性有孔虫(G. ruber)と底性有孔虫(Cibicidoides spp.)の殻のδ18Oとδ13Cから過去60kaの表層・深層水の状態を復元。浮遊性有孔虫のδ18O変動のスペクトル解析を行ったところ、北大西洋のシグナルが検出された。また氷期の底層水にはNADWの影響が低下し、代わりに南大洋起源のSODWの影響が増していたことが示唆される。深層水の(底性有孔虫殻の)δ13Cの大きな変化は有機物酸化の影響か深層水の年代の変化が原因と考えられる。

Simulating atmospheric CO2, 13C and the marine carbon cycle during the Last Glacial–Interglacial cycle: possible role for a deepening of the mean remineralization depth and an increase in the oceanic nutrient inventory
Quaternary Science Reviews, Volume 56, 21 November 2012, Pages 46-68 
L. Menviel, F. Joos, S.P. Ritz
EMICs(Bern3D)を用いて氷期-間氷期スケールの大気中CO2濃度の変動をシミュレーション。80-100ppmの変動の3分の1(30ppm)は「温度」「塩分」「AMOCの変動」「鉄肥沃」「陸域炭素リザーバーの変化」で説明ができる。海洋のリン酸の保存量が10%変化するだけで間氷期から氷期にかけて50ppmほどCO2濃度を低下させることが可能だが、逆に氷期から間氷期にかけては5ppmしか寄与しない。このメカニズムは氷期のexport productionやδ13CO2をうまく説明できる。有機物粒子が酸化分解される深度が深くなると深層水の[CO32-]が大きく増加、またexport productionが変化してしまい、間接指標とは符合しなくなる。氷期には堆積物との相互作用がpCO2の低下には重要だったと考えられる。

新着論文(Science#6105)

Science
VOL 338, ISSUE 6105, PAGES 293-428 (19 OCTOBER 2012)

Editors' Choice
When the Sun Erupts
太陽が爆発するとき
Nat. Phys. 10.1038/nphys2427; 10.1038/nphys2440 (2012).
コロナ質量放出(Coronal mass ejections; CMEs)は太陽大気から宇宙空間に向けて大規模なプラズマ塊が放出されるイベントのことを指す。人工衛星や地上の送電網、飛行中(特に極の上空)の人体にも影響を与えることが知られている。人工衛星が打ち上げられ、太陽の観測が始まった1970年代初頭以降40年が経過したものの、その物理的なメカニズムの理解は不足している。2008年11月2日に観測されたCMEsをコンピューターシミュレーションによって再現(太陽内部から大気まで)し、そのメカニズムを考察したところ、2つのこく増はまるで固体同士がぶつかるように衝突する様が確認された。

Wild Textile
野生の布地
Sci. Rep. 2, 664 (2012).
人類が布を使用し始めたのははるか氷期まで遡るが、亜麻や麻、羊毛などの栽培・飼育が始まったのは農業が始まってからと考えられている。Denmarkから発見された2,800年前の布地には’イラクサ’が広く使われていたらしい。ストロンチウム同位体分析から、それがヨーロッパ中部からデンマークへともたらされたらしいことも分かっている。当時のヨーロッパ中部では亜麻が盛んに栽培されており、このことは亜麻や麻が栽培され出してからも野生の草を使った繊維が広く用いられていたことを指している。

News of the Week
Advisory Panel Defends GM Research
顧問のパネルが遺伝子組み換え研究を守る
10/9にインドの科学顧問から出された報告書においては、遺伝子組み換え食品の使用に前向きな姿勢が見られる。一方でインド議会はこれまで遺伝子組み換え食品に対して後ろ向きな姿勢を見せていた。インド国内においては意見が大きく分かれている状態にある。科学顧問から出された報告書の中では科学庁からは独立した組織を創設して遺伝子組み換え食品を監視する必要があると要請している。

The View From Beneath
下からの眺め
高緯度域の海氷の範囲は人工衛星を用いて観測されているものの、上空からは氷の厚さを見積もることはできない。東南極の南大洋において、通常海底のマッピングに用いているマルチビーム・ソナーを上向きに搭載した自律式潜水艇(AUV)を用いて、南大洋に浮かぶ氷の下からの起伏のマッピングが行われた。Australian Antarctic DivisionとAntarctic Climate and Ecosystems Cooperative Research Centreによる国際プロジェクトの一環として行われたらしい。

Climate Change a Priority For World Bank
世界銀行の優先事項、気候変動
初めて科学者から世界銀行の頭首になったJim Yong Kimは世界銀行の最優先事項は気候変動に対する対策だと主張している。彼はもともとは途上国の公衆衛生を扱う専門家であった。「各企業と各国が新たな技術開発により気候変動を緩和し、それによって経済的に成長することが必要だ」と述べている。

Ancient Canals Transported Building Blocks to Angkor Wat
建材をアンコールワットに運んでいた古代の運河
アンコールワットの建築材は近くの聖なる山から切り出されたものでできていることが知られていたが、時には1,500kgを超えるような大きな・大量の石をどのように運んだのかについては知られていなかった。Google Earthを用いた観察と現地調査から、どうやら37kmの道のりを運河を使って資材を運んでいたらしいことが分かった。

Perspectives
Galactic Archaeology
銀河の考古学
Rok Roškar and Victor P. Debattista
星の密度と理論的な洞察を組み合わせることで、渦巻き銀河の進化をよりよく理解することができるだろう。

Life in the Early Triassic Ocean
三畳紀初期の海の生命
David J. Bottjer
来る100年間は地球は温暖化し、さらに海洋は酸性化や貧酸素の状態も同時に起きることが予想されている。PETMが温暖化した世界のアナログになるとして盛んに研究がなされているが、それでも温暖化の速度や規模、その厳しさは足りないと考える科学者もおり、顕世代史上最大の大量絶滅が起きたP/T境界の温暖期にも注目が集まっている。それはおよそ2億5千万年前に相当し、シベリアの洪水玄武岩が地下の石炭や有機物に富んだ堆積物を燃焼させ、発生したCO2による温室効果によって地表温度は極めて高かったと考えられている。熱帯地域での表層水温は約40℃で、それによって生じた海洋無酸素、緑色硫黄バクテリアによる硫化水素生成による毒によって回復におよそ1億年を要するほどの大量絶滅が起きたと想像されている。海洋酸性化、貧酸素、浅海域の硫黄濃度上昇は短い時間スケールで、温暖化はより長い時間スケールで生物に対して致命傷を与えたと考えられる(特にサンゴなど)。当時の大陸は集合していて超大陸パンゲアを形成しており、また炭酸塩骨格を持つプランクトンも登場していなかったため、海洋のアルカリ度や堆積物によるバッファーもうまく効かなかったと考えられる。そのため現在とは全く異なるセッティングで温暖化が進行したことも指摘されている。しかし炭素循環や生物の大量絶滅、温暖化に対する知見を深めてくれることが期待されている。

Refining the Radiocarbon Time Scale
放射性炭素時間スケールの改訂
Paula J. Reimer
日本の水月湖から得られた高時間解像度の堆積物記録を用いて、12.6 - 50kaの間の放射性炭素年代-暦年代の確度が飛躍的に向上する。
>近いうちに解説記事書きます。

Unconventional Chemistry for Unconventional Natural Gas
非従来型の天然ガスに対する非従来法の化学
Eric McFarland
将来経済社会は燃料や化学合成製品を生成するのに従来の石油から天然ガスへと転換するため、新たな化学プロセスが必要とされている。

Reports
Jet-Launching Structure Resolved Near the Supermassive Black Hole in M87
M87の超巨大ブラックホール近傍から判明したジェット噴射構造
Sheperd S. Doeleman

Lethally Hot Temperatures During the Early Triassic Greenhouse
三畳紀初期の温室効果による致命的に高かった温度
Yadong Sun, Michael M. Joachimski, Paul B. Wignall, Chunbo Yan, Yanlong Chen, Haishui Jiang, Lina Wang, and Xulong Lai
過去に起きた生物の危機には温暖化が非常に重要な位置を占めていた。コノドントのd18O分析と海成炭酸塩岩のd13C分析などから、ペルム紀後期の大量絶滅(P/T境界)は急激な温暖化を伴っており、三畳紀の初期においては特に熱帯域の温暖化が激しかったことが分かった。石灰藻類は絶滅し、テチス海の赤道付近は魚類がほとんど姿を消し、代わりに小型の無脊椎動物が卓越した。温暖化が熱帯から動植物の姿を消させたと考えられ、Smithianの終わりの危機の主要因であったと考えられる。

A Complete Terrestrial Radiocarbon Record for 11.2 to 52.8 kyr B.P.
11.2 - 52.8 kyrの間の完全な陸域の放射性炭素の記録
Christopher Bronk Ramsey, Richard A. Staff, Charlotte L. Bryant, Fiona Brock, Hiroyuki Kitagawa, Johannes van der Plicht, Gordon Schlolaut, Michael H. Marshall, Achim Brauer, Henry F. Lamb, Rebecca L. Payne, Pavel E. Tarasov, Tsuyoshi Haraguchi, Katsuya Gotanda, Hitoshi Yonenobu, Yusuke Yokoyama, Ryuji Tada, and Takeshi Nakagawa
放射性炭素は過去5万年間の地質学試料・考古学試料などに年代を与えるだけでなく、炭素循環におけるトレーサーとしても重要である。しかしながら12.5kaよりも前の大気の14Cを反映する記録はこれまで不足しており、氷期に相当する試料の高精度の年代測定は限られていた。日本の水月湖から得られた年縞堆積物を用いて過去52.8kaから11.2kaの大気の14Cを高精度に復元。これによって放射性炭素年代の測定限界までの総括的な記録が完成することになる。水月湖から得られた時間スケールを用いることで他の陸上の古環境記録との直接対比も可能になり、さらに大気-海洋の海洋の放射性炭素に関する関係性(海洋のローカルなリザーバー年代など)を求めることが可能になる。
>近いうちに解説記事書きます。

Genomic Variation in Seven Khoe-San Groups Reveals Adaptation and Complex African History
7つのKho-Sanグループの遺伝的多様性が適応やアフリカの複雑な歴史を明らかにする
Carina M. Schlebusch, Pontus Skoglund, Per Sjödin, Lucie M. Gattepaille, Dena Hernandez, Flora Jay, Sen Li, Michael De Jongh, Andrew Singleton, Michael G. B. Blum, Himla Soodyall, and Mattias Jakobsson

2012年10月18日木曜日

新着論文(Nature#7420)

Nature
Volume 490 Number 7420 pp309-440 (18 October 2012)

EDITORIALS
特になし

WORLD VIEW
特になし

RESEARCH HIGHLIGHTS
Signs of asteroid magnetic field
小惑星の磁場の徴候
Science 338, 238–241 (2012)
太陽系で2番目に大きい小惑星であるVestaはかつてコアに回転する金属流体があり、ダイナモによって発生した磁場が表面の岩石に記録された可能性がある。Vestaから来たと考えられている隕石(Allan Hills A81001)の分析から、その磁場は3.69Gaに形成されたものと推定されている。他の小さな分化した天体にもダイナモがある可能性がある。

Tool use takes more than brains
道具の使用は脳以上のものを要求する
Nature Commun. http://dx.doi.org/10.1038/ ncomms2111 (2012)
ニューカレドニアカラス(New Caledonian crow; Corvus moneduloides)は枝などからできた道具を使って小さな穴や割れ目から獲物を搔き出すことができる。道具を使わない他のカラスと嘴や視野を比較してみると、ニューカレドニアカラスは視野が狭い部分を見るのに適しているために道具のコントロールが上手く、さらに真っ直ぐな嘴の形状も道具のコントロールに向いているという。高い知能というよりも寧ろ物理的に道具の使用に向いた適応をした結果と考えられる。

Remains of the moa
モアの残骸
Quaternary Sci. Rev. 52, 41–48 (2012)
モアは1300年代にニュージーランドに移住してきた人類のせいで絶滅した。ニュージーランドの遺跡から出てきたモアの骨と卵の殻のDNA分析から、当時の人類がモア本体だけでなく卵も同様に狩っていたことが絶滅速度を早めていたことが分かった。特にオスのモアの遺骸が多く、オスが卵を温めていたことが原因の一つと考えられる。さらに人間の遺体と共にモアの遺骸が産出することから、当時の人類がモアを価値のあるものとして扱っていたものと推測される。

Humble arthropod beginnings
謙遜した節足動物の始まり
Proc. R. Soc. B. http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1958 (2012)
クモや昆虫、カニなどを含む節足動物の外骨格はもともとは泳ぐために発達したものであるらしい。カナダのバージェス頁岩から発見されたNereocaris exilisは節足動物の中でも特に原始的な種であるが、頭には二枚に分かれた甲羅を持ち、胴は長く固い外骨格で覆われていた。それらは歩くには適しておらず、泳ぐためのものであったらしい。また現在と違い、節足動物はおもに補食される側であったことが解剖学的に示唆されている。

La Niña made the oceans fall
ラニーニャが海を低くした
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1029/2012GL053055 (2012)
2010年3月から2011年5月にかけて生じたラニーニャによって、赤道東太平洋に冷たい水が湧昇し、陸上の降水量が上昇し、結果的に海水面は5mm低下していたらしい。ここ18年間海水準は年間3mmの割合で上昇しつつあるが、2010年のラニーニャの始まりにはどういうわけか海水準が低下していた。主にオーストラリアと南米北部、東南アジアの陸の淡水リザーバーが増加していたことが原因と考えられる。2010-2011のラニーニャはここ80年間では最大規模のものであったが、2012年の初めには海水準はもとのレベルに戻ったという。

SEVEN DAYS
ORCID launch
ORCIDの開始
ORCID(Open Researcher and Contributor ID)は世界各国の研究者に識別IDを与えることで、大学や研究費助成機関が研究者の出版物などを管理しやすくする。www.orcid.orgで自らの出版リストなどの情報を登録することができる。

Supersonic skydive
超音速のスカイダイビング
オーストラリア人スカイダイバーのFelix Baumgartnerはニューメキシコにおいて地上39kmの高さからのスカイダイビングを実行し、世界記録を打ち立てた。落下スピードは音速を超えたという。このデータは高地用のパラシュートや宇宙船の脱出システムの開発に役立てられるという。

Nuclear failings
核の失敗
福島第一原発のメルトダウンから19ヶ月経って、東京電力は津波などの災害に対する安全基準をより検討すべきだったと認めた。

TREND WATCH
ANTARCTIC OZONE RECOVERING
回復しつつある南極のオゾン
南極では春に最もオゾン濃度が低下し、オゾンホールが広がるが、それらは近年改善に向かいつつある。25年前に締結されたモントリオール議定書はオゾン破壊につながる塩素や臭素などの化学物質の大気中の濃度の削減に寄与したようだ。しかしNASAのPaul Newmanは2065年までは塩素と臭素の濃度は1980年のレベルまでは戻らないだろうと試算している。

NEWS IN FOCUS
Politics holds back animal engineers
政治は動物工学に尻込みする
Amy Maxmen

Stem-cell fraud hits febrile field
幹細胞詐欺が白熱した分野に痛手を与える
David Cyranoski

The exoplanet next door
お隣の系外惑星
Eric Hand

Antarctic seas in the balance
バランスしている南極の海
Daniel Cressey

COMMENT
特になし

CORRESPONDENCE
Citizens add to satellite forest maps
市民が衛星の森林マップに地図を追加する
Marijn van der Velde, Linda See & Steffen Fritz

Rural factories won't fix Chinese pollution
田舎の工場は中国の汚染を改善しようとしない
Hong Yang, Roger J. Flower & Julian R. Thompson

Clean stoves benefit climate and health
クリーンなストーブは気候と健康に良い
Susan Anenberg
現在30億人もの人間が原始的なストーブを使って石炭やふん、木などを燃やしており、それによって発生するブラックカーボンが全球の20%を占めている。さらには煙の吸入によって毎年200万人が命を落としている。そのためストーブの改良が気候変動緩和と人々の健康の改善に大きく寄与すると考えられる。従来のストーブからはブラックカーボン・ブラウンカーボンだけでなく、気候変動に寄与する二酸化炭素・メタンなどの気体も発生するが、最新のストーブは燃焼効率もはるかに高く、発生する有害物質も少なくて済む。液化天然ガスやエタノールなどの’綺麗な’燃料を使うことでさらに改善する。Global Alliance for Clean CookstovesClimate and Clean Air Coalition to Reduce Short-lived Climate Pollutantsなどがその改善に尽力している。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Galvanized lunacy
亜鉛メッキされた月
Tim Elliott
 月は非常に乾燥し、表面にはマグマ由来の火山岩が覆っている。月の石の亜鉛の同位体は地球のそれに比べて非常に重い値を持つ。また亜鉛は揮発性物質でもある(天文学的には1,000℃という比較的低温で気化する物質は揮発性らしい)が、各惑星間で含有量が大きく異なることも知られている。しかしそのような多様性を生む原因についてはよく分かっていなかった。
 Paniello et al.はアポロ計画の際に得られた月のサンプルの亜鉛の’同位体’分析を行った。亜鉛は高温のマグマ状態では揮発してしまうため、冷えて固まった後の岩石から月の内部全体の組成を推定するには難しいため、含有量ではなく同位体に着目している。同位体はマグマの過程において同位体分別を起こすが、その後の過程では保存されると考えられるからである。その証拠に、月のあらゆるサンプルを分析しても同様の同位体比が得られたという。その値は地球や火星とは同位体的には’大きく’異なっていた。解釈としては、ジャイアント・インパクトでメルトとガスが形成され、主にメルトから月が形成された際に、軽い同位体をもつガスが宇宙空間に散逸し、重い同位体を持つメルトが選択的に月として集積した可能性である。この可能性は20年も前から提唱されていたものの、カリウム同位体の高精度の分析などでも実証されていなかった。従来の月形成モデルでは月と地球を構成する元素の同位体比はほとんど均質と見なしていたが、今回の発見によってその見直しが必要となるだろう。

The big picture of marsh loss
湿地帯の消失の全体像
Steven C. Pennings
広い土地のスケールの研究から過度な栄養は塩水沼地の消失を招くことが分かった。これは小さなスケールの研究では示されていなかった。生態系の研究ではより大きな・より長期の研究の価値が大きいことを意味している。

ARTICLES
特になし

LETTERS
Zinc isotopic evidence for the origin of the Moon
月の起源に対する亜鉛同位体の証拠
Randal C. Paniello, James M. D. Day & Frédéric Moynier
月の火山岩の亜鉛同位体は重い元素に富んでおり、地球や火星のものに比べると濃度が低い。そうした多様性は、小さなスケールの火山活動などによって生じた結果ではなく、月が形成されるきっかけとなったジャイアント・インパクトの際に亜鉛が大規模に揮発した結果と考えられる。

Coastal eutrophication as a driver of salt marsh loss
塩水湿地の消失を招く沿岸の富栄養化
Linda A. Deegan, David Samuel Johnson, R. Scott Warren, Bruce J. Peterson, John W. Fleeger, Sergio Fagherazzi & Wilfred M. Wollheim
現在世界中の沿岸生態系で問題となっている、富栄養状態は塩水沼地の消失へとつながることが9年間にわたる生態系全体を考慮した野外実験から明らかになった。

Delayed build-up of Arctic ice sheets during 400,000-year minima in insolation variability
日射量変動の40万年に一度の最小値が訪れる際の北極の氷床の形成の遅れ
Qingzhen Hao, Luo Wang, Frank Oldfield, Shuzhen Peng, Li Qin, Yang Song, Bing Xu, Yansong Qiao, Jan Bloemendal & Zhengtang Guo
 過去の間氷期における北半球高緯度域の気候変動を明らかにすることは将来の気候変動を考える上でも重要である。しかしそうした記録は氷床コアを除くと限られており、そうした中、アイスコア記録(~800ka)よりも古い時代の高緯度域の記録は中国のレス平原の風成塵に記録されている。というのも、風成塵は高緯度のシベリア高気圧がもととなって吹く、冬期アジアモンスーンの影響を大きく受けるからである。
 中国のレス平原に平行して存在する2つの地点(Yimaguan、Luochuan)から得られた古土壌中の粒度から過去900kaの冬期アジアモンスーンの強度を復元。400kaに一度訪れる離心率が大きく低下する間氷期においては、従来考えられてきたよりも冬期アジアモンスーンは弱かった可能性?原因としては高緯度域に氷や雪が夏にあまり融けずに残っており、結果的にシベリア高気圧(とそれによる風)が弱まっていたことが考えられる。

2012年10月17日水曜日

新着論文(Ngeo#Oct 2012)

Nature Geoscience
October 2012, Volume 5 No 10 pp675-754

Focus: Rivers

Editorial
Focus: Rivers
Rivers in transition
変化する川
 川は地球上のほとんどすべての陸地を流れる。川は物質の輸送として重要であるだけでなく、大気とも物質のやり取りをしている。さらには、川の流れが炭素循環に与える影響を明らかにすることが気候システムの完全な理解には必要である。河川に入った有機物は必ずしも海にすべてが堆積するわけではなく(炭素のシンク)、例えばアメリカの例では毎年97TgCもの炭素が大気へと放出されている。特に小さな小川や流れが特に大きな炭素の放出源であることが近年指摘され始め、そうした小さいものほど評価がなされていないことが多い。また河川は炭素以外の物質輸送も担っているが、例えば人間活動の結果である肥料や汚水、工業廃水なども河川を通じて輸送され、それらは温室効果ガスの一つである一酸化二窒素(N2O)の潜在的な放出源となる。
 河川が生物地球化学循環に与える影響はまだよく分かっていないだけでなく、今後数十年間で変化し続けると考えられる。気候変動や人口増加、水資源への圧力の増加などがすべて寄与すると考えられる。

Correspondence
特になし

Commentary
Focus: Rivers
An expanded role for river networks
河川ネットワークの拡大した役割
Jonathan P. Benstead & David S. Leigh
小川と河川の地球化学的な役割の推定は荒い解像度の観測記録に基づいている。最も小さく・最も大きく変化している小川が従来考えられていた以上に全球の生物地球化学循環において大きな役割を持っていることが分かった。

In the press
The state of the seas
海の状態
Mark Schrope
現在の海の状態はひどく悪い状態ではないが、誇れるほどでもない」これが研究者や環境保護論者が作った海の健康度(Ocean Health Index)の出した結論である。これは様々な沿岸国に対する10にわたる項目の評価が元になっている。評価対象は観光やレクリエーションから生物多様性、炭素貯蔵能力など多岐にわたる。全世界の平均点は100点満点の60点で、70点を超える国家は稀であった。その中で人類も海洋の生態系の一部とされ、人類が海洋に与える影響や逆に人類が海洋から被っている恩恵を評価する手段が模索された。研究チームの望みは研究と保護の長期的な目標設定として海の健康度が利用されることと、限られた資源の分配を管理する助けとなることである。

Research Highlights
Onshore shake-up
陸の振動
Geology 40, 887–890 (2012)
津波堆積物は従来砂浜や海岸の堆積物で構成されると考えられてきたが、東北沖津波の場合は岸から離れた陸の砂や土壌によって構成されていることが分かった。特に仙台平野は水田が多いため、水田の下の砂が地震により液状化し、その後の津波によって内陸部へと流された可能性が高いとされている。

Circulation shrinkage
循環の縮小
Clim. Past 8, 1323–1337 (2012)
白亜紀中期の超・温室効果時代として知られる125Maから90Maにかけては、熱帯・亜熱帯の大気循環はそれ以前の寒冷な時代に比べて大きく変化していた可能性が白亜紀の砂漠の分布から示唆される。アジアに広がる白亜紀時代の砂漠の分布と風向の履歴から、ハドレー循環セルが現在よりも3~6ºほど緯度方向に膨張していたことが分かった。しかし、白亜紀の中期の極端に暑い時代には逆に5ºほど縮小していたことが分かった。そのことは同時代に比較的低緯度でも乾燥していたことと整合的である。現在、ハドレー循環セルは大気中のCO2濃度の上昇とともに拡大しつつあるが、筆者らはハドレー循環セルが縮小に転じる気候的な閾値がある可能性について指摘している。

Mars bedevilled
悪魔に取り憑かれた火星
Icarus http://doi.org/jc6 (2012)
ダストデビルは火星と地球の乾燥地域で見られる塵旋風であるが、アメリカ南西部におけるおよそ100個のダストデビルの観察から、ダストデビルが地域的な風と同じ向き、ほぼ同じ速度で進行していることが分かった。火星の地表にはダストデビルの通過した跡が衛星画像上で残されており、この知見を使えば、逆に火星の風を復元できる可能性がある。

Arctic nitrogen fix
北極の窒素固定
Glob. Biogeochem. Cycles 26, GB3022 (2012)
海洋のバクテリアは全球の海水に生物が利用可能な形の窒素をかなりの量供給しているが、その多くは熱帯や亜熱帯、温帯域に棲息していると考えられてきた。しかし北極海のBeaufort海においても窒素固定をしているバクテリア・コミュニティーが見つかった。北極圏カナダの様々な地域の調査から、特に淡水流入の多いMackenzie川の河口で最も大きな窒素固定が起きていることが分かった。さらに従属栄養バクテリアが窒素固定を担っていることが分かった。

News and Views
Uninhabitable martian clays?
生命が住めない火星の粘土?
Brian Hynek
火星の粘土鉱物の存在は暖かく・湿潤な気候があったことの指標と考えられてきた。しかし新たな仮説では短期間のマグマの脱ガスによって粘土鉱物が形成された可能性を提唱している。そうした状況下では生命痕跡が見つかる可能性はほとんどなくなる。

Focus: Rivers
Riverine carbon unravelled
ベールを解かれた河川の炭素
Anna Armstrong
河川が輸送する炭素のほとんどは陸上の植生や土壌が起源であるが、一部は炭酸塩岩の浸食によってももたらされている。しかしそれらの相互作用についてはよく分かっておらず、河川の炭素のソースを明らかにすることは難しい。比較的若い有機物プールはバイオマーカーを利用することで検出することが容易だが、一方で古い有機物プールは化学的に多様であり扱いにくい。
 ガンジス川に流れ込むNarayani川の懸濁粒子を集め、それを1,000℃まで熱することで燃焼させ、発生したCO2の放射性炭素を測定することで、非常に若い炭素から30,000年という古い炭素も含まれていることが分かった。Gaussian decomposition modelでこれらの炭素プールの起源の分布を調べたところ、堆積物中の(pedrogenic)炭素は懸濁粒子の0.067 - 0.17%であることが2回の調査から分かった。比較的ゆっくり流れるMississippi–Atchafalaya水系と比較すると、Narayani川の懸濁粒子の放射性炭素年代の分布の方が広がりが大きい(植物〜土壌〜炭酸塩)ことが分かった。Narayani川の全球の炭素循環における寄与は小さいものの、河川によって運ばれる炭素の起源は小さな河川ごとにも大きく異なる可能性があることが示された。

Emissions versus climate change
放出 v.s. 気候変動
Christian Hogrefe
汚染物質の放出量の低下によって起きると予想される、空気の質の改善を気候変動は相殺すると思われる。北米における総括的な分析から、来る数十年間は空気はより綺麗になるだろうことが示された。

A volcano's sharp intake of breath
火山の早い息の吸い込み
Andrew Hooper
規則的に噴火する浅部のマグマは一度噴火するとその後は安定して成長すると考えられてきた。しかしながらギリシャのサントリーニ島のマグマは休火山化から半世紀経ってから急激なマグマの蓄積を見せている。

Focus: Rivers
Tectonically twisted rivers
テクトニックに曲げられた川
Eric Kirby
アルプス南部、ニュージーランドの集水域の進化の数値モデリングによると、河川は地質学的な時間スケールではテクトニックなマーカーとして振る舞う可能性が示唆される。

Tropical extremes
熱帯の極端な気象
Geert Lenderink
気候モデルを用いた将来の熱帯域の極端な降水減少の予測は非常に不確かである。極端な降水の1年ごとの観測記録によると、1℃の温暖化ごとに6-14%ずつ’増える’ことが示唆される。

Progress Article
An update on Earth's energy balance in light of the latest global observations
最近の全球の観測に基づいた地球のエネルギーバランスに対するアップデート
Graeme L. Stephens, Juilin Li, Martin Wild, Carol Anne Clayson, Norman Loeb, Seiji Kato, Tristan L'Ecuyer, Paul W. Stackhouse Jr, Matthew Lebsock & Timothy Andrews
 気候変動は全球のエネルギーバランスの変化によって支配される。大気上層のエネルギー収支は人工衛星によってモニタリングされ、よく分かっているが、地上のエネルギー収支については観測されている地域が限られており、結果的に大気内部と地表のエネルギー収支についてはよく分かっていない。その結果、地球の気候が温室効果ガスの増加に対してどのように応答するかの理解に対して大きな障壁となっている。
 最近の人工衛星・地上観測記録を総合すると、地表のエネルギー収支は見直す必要がある。従来考えられていたよりも地表はより長い波長を受け取っており(10 - 17 W/m2ほど大きい)、蒸発熱によって生まれる潜熱フラックスにより多くの降水が起きている。

Letters
Sensitivity of tropical precipitation extremes to climate change
気候変動に対する熱帯の極端な降水現象の感度
Paul A. O’Gorman
地球温暖化によって世界中で極端な降水現象が増加することがシミュレーションで予想されているが、必ずしもモデルごとに一致しない。モデルの予測する経年変化の結果と気候変動との密接な関係と、観測による制約から、温暖化に対して熱帯の極端な降水現象が高い感度を持っていることが示唆される。

Modelled suppression of boundary-layer clouds by plants in a CO2-rich atmosphere
CO2に富んだ大気においては植物によって境界層の雲が抑制されることがモデルによって示された
Jordi Vilà-Guerau de Arellano, Chiel C. van Heerwaarden & Jos Lelieveld
境界層の雲は地表付近の気候を調整し、水-炭素循環と相互作用する。生物・物理循環モデルから、中緯度域において、大気中のCO2濃度上昇が植物の気孔を閉じさせ、境界層の雲の形成に必要な水蒸気の放出を抑えることが示唆される。このことは生物的な側面と物理的な側面とが気候システムにおいていかに絡み合っているかを物語っている。

Elevation-dependent influence of snow accumulation on forest greening
雪の蓄積が森の緑化に与える、高度に依存する影響
Ernesto Trujillo, Noah P. Molotch, Michael L. Goulden, Anne E. Kelly & Roger C. Bales
ここ半世紀においては気温の上昇と水の利用可能量の減少が山の森林の生産性に影響してきた。25年間に渡る分析と人工衛星観測から、中程度の高度の森の緑化の程度は雪の蓄積によって強くコントロールされていることが示唆される。

Focus: Rivers
Biogeochemically diverse organic matter in Alpine glaciers and its downstream fate
生物地球化学的に多様なアルプスの氷河の有機物とその下流における運命
Gabriel A. Singer, Christina Fasching, Linda Wilhelm, Jutta Niggemann, Peter Steier, Thorsten Dittmar & Tom J. Battin
氷河は有機炭素を蓄積し、変質させ、それが放出されることで下流の微生物活動を支えていると考えられる。ヨーロッパアルプスの26ヵ所の氷河における分析から、氷河から出てくる有機物のうちのかなりの量が微生物にとって消費することのできるものであることが示された。

Focus: Rivers
Dependence of riverine nitrous oxide emissions on dissolved oxygen levels
河川の一酸化二窒素の溶存酸素レベルに対する依存性
Madeline S. Rosamond, Simon J. Thuss & Sherry L. Schiff
 一酸化二窒素(N2O)は成層圏のオゾンを破壊し、強力な温室効果ガスでもある。農業起源のN2Oの放出は、溶出や汚水の河川への流入の結果、その17%が河川水から生じている。IPCCでは全球のN2Oの排出量は溶存体の無機窒素量に比例して増加することを推定しているが、データは不足しておりで不一致も見られる。
 カナダのGrand川から放出されるN2Oを2年間にわたって測定したところ、都市部の夏の夜に最も大きなN2O放出が確認された。N2Oの排出量と硝酸・溶存無機窒素との間に有為な相関は認められなかった。逆に溶存酸素との間に負の相関が認められた
 そのため将来の河川への硝酸流出量の増加は必ずしもN2O放出に寄与しないと考えられる。それよりも寧ろ、広い地域で貧酸素状態が起きることでN2Oがより多く放出される可能性が高いことが示唆される。

Significant contribution to climate warming from the permafrost carbon feedback
永久凍土の炭素フィードバックによる気候の温暖化への相当な寄与
Andrew H. MacDougall, Christopher A. Avis & Andrew J. Weaver
 永久凍土には現在の大気の炭素量の約2倍もの炭素が存在する(1,700PgC)。温暖化とともにこれらの永久凍土が融解し、土壌から炭素が大気へと放出される正のフィードバックが存在する可能性が提唱されている。
 気候モデルによるシミュレーションから、永久凍土から2100年までに68 - 580 PgCの炭素が放出され、それによって起きるフィードバック過程によって、2300年までにさらに0.13 - 1.69 ℃温暖化する可能性が示唆される(ただし、人間活動による今後のCO2放出については考慮していない)。人為起源の排出があまり多く起こらないシナリオに基づいた場合でも大きな温室効果が起きることが考えられる。

Contributions to late Archaean sulphur cycling by life on land
始生代後期の硫黄循環に対する陸の生命の寄与
Eva E. Stüeken, David C. Catling & Roger Buick
生命は少なくとも27億年前には陸上に存在したが、陸上の生命圏が生物地球化学循環に与えた影響についてはほとんど制約できていない。海洋の硫黄のデータと地球化学モデリングから、少なくとも25億年間は微生物源の硫化鉄の風化によって、かなりの量の硫黄が海へと輸送されていたことが示唆される。

Articles
Magmatic precipitation as a possible origin of Noachian clays on Mars
火星のNoachianの粘土の起源の’マグマ性の沈殿’という可能性
Alain Meunier, Sabine Petit, Bethany L. Ehlmann, Patrick Dudoignon, Frances Westall, Antoine Mas, Abderrazak El Albani & Eric Ferrage
古代の火星の地殻から検出された含水粘土鉱物が温暖で湿潤だった初期の火星の風化によって作られたと考えられてきた。しかし、地球の粘土鉱物と火星の粘土鉱物の比較から、Noachian(4.1 - 3.7 Ga)の粘土鉱物はマグマ流体からの沈殿によっても形成される可能性があることが示された。

Focus: Rivers
River drainage patterns in the New Zealand Alps primarily controlled by plate tectonic strain
プレートテクトニクス的な張力によって主としてコントロールされているニュージーランド・アルプスの河川流域のパターン
Sébastien Castelltort, Liran Goren, Sean D. Willett, Jean-Daniel Champagnac, Frédéric Herman & Jean Braun
樹枝状の河川流域パターンが長期間持続することは河川がテクトニックな擾乱を受けて改変された後、テクトニックなイベントを長期間経験することなくその状態を維持してきたことを暗示している。しかしながら、ニュージーランド南部のアルプスの流域パターンの進化に対する数値シミュレーションから、テクトニックな改変にも耐え、1,000万年間以上プレートテクトニクス的な張力を保存し続けている河川があることが分かった。

Evolution of Santorini Volcano dominated by episodic and rapid fluxes of melt from depth
間欠的で急激な深部からのメルトのフラックスによって支配されるSantorini火山の進化
Michelle M. Parks, Juliet Biggs, Philip England, Tamsin A. Mather, Paraskevi Nomikou, Kirill Palamartchouk, Xanthos Papanikolaou, Demitris Paradissis, Barry Parsons, David M. Pyle, Costas Raptakis & Vangelis Zacharis
ギリシャのSantorini火山は連続的に少量のマグマが注入されていると考えられてきた。しかし、地表の変形の測定から、前回の噴火によって放出されたマグマの10 - 50%に相当する大量のマグマが、2011年1月以来Santorini火山の地下に注入されてきたことが明らかになった。このことはこの火山は急激で間欠的なメルトのフラックスによって満たされていることを示唆している。

2012年10月15日月曜日

iPhone・iPad搭載辞書の問題点

タイトルでは大きなことを言っていますが、ものすごくシンプルな内容ですw


2012年10月13日土曜日

新着論文(Science#6104)

Science
VOL 338, ISSUE 6104, PAGES 161-292 (12 OCTOBER 2012)
Editors' Choice
Don’t Touch My Cache
私の隠しものに触らないで
Ecol. Lett. 15, 10.1111/ele.12000 (2012).
植物にとっては動物に種を輸送してもらうことは死活問題であるが、時には同種の種が同じ場所に集結してしまうこともある。或いは種がすべて食べ尽くされてしまうこともある。パナマのBarro Colorado島において放射性物質で標識を付けたヤシの実を1年間ばらまき、その後の分布について調べたところ、オオテンジクネズミ(Central American agouti)が同種の植物密度が低いところに種を移動させていることが分かった。この行動はおそらくネズミが他のネズミに見つからないように種を隠す行動がもとになっており、結果的に種を長距離に輸送し、食べ忘れたものが発芽・成長することで植物の繁栄に寄与しているものと思われる。

Hitching a Ride into the Mantle
マントルへヒッチハイクする
Geophys. Res. Lett. 39, L17301 (2012).
※省略

News of the Week
※省略

News & Analysis
Oh, Baby: Fight Brews Over U.S. Import of Beluga Whales
オー、ベイビー:ベルーガイルカを空輸することに対するアメリカにおける戦いが静まる
Emily Underwood
オホーツク海で捕獲された18匹の野生ベルーガイルカをアメリカのジョージア水族館が飼育と展示用に輸入することを求めていて、それが大きな議論を呼んでいたが、10/12に公式に公聴会が開かれる予定となっている。

New Arctic Research Vessel Ready to Make a Splash
新しい北極研究船がしぶきを上げる準備をしている
Carolyn Gramling
北極研究者はもう間もなく新たな研究船:Sikuliaq(NSFの所持する全長約80m、造船費2億ドル)を手に入れ、ベーリング海や北極点へ向けて出発する予定。

News Focus
Aftershocks in the Courtroom
裁判質の余震
Edwin Cartlidge
イタリアの裁判でもうまもなく、2009年に起きたL'Aquilaの巨大地震で30人が亡くなったのは7人の専門家が地震を過小評価したことが原因かどうかについて判決を言い渡すだろう。

Turning Back the Clock: Slowing the Pace of Prehistory
時間を戻す:先史時代のペースを遅らせる
Ann Gibbons
新たな研究は人間における突然変異は従来考えていたよりもゆっくりと起きていた可能性を示唆している。進化学的なイベントのタイムテーブルについて疑問が投げかけられている。

Letters
Baits, Budget Cuts: A Deadly Mix
毒餌、予算削減:致命的な組み合わせ
Antoni Margalida
毒餌がヨーロッパの脊椎動物の多くの死を招いており、絶滅にも一部寄与していると考えられる。特にスペインは多くのよりの帰巣地になっており、ここ20年間でも多くの報告例がある。95%以上の腐肉食鳥類とすべてのスペインコウテイワシ(Spanish imperial eagle)の帰巣地はスペインである。ヨーロッパにおける毒の生物多様性に与える影響は計り知れないものとなっている。しかしながらスペイン政府は研究への資金援助を昨年比で31%削減し、問題はさらに悪化している。

Saving Vietnam's Wildlife Through Social Media
ソーシャルメディアを通じてベトナムの野生動物を守る
L. T. P. Nghiem, E. L. Webb, and L. R. Carrasco
ベトナムでは2010年だけで59種もの新種が発見されるなど、生物多様性のホットスポットの一つで、世界的に注目が集まっている。しかし動物(サイの角、象、トラ製品など)の密輸の温床ともなっている。一般人の密輸問題に対する意識も低いのが実情であるが、そのような中ソーシャルメディアを用いることで保護運動のきっかけとなるかもしれない。例えば7月にFacebookに上げられた、ベトナムの兵士が妊娠したドゥクラングール(オナガザルの一種)を拷問し、殺している写真が多くの注目を集め、抗議運動が起こった。それを受けてベトナム政府は前例がなかったが3人の兵士を解雇した。科学者や保護主義者は情報機関がSNSを通じて反乱や戦争を予測しているのと同じく、SNSを有効活用する必要がある

Perspectives
Animal Behavior and the Microbiome
動物の行動と微生物群
Vanessa O. Ezenwa, Nicole M. Gerardo, David W. Inouye, Mónica Medina, and Joao B. Xavier
微生物群とホストとの間のフィードバックが動物の行動の幅に影響する。

A Golden Spike for Planetary Science
惑星科学のゴールデン・スパイク
Richard P. Binzel
天体観測から地球化学分析への進歩が惑星探査の進展を縮図的に示している。

Downsizing the Deep Biosphere
深海生物圏のサイズを小さくする
Kai-Uwe Hinrichs and Fumio Inagaki
最近の研究が海底下の微生物バイオマスのサイズと分布に新たな制約を与えた。しかし、カギとなる要因はまだ不確実なままである。

Seeing Is Believing
百聞は一見に如かず
Benjamin A. Brooks
人工衛星とコンピュータによるモデリングはアンデス中央部のAltiplano平原の地殻の下に球状のマグマが上昇しつつあることの証拠を示している。

Reports
An Ancient Core Dynamo in Asteroid Vesta
小惑星Vestaの古代のコアのダイナモ
Roger R. Fu et al.
小惑星Vestaから得られた古地磁気の研究から、かつてコアのダイナモによって作られた磁気が残っていることが明らかになった。

Elemental Mapping by Dawn Reveals Exogenic H in Vesta’s Regolith
Dawnによる元素マッピングからVestaのレゴリスの外因性の水素が明らかに
Thomas H. Prettyman et al.
小惑星探査機Dawnの得たデータの分析から、小惑星Vestaには揮発性物質が多いことが示唆されている。

Pitted Terrain on Vesta and Implications for the Presence of Volatiles
Vestaの穴の空いた地形と揮発性物質の存在の暗示
B. W. Denevi et al.
小惑星探査機Dawnの得たデータの分析から、小惑星Vestaには揮発性物質が多いことが示唆されている。

Sombrero Uplift Above the Altiplano-Puna Magma Body: Evidence of a Ballooning Mid-Crustal Diapir
Altiplano-Punaマグマ体の上のSombrero隆起帯:地殻内部のダイアピルの膨張の証拠
Yuri Fialko and Jill Pearse
アンデス山脈中央部の下で上昇している巨大なマグマのさらに下で隆起と沈降が共在している。

Quantifying the Impact of Human Mobility on Malaria
人間の移動がマラリアに与える影響を定量化する
Amy Wesolowski, Nathan Eagle, Andrew J. Tatem, David L. Smith, Abdisalan M. Noor, Robert W. Snow, and Caroline O. Buckee
1,500万人のケニア人の携帯電話の地理情報はマラリア蔓延の推定と関係している。

Technical Comments
Comment on “Climatic Niche Shifts Are Rare Among Terrestrial Plant Invaders”
Bruce L. Webber, David C. Le Maitre, and Darren J. Kriticos
Petitpierre et al. (2012, science)は陸域の植物のニッチが変化することは稀であり、それにより「モデルによって生物の侵入と気候変動に対する生物種の地理的分布を予測することの有用性が正当化される」としているが、彼らの概念的な推定の限界と彼らの分析からは除外されたニッチ変化の重要性について話題を提供する。

Response to Comment on “Climatic Niche Shifts Are Rare Among Terrestrial Plant Invaders”
Antoine Guisan, Blaise Petitpierre, Olivier Broennimann, Christoph Kueffer, Christophe Randin, and Curtis Daehler
Webber et al.は我々の発見に対して批判的な視点を持っているが、彼らの問題は誤解と我々の研究の範囲を超えていることにある。我々のモデルは類似した気候では有効であるが、類似していない気候では気をつけて使用する必要がある。

2012年10月11日木曜日

新着論文(Nature#7419)

Nature
Volume 490 Number 7419 pp143-304 (11 October 2012)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Mouse eggs from stem cells
幹細胞からできたマウスの卵
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1226889 (2012)
日本の京都大学の研究チームがマウスの幹細胞から卵の細胞を作り、それを母親のマウスに移植したところ、健康な子供が生まれた。不妊症治療に対して光明となる可能性がある。

Contemplating a coral comeback
サンゴの回復を熟慮する
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1208909109 (2012)
214のサンゴ礁における2,000を超える調査から、グレートバリアリーフのサンゴは過去27年間にその半数が失われていたことが分かった。原因は主にオニヒトデによる補食と台風による物理的破壊。ローカルな脅威を改善することでサンゴ被覆の増減のバランスを増加側にずらすことも可能かもしれないと筆者らは指摘している。水質改善によって栄養塩の流入を抑えることでオニヒトデの異常繁殖を抑えることができれば、サンゴは回復する可能性が残されている。しかし長期的には気候変動(温暖化による白化現象など)を安定化させない限り、この戦略は実現しないだろう

The 27–year decline of coral cover on the Great Barrier Reef and its causes
Glenn De’ath, Katharina E. Fabricius, Hugh Sweatman, and Marji Puotinen
1985年から2012年にかけて行われた観測(12ºS〜24ºS)からサンゴの被覆度が28.0%から13.8%へとその半数が失われていることが分かった。その原因としては「台風」「オニヒトデ(crown-of- thorns starfish; Acanthaster planci)による補食」「白化現象」がそれぞれ48%、42%、10%と推定される。比較的元の状態が保存されている北部のサンゴ礁においては白化現象が被覆度減少の原因のほとんどを担っており、回復の可能性がある。オニヒトデの駆除や水質の向上などの手段を取ることでさらなる減少を抑えることが可能かもしれない。しかしながらそうした状況は気候が安定化した状態でしか実現しないだろう

Different webs snag different prey
異なる蜘蛛の糸が異なる獲物を捕まえる
Nature Commun. http://dx.doi.org/10.1038/ ncomms2099 (2012)
一般的な家グモは自分が歩く用と獲物を捕らえる用の2種類の糸を使い分けていることが知られている。クモの一種(Achaearanea tepidariorum)は異なる糸の使い方をしている。「ガムを踏んだ足」状の糸は地面に繋げており放しやすくできている。一方で「足場」状の糸は飛んでいるハエを捕まえるようにできている。それらを電子顕微鏡で観察すると糸の太さには10倍もの違いがあり、さらに異なる張り付き方をしていることが分かった。それを真似て化学合成されたナイロンが作られ、性質は類似しているらしい。

Planetary wanderlust
惑星の放浪
J. Geophys. Res. http://dx.doi. org/10.1029/2011JB009072 (2012)
地殻は自転軸に対し百万年に0.2度の割合で西側に移動しているらしい。太平洋・インド洋のホットスポットの位置の移動を利用した計算から。

Questioning tuna marine reserves
マグロの海洋資源量に疑問を呈する
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1209468109 (2012)
太平洋のメバチマグロ(bigeye tuna; Thunnus obesus)は巾着網漁と延縄漁法によってその数が激減している。そのため2009年に巾着網漁を行っていた2カ所は政府によって閉鎖されたが、その閉鎖の効果をモデルシミュレーションを通して評価したところ、中央太平洋西部の公海において飛び地的に閉鎖をしても資源量保全の効果はほとんどないことが分かった。抱卵期の延縄漁法や魚を寄せる機器類の使用を抑えることで保全に繋がる可能性がある。

Echolocation for communication
コミュニケーションのためのエコロケーション
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1995 (2012)
社会的なコウモリの一種(Saccopteryx bilineata)はエコロケーションによって位置を特定するだけでなく、コウモリ同士でコミュニケーションを取っているらしい。オスのコウモリは少なくとも5m先から近づく別のオスを察知し、自分の縄張りを主張するために攻撃的な鳴き声を発する。しかしメスが近づく場合には求愛の鳴き声を発するという。つまり見た目でも匂いでもなく性別を見分けることのできるものが彼らの発する音に含まれていることになる。

SEVEN DAYS
※省略

NEWS IN FOCUS
Hyped GM maize study faces growing scrutiny
誇大に世に広められた遺伝子組み換えトウモロコシに関する研究が拡大する精査の動きに直面している
Declan Butler
食品安全機関が「遺伝子組み換えトウモロコシはマウスのガンの発生率を増やす」とした研究を閉め出す。

CORRESPONDENCE
Environment in Queensland at risk
クイーンズランドの環境が危機に
Andrew Chin, Jimmy White & Nick Dulvy
オーストラリアのクイーンズランド州は今年4月に政府が新しくなり、開発や鉱業に前向きな姿勢を取っている。こうした活動が近年増加しつつあり、UNESCOがグレートバリアリーフなどを危機にさらされている世界遺産のリストに追加するかどうかを検討する動きへと繋がっている。新政府はWild River Actを廃止しようとしており、この制度によってクイーンズランドに唯一残された自然の河川が守られている。この河川はオーストラリアで最も生物多様性に富む淡水魚を有する。特にノコギリエイ(sawfish; Pristis microdon)やスピアートゥース・シャーク(speartooth shark; Glyphis glyphis)などはそれぞれ非常に危機的な、危機的な絶滅危惧種に指定されており、世界中でオーストラリアにしかもう残っていない。さらには水系の環境保護や漁業管理に携わる人員の削減までも同時に行われている。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Cambrian nervous wrecks
カンブリア紀の神経系の残存物
Graham E. Budd
カンブリア紀に相当する地層から驚くほど保存状態の良い節足動物の化石が見つかり、脳と神経系までもが保存されていた。通常化石として残るのは硬組織で、軟組織が化石として保存されるのには極めて特異的な環境が必要となる。例えば、血管などといった組織が砂岩層に残るとは考えられない(エネルギーが高い環境のため、堆積後の物理的な破壊や劣化が速やかに進行する)。化石の保存条件を考えることは化石を解釈する上でも大切で、例えば腐食の過程を実験によって再現することも行われている。その実験では腎臓や性腺が保存されることはないが、無脊椎動物の場合は脳や神経系が保存する可能性がわずかながら存在することが分かっていた。しかしながらそれを完全に証明したのが今回のMa et al.の研究で、澄江動物群の一つであるフキシャンフィア(Fuxianhuia)の化石が脳と神経系を保存していたのである。この種の分類についてはまだ議論の最中にあるが、現存する節足動物の最近の共通祖先であると考えられている。つまり節足動物の神経系の系統発生学上、非常に重要な位置づけにある。
 化石を観察してみると、足の間に目があり、そこは鉄に富んでいる。Ma et al.はそれを「神経線維網(neuropil;ニューロピル)」と解釈しており、視神経と脳を繋いでいたものと考えられる。またその構造はさらに3つに細分されるが、神経の一部は触覚へと繋がっており、これまで存在するかどうかも議論の的になっていた触覚の存在までも明らかになった
 この化石記録が重要である点は、神経構造が現存する節足動物(昆虫や甲殻類など)と非常に類似していることである。フキシャンフィアが節足動物の直接の祖先だとすると、神経系は進化の初期において既に獲得されていたことになる。となると、脳や神経系があまり発達していない節足動物の他の種(ミジンコ、サソリ、クモなど)はその進化の途中で神経系を単純化したことになる。ただし、一度失われれたものが後から再登場した可能性やフキシャンフィアの系統学的な位置づけが間違っている可能性もある。

Catching the wave
波に乗る
John M. Fryxell & Tal Avgar
ノルウエーのアカシカの長距離移動パターンの観察から、春の訪れとともに緑が増すとその波に乗って移動をするものもいれば、さらなる良質のエサが得られるのを見越してそれに先立って移動するものもいることが分かった。

When an oceanic tectonic plate cracks
海洋のテクトニックプレートが壊れるとき
Jean-Yves Royer
最近起きた2つの巨大地震(2012年4月のスマトラ地震)の分析から、「海洋上部地殻の破壊がいかに複雑であるか」、「それがどのように以前の巨大地震とリンクしているか」、「それが世界中の地震をどのように誘発しているのか」などが分かってきた。

LETTERS
April 2012 intra-oceanic seismicity off Sumatra boosted by the Banda-Aceh megathrust
バンダ・アチェ巨大逆断層地震により後押しされた2012年4月のスマトラ沖海洋プレート内地震活動
Matthias Delescluse, Nicolas Chamot-Rooke, Rodolphe Cattin, Luce Fleitout, Olga Trubienko & Christophe Vigny

En échelon and orthogonal fault ruptures of the 11 April 2012 great intraplate earthquakes
2012年4月11日巨大プレート内地震の雁行状の断層破壊とこれに直交する断層破壊
Han Yue, Thorne Lay & Keith D. Koper

The 11 April 2012 east Indian Ocean earthquake triggered large aftershocks worldwide
2012年4月11日の東インド洋における地震が世界中で大きな余震を誘発した
Fred F. Pollitz, Ross S. Stein, Volkan Sevilgen & Roland Bürgmann

Closing yield gaps through nutrient and water management
肥料と水の管理を通して作物生産量の溝を失くす
Nathaniel D. Mueller, James S. Gerber, Matt Johnston, Deepak K. Ray, Navin Ramankutty & Jonathan A. Foley
 人類にとって今後数十年間の重大な難問の1つは、環境をこれ以上破壊することなく将来の食糧需要を満たすことである。農業システムはすでに地球環境を悪化させる大きな要因となっているが、人口増加やカロリーの高い・肉類の食物の消費量増大により、2050年には人類の食糧需要が約2倍になると予想されている。そうした圧迫を受け、農業による環境への影響を減らすと同時に生産性の低い農地における食料生産量を増加させる方法として、「持続可能な農業生産力の強化(sustainable intensification)」がしだいに関心を集めるようになってきた。しかし、そうした取り組みが世界中の農地に将来何を引き起こすかはよくわかっていない。
 「作物生産量の溝」(ある地域の実際の生産量と実現可能な生産量との差)を縮めることで実現する農業生産強化の見通し、農業管理法および生産量限界の空間的パターン、ならびに生産量を増大するのに必要な管理法の変更を全球規模で評価した結果を示す。それにより全球収量の変動は「肥料の使用」「灌漑」および「気候」に強く支配されていることがわかった。作物生産量の溝を埋めることで、生産量の大規模な増加(多くの作物で45~70%増)が可能である。また溝を解消するのに必要な管理法の変更は、地域と現在の生産力の強化の程度によって大きく異なる。さらに肥料の過剰利用をやめることで農業の環境への影響を軽減しつつ、主要穀物(トウモロコシ、小麦、コメ)の生産量を約30%増加できる可能性が十分あることが分かった。今後数十年間の食糧の確保およびその持続可能性という困難を乗り切ることは可能であるが、肥料および水の管理方法には大幅な変更が必要だと考えられる。

Complex brain and optic lobes in an early Cambrian arthropod
カンブリア紀初期の節足動物の複雑な脳と視葉
Xiaoya Ma, Xianguang Hou, Gregory D. Edgecombe & Nicholas J. Strausfeld
中国のカンブリア紀初期に相当する地層から節足動物(Fuxianhuia protensa)の化石が発見され、現在の昆虫や甲殻類に類似した神経系の存在が明らかになった。このことから昆虫や甲殻類の神経系は共通祖先の比較的複雑な神経系から進化したこと、ミジンコのような単純な生き物はそうした複雑な神経系を簡略化するように進化してきた可能性が示唆される。

2012年10月10日水曜日

「深海のYrr(上・中・下)」(フランク・シェッツィング、2008年)

深海のYrr(上・中・下)
フランク・シェッツィング/北川和代 訳
早川書房(2008年4月初版)
¥800 × 3冊

新着論文(QSR)

QSR
☆Volume 48, Pages 1-112 (10 August 2012)
Vegetation and climate in Southern Hemisphere mid-latitudes since 210 ka: new insights from marine and terrestrial pollen records from New Zealand
M.T. Ryan, G.B. Dunbar, M.J. Vandergoes, H.L. Neil, M.J. Hannah, R.M. Newnham, H. Bostock, B.V. Alloway
ニュージーランド・タスマン海から得られた堆積物コアの有孔虫δ18O・有機物化石(花粉など)分析から過去210kaの古環境を復元。陸上の泥炭掘削コアと整合的な結果が得られた。水温が最も高く、氷が最も少ない時期に最も森林が拡大していた。またMIS5におけるSSTの変動は森林の拡大には特に影響していなかったと考えられ、他のローカルな気候が影響していたと考えられる。

☆Volume 49, Pages 1-112 (23 August 2012)
A 16,000-yr tephra framework for the Antarctic ice sheet: a contribution from the new Talos Dome core 
Biancamaria Narcisi, Jean Robert Petit, Barbara Delmonte, Claudio Scarchilli, Barbara Stenni
東南極Talos Domeで得られたアイスコア(TALDICE)の火山灰年代を用いた過去16kaの年代モデル構築について。26の火山灰噴出イベントを特定。ほとんどが近くのMerbourne火山帯からもたらされており、一部は遠くのBerlin山(西南極)やErebus山(ロス島)。20年間の逆軌道解析を行ったところ、ほんのわずかな火山灰が周極偏西風に乗って南米やニュージーランドから運ばれていることが分かった。他のアイスコアや堆積物コアとの年代の対比に有望

☆Volume 50, Pages 1-154 (12 September 2012)
Late Pleistocene evolution of Scott Glacier, southern Transantarctic Mountains: implications for the Antarctic contribution to deglacial sea level
Gordon R.M. Bromley, Brenda L. Hall, John O. Stone, Howard Conway
10Beの表面露出年代から西南極のScott氷河の拡大はLGMの時が最大であり、ロス海の氷が着底した時期と一致していることが分かった。その際にScott氷河と西南極氷床は標高1,100mに達していたと推定される。他の記録とも整合的だが、モデルシミュレーションとは一致しない(モデルはScott氷河の厚さを過大評価している)。MWP-1Aには本当に西南極氷床が寄与していたのかに対して疑問を提示する。

☆Volume 51, Pages 1-94 (19 September 2012)
特になし

☆Volume 52, Pages 1-76 (2 October 2012)
Lake or bog? Reconstructing baseline ecological conditions for the protected Galápagos Sphagnum peatbogs
Emily E.D. Coffey, Cynthia A. Froyd, Katherine J. Willis
Galapagos島のSanta Cruz島のミズゴケ(Sphagnum)湿原における過去10kaの古環境記録について。島の中央の火口カルデラに堆積したミズゴケ類の堆積物コアを採取したところ、植生・地理が過去10kaの間に大きく変化していたことが分かった(湖と湿地の繰り返し)。現在島には棲息していないミゾハコベ(Elatine)も初めて見つかった。植生の変化は主に東赤道太平洋の気候シフトと関係していると考えられる。ここ100年間に関しては人為起源の影響(森林火災など)も見られる。

☆論文アラート
Rapid sea-level rise
Thomas M. Cronin
海水準変動はそれぞれの海岸ごとに様々な全球的な/ローカルな要因で起きる。
○全球的な要因
1、海洋の質量変化(氷床融水の流入)(glacio-eustasy)
2、海の体積変化(steric effect)
3、マントルの流動に起因する大陸移動(glacioisostatic adjustment)
4、陸上の水資源量の変化
○地域的な要因
1、海洋循環の変化
2、地域的な氷河の融解
3、地域的な大陸移動
4、沈降
それらの影響が相互作用し、年間3mmを超える速度で海水準が上昇することが古気候学的な記録から知られている。特にアメリカ東海岸を例にとって古気候記録を頼りにしながら、完新世後期の海水準の安定性、数千年スケールの海水準変動パターンを評価することの難しさについてレビューする。

2012年10月7日日曜日

新着論文(GRL)

Geophysical Research Letters

Global CO2 storage potential of self-sealing marine sedimentary strata
Jordan K. Eccles and Lincoln Pratson
大気中の二酸化炭素濃度を減らす地球工学の一つに’海底にCO2を注入し、圧力とハイドレート形成によってCO2を安定に固定する’技術がある。そうした候補になり得る海底の地層をマッピング。透過性の大きい砂の層が適しているという。1,260-28,500GtCを40-1,000年間保存するのに十分な量があるという。しかし候補地は排出国の経済水域の中でも不均質に分布している。特にアメリカとインドは経済水域から500km以内での排出はそれぞれ16%, 62%でしかなく、また中国とEUはそれぞれ6%しかない(国土のほとんどが内陸のため)。
Eccles et al. (2012)を改変。
世界のCO2固定に適した堆積物が存在する海底のマップ。

Space-based observations of megacity carbon dioxide
Eric A. Kort, Christian Frankenberg, Charles E. Miller and Tom Oda
現在世界の人口は半分が都市部に集中しており、CO2排出も都市部が70%を担っている。人工衛星GOSATの観測データから巨大都市(ロサンゼルスとムンバイ)からの乾燥状態のCO2モル比を推定。ロスで周囲よりも3.2±1.5 ppmの上昇、ムンバイで2.4±1.2 ppmの上昇が確認された。ロサンゼルスの排出はGOSATからでも0.7 ppmの変化は捉えることが可能だと推定される。

A window for carbon uptake in the southern subtropical Indian Ocean
Vinu Valsala, Shamil Maksyutov and Raghu Murtugudde
インド洋における海洋表層のCO2の収支について。15-35ºSはアルカリポンプによって吸収源、35-50ºSはアルカリポンプ+生物ポンプによって吸収源となっている。人為起源のCO2は沈み込みが深部まで起き、北部へと輸送されている結果と考えられる。

Drivers of non-Redfield nutrient utilization in the Atlantic sector of the Southern Ocean
Isabelle S. Giddy, Sebastiaan Swart and Alessandro Tagliabue
植物プランクトンのC/N/Pががレッドフィールド比に必ずしも従わないことの説明として2つの仮説がある。
1、生物はそれぞれ異なるN/P比を持っているが、実際には時空間的な変動を平均化すことでそれがキャンセルされている
2、生物は環境のN/P比に応じて成長戦略を取ってきたが、現在の環境下ではおおよそ16/1になっている
南大洋の大西洋セクターで海洋表層水の硝酸とリン酸の濃度を調査。地域的な変動が大きい。南大洋の栄養塩利用は低緯度の栄養塩濃度にも影響するため、駆動しているメカニズムの理解は地球生物化学的にも重要。

Observed and simulated changes in the Southern Hemisphere surface westerly wind-stress
N. C. Swart and J. C. Fyfe
南半球の偏西風帯の変動は全球の海洋循環と炭素循環にも影響を与えるほど重要である。過去1979-2010年の南半球の偏西風中心の位置と強度について、再解析データとCMIP3とCMIP5のデータとを比較。モデルは強度を低く見積もっている。位置の変動については夏の位置は明確に変化しているものの、年平均の位置の傾向は認められなかった。

Upper ocean manifestations of a reducing meridional overturning circulation
M. D. Thomas, A. M. de Boer, D. P. Stevens and H. L. Johnson
ほとんどの気候モデルが21世紀におけるAMOCの弱化を予測している。高空間解像度の気候モデル(HiGEM)を用いてAMOCの将来100年間の変動を予測。深層水の南向きの輸送速度は5.3Sv低下すると予想される。一方で表層の西岸境界流による北向きの輸送も低下すると考えられる(8.7Sv)。また亜熱帯渦も風応カールの低下によって3.4Sv低下すると予想される。

2012年10月6日土曜日

新着論文(Science#6103)

Science
VOL 338, ISSUE 6103, PAGES 1-160 (5 OCTOBER 2012)

Editors' Choice
A Sea of Difference
異なる海
Sci. Rep. 2, 10.1038/srep00582 (2012).
黒海の環境は人間活動によって大きく変動しているが、環境悪化はより長期間にも起きていたらしい。黒海の堆積物から復元された過去7,500年間の環境記録はこの2,000年間に黒海に流入する河川による堆積物の輸送量が増加していること、ここ500-600年間に東ヨーロッパの森林破壊によって栄養塩の流入量が増加し、珪藻や渦鞭毛藻の大増殖を招いており、食物連鎖が激変していることを示している。

News of the Week
Prison Terms Sought for Italian Earthquake Experts
イタリアの地震の専門家に刑期が求められる

National Commission for the Forecast and Prevention of Major Risksのメンバーでもある科学者4人とエンジニア2人は3ヶ月間継続していた微動に対するリスクを評価するために集まり、「エネルギーを消化するので微動は大きな地震のリスクは低減される」などの信用できない引用などを含む報告書を提出していた。その誤った報告が人命が失われた原因になったという指摘がある。

Element 113 Clinched?
113番元素が確定的に?
日本とロシアはどちらが先に113番目の重元素を観測したかについて揉めていたが、理化学研究所の研究チームが3回目の生成に成功した。

Polar Bear Biologist Cleared Of Misconduct Charges
ホッキョクグマの生物学者が誤った行いの告訴を解消した
Charles Monnettは研究における誤った行いで告訴されていたが、それを解消し仕事に復帰した。しかしながら彼は内部公文書を複数の公共機関や教育機関e-mailしたことで懲戒免職を受けている。事の発端はShellの北極における掘削に反対するために、彼がデータを改ざんし公表したことだという。

Concrete Evidence for Water On Ancient Mars
古代の火星に水があった事の確固たる証拠
数十億年前には十分な水流がゲールクレーターの中央付近まで礫を運んでいたらしい。15cmの厚さの地層中の礫は十分に円摩されており、クレーターの縁を起源とする岩石が水で流された証拠と考えられている。以前のSpritとOppotunityの調査で塩分に富んだ地下水・すぐに消える塩水だまり・古代に流れていた河川の跡などが発見されていたが、今回の発見はより多くの情報を与えてくれた。しかしこうした地層は生物の痕跡を残すには最悪のもので期待は薄い。そうした証拠は湖の底などで静かに堆積した地層などに残っていると推測される。

BY THE NUMBERS
数字から
$1.2 trillion
1,200,000,000,000ドル(約100兆円)
気候変動の推定コスト。地球全体のGDPの1.6%。

50%
グレートバリアリーフにおけるサンゴ被覆の1985年から2012年にかけての減少率。PNAS (1 October)の研究より。

News & Analysis
Utility Sacrificed for Speed, Supercomputer Critics Say
スピードのために利便性が犠牲になっているとスーパーコンピューターの批判は言っている
Dennis Normile
日本の「京(K)」スーパーコンピューターがついに現実世界の問題を解決するために稼働を開始したが、利用者の中にはその設計がスピードに傾倒しすぎていると指摘するものもいる。

Researchers Struggle to Assess Responses to Ocean Acidification
海洋酸性化に対する応答を評価するために研究者が苦戦している
David Malakoff
 先日カリフォルニア・モンテレーで行われた海洋酸性化の将来予測に関する会議’the Ocean in a High-CO2 World’には40カ国から550名もの研究者が参加した。8年前にはわずか125名であった。海洋酸性化研究は拡大し、そして競争力が増している
 これまで海洋酸性化に対する生態系の応答を調べる研究は単に酸性化させた海水中で生物を飼育するものがほとんどであったが、この手法は複雑な関係性を持つ・広がりを持つ生態系を完全に再現することにはならない。
 それを解決するためのアプローチの1つは地質学時代に起きた似た海洋酸性化をアナログにすることである。その候補の一つが’PETM’で、温暖化と海洋底層水の酸性化が起き、特に底性生物の多くが絶滅したと知られている。一方で海洋表層で起きたことはあまりよく分かっていない。多くの植物プランクトンが絶滅したが、代わりに繁栄した種によって全体としての多様性は維持されたらしい。石灰藻の作る殻一つ一つを丹念に数えた研究ではPETMにおける顕著な数の減少は確認されなかったものの、PETMと現在の海洋酸性化の速度は全く異なるため、「海洋酸性化は円石藻には問題ない」という意見を持つのは危険だと指摘している。
 また地中海やパプアニューギニアに存在する天然にpHが低下した海域(地底からCO2が吹き出している場所;seeps)における現地調査や飼育実験も行われている。
 第3のアプローチはより長期間・より広範囲の飼育実験を行うことである。4年間の600世代にわたって行われた飼育実験では窒素固定を担うシアノバクテリアの一種(Trichodesmium)は酸性化海水に適応することができたという報告もある。さらに既に起きている酸性化に適応している種も多く存在する。カリフォルニア沿岸では湧昇によって常にpHが低い状態にあるが、そうした地域で進化してきた種は遺伝的な多様性も大きく、海洋酸性化に対する耐性も強いと考えられる。
 
Perspectives
How Insect Herbivores Drive the Evolution of Plants
どのように昆虫が草をはむかが植物の進化を駆動する
J. Daniel Hare
特定の草食動物の有無がどの植物の遺伝形が自然淘汰されるかに影響する。

Earthquakes in the Lab
研究室内での地震
Toshihiko Shimamoto and Tetsuhiro Togo
はずみ車ベースの機器を用いた摩擦実験は現実の地震を再現するのに用いることができる。

Reports
The Shortest-Known–Period Star Orbiting Our Galaxy’s Supermassive Black Hole
我々の銀河の超巨大ブラックホールを周回する、知られている中で最も短い周期を持つ星
L. Meyer, A. M. Ghez, R. Schödel, S. Yelda, A. Boehle, J. R. Lu, T. Do, M. R. Morris, E. E. Becklin, and K. Matthews
我々の銀河の中心を短い周期で周回する星の存在は超巨大ブラックホールがあることの確たる証拠である。ケック望遠鏡による17年間の観測記録から「S0-102」と名付けられた星がブラックホールの周りをたった11.5年で周回していることが分かった。まだ調べられていない領域でのアインシュタインの一般相対性理論を検証するのに使える可能性がある。

Complex Dental Structure and Wear Biomechanics in Hadrosaurid Dinosaurs
ハドロサウルスの複雑な歯の構造とすり潰しの生体機能
Gregory M. Erickson, Brandon A. Krick, Matthew Hamilton, Gerald R. Bourne, Mark A. Norell, Erica Lilleodden, and W. Gregory Sawyer
哺乳類の臼歯は4つの組織によって構成されており、それらは別々に植物を噛み砕き、中から栄養を得るための機能を持っている。似た機構はカモノハシ恐竜(duck-billed dinosaur; Hadrosauridae)にも見られる。しかしながら爬虫類の歯の構造は一般的には2つの組織でできており、なぜそうした複雑性を獲得できたかについてはよく分かっていない。ハドロサウルスが常識を破り’6つ’の組織の歯の構造へと進化していたことが分かった。

Rapid Acceleration Leads to Rapid Weakening in Earthquake-Like Laboratory Experiments
地震を模した室内実験で確認された急な加速が急な脆弱化につながる証拠
J. C. Chang, D. A. Lockner, and Z. Reches

Insect Herbivores Drive Real-Time Ecological and Evolutionary Change in Plant Populations
昆虫が葉を食むことがリアルタイムで植物の群集組成に生態学的な・進化学的な変化を駆動する
Anurag A. Agrawal, Amy P. Hastings, Marc T. J. Johnson, John L. Maron, and Juha-Pekka Salminen
たった5回の成長シーズンでも月見草(common evening primrose)を昆虫から守るだけでその遺伝子形が変化することが分かった。

Natural Enemies Drive Geographic Variation in Plant Defenses
自然の敵が植物の身の守り方における地理的な変動を駆動する
Tobias Züst, Christian Heichinger, Ueli Grossniklaus, Richard Harrington, Daniel J. Kliebenstein, and Lindsay A. Turnbull

2012年10月4日木曜日

新着論文(Nature#7418)

Nature
Volume 490 Number 7418 pp5-136 (4 October 2012)

Editorials
The price of progress
進展の価格
米原子力規制委員会(NRC)がウラン濃縮の新技術を認可したが、核拡散問題を考えると望ましい方向ではない。

Research Highlights
Mother’s stress slows learning
母親のストレスが学習を遅らせる
Biol. Lett. http://dx.doi. org/10.1098/rsbl.2012.0685 (2012)
メスのトゲウオ(sticklebacks)が産卵時に捕食者の危機にさらされていると、生まれた子供は学習能力に障害が出るらしい。実験で抱卵したメスのトゲウオ(threespined sticklebacks; Gasterosteus aculeatus)を捕食者に似せた物体で追いかけてストレスを与えた状態で産卵させると、生まれた子供は学習能力を試す実験において平和に生まれた子供に比べて成績が劣ったという。

Feeding habits of the vampire squid
コウモリダコの食性
Proc. R. Soc. B http://dx.doi.org/10.1098/ rspb.2012.1357 (2012)
深海を漂うコウモリダコ(vampire squid; Vampyroteuthis infernalis)はイカとタコの両方の性質を持つ。彼らはイカのように触手を伸ばして獲物を捕るのではなく、代わりに伸縮自在の2本のフィラメントを用いて、動物プランクトンや甲殻類の残り、フンなどを食べているらしい。フィラメント自体はタコや他の頭足類の腕と相同だが、食性は非常に異なっている

Bendable battery yields flexible LED
曲げることの出来る電池が柔軟なLEDを作る
Nano Lett. 12, 4810−4816 (2012)
柔軟なリチウムイオン電池が開発されたことで、薄く・曲げることが可能な有機LEDが開発された。回転可能な電子機器や体内に移植された電子機器類に応用される可能性がある。

Zebrafish find light without eyes
ゼブラフィッシュは目なしに光を見つけることができる
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2012.08.016 (2012)
目のないゼブラフィッシュ(zebrafish; Danio rerio)の幼魚は脳深部の光に敏感なニューロンを活性化させることで暗闇でも方向が分かるらしい。目を切除した幼魚が見せた光の方向に進むという行動は、視覚的な器官以外に光を感じることのできるニューロンが存在することを示唆しており、それにはOpn4aと名付けられた遺伝子が関与しているらしい。

Seven Days
Nuclear concerns
核の問題
議論を呼んでいたアメリカのウラン濃縮プラント建設にゴーサインが出た。核兵器の拡散に繋がる可能性もあるという批判も。

Fusion failure
核融合の失敗
アメリカ点火施設(National Ignition Facility)は国会が定めていた9/30の締め切り日までに点火する(自発的な核融合を開始させる)ことができなかった。レーザーによる点火のエネルギーが不足していたようだ。

Mars mission plan
火星探査計画
9/25に出された研究によると、NASAの火星探査は「現在火星に存在する生命の探査」よりも寧ろ「過去に火星に存在した生命の探査」に焦点を当てるとのこと。また次の火星探査計画は2018年の軌道衛星の打ち上げか、2020年の地上探査機の着陸のいずれかになるとNASAのMars Program Planning Groupの報告書の中で示唆されている。

Saved species list
守られた種のリスト
先日韓国のチェジュ島で行われた国際自然保護連合(International Union for the Conservation
of Nature; IUCN)の会合において、十分に保護された種に対して’グリーン’リストを作ることに決定した。絶滅危惧種がリストアップされたレッドリストに対して作られたらしい。

Ancient stream on Mars
古代の火星の小川
火星探査機キュリオシティーは数億年前のゲールクレーターの底を流れていたと思われる水の証拠を発見した。この発見がある以前から火星に液体の水があった可能性は指摘されていたが、円摩された小礫は地球の露頭で見られるものと類似している。おおよそかかとまでの深さの水が秒速1メートル程度で流れていたと予想される。

Ape habitat shrinks
猿の生息域が縮小
アフリカ全土にまたがる大型類人猿の生息域の調査から、1995年から2010年にかけて生息域が激減していることが分かった。ゴリラ(Cross River gorillas; Gorilla gorilla diehli)、ボノボ(bonobos; Pan paniscus)、チンパンジー(central chimpanzees; Pan troglodytes troglodytes)でそれぞれ59%、29%、17%の減少が見られたという。

Comet discovery
隕石の発見
C/2012 S1 (ISON)と名付けられた隕石が新たに見つかった。2013年11月に太陽とすれ違い、昼間でも見えるほど明るく光ると考えられる。ただし、これほど早い発見は時折疑わしいことが後で判明したりするので注意。

Element 113
第113番目の元素
日本の理化学研究所が113番目の元素の生成に3回成功し、新元素の発見が確定したと発表した。名称を与える権利が与えられるだろう。ロシアとアメリカの研究グループも以前の実験で発見したと主張していたが、確定はしていなかった。名称は「ジャポニウム」が最有力?

Polar expert cleared
北極の専門家が身の潔白を晴らす
アメリカの研究者Charles Monnettは「4匹のホッキョクグマが海氷を求めて泳いでいる最中に死亡した」とする誤ったデータを公表したことで科学的に誤った行いの責任を問われていたが、政府の調査ののち身の潔白が晴らされた。しかしながら彼は政府の公文書を環境団体にリークしたことで叱責を受けている。

NEWS IN FOCUS
The telescopes that came in from the cold
冷戦から来た2つの望遠鏡
Eric Hand
NASAが、米国家偵察局から譲られた2個の偵察衛星の利用方法を検討へ。


CORRESPONDENCE
Biodiversity needs a scientific approach
生物多様性には科学的なアプローチが必要
David A. Westcott, Frederieke J. Kroon & Andy W. Sheppard
生物多様性保全のために政策と科学の間の垣根をなくすために、Intergovernmental Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES) は「市民の知識」と「非金銭的な価値」を考慮すべきだとするEsther Turnhoutほかに対しては我々も同意する。しかしながら、政策に訴える知識は客観的な過程を通して得られるべきだ。そしてそれを実現するには科学ベースのアプローチが必要である。

European biodiesel can be sustainable
ヨーロッパのバイオ燃料は持続可能である
Rod Snowdon & Wolfgang Friedt
online News report(Nature http://doi.org/jdn; 2012)の中で、予察的な研究の疑わしい図に基づいてヨーロッパのバイオ燃料は持続不可能であると指摘されているが、正しく評価を行ったところ、ヨーロッパのセイヨウアブラナを原料に用いることで持続可能なバイオ燃料となる。再生可能なバイオ燃料を巡る物議をかもす話題に対する政策決定はきちんと理由付けられた、またしっかりとピアレビューされた科学に基づいてなされるべきだ。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
FORUM
The aerosol effect
エアロゾルの効果
Bjorn Stevens & Olivier Boucher
大気中の人為起源エアロゾルは疑いの余地なく気候に影響を与える。しかしエアロゾルの効果を考慮した気候モデルはエアロゾルの効果を十分に見積もれているのだろうか?2人の気候学者が意見を述べる。
Grains of salt
真に受けない
Bjorn Stevens
二酸化炭素が温室効果を発揮し地球温暖化に寄与する過程は割とシンプルでよく理解されているが、エアロゾルが雲の形成や降水過程にどのように寄与するかについてはエアロゾルの組成などの様々な要因によって異なり、よく分かっていない。気候モデルはエアロゾルと雲の反応過程において必要な多くの因子を有しているものの、一般的にスケールの大きな現象しか再現できない。逆に雲の微物理過程に関する理解を深めるために気候モデラーは暗中模索している。個々の現象については理解が進んでいるものがあるものの、エアロゾルが全球の雲の過程に与える影響に関する定量的な理解は進んでいない。従ってモデルに詳細な過程を含ませたとしても、それはモデルを根本から改善することにはならず、ただより複雑にしてしまうだけである。

An essential pursuit
必要不可欠な追求
Olivier Boucher
大気大循環モデルが開発された当初はエアロゾルが持つ放射強制力の複雑さはまだそれほど認識されていなかったが、その後の20年間の研究でパラメタリゼーションの試みがなされてきたが、大規模なモデルの中での再現は単純すぎるものがある。しかしそれは価値がないということでも、役に立たないということでもない。人工衛星を用いた観測によってもエアロゾルによる放射強制力が見積もられているが、エアロゾルと雲の形成過程は気象状態に大きく依存するため、それだけでは機能しないことが認識されてきた。その中で気候モデルはエアロゾル-雲フィードバックを再現できる唯一の手段であり、それを用いて将来の全球の気候変動予測や地域的な数十年先の気候変動予測がなされている。また微物理過程こそが重要であることが分かってきた。近年高解像度のシミュレーションが可能になり、より広い範囲で・より細かく・より長期間にわたってエアロゾルと雲の形成場を再現できるようになり、溝を埋めてくれることが期待される。

LETTERS
Sulphate–climate coupling over the past 300,000 years in inland Antarctica
南極内陸の過去30万年間における硫黄と気候の関わり
Yoshinori Iizuka, Ryu Uemura, Hideaki Motoyama, Toshitaka Suzuki, Takayuki Miyake, Motohiro Hirabayashi & Takeo Hondoh
 硫酸塩エアロゾル(特に粒径の大きい硫酸塩粒子と硫酸塩が付着したダスト)は雲の凝結核として働き、太陽光散乱を増加させることで地球の気候を寒冷化させる作用を持つ。硫酸塩エアロゾル-気候カップリングの証拠は極域の氷床コアに残されている可能性がある。
 Dome Fujiアイスコアから過去30万年間の硫酸塩と硫酸塩が吸着したダストのフラックスを復元。氷期にはダストのフラックスが増加するものの、氷期-間氷期においてはほぼ一定であることが分かった。しかし硫酸塩のフラックスは気温との逆相関が見られ、気候的にカップリングしていることを示唆している。LGMには完新世の約2倍に相当する硫酸塩エアロゾルのフラックスが得られた。氷期から間氷期にかけては硫酸塩が低下しており、それがエアロゾルの間接的な効果(雲の寿命やアルベドへの影響)を弱めていたために、南極の気温を0.1~5.0℃温暖化させたと考えられる。

Natural and anthropogenic variations in methane sources during the past two millennia
過去2,000年間の自然起源・人為起源のメタンの放出源の変動
C. J. Sapart, G. Monteil, M. Prokopiou, R. S. W. van de Wal, J. O. Kaplan, P. Sperlich, K. M. Krumhardt, C. van der Veen, S. Houweling, M. C. Krol, T. Blunier, T. Sowers, P. Martinerie, E. Witrant, D. Dahl-Jensen & T. Röckmann
 メタンは、複数の自然の生成源と人為的生成源から放出される重要な温室効果ガスである。大気中のメタン濃度は過去に様々な時間スケールで変化してきたが、これらの変化を起こした原因は必ずしも十分に解明されている訳ではない。メタンのあらゆる放出源と吸収源には特定の同位体的特徴があるため、メタンの同位体組成は大気中のメタン濃度変動を引き起こす環境要因を特定するのに役立つ。
 グリーンランド氷床のアイスコアから得られた過去2000年間の高分解能のδ13CH4から、BC100年~AD1600年の間にδ13CH4が100年スケールで変動していたことが分かった。2ボックスモデルによる計算からδ13CH4の100年スケールの変動の原因は、発熱性の(pyrogenic)放出源と生物源の放出源の変化であると考えられる。これらの放出源の変化は「自然の気候変動(中世の気候変調期や小氷期など)」と「中世の人口変化・土地利用(ローマ帝国や漢の衰退)・人々の広がり」などと相関していることが分かった。

Dynamical similarity of geomagnetic field reversals
地磁気逆転の力学的類似性
Jean-Pierre Valet, Alexandre Fournier, Vincent Courtillot & Emilio Herrero-Bervera
火山岩に記録された地磁気の逆転イベントは、通常の逆転の継続期間を仮定すると得られている記録を非常に良く一致させることができ、共通の力学的性質が明らかになることが分かった。また逆転する磁場は、3つの連続した段階によって特徴付けられることを提案する。すなわち、「前兆現象」、「180°の極性の逆転」、「回復」である。2つの極性の間を移行する期間は短く(1,000年以下)、そのような変化が堆積物に正確に記録されることは稀である。

A Silurian armoured aplacophoran and implications for molluscan phylogeny
シルル紀の殻を持つ無板類と軟体動物の系統発生学に対する示唆
Mark D. Sutton, Derek E. G. Briggs, David J. Siveter, Derek J. Siveter & Julia D. Sigwart
軟体動物は、無脊椎動物の門の中でもきわめて多様かつ重要で研究が進んだものの1つだが、その中の主要な分類群どうしの類縁関係は、長年にわたって議論の的になってきた。海洋生物相を保存するシルル紀堆積層であるヘレフォードシャー化石鉱床(約4億2500万年前の地層)から見つかった新属新種「Kulindroplax perissokomos」について記載。

新着論文(Geology, EPSL)

Geology
1 September 2012; Vol. 40, No. 9 
Coral reefs at 34°N, Japan: Exploring the end of environmental gradients
Hiroya Yamano, Kaoru Sugihara, Tsuyoshi Watanabe, Michiyo Shimamura, and Kiseong Hyeong
サンゴ北限の34ºNに相当する日本の壱岐・対馬のサンゴ礁は一般的に受け入れられているサンゴの温度耐性の下限(18℃前後)を遥かに下回る温度(冬には13℃まで低下する)で生育している。濁度も高く、低温であるにも関わらずサンゴ礁を5.5m掘削したところ、4300年前からずっと継続的に成長していることが分かった。サンゴは主にキクメイシ(Fabiidae)で構成されるが、このサンゴ礁の進化には対馬海流とアジアモンスーンが影響を与えてきたはずである。サンゴ北限のサンゴ礁はSSTと濁度に対する分布の基本的な考えを与えてくれると期待される。

Glacier expansion in southern Patagonia throughout the Antarctic cold reversal
Juan L. García, Michael R. Kaplan, Brenda L. Hall, Joerg M. Schaefer, Rodrigo M. Vega, Roseanne Schwartz, and Robert Finkel
最終退氷期の高緯度域の氷床・氷河と気候変動との関係を明らかにすることは地球システムの理解に非常に重要である。チリのパタゴニア氷河の後退を10Beを用いて復元。ACRの際に氷河は最も拡大していた(14.20 ± 0.56 ka)。おそらくYDよりも前で、ACRの始まりに一致していると考えられる。同時期に大気循環が変化し、南半球の偏西風帯が北へと移動していた?

EPSL
☆Volumes 337–338, Pages 1-252 (1 July 2012) 
Temporal variations in lake water temperature: Paleoenvironmental implications of lake carbonate δ18O and temperature records
Michael T. Hren, Nathan D. Sheldon
湖の水温と気温との関係を調査。湖の炭酸塩が形成される時期は炭酸塩のδ18Oなどを用いた古気候復元の解釈に影響を与えるので重要。古気候復元には正しい伝達関数を用いることが必要。

A new model of cosmogenic production of radiocarbon 14C in the atmosphere
Gennady A. Kovaltsov, Alexander Mishev, Ilya G. Usoskin
大気上層における放射性炭素(14C)の生成率の新たな計算手法について。エネルギーが0.1 - 1,000 GeVの銀河宇宙線から計算。計算された値は炭素循環リザーバーの収支と整合的。一時的な太陽からの高エネルギー粒子の寄与は全体の0.25%と小さい。逆に過去の太陽の活動度を復元するのにも使えるかもしれない。

☆Volumes 339–340, Pages 1-164 (15 July 2012)
Pronounced subsurface cooling of North Atlantic waters off Northwest Africa during Dansgaard–Oeschger interstadials
Jung-Hyun Kim, Oscar E. Romero, Gerrit Lohmann, Barbara Donner, Thomas Laepple, Eddie Haam, Jaap S. Sinninghe Damsté
北西アフリカ沖(20ºN)から得られた堆積物コアのアルケノンとTEX86から過去50kaのSSTを復元。MIS3において7℃という規模でD/Oサイクルに対応したSSTの振動が見られた。グリーンランドが温暖化する時に逆に赤道大西洋は寒冷化していた。LGM背景で行われたGCMを用いたシミュレーションではAMOCを介した似たような振動が見られた。D/OイベントにおいてAMOCは非常に重要な要素であることが示唆される。
Kim et al. (2012)を改変。
D/Oサイクルに対応した温度低下(グリーンランドの温度上昇)が確認された。

☆Volumes 341–344, Pages 1-268 (August 2012)
A boundary exchange influence on deglacial neodymium isotope records from the deep western Indian Ocean
David J. Wilson, Alexander M. Piotrowski, Albert Galy, I. Nicholas McCave
ネオジウムの同位体(εNd)は海洋深層水循環のトレーサーとして重要である。しかしながら海洋の沿岸部における堆積物を起源とするネオジウムが付加される過程('boundary exchange')も重要であることが近年の研究から分かってきた。マダガスカルの西岸境界流の流れる海域において得られた堆積物のコアトップ(完新世に相当)の底性有孔虫の被覆とバルク堆積物をリーチングして得られたεNdを比較したところ、非常に良い一致を見せた。マダガスカル海流の上流部分付近のコア深部の記録も併せて見てみると、εNdに変化が見られたが、これは先行研究による南大洋の周極深層流(Circumpolar Deep Water; CDW)のεNdの変化とも整合的である。一方でマダガスカル近傍で得られた堆積物コアの深部の記録は上流のεNdからは一定の差異が見られ、boundary exchangeが寄与している可能性がある。つまりεNdを解釈し、深層水の質量収支を計算する際には最初にboundary exchangeの有無を調べる必要がある。しかしながらLGMでも完新世でも差異は一定で、boundary exchangeの寄与率は時間変化しなかったと考えられる。よってLGMから完新世に向かってεNdが上昇するのは、深層水の素となる水の供給源が変わったか、組成が変わった可能性を示唆している。
Wilson et al. (2012)を改変。
各サンプリング地点間の差異はあるものの、すべてLGMから完新世へ向かう過程で増加傾向にある。

Flux and provenance of ice-rafted debris in the earliest Pleistocene sub-polar North Atlantic Ocean comparable to the last glacial maximum
Ian Bailey, Gavin L. Foster, Paul A. Wilson, Luigi Jovane, Craig D. Storey, Clive N. Trueman, Julia Becker
北大西洋の堆積物コア(52ºN)から得られた堆積物コア中のIRDのfelspar(長石)中の鉛同位体をLA-ICPMSで測定し、IRDの起源となった母岩を推定。特に北半球の氷河化が始まった最初の頃に対応するMIS100(~2.52Ma)に注目。氷期初期と極大期とでIRDの起源が変化。LGMの時のIRDと似た性質のものが運搬されていたことが分かった。またMIS100には氷山が多く発生していたことが示唆される。

The evolution of pCO2, ice volume and climate during the middle Miocene
Gavin L. Foster, Caroline H. Lear, James W.B. Rae
現在表層水のpCO2が大気と平衡になっている海域において得られた堆積物コア中の浮遊性有孔虫(G. sacclifer)の殻のδ11Bを用いてMioceneの気候温暖期(Miocene Climatic Optimum; MCO, 17-15Ma)の海洋表層のpHを復元。さらにアルカリ度を仮定することで大気pCO2を推定。全球の気候とpCO2とは密接に関係していたことが示された。またpCO2の変動に対する南極氷床量の変動はモデル研究から言われているようなヒステレシスは確認されなかった。当時のpCO2は温暖期で350-400ppm、通常で産業革命前よりもやや低い200 - 260 ppmと推定され、低いpCO2でも南極氷床もしくは北半球の氷床がダイナミックに変動する可能性があることが示唆される。最近行われた南極近傍の掘削では当時南極の縁辺がダイナミックに変動していたことが示されており、結果として当時の気候と南極氷床とはともに現在よりもダイナミックに変動していたと考えられる。
Foster et al. (2012)を改変。
Mioceneの温暖期において大気中のpCO2は高く、その後は280ppmよりも低かったと推定される。

☆Volumes 345–348, Pages 1-220 (September 2012)
Boron incorporation into calcite during growth: Implications for the use of boron in carbonates as a pH proxy
E. Ruiz-Agudo, C.V. Putnis, M. Kowacz, M. Ortega-Huertas, A. Putnis
原子力間顕微鏡(Atomic Force Microscopy; AFM)を用いてカルサイト沈殿実験に対するホウ素の取り込みを調べた。高いpH(9.5)でホウ素の取り込みがほぼ平衡状態で起きた。さらに結晶格子外へのホウ素の取り込みも確認された。また石灰化速度とカルサイトの結晶形もホウ素の取り込みに影響するため、ホウ素濃度やホウ素同位体をpHプロキシとして使用するにはこれらの要素も考慮する必要があるかもしれない。

Glacial Southern Ocean freshening at the onset of the Middle Pleistocene Climate Transition
Laura Rodríguez-Sanz, P. Graham Mortyn, Alfredo Martínez-Garcia, Antoni Rosell-Melé, Ian R. Hall
MPT(Middle Pleistocene Transition)の時には南大洋が気候変動において重要な役割を担っていたと考えられる。南大洋の大西洋セクター(42.5ºS)から得られた堆積物コア中のN. pachyderma (sinistral)のMg/Caとδ18Oを用いてMPT前後のSSTと海水のδ18Oを復元。1.25Ma頃からSSTが約2℃低下し、δ18Oが約0.4‰軽くなった。ともに100ka周期で変動し、氷期には南大洋の深層水循環は弱化していた。氷期には水柱の表層の淡水化が南大洋の成層化を促進し、南大洋の海洋表層におけるCO2交換を妨げていたと考えられる。
Rodríguez-Sanz et al. (2012)を改変。
MPTの始まりに大きな表層水の淡水化が起きた。最下部は深層水の湧昇の強弱の指標として用いられている深層水(底性有孔虫)のδ13C

The planktic foraminiferal B/Ca proxy for seawater carbonate chemistry: A critical evaluation
Katherine A. Allen, Bärbel Hönisch
浮遊性有孔虫のB/Caは温度が二次的に寄与しているが、一次的にはpH若しくは[CO32-]のプロキシになると提唱されている。飼育実験と野外の試料とはともに[B(OH)4-/HCO32-]の増加とともにB/Caが増加しており、理論的な予測に符合する。しかしながら、得られたデータを精査してみると、ホウ素の経験的な分別係数(KD)は[B(OH)4-/HCO32-]とB/Ca以外の他の変数によっても変化していることが示される。もしB/Caの寄与が小さいとすると、B/Caから過去の情報を引き出すことはできないということになる。化石のB/Caから炭素循環に関する情報を引き出すためのこれまでのキャリブレーションの方法を評価し、新たな枠組みにの構築を試みた。多くの解決すべき課題は残されているものの、B/Caは海水の炭酸系の変数と同期して変動しており、また過去の記録も重要な気候変動が知られている時期に変動している。現在の不確実性を解決し、B/Caをより厳密な間接指標にするための推奨を行う。