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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年9月6日木曜日

新着論文(Nature#7414)

Nature
Volume 489 Number 7414 pp5-170 (6 September 2012)
簡略版。

Research Highlights
The mystery of high seas methane
海の高いメタンの謎
Science 337, 1104–1107 (2012)
海洋の酸素に富んだ海域ではメタンの濃度が驚くほど高いが、微生物の活動がそれを上手く説明してくれる可能性がある。従来リン酸を使用するために微生物がメチルスルホン酸を使用している可能性が指摘されていたが、この酸が何処からくるのかについてはよく分かっていなかった。Nitrosopumilus maritimusと呼ばれる微生物はメチルスルホン酸を合成する遺伝子を持っていることが分かった。この重要な遺伝子は他の微生物にも見られ、こうした微生物がこれまで説明できなかった海洋のメタン源を説明してくれるかもしれない。

Pruning back carbon estimates
炭素の推定を刈り込む
Biogeosciences 9, 3381–3403 (2012)
「木の高さ」を熱帯雨林の炭素貯蔵量の見積もりに組み込むと、約13%貯蔵量は減少するという。様々な熱帯の木の重量・高さ・密度などのデータから炭素貯蔵量を見積もったところ、特に「木の高さ」がバイオマスの推定に重要で、地域差が見られたという。バイオマスの地図から炭素量を推定するための確度を増すには、リモートセンシングのデータと現場観測を併せることが重要のようだ。

NEWS & VIEWS
Brief but warm Antarctic summer
短いが暖かい南極の夏
Eric J. Steig
南極のJames Ross島で掘削された氷床コアの酸素・水素同位体の測定から得られた気温記録は、南極半島における最近の温暖化傾向の原因について再考の必要性を示している。これまで南極の昇温の原因はオゾンホールの形成に伴う大気循環の変化と考えられてきたが、温暖化の傾向は人類がCFCsを排出するよりも前の1920年代から始まっている。またこのタイミングは南極の他の地域や南半球の温暖化のタイミングとも一致している。統計的にもこれが自然変動とするには無理があるため、確信を持って異常な温度上昇であると結論づけられる。将来の温度上昇についてはまだ不明なところが多いが、二酸化炭素によるわずかな放射強制力が南極の温度上昇には大きく効いている可能性が高い。

LETTERS
Activation of old carbon by erosion of coastal and subsea permafrost in Arctic Siberia
J. E. Vonk, L. Sánchez-García, B. E. van Dongen, V. Alling, D. Kosmach, A. Charkin, I. P. Semiletov, O. V. Dudarev, N. Shakhova, P. Roos, T. I. Eglinton, A. Andersson & Ö. Gustafsson
温暖化とともに永久凍土が融けると、それは大気へと大量の炭素を放出する。北極周辺の東シベリアに存在する世界最大の大陸棚(East Siberian Arctic Shelf; ESAS)の堆積物の露頭(Ice Complex Deposits)と海中の永久凍土層が大きな炭素の貯蔵庫となっているが、それらの融解や分解に対する脆弱性はよく分かっていない。近年の北極の温暖化は予想以上に早く進行しており、それらは特にESAS地域で顕著である。そのため、こうした極地における炭素放出と気候との関わりをよりよく理解することが急務となっている。本論文では、Ice Complex Depositsから放出される炭素量がESASにおける炭素放出の大部分を担っており、海や土壌から出てくる量を圧倒している。同位体を利用したモデリングから、ESASにおいて活性化している古い炭素は年間44 ± 10 TgCと推定され、従来の推定値よりも一桁多いことが分かった。うち3分の2が大気へと二酸化炭素として放出され、残りの3分の1は再び再堆積していると考えられる。この更新世に堆積した炭素に富んだ沿岸部と海洋底の地層が崩壊し、浸食されることにより、温暖化に対する北極の増幅機構がより強化されると考えられる。

Recent Antarctic Peninsula warming relative to Holocene climate and ice-shelf history
Robert Mulvaney, Nerilie J. Abram, Richard C. A. Hindmarsh, Carol Arrowsmith, Louise Fleet, Jack Triest, Louise C. Sime, Olivier Alemany & Susan Foord
ここ50年間で南極の温暖化と複数の棚氷の崩壊や氷河の後退が確認されているが、温暖化は東南極に顕著な特徴で、西南極ではあまり確認されておらず、西南極から得られる古気候記録は南極半島の気温を代表していない可能性があった。今回南極半島先端近くに位置するJames Ross島から得られたアイスコアの水素同位体(δD)から過去14kaの気温を復元したところ、南極の気温は完新世初期の温暖期のあと、9.2-2.5kaは比較的安定しており、その後2.5-0.6kaに寒冷期を迎え、この時に棚氷が発達したと考えられる。現在の温暖化のペースは明らかに自然の変動を逸脱している(前例がない)。現在間氷期の安定期と同程度にある気温が将来も上がり続けると、棚氷を不安定化させ、さらなる溶解へと導くと考えられる。またそうした不安定はより南下し南極半島の深奥部まで広がっていくだろう。