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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年9月30日日曜日

新着論文(BG)

Biogeosciences
16 May - 29 June 2012

A synthesis of carbon dioxide emissions from fossil-fuel combustion
R. J. Andres, T. A. Boden, F.-M. Bréon, P. Ciais, S. Davis, D. Erickson, J. S. Gregg, A. Jacobson, G. Marland, J. Miller, T. Oda, J. G. J. Olivier, M. R. Raupach, P. Rayner, and K. Treanton
化石燃料とセメント生産によって放出されるCO2の量について。
(1)何故関心が高まっているのか
(2)どのようにして計算されるのか
(3)どのように目録が作られているのか
(4)異なる空間・時間スケールでの全球的な・地域的な・国ごとの違い
(5)モデルではどのように輸送されるのか
(6)放出の異なる側面に伴う不確実性
などをまとめた。国家の中にはCO2排出削減に取り組むものや他の出来事の結果として排出が削減されてきたものも存在するものの、全球的なCO2排出量は増加し続けている。全球的なCO2排出量の見積もりに対する不確実性は10%以下であるが、個々の国家の不確実性は数%から50%以上に及ぶ。全体的な排出の特徴は分かってきたものの、まだ詳細に分かっていないことが多く残されている
※コメント
非常に興味深い内容だが、27ページとあまりに長いので読む気にならない…www

Marine bivalve shell geochemistry and ultrastructure from modern low pH environments: environmental effect versus experimental bias
S. Hahn, R. Rodolfo-Metalpa, E. Griesshaber, W. W. Schmahl, D. Buhl, J. M. Hall-Spencer, C. Baggini, K. T. Fehr, and A. Immenhauser
酸性化した海水に棲息する複数のイガイ(Mytilus galloprovincialis)の殻の酸素・炭素同位体と他の微量元素を測定し、古環境プロキシ(特に海洋酸性化)としての可能性を評価。さらに微細構造とも対比を行った。イタリアのCO2ベント(火山性のCO2が海底下で吹いているところ。周囲よりpHが低い)を活用してイガイを飼育し、成長後に殻の化学分析及び微細構造の観察を行った。野外での調査のため海水の「pH」だけでなく、「貝の代謝」「塩分」「水温」「食料」「個体密度」など様々な影響が含まれており、解釈が難しい

Does atmospheric CO2 seasonality play an important role in governing the air-sea flux of CO2?
P. R. Halloran
 大気中のCO2濃度の季節変動は主に陸域の生物圏のCO2交換によってもたらされており、海のCO2交換の寄与はわずかである。しかしながら海水のCO2交換は変化し続けている。陸源生物圏によるCO2の変動に影響するのは「人為起源CO2」「土地利用の変化」「地球軌道要素」などが考えられるが、将来のCO2の季節変化がどのように変化するかはこれまで調査されて来なかった。季節変化と炭素フィードバックを理解することは、それを修正する手段を考える上でも重要である。
 炭素循環を組み込んだ海洋循環モデルを用いて、海洋起源のCO2の季節変動を招く要因をオフライン実験を通して切り分けた。特に「海氷の張り出す範囲の季節性」「風速」「海水温」が中・高緯度において重要な因子であることが分かった。その中では生物ポンプとアルカリポンプが相反する方向に効いている。大気CO2に対する海水のCO2交換の寄与率はわずかで、海水の人為起源CO2のシンクとしての役割に与える影響はわずかと考えられる。

A global compilation of dissolved iron measurements: focus on distributions and processes in the Southern Ocean
A. Tagliabue, T. Mtshali, O. Aumont, A. R. Bowie, M. B. Klunder, A. N. Roychoudhury, and S. Swart
多くの海洋において植物プランクトンの成長を規定する微量元素として’鉄’は重要であるため、ここ数十年間の水柱の鉄の測定例は多く存在する。溶存鉄の13,000の測定結果をコンパイルし、特に鉄の炭素循環に与える影響が大きい南大洋に焦点を当てて解釈を行った。特に大西洋海盆と南極周辺で高い溶存鉄濃度が見られた。インド洋と亜南極周辺は表層と違い、深層の溶存鉄が多く、熱水活動の結果と解釈される。測定数が多いような海域でも溶存鉄の季節変動とそれを引き起こすメカニズムについては未だ謎に満ちている。単に生物による除去だけでなく、他のプロセスも関与していることが示唆される(外因性のインプット、物理的な輸送・混合、溶存鉄のリサイクル)。

Calcium carbonate production response to future ocean warming and acidification
A. J. Pinsonneault, H. D. Matthews, E. D. Galbraith, and A. Schmittner
 外洋に棲息する石灰化生物が将来の海洋酸性化にどのように応答するかは種ごとに異なり、予測には不確実性が大きい。同時に起きると考えられる温暖化が成長を促進することも予想されている。結果として、人為的なCO2排出が外洋の石灰化を促進するのか・抑制するのかについてはよく分かっていない。
 炭素循環を組み込んだEMICsを用いて将来の海洋の炭素循環をモデリング。不飽和度がアルカリ度に影響するようなケースでは炭酸塩埋没によって海水のアルカリ度が低下し、より海がCO2を吸収するように働く。結果としてAD3500年の地表面温度を0.4℃下げる効果がある。ただしモデルのバージョンが違うと異なる結果が得られ、不確実性の幅を低減するには石灰化生物の海洋酸性化と地球温暖化に対する応答をよりよく理解する必要がある。

Impact of rapid sea-ice reduction in the Arctic Ocean on the rate of ocean acidification
A. Yamamoto, M. Kawamiya, A. Ishida, Y. Yamanaka, and S. Watanabe
北極海においては海氷量の減少と人為的なCO2排出の両方が寄与して海洋酸性化が促進している。そのため北極海の海洋酸性化は特に海氷の減少速度に依存して将来も変化し続けると考えられる。IPCC AR4でも使用された気候モデルでも現在の北極海の海氷の減少速度は再現できていないが、海氷の減少速度が海洋酸性化に与える影響を評価するために、地球システムモデルの2つのバージョン(新・旧)を用いてモデリングを行った。新しい(古い)モデルは海氷の消失は2040年(2090年)に起きることを予想した。新しい(古い)モデルは大気中のCO2濃度が2046(2056)年に513(606)ppmに達し、北極海の海洋表層水がアラゴナイトに関して不飽和になることを予想した。海氷だけでなく、淡水流入量の増加もCO2吸収を促進する効果がある。また将来の海洋酸性化は海氷の減少速度に大きく依存することが分かった。現在の速さで海氷が消失すれば、海洋酸性化もかなり早く進行するかも?
※コメント
北極海の海氷減少が中緯度の異常気象に影響していることも近年分かってきましたが、温暖化+酸性化した海水が大西洋や太平洋へと移流することで気候・生態系への影響はどうなるでしょうね?北極海のシロクマやグリーンランドのカレイへの影響に限らず、様々な海域でその影響が出てきそうです。地球システムを考える上で高緯度の気候状態は筆舌に尽くし難いほど重要です。

2012年9月29日土曜日

新着論文(Science#6102)

Science
VOL 337, ISSUE 6102, PAGES 1573-1716 (28 SEPTEMBER 2012)

Editors' Choice
Conservation Calculation
生物保全の計算
Ecol. Lett.15, 10.1111/j.1461-0248.2012.01847.x (2012).
生物多様性の保護にはお金がかかる。長期的に生息域の保護・保全を行うには投資が必要であり、また土地の確保にも費用がかかる。保護の優先度を設定する場合、生物多様性の価値(種数、絶滅に対する危険度)や環境の健全度(森林や水の質)などは考慮されるものの、経済的なコストと投資に対する見返りが考慮されることは少ない。それらも考慮されたモデルが最近開発され、そうしたアプローチの仕方は保全の努力を改善することが期待される。もちろん地域的なイニシアチブが根本的に重要であることは言うまでもない。

A Drop in the Ocean
海における低下
Geophys. Res. Lett. 10.1029/2012GL053055 (2012).
130年間にわたる観測では海水準は年間1.7mmの割合で上昇しつつあり、特に過去20年間では年間3mmの上昇速度であることが分かっている。気候が温暖になるほど氷床・氷河の融解によって淡水が海に流入し、また熱膨張によって海水そのものが膨張することでも海水準は上昇するため、将来も海水準は上昇し続けるという予測がなされている。しかしそれは自然変動に覆い被さる形で存在しており、ENSOのような大気海洋の変動によっても変化する。Boeningほかは2010-2011年には全球の海水準は5mm低下したことを報告している。原因として考えられているのは、2009-2010年の強いエルニーニョから2010-2011年の強いラニーニャへと変化した結果全球の降水が変化し、陸水の貯蔵量が増加したことが原因として考えられる(特にオーストラリア・南米北部・東南アジア)。しかし海水準低下は一時的なもので、陸水はそのうち海へと帰るだろう。

The 2011 La Niña: So Strong, the Oceans Fell
Carmen Boening, Josh K. Willis, Felix Wolfram Landerer, R. Steven Nerem, John Fasullo (in press)

A Positive Influence
正の影響
Astrophys. J. 757, L26 (2012).
多くの銀河が中心にブラックホールを持つと考えられているが、それらブラックホールの存在が周囲の星の進化に正の影響を与えているのか、負の影響を与えているのかについては議論が分かれている。NASAのSpitzer宇宙望遠鏡を用いたスペクトル分布の観測から、中心にブラックホールを有する3つの巨大な銀河については非常に早く成長していることが分かった。少なくとも大きな銀河については、大きなブラックホールが銀河の中心で成長していても星は活発に成長できることが分かった。

Around the World
France, E.U. to Review Controversial GM Food Study
フランス、EUは遺伝子組み換え食品に関する研究の議論をレビューする予定
遺伝子組み換えのトウモロコシが腫瘍や死を招くというマウスの実験は多くの研究者によって酷評されたが、政治的には大きなインパクトがあった。Gilles- Eric Séralini率いる研究チームは、2年間遺伝子組み換えトウモロコシを与えられたマウスは普通の餌を与えられているマウスよりも早死にし、また腫瘍やホルモンバランスの崩れに悩まされた、と報告している。しかしながらこの研究は重篤な統計上の誤りや、その他の問題があるという批判が存在する。フランスでは数名のジャーナリストがこの実験結果を他の科学者が読むのを妨げた結果、批判的な意見が述べらないまま公表されてしまった。現在フランスの2つの機関とヨーロッパ食品安全機関がこの研究を調査している。その一方、「カリフォルニアの遺伝子組み換え食品すべてにラベリングを付ける法案」は活気づいている。

Mann Wins Latest Climate Court Battle
Michael Mannは最近の気候に関する裁判に勝利した
Pennsylvania州立大学の気候学者、Michael Mannは彼がVirginia州立大学の教授を務めていた時の電子メールや書簡をすべて公表するよう求めていたAmerican Tradition Instituteとの裁判に勝利した。裁判官はその必要はないと結論したが、裁判はさらに上の裁判所に控訴されている。

Dispute Over Islets Threatens Scientific Exchanges—Again
小島を巡る議論が再び科学的な交換を脅かしている
東シナ海の無人島(尖閣諸島)の領有権を巡る議論が日中の科学協力を再度落ち込ませている。 中国科学技術協会とその傘下の160以上の専門家の団体は日本の尖閣諸島の国有化を強く非難している。また9月の中国と日本の大学のフェアとフォーラムは延期するよう要請している、さらに日本のトキの保護プログラムに対するトキ(crested ibises)の寄贈も延期するよう計画している。

Mouse Saves Its Skin By Shedding It
マウスは切り離すことで自分自身の皮膚を守る
トビネズミ(African spiny mice)は背中の皮膚を60%失っても生き残ることができる。彼らの皮膚は補食者に噛まれてもすぐに逃げ出せるように剥がれやすいようにできており、それだけでなく直ちに毛穴や体毛腺を回復できる能力も持っている。これは他のほ乳類にはできないことである。そうした戦略はトカゲ類にも似たものが見られるが、体表の外側の部分だけを脱ぐだけである。しかしトビネズミは筋肉を残して皮膚全体を脱落させており、回復はよりいっそう大変なプロセスである。人間への応用に期待。

News & Analysis
Ice-Free Arctic Sea May Be Years, Not Decades, Away
海氷のない北極海は数十年先ではなく数年先かもしれない
Richard A. Kerr
北極海の夏の海氷は研究者の予想を遥かに超えた速度で減少しており、誰の目にも残り数年で完全に消失してしまいそうな印象を与えている。「ホッキョクグマの絶滅」から「中緯度域の異常気象の増加」まで、人の一生において訪れる可能性が出てきた。どの最新の気候モデルもこれほど速い海氷の融解を予測していなかったが、モデルのどの部分が間違っているのかについてはまだ議論が閉じていない。モデルでは「今世紀末に消失する」という予測がなされていたが、「2030年から2040年の間に消失する」と予測する研究者、「2020年までに消失する」と予測する科学者もいる。人工衛星観測では海氷の面積は分かるが、海氷の厚さについては現場観測を行うよりほかない。限られた観測結果をもとに海氷の体積を計算すると、1979年に比べて2012年の海氷量は76%も減少しているらしい。海氷の性質は明らかに変化しており、夏の嵐や温度上昇に対する脆弱性もますます増している。また海氷が融けることでより太陽光が海水に吸収され、温度上昇に寄与していると考えられている(正のフィードバック)。こうした変化し続ける海氷の性質をモデルに組み込む努力がなされている。

Turning From War to Peace in Papua New Guinea
パプアニューギニアにおける戦争から平和への転換
Elizabeth Culotta
暴力的な闘争で悪名高いパプアニューギニアの一族が驚くことに平和へと向かっていると研究者は報告している。

News Focus
Roots of Empire
帝国の起源
Mara Hvistendahl
モンゴルにおける古気候記録はチンギス・ハンを駆り立てた予想だにしない状態を記録している。

Where Asia's Monsoons Go to Die
アジアモンスーンはどこで死に絶えたのか
Christina Larson
過去の気候状態を復元するためにアジア全土で木の年輪の試料が採取されている。

Letters
Curiosity and Contamination
キュリオシティーと汚染
Jeffrey L. Bada
R. A. KerrがNews Focusに宛てた記事("In the hunter for the red planet's dirtiest secret" 31 August, pp.1032)では火星起源の有機物をGCMSで分析することについて述べられているが、探査機由来のコンタミ(潤滑油、樹脂、排気ガスなど)という重要な問題については触れられていない。キュリオシティー搭載のSample Analyses at Mars (SAM)の検出限界は数ppbであり、わずかなコンタミが分析結果に影響する。火星の物質をしっかりと検出するにはコンタミをきちんと議論する必要がある。

Religiously Protecting Myanmar's Environment
宗教的に保護されているミャンマーの環境
Kwek Y. Chong
先日ダライラマが初めて仏教徒として初めて気候変動に対する声明を出した。ミャンマー・タイ・チベットなどの仏教国においては修道僧が非常に尊敬されているが、仏教の考えでは「万物は相互作用して」おり、そうした考え方は環境保護を訴える科学者の考えと一致するものである。宗教は科学の力が及ばないところで非常に大きな求心力がある

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Perspectives
Suppression of Sleep for Mating
交尾のための睡眠の抑制
Jerome M. Siegel
動物の睡眠パターンは環境によって決定されており、適応の結果である。

How Oblate Is the Sun?
太陽はどれくらい扁球なのだろうか?
Douglas Gough
太陽は現在理解されているよりも丸いことが最近の測定から分かった。

Insecticide Resistance After Silent Spring
沈黙の春の後の殺虫剤に対する耐性
David G. Heckel
殺虫剤に耐性のある昆虫との戦いは伝統的な作物・遺伝子組み換え作物の両方に対しての挑戦であり続けている。

Life in a Contaminated World
汚染された世界における生活
Louis J. Guillette Jr. and Taisen Iguchi
殺虫剤や他の化学物質に長期間さらされることで複雑で長期的な健康被害が生じる。

Research Articles
Out of the Tropics: The Pacific, Great Basin Lakes, and Late Pleistocene Water Cycle in the Western United States
熱帯から:太平洋、Great Basin湖、そしてアメリカ西海岸の更新世後期の水循環
Mitchell Lyle, Linda Heusser, Christina Ravelo, Masanobu Yamamoto, John Barron, Noah S. Diffenbaugh, Timothy Herbert, and Dyke Andreasen
 氷期-間氷期サイクルでアメリカ西部の水循環は劇的に変化した。過去20kaの中では高い降水量が(現在は干上がってしまった)砂漠湖(desert lake)を形成した。こうした降水量の増加は太平洋の冬の低気圧の通り道が南側にシフトした結果と従来考えられてきた。
 アメリカ西海岸で得られた堆積物コアのアルケノン古水温計と放散虫群集組成を用いてLGM以降の海水面温度を復元し、それと過去の湖の古水面とを比較。Great Basinにおける湖の古水面が最も高い位置にあった時期はアメリカ西海岸の湿潤期よりも古いことが分かり、西からもたらされる降水は古水面上昇の原因ではなかった可能性が高い。カリフォルニア周辺を乾燥させたままGreat Basinのみを湿潤にするには赤道太平洋を起源とする水蒸気を運ぶ必要がある。最終退氷期の気候変動によって降水のもととなる水蒸気の生成域が変化し、地域的な水循環を大きく変えたと考えられる。

Reports
The Precise Solar Shape and Its Variability
正確な太陽の形とその変動
J. R. Kuhn, R. Bush, M. Emilio, and I. F. Scholl
 太陽の正確な外縁の形は半世紀もの間正確には測定されておらず、太陽内部のプロセスや太陽大気の変化に応じてわずかながら変化していると予想されている。
 NASAのSolar Dynamics Observatoryの長期観測結果は、太陽の形はほとんど不変で、表面で顕著に見られる11年周期でも変化していないことを示している。

Adaptive Sleep Loss in Polygynous Pectoral Sandpipers
一夫多妻のアメリカウズラシギの適応行動的な睡眠不足
John A. Lesku, Niels C. Rattenborg, Mihai Valcu, Alexei L. Vyssotski, Sylvia Kuhn, Franz Kuemmeth, Wolfgang Heidrich, and Bart Kempenaers
 睡眠という行動の機能についてはよく理解されていない。「脳の機能を向上させるための回復過程」、「エネルギーを節約するための適応戦略」などの案が提唱されている。後者の仮説の下では起きた状態で生物活動を営む必要がある場合には睡眠を減らすことができるように生物は進化してきたはずである。
 オスのアメリカウズラシギ(pectoral sandpiper; Calidris melanotos)はオス同士のメス争いを行い、いつでも交尾できるように、3週間ものあいだ睡眠時間を削減しながらも脳の活性を維持できるらしい。つまり睡眠時間が短いほど子孫を多く持つことができる。この観測事実は「睡眠不足による(脳の)機能低下を抑える」という適応戦略に対して疑問を投げかけるものである。

2012年9月28日金曜日

新着論文(Nature#7417)

Nature
Volume 489 Number 7417 pp473-596 (27 September 2012)

EDITORIALS
A second wind for the president
大統領に対する2回目の追い風
気候変動緩和に取り組むリーダーシップが不足している。アメリカ大統領・バラクオバマ氏が2回目の大統領選に勝利したら、果たして彼は気候変動に取り組むエネルギーを得られるのだろうか?

RESEARCH HIGHLIGHTS
Artificial marshes fall short
人工の湿地は上手くいかない
J. Appl. Ecol. http://dx.doi.org/10.1111/j.1365- 2664.2012.02198.x (2012)
人工の塩沢(salt marsh)は自然のものに比べて生物多様性が少ない。EUでは失われた沿岸の塩沢を復元しなければならないという条例を制定したが、うまく元の状態には戻すことができず失敗に終わっている。別途必要な植物を植える必要がある。

Symbiosis may fertilize seas
共生は海を豊かにするかもしれない
Science 337, 1546–1550 (2012)
通常では考えられない単細胞の藻類とシアノバクテリアとの共生関係は海洋生物の窒素の重要な供給源として寄与しており、光合成を行う生物がどのように進化してきたのかを解き明かすカギとなるかもしれない。光合成と代謝に関する遺伝子に欠落したシアノバクテリアの遺伝子を調べたところ、窒素を他の生物が利用できる形に変換できることが分かった。そこで共生している生物を特定したところ、単細胞の藻類であることが分かった。共生は全球の炭素・窒素循環にとって必要不可欠であり、植物が葉緑体を得るまでの進化の過程を解き明かせるかもしれない。

Arctic snow lost faster than ice
北極の雪は氷よりも早く失われている
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi. org/10.1029/2012GL053387 (2012)
北極における積雪の低下速度は海氷の融解速度よりも早いらしい。1979年から現在にかけての4-6月の積雪量と海氷量を比較したところ、それぞれ10年に20%、10%の割合で失われているという。最新の気候モデルは2005年以降の加速的な積雪・海氷量の低下を低く見積もっていると筆者らは指摘している。

Salamanders heal like embryos grow
サンショウウオは胚細胞が育つように治癒する
Dev. Biol. 370, 42–51 (2012)
失われた四肢を回復することで知られるウーパールーパー(Mexican axolotl salamander)は、胚細胞が成長するように切断面に細胞をプログラムし直すことで四肢を回復しているのかもしれない。四肢を切断されたサンショウウオ(Ambystoma mexicanum)は四肢の回復の過程でPL1とPL2と呼ばれる遺伝子(精子と卵、胚細胞に見られる)を発現させていることが分かった。表皮の傷だけではそうした遺伝子は発現しなかった。PL1とPL2の生成を阻害したところ、細胞の壊死と四肢の成長阻害が確認されたという。人間の四肢の回復にもこの知見が応用できるかもしれない。

SEVEN DAYS
Stem-cell funds
幹細胞の基金
ヨーロッパ議会は人間の幹細胞を用いた研究で特許を取得できないものに対して、European Union’s upcoming Horizon 2020 research programmeの支援はすべきでないという推奨をしている。

Rainforest threat
熱帯雨林の脅威
ブラジルにおける熱帯雨林の破壊が再び増加した。2011年の4月以来、低下傾向にあったが、今年の8月の伐採量が去年よりも増加した模様。

First light for dark-energy lens
ダークエナジーのレンズに対する最初の光
ダークエナジーを捉えるために開発されたカメラが9/12に初めてその光を捉えた。そのカメラはチリに設置された4mのBlanco望遠鏡で、昨年12月に終了する予定のテスト段階であった。

Arsenic in rice
米の中のヒ素
9/19のアメリカの消費者組合とアメリカ食品医薬品局の報告書の中で、米の中に無機的なヒ素が検出されたと報告された。過去に綿花栽培に使用されていた殺虫剤が原因として考えられる。

Arctic drilling stops
北極の掘削が中止に
アラスカの沿岸部において石油と天然ガス資源を掘削する石油会社・Shellの計画が中止に。Arctic Challengerの石油タンクの損傷が原因だという。この掘削自体は安全面での要求を満たさないため今後掘削が行われることはないが、代わりにChukchi海における掘削孔の準備は継続して行われると思われる(ただし2013年まで延期されている)。

TREND WATCH
Shrinking Arctic Sea Ice
縮小する北極の海氷
北極の海氷量はこの夏(9/16)に33年間の衛星観測期間内で、少なくともここ5,000年間で、最低の量になった。海氷の覆っている面積は北極海の15%であるという。

CORRESPONDENCE
Redirect research to control coffee pest
コーヒーの害虫をコントロールするために研究の方向を転換する
Francisco Infante, Jeanneth Pérez & Fernando E. Vega
コーヒーの実に穴をあける害虫(Hypothenemus hampei)は1913年にブラジルに侵入し、その後南米や中央アメリカ、メキシコ、カリブ海などにも侵入し、現在も莫大な損害を与えている。これまでに1,600もの関連する論文が出版されたものの、実用的な成果は得られておらず、研究の方向性を変える必要がある。

Follow the money on climate controversy
Thomas E. DeCoursey
Dan Kahanによる「気候変動の矛盾」に対する考察(Nature 488, 255; 2012)は非常に洞察に富んでいるが、一つだけ欠けている視点が存在する。それは「金銭」である。気候変動の矛盾は非常に狭い裕福層によって作られてきた。例えば石油やその副産物産業が彼らを非常に裕福にし、それが「化石燃料の使用が気候変動の原因である」とする考えにヤジを飛ばすきっかけとなっている。非常に大きな富に支えられたキャンペーンによって科学コミュニケーション環境が侵されており、民衆が餌食となっている。またアメリカの最高裁判所もキャンペーンに対し出費を惜しまないと宣言し、間接的にキャンペーンを支援しているのである。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Skin, heal thyself
皮膚よ、自らを治せ
Elly M. Tanaka
トゲマウス(African spiny mouse)は、単に掴まれただけで背中の皮膚が最大60%剥がれて失くなってしまう。このネズミの驚くべき切断・治癒能力を調べることで、組織再生機構についての手がかりが得られる。

LETTERS
Ocean oxygenation in the wake of the Marinoan glaciation
Marinoan氷河期に続く、海洋の酸素化
Swapan K. Sahoo, Noah J. Planavsky, Brian Kendall, Xinqiang Wang, Xiaoying Shi, Clint Scott, Ariel D. Anbar, Timothy W. Lyons & Ganqing Jiang
 後生動物の祖先はCryogenian に現れたと思われるが、Cryogenian後期(マリノアン氷河期)の氷河作用が終わった少し後の約6億3500万年前に、新種の動物と藻類の化石の出現が著しく増加している。過酷なマリノアン氷河期の後に起きた酸素化イベントが、後生動物のこのような初期の多様化と生態系の複雑さの変化を駆動した要因であると示唆されてきた。しかし、マリノアン氷河期の後の海洋と大気の酸素の増加の証拠や、初期の動物進化と一般的な酸化還元状態の直接的な関連を示す証拠はほとんどない。そのため、初期の生物進化の傾向と地球システムの過程の変化に結びつけるモデルは依然として議論の的になっている。
 中国南部のドゥシャンツァオ累層基部から得られたエディアカラ紀初期(約6億3500万~6億3000万年前)の有機物に富んだ黒色頁岩のモリブデンとバナジウム濃度が高く、また黄鉄鉱の硫黄同位体の値が低い(Δ34Sの値が65 ‰以上)ことは、広く酸素化された海洋に応答して、酸化還元状態に敏感な金属と硫黄の海洋への蓄積量が増大したことを示している。これらはエディアカラ紀初期の酸素化イベントの証拠を示すものであり、マリノアン氷河期以後の酸素化に対するこれまでの推定よりも5000万年以上先行している。今回の知見は、「地球の歴史における最も厳しい氷河作用」、「地球の表層環境の酸素化」、「動物の最も初期の多様化」の間の関連を裏付けていると思われる。

Response of salt-marsh carbon accumulation to climate change
気候変動に対する塩沢の炭素蓄積の応答
Matthew L. Kirwan & Simon M. Mudd
 海洋における炭素の年間埋没量のうち約半分は浅海生態系で生じている。気候変動に対する陸域と深海の炭素リザーバーの感度は数十年間にわたって研究されてきたが、沿岸部の炭素蓄積速度が今後気候の変化とともにどのように変化し、フィードバックする可能性があるかに関してはほとんど理解されていない。
 生物生産や有機物分解の近年の測定結果をもとに塩沼の進化の数値モデルを開発し、「鉱物の土砂堆積」と「有機物の蓄積」との競合が炭素蓄積における正味の影響を決めることが分かった。海水準上昇の増加速度が大きくなるにつれて温暖化の影響が大きくなるが、温暖化が土壌炭素の蓄積速度へ与える直接的な影響は海水準上昇の影響よりもわずかである。今回のシミュレーション結果から、気候変動は21世紀前半においては炭素の埋没速度を増加させるが、炭素-気候フィードバックは時間とともに減少する可能性があることが示唆される。

Delayed phenology and reduced fitness associated with climate change in a wild hibernator
野生の冬眠動物に見られる気候変動に関連した生物季節学的な特性と適応能力の低下
Jeffrey E. Lane, Loeske E. B. Kruuk, Anne Charmantier, Jan O. Murie & F. Stephen Dobson
 気候変動が生態に及ぼす影響として最も多く報告されているのは、生物季節の変化であり、特に春季の気温上昇関連した事象の前倒しである。しかし動物では、鳥類はよく調べられているものの、哺乳類の冬眠などに関して知られているものはまだ比較的少ない。
 カナダのアルバータ州に生息するメスのコロンビアジリス(Columbian ground squirrel)の冬眠明けが20年間に渡って遅れ続けていることが分かった。それは温暖化による温度上昇というよりは気候状態の変化に関係していると考えられる。春季の気温には有意な温暖化傾向は認められなかったが、時季遅れの吹雪が多くなったために雪解けの時期はしだいに遅くなってきている。また個体の適応度(個体数)も低下傾向にあるという。気温上昇以外にも気候の変化が個体の適応度を低下させ、個体そのものの生存能力を低下させる可能性があることが示唆される。

Evidence for dietary change but not landscape use in South African early hominins
南アフリカの初期人類の土地利用の変化ではなく食事の変化の証拠
Vincent Balter, José Braga, Philippe Télouk & J. Francis Thackeray
 初期のヒト属の歯のエナメルのSr/Ca、Ba/Ca、87Sr/86SrをLA-ICPMSで分析したところ、行動圏の広さがヒト属(Homo)、パラントロプス属(Paranthropus)、アウストラロピテクス属(Australopithecus)で同程度であったのに対し、食事の幅広さはアウストラロピテクス属が他に比べてはるかに大きかったことが分かった。またパラントロプス属は植物系の食料に対する依存度がヒト属よりも大きかった。

2012年9月27日木曜日

新着論文(GCA)

GCA

☆Volume 94, Pages 1-290, 1 October 2012
Incorporation of magnesium into fish otoliths: Determining contribution from water and diet
S.H. Woodcock, A.R. Munro, D.A. Crook, B.M. Gillanders
マグネシウムが淡水に生息する魚(小型のニベ類; silver perch; Bidyanus bidyanus)の耳石(アラゴナイトでできている)にどのように取り込まれ、また環境記録として適しているかを調査。30日間Mg濃度を変化させた海水中で飼育実験を行い、餌も26Mgを5段階に濃度調整したものを与え、耳石に海水と餌のどちらのMgが取り込まれているかを調べた。実験後にNd-Yag-UVレーザーを用いたスポット分析でICPMSを用いて気化させ、Mgの質量分析。餌のMg同位体に応じて耳石のMg同位体も変化したが、それほど大きな寄与ではなく、水のMgが8割取り込まれていると考えられる。しかしながら水のMg濃度の変化に対しても耳石の濃度変化は見られず、Mg濃度は生理学的に制御されており、信頼できる環境記録にはならないことを示している。

Sources and input mechanisms of hafnium and neodymium in surface waters of the Atlantic sector of the Southern Ocean
Torben Stichel, Martin Frank, Jörg Rickli, Ed C. Hathorne, Brian A. Haley, Catherine Jeandel, Catherine Pradoux
ネオジウムとハフニウムの放射性元素は海洋循環のトレーサーとして非常に重要なツールの一つである。南大洋の大西洋セクター(ドレーク海峡・ウェッデル海)の表層水のそれぞれの同位体と濃度を測定。濃度はほとんど同じだが、ケープタウン近くでNd濃度が上昇し、南米大陸の風化起源のものが入ってきていると考えられる。またSTFやPFの近くでNdとHfの濃度が低下し、陸源物質が運ばれてこないことと、生物源オパールに沈着したスカベンジングが効果的に機能して除去されていることが原因として考えられる。Nd同位体はだいたい均質で、ケープタウン近くでアグルハス海流によって運ばれた水塊との混合も見られる。Hf同位体もだいたい同じような値を示す。南大洋のNd同位体は感度が良く、風化起源の水塊トレーサーとして使えるかも。

Rare earth element association with foraminifera
Natalie L. Roberts, Alexander M. Piotrowski, Henry Elderfield, Timothy I. Eglinton, Michael W. Lomas
深海底に堆積後の有孔虫の殻に沈着するネオジウム同位体は海水の供給源や流れる方向を復元できるツールとして古海洋学において広く用いられている。しかしながら殻におけるレアアースの分布や酸化還元状態に対する動態などはよく分かっていない。大西洋におけるプランクトン網・沈降粒子トラップ・堆積物コアから得られた様々な浮遊性有孔虫の殻のネオジウム同位体を測定。水柱中でいつ・どのようにしてネオジウムが殻に沈着するのかを調査。2割は生物源でカルサイ結晶格子中に取り込まれているが、残りの8割は水塊中を沈降しながら何度も交換を繰り返し、平衡に達した状態で金属酸化物や有機物に取り込まれている。つまり、沈降中の再溶融によって海水とのネオジウム同位体の交換をしていることになる。堆積物と海水の境界におけるレアアース濃度が最も高く(約10倍)、レアアースが底層水のレアアースの同位体を記録していると考えられる。吸着か複雑なイオンの形で殻の内部に取り込まれている?間隙水中では酸素濃度に応じて還元状態に敏感なイオンほど変化してしまう。それほど敏感でないイオン(例えば3価のレアアース)もある程度は変化してしまう。ネオジウム同位体については底層水の同位体を保存していると考えられる。底層の環境によってはネオジウム同位体が保存されないものが存在するため、ダウンコア記録(深部に保存されている化石の浮遊性有孔虫殻)を解釈する前に、コアサイトを精査することが必要である。

☆Volume 93,  Pages 1-314, 15 September 2012
Strontium isotope fractionation of planktic foraminifera and inorganic calcite
Florian Böhm, Anton Eisenhauer, Jianwu Tang, Martin Dietzel, Andre Krabbenhöft, Basak Kisakürek, Christian Horn
沈殿実験によって水とカルサイトのSr同位体の同位体分別を調査。沈殿速度に大きく依存することが分かった。またカリブ海の完新世に相当するコアトップの堆積物から採取された2種類の浮遊性有孔虫(G. ruberとG.sacclifer)の殻のSr同位体はそれぞれ大きく異なる値を示し、サンゴと同じ程度に早いカルサイトの沈殿速度による同位体分別が原因と考えられる。

☆Volume 92,  Pages 1-344, 1 September 2012
特になし

☆Volume 91,  Pages 1-322, 15 August 2012
特になし

☆Volume 90,  Pages 1-322, 1 August 2012
What can paired measurements of Th isotope activity and particle concentration tell us about particle cycling in the ocean?
Olivier Marchal, Phoebe J. Lam
GEOTRACES計画の下で採取された様々な海域における沈降粒子の濃度とThの同位体との関係を調査。水柱における溶存態のものや大小の粒子における濃度をモデリングし、観測と最少二乗法で擦り合わせ。鉛直方向のサンプリングが密に行われているものほど相対的な誤差が小さくなる。海水中の沈降粒子を研究する際には228Th、2230Th、234Thすべての同位体を測定するだけでなく、228Raや濾過した粒子も併せて測定することを推奨する。

2012年9月26日水曜日

新着論文(GRL, G3, PO)

GRL

Microbial control of diatom bloom dynamics in the open ocean
Philip W. Boyd, Robert Strzepek, Steve Chiswell, Hoe Chang, Jennifer M. DeBruyn, Michael Ellwood, Sean Keenan, Andrew L. King, Elisabeth W. Maas, Scott Nodder, Sylvia G. Sander, Philip Sutton, Benjamin S. Twining, Steven W. Wilhelm and David A. Hutchins
珪藻のブルーミングの始まりは海洋の状態によって決まっているが、その規模や持続期間については環境と生態的な要素が決めている。ニュージーランド沖の調査から鉄がブルーミングの制限要因になっていること、溶存鉄を他の生物(微生物や他の小さな植物プランクトン)と競合していることが分かった。珪藻のブルーミングは大量の炭素を深海に輸送するため、生物地球化学的な炭素循環の点でも非常に重要。

Linking the 8.2 ka event and its freshwater forcing in the Labrador Sea
Jeremy S. Hoffman, Anders E. Carlson, Kelsey Winsor, Gary P. Klinkhammer, Allegra N. LeGrande, John T. Andrews and Jeffrey C. Strasser
8.2kaイベントのきっかけとなった、アガシ湖の決壊由来の淡水の北大西洋への流入はラブラドル海においてはδ18Oの変化として確認されていなかった。Mg/Caから水温を復元したところ、3℃の温度低下が見られ、およそ1‰δ18Oを変化させていたことがシグナルを見えにくくさせていた原因と考えられる。

Sensitivity of the ocean's deep overturning circulation to easterly Antarctic winds
Andrew L. Stewart and Andrew F. Thompson
南極の大陸棚において吹く偏東風が子午面循環に与える影響を評価。特にAABWの形成(炭素や酸素を深層に運搬する)に重要。渦を解像できるモデルを用いて南大洋における子午面循環と中緯度の偏西風との関係を見てみたところ、局周辺の偏東風には敏感に応答するものの、中緯度の偏西風にはあまり敏感には反応しないことが分かった。過去と未来を復元・予想するには現在の知見を深めることが重要だと考えられる。

Evolution of the global wind wave climate in CMIP5 experiments
M. Dobrynin, J. Murawsky and S. Yang
風波は風によって駆動される波であり、気候変動によっても自然変動によっても変動している。地球システムモデルを用いて過去250年間の風速と波の高さの変動を復元。将来南大洋と北極海の波は高くなるが、一方で太平洋の波は低くなると考えられる。現在波の高さは全球的に自然変動の範疇にあるが、北極海と南大洋に関しては有為に自然の変動からは外れている。極端な風と波が南半球、インド洋、北極海でより支配的になると考えられる。また弱い・中程度の風が北大西洋。大西洋赤道域・太平洋において卓越すると考えられる。

Changes in orographic precipitation patterns caused by a shift from snow to rain
Tamlin M. Pavelsky, Stefan Sobolowski, Sarah B. Kapnick and Jason B. Barnes
温暖化によって山岳地帯の降雪は降雨へと徐々に変化すると考えられるが、雨は雪よりも重いため、早く地面に達し、また移流によって運ばれにくい。そのため気候変動によって降雨の分布も変化すると考えられる。カリフォルニアを対象にしたモデルシミュレーションで(1)雨と雪のフルスピードを同じにした実験と(2)すべての降雨現象は液体で起きるようにした実験によって将来の気候変動の与えうる影響を評価。どちらの実験でも雨の影がおよそ30-60%深くなり(降雨の増加と同義?)、特にSierra Nevadaの山脈の西で降水が強化されたという。

G3

An experimental evaluation of the use of C3 δ13C plant tissue as a proxy for the paleoatmospheric δ13CO2 signature of air
B. H. Lomax, C. A. Knight and J. A. Lake
大気中の二酸化炭素中の炭素同位体(δ13C)が植物の葉の細胞のδ13Cに保存されている可能性について。水をコントロールして異なるCO2濃度下でモデル植物を飼育。有為な関係は見られたが、計算によって予測した値とは大きな食い違いが見られた。代謝プロセス(特に気孔の開閉)がシグナルを大きく歪めていると考えられる。

Paleoceanography

Pleistocene equatorial Pacific dynamics inferred from the zonal asymmetry in sedimentary nitrogen isotopes
Patrick A. Rafter and Christopher D. Charles
赤道太平洋の東と西で得られた2本の堆積物コアのバルク堆積物δ15Nを用いて過去1.2Maの海洋表層の生物活動及び物理循環を復元。東赤道太平洋の栄養塩の湧昇(窒素利用効率)は地域的な季節日射量の変動に強く支配されていることが分かった。また10万年周期は顕著には見られない。将来の熱帯太平洋の生物活動は割と予想できるかも?

2012年9月24日月曜日

新着論文(PO)

Paleoceanography
4 - 31 Aug 2012

The role of ocean cooling in setting glacial southern source bottom water salinity
Miller, M. D., J. F. Adkins, D. Menemenlis, and M. P. Schodlok
氷期には北を起源とする底層水と南を起源とする底層水の塩分濃度は現在と比べて逆転していた。さらに、Glacial Southern Source Bottom Water (GSSBW)はAAIWよりも塩分濃度が高かったことが知られている。棚氷の割れ目や海氷を組み込んだモデルから、ウェッデル海における結氷や海氷の融解プロセスを復元し、感度実験を行った。温度低下が塩分の違いの30%程度を説明できるらしい。LGMには沈み込みが起きていた場所が地理的に変化していた可能性がある。

High interglacial diatom paleoproductivity in the westernmost Indo-Pacific Warm Pool during the past 130,000 years
Romero, O. E., M. Mohtadi, P. Helmke, and D. Hebbeln
スマトラ島南部で採取された堆積物コアの珪藻の群集組成から過去130kaの古環境を復元。珪藻による生物生産は間氷期に高く、氷期に低く、海水準変動に伴う砕屑物や栄養塩の流入量の変動が原因として考えられる。MIS5には夏の日射量と湧昇(モンスーン性の風によって駆動される)が同期して変動していた?

On the relationship between Nd isotopic composition and ocean overturning circulation in idealized freshwater discharge events
Rempfer, J., T. F. Stocker, F. Joos, and J.-C. Dutay
気候モデルを用いて深層水循環と海水のεNdの変化を初めて再現。北大西洋よ南大洋に淡水の擾乱を与え、NADWとAAIWをそれぞれ変化させたところ、εNdのエンドメンバーの変動は比較的小さいことが分かった。またそれぞれの実験で太平洋と大西洋の深層水のεNdの変動は全く逆の挙動を示した。また沈降粒子の及ぼす影響も小さかった。εNdはAMOCの変動の復元に使えそう。

Millennial-scale glacial meltwater pulses and their effect on the spatiotemporal benthic δ18O variability
Friedrich, T., and A. Timmermann
AMOCの千年スケールの変動が全球の海水のδ18Oに与える影響がどのように伝播するかを地球システムモデルで調査。AMOCを大きく弱化させた場合、大西洋と太平洋の深層水のδ18Oのラグはそれほど大きく変化しなかった。一方AMOCを完全に止めた場合には特に太平洋の深層でδ18Oの変化の伝播が見られた。従って、全球の海洋循環が変化しているような時期は底性有孔虫のδ18Oの変動曲線は時間軸を与えるレファレンスとしては役に立たないことが分かった。地域的なラグの効果も考えると、底性有孔虫のδ18Oから海水準・温度・水循環の変化を復元する際には大きな不確実性が付随すると考えられる。

High-resolution reconstruction of southwest Atlantic sea-ice and its role in the carbon cycle during marine isotope stages 3 and 2
Collins, L. G., J. Pike, C. S. Allen, and D. A. Hodgson
氷期においては海氷の張り出しが南大洋における二酸化炭素のガス交換を支配していたと考えられている。しかし過去の海氷を復元できる高時間解像度の指標は限られている。大西洋南東部のScotia海から得られた堆積物コア中の珪藻から過去35-15kaの海氷を復元。LGMには現在よりも3º北側に海氷の北限がシフトしていた。また31-23.5kaに季節海氷は現在よりも12ºも北側にシフトしていた可能性がある。南大洋の海氷が特に蓋としての役割を通して海洋の鉛直方向の物理循環を大きく変化させた可能性があるが、アイスコアのCO2記録とはあまり整合的でないため、この海域は炭素循環においてはあまり重要な役割は果たしていなかったかも。

Decadal- to centennial-scale tropical Atlantic climate variability across a Dansgaard-Oeschger cycle
Hertzberg, J. E., D. E. Black, L. C. Peterson, R. C. Thunell, and G. H. Haug
低緯度における高時間解像度の堆積物コアによる古気候記録は限られている。カリアコ海盆の超高時間解像度(2〜3年)の堆積物中の有孔虫の群集組成解析からD/OサイクルのDO12における大西洋低緯度の応答を復元。DO12の後半においてはITCZが南下し、カリアコ海盆における湧昇は強化(一次生産も強化)していたと考えられる。海水準は上限に達し、再び氷期の寒冷な状態に戻る過程で湧昇は弱化していた(一次生産も弱化)。G. bulloides(特に湧昇水に敏感な浮遊性有孔虫)は千年から百年スケールで変動しており、特に温暖なDO12においてしか大西洋の数十年スケールの変動とは対応していないことが分かった。

Changes in the intermediate water mass formation rates in the global ocean for the Last Glacial Maximum, mid-Holocene and pre-industrial climates
Wainer, I., M. Goes, L. N. Murphy, and E. Brady
気候モデルを用いてLGM、完新世中期、産業革命前の古気候を復元。LGMには中層水の形成が強化され、特に太平洋の深層水が非常に淀んでいることが分かった。NADWの形成が弱まったことにより、AAIW、GNAIW、AABWの形成は強化していた。またLGMに南半球の偏西風は強化していた。その結果、風によるエクマン輸送が強化し、AAIWの形成が強化されたと考えられる。

Deglacial variability of Antarctic Intermediate Water penetration into the North Atlantic from authigenic neodymium isotope ratios
Xie, R. C., F. Marcantonio, and M. W. Schmidt
堆積物コアのεNdから過去25kaのAAIWの挙動を大西洋低緯度域において復元。YDとH1にはAAIWは大西洋北部までは到達していなかったと考えられる。これはアイスコアのδ18Oやカリアコ海盆のΔ14C、バミューダ海台のPa/Th、大西洋低緯度域の北部の栄養塩や安定同位体記録とも整合的である。

2012年9月22日土曜日

新着論文(Ngeo#Sep 2012)

Nature Geosciences
September 2012 - Vol 5 No 9

Editorials
Focus: End of a glaciation
Stop-and-go deglaciation
進んでは止まる融氷
前回の氷期から現在の間氷期への気候の変遷は必ずしも滑らかなものではなく、B/A(ACR)やYDといった千年スケールの大規模な気候変動が存在していた。そして高緯度域への熱の伝播が氷床を融かし、その結果、海水準は1万年間に120mほど上昇したことが知られている。しかしそうした海水準の上昇も数百年に数10mという規模の融氷イベントを介して起きており、その原因となったのは大陸に安定に存在していた氷床よりはむしろ海に接した氷床(氷河、棚氷など)であり、また8.2kaのアガシ湖の決壊による海水準上昇も精度が上がりつつある測定のおかげで数cmの海水準上昇の証拠が得られつつある。
融氷期のきっかけは地球にもたらされる太陽の熱のわずかな変化であると考えられており、それは非常に長い時間スケールで起きた現象である。一方で現在の温暖化は人為起源の温室効果ガスがきっかけとなって起きている非常に短い時間スケールで起きている現象であり、両者は必ずしも1対1では対応しない。しかしながら、融けつつあるグリーンランドと南極の氷床の挙動を異なる時間スライスで研究することには大きな意義があり、魅力的でもある。

Commentary
Earth science for sustainability
持続可能なための地球科学
Peter Schlosser & Stephanie Pfirman
ほんのわずかな例を挙げると、人間活動はますます気候変動・水資源の過剰利用・災害・生物多様性の破壊を促進している。地球科学者は、工学・社会学・人文科学の分野と結託して、これらの話題を一般社会に提供する努力をする必要がある。

In the press
Trees and temperature
木と気温
Mark Schrope
過去数千年間の気温を復元するのに、木の年輪幅が使われてきたが、それによると過去2,000年間はほとんど気温が変化していなかったことになる。そのため木の年輪ではなく、「密度」に着目した研究が登場した。フィンランドとスウェーデンの600本の埋没林(湖に沈んだ木)の年輪の密度から過去2,200年間の気温を復元したところ、アイスコアの気泡の記録から得られているものと類似した地表面気温が復元された。1900年以降の人為起源の温暖化も確認されたが、同様の手法でその他の地域の気温の変化についても明らかにする必要がある。

The journalist’s take
ジャーナリストの見解
埋没林の年輪を用いた古気候復元は多くの記者や編集者の目を引く可能性が高いが、それは同時に数年前にメディアに旋風をもたらした’ホッケースティック状のグラフ(hockeystick graph)’を想起させる。そのグラフは我々に「過去2,000年間の気温の変動がどのようなものであったか」、「現在の気温上昇がいかに異常か」を印象づけた。しかしながら、この科学的な知見は当初広くは受け入れることはなかった。発見に懐疑的な立場のメディアも多かった。科学の発見は新聞やニュースが報道するような毎日知るべきニュース(a day-to-day essential)ではなかったというのも原因の一つである。

Research Highlights
Dry heat
乾いた熱
Proc. Natl Acad. Sci. USA 109, 12398–12403 (2012)
1979-2010年における全球の観測データから、土壌水分量が低下した3ヶ月間のあとには極端に暑い日の日数が上昇することが分かった。北米・南米・オーストラリア・ヨーロッパ南部と東部・アジアの一部の地域で顕著らしい。極端に暑い日や熱波は21世紀の後半は頻繁になると考えられている。

Tasman eddy express
タスマン渦急行
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/h58 (2012)
東オーストラリア海流がタスマニア海に向かって流れることでTasman eddyが生じることが知られているが、特に流速が高いeddy列があることが分かった(Eddy Avenue)。周囲に比べて海表面温度も高く、クロロフィルa濃度も高い(光合成プランクトンが多いことの指標)らしい。列には低気圧性の渦と高気圧性の渦が含まれ、そうしたメソスケールの渦がタスマニア海の海洋物理や生物地球化学に重要だと考えられる。

Gold from destruction
破壊からもたらされる金
Earth Planet. Sci. Lett. 349–350, 26–37 (2012)
従来、大規模な金鉱床は安定大陸(craton)の内部にて形成されると考えられてきたが、北中国の金鉱床は地殻が部分的に破壊されたことで形成された可能性があることが分かった。金鉱床の年代測定から、北中国安定大陸形成後(1.7Ga)、火山活動が活発化しそれによって中国東部が引き延ばされた比較的最近の時代(154Ma-119Ma)に鉱床ができたことが分かった。安定大陸の地下深部からホットプリュームが上昇することで下からの破壊が起こり、それが金を濃集させる可能性が示唆された。大陸の他の地域でもこうしたプロセスで金鉱床が形成されている可能性がある。

News and Views
Supply and demand
需要と供給
Anna Armstrong
このまま70億人の人口が増加し、将来も食料と水需要を賄うためには限りある資源を持続可能利用する必要がある。例えば地球上の様々な地域で地下水位が低下し、地下水資源は枯渇しつつある。中国やインドではおよそ60%の生活圏で水資源は持続’不可能’な利用をされている。Gleesonほか(Nature 488, 197–200; 2012)によって提唱された’groundwater footprint’という概念は農業計画や水資源管理を行う上で役に立つ。Gleesonほかは、もしガンジス川の上流域と下流域でほんの数%地下水利用を削減できれば、地下水に対するストレスは緩和されると指摘している。問題は浮き彫りになり、あとは行動に移すのみである。

Slowed by sulphide
硫化物によって遅くなる
Katja Meyer
三畳紀・ジュラ紀境界(T/J boundary)における絶滅は海洋生物の種の激変で特徴付けられる。海成堆積物のバイオマーカーはジュラ紀初期の海洋の回復過程において海洋表層水に毒性の強い硫化物が多く存在したことを示唆している。

Focus: End of a glaciation
Pacific and Atlantic synchronized
太平洋と大西洋の同期
Samuel L. Jaccard
現在の北太平洋では深い対流(表層水の深層への沈み込み)は通常起きていないが、最終退氷期にはそれが起きていたかもしれない。高緯度の海水は「塩分」が沈み込みに重要な要素となっているが、北太平洋の表層には低塩分の海水が存在し、強い塩分躍層の存在が表層水の深層への沈み込みを抑制している。またsubpolar Pacific gyreもまた水蒸気とアジアモンスーンの河川流入起源の淡水を保持する性質がある。北太平洋における堆積物コアを用いて海氷の位置とSSTを復元したところ、特にSSTが低下していたHS1(17.5-14.7ka)とYD(12.7-11.7ka)において、AMOCの弱化と’同期して’太平洋における子午面循環も弱化していた証拠が得られた。つまり、最終退氷期において北太平洋における北向きの熱輸送は低下していたことになる。従来AMOCの低下は太平洋の子午面循環を’強化’すると期待されてきた。

Focus: End of a glaciation
Ice-free emigration
氷に解放された移住
Alicia Newton
アフリカで生まれたヒトがアジア・ヨーロッパを経てアメリカに移動するきっかけとなったのはベーリング海にかつて存在した’Beringia’という陸橋の存在と考えられている。しかし氷期に発達した氷床はヒトの移動を拒む存在でもあった。或いはヒトは海を渡ったのかもしれない。アリューシャン諸島とアラスカ半島にあった氷床が後退したのは約17kaと考えられている。

Reanimating eastern Tibet
チベット東部を生き返らせる
Michael E. Oskin
チベット高原の東部は下部地殻の物質がもたらされたことが原因で形成されたと考えられている。しかし、高原の縁辺部で発見された露岩は成長はより長期間にわたって、何段階かに分かれて成長し、断層運動が大きな役割を負っていたことを示している。

Unexpectedly abiotic
予想しない程の生物の欠如
Boswell Wing
地球の硫黄循環は微生物の活動と一般的には関連づけて考えられてきた。しかしながら、35-32億年前の岩石の硫黄同位体は、火山が放出する二酸化硫黄が紫外線によって壊変する過程が中心的であったことを物語っている。

Progress Article
Focus: End of a glaciation
Links between early Holocene ice-sheet decay, sea-level rise and abrupt climate change
完新世初期の氷床の崩壊・海水準上昇・劇的な気候変動の関連
Torbjörn E. Törnqvist & Marc P. Hijma
完新世初期(12-7ka)のアガシ湖(ローレンタイド氷床の縁辺に存在した巨大氷河湖)の崩壊と気候変動との関係のレビュー。
氷期-間氷期サイクルの温暖期である完新世に入ってもなお氷床の後退は続いており、完新世の初期には劇的な海水準上昇が8.5-8.2kaの間に2回起きたことが知られている。北米のアガシ湖の崩壊がもたらした海水準上昇はミシシッピ川とRhine-Meuse川の河口域でそれぞれ0.4m、2.1mの上昇の記録を刻んだ。北大西洋への融水流入とそれに伴う大西洋子午面循環(AMOC)への擾乱がきっかけとなって北半球の寒冷イベント(8.2kaイベント)が起きたと考えられている。近年数10cm-数mの海水準変動は自信を持って復元されるようになり、完新世初期の劇的な気候変動はAMOCへの淡水擾乱が原因であったことが明らかになりつつある。

Review
Focus: End of a glaciation
Northern Hemisphere ice-sheet responses to past climate warming
過去の気候の温暖化に対する北半球の氷床の応答
Anders E. Carlson & Kelsey Winsor
2つの退氷期(最終退氷期・ターミネーションⅡ)における氷床後退の復元記録によると、北半球の陸上の氷床(中でも特に南縁)は北半球高緯度域の夏の日射量の増加に対して迅速に応答し、北半球の気温上昇とほぼ同期して融解したが、海底に着氷した氷床はより遅れて・より劇的に崩壊した。温暖化しつつある世界で現在残された2つの氷床(南極氷床・グリーンランド氷床)がどう応答するのかに関心が寄せられている。過去を鑑みると陸上のグリーンランド氷床は不安定で、温暖化とともに融解し続けるかもしれない。また海底に着氷している西南極の氷床は劇的に崩壊する可能性もあるが、より予想が難しい。

Letters
Continuous flux of dissolved black carbon from a vanished tropical forest biome
消滅した熱帯雨林の生物から放出される溶存性のブラックカーボンの連続した流れ
Thorsten Dittmar, Carlos Eduardo de Rezende, Marcus Manecki, Jutta Niggemann, Alvaro Ramon Coelho Ovalle, Aron Stubbins & Marcelo Correa Bernardes
陸域の被覆の歴史記録や衛星観測記録などから大西洋周辺の森林から排出されるブラックカーボンの量を推定。1973年以前は2〜5億トンものブラックカーボンが生成されていたと考えられる。さらに、1973年には大規模な焼畑は終了したものの、溶存性のブラックカーボンは毎年雨期には5〜7万トンほど海へ流入していると考えられる。深海底に不溶物として堆積していると考えられる。

Motion of an Antarctic glacier by repeated tidally modulated earthquakes
繰り返す潮汐によって調整される地震によって引き起こされる南極の氷河の動き
Lucas K. Zoet, Sridhar Anandakrishnan, Richard B. Alley, Andrew A. Nyblade & Douglas A. Wiens
南極の氷河の河口において地震波を繰り返し測定したところ、海の潮汐の周期と同期して氷河が滑っていることが観測された。

Focus: End of a glaciation
Regional climate control of glaciers in New Zealand and Europe during the pre-industrial Holocene
産業革命前の完新世におけるニュージーランドとヨーロッパの氷河に対する地域的な気候の制御
Aaron E. Putnam, Joerg M. Schaefer, George H. Denton, David J. A. Barrell, Robert C. Finkel, Bjørn G. Andersen, Roseanne Schwartz, Trevor J. H. Chinn & Alice M. Doughty
世界中の山岳氷河がこの数世紀の間に後退しているが、それが自然起源か人為起源の温暖化が原因なのかは不確実なままである。10Beの露出年代測定からヨーロッパアルプス・アルプス南部・ニュージーランドの山岳氷河の雪線は数世紀にわたって同期して後退していることが分かった。ITCZの変動が原因?過去数百年の山岳氷河の後退と気候の温暖化は完新世初期における自然変動とは異質のもので、人為起源の温室効果ガス排出に関連していると考えられる。

Focus: End of a glaciation
Deep Arctic Ocean warming during the last glacial cycle
最終氷期サイクルにおける北極海の深層水の温度上昇
T. M. Cronin, G. S. Dwyer, J. Farmer, H. A. Bauch, R. F. Spielhagen, M. Jakobsson, J. Nilsson, W. M. Briggs Jr & A. Stepanova
北極海の海水は塩分躍層によって下層の暖かく・塩分の高い海水と上層の海水が隔てられている。今後の海氷後退と北極の温暖化は塩分躍層の不安定を引き起こし、海氷をより後退させると考えられるが、過去の塩分躍層の安定性はよく分かっていない。31の北極海の海底堆積物コアの貝形虫のMg/CaとSr/Caから過去5万年間の中層水の温度を推定。50-11kaの間、中層はGlacial Arctic Intermediate Waterに覆われていた。この水塊は現在のArctic Intermediate Waterに比べると1〜2℃ほど高い。またハインリッヒイベントとヤンガードリアスの北半球の寒冷期には中層水の温度は一時的に上昇していたことが分かった。原因としては北極海への淡水フラックスの減少により塩分躍層が深くなり、暖かい下層水が中層へと押し込まれたことがモデルからは示唆される。また大陸棚における深層水形成が弱化したことも一因として考えられる。

Two-phase growth of high topography in eastern Tibet during the Cenozoic
新生代におけるチベット東部の2段階の高地形成
E. Wang, E. Kirby, K. P. Furlong, M. van Soest, G. Xu, X. Shi, P. J. J. Kamp & K. V. Hodges
チベット東部の高地は下部地殻がチベット高原に流れ、隆起によって地殻が厚くなった結果だと考えられてきた。チベット東部に露出した岩石の熱史の分析から、インドとアジア大陸衝突の初期において山が成長したことが分かり、下部地殻の流れだけでは高地は形成できなかったことを物語っている。

Coseismic fault rupture at the trench axis during the 2011 Tohoku-oki earthquake
2011東北沖地震の海溝軸における同時性断層破壊(Coseismic fault rupture)
Shuichi Kodaira, Tetsuo No, Yasuyuki Nakamura, Toshiya Fujiwara, Yuka Kaiho, Seiichi Miura, Narumi Takahashi, Yoshiyuki Kaneda & Asahiko Taira
沈み込み帯における地震モデルではプレート接合面の最も浅い部分は地震を起こさないと考えられてきたが、2011.3の東北沖地震の11日後に得られた地震波反射面のデータと1999年に得られたデータを比較すると、海溝に隣接する堆積物に変形構造(厚さ350m、長さ3km)が見られ、断層滑りが海底まで到達したことを物語っている。

Articles
Groundwater arsenic concentrations in Vietnam controlled by sediment age
堆積物の年代によってコントロールされるベトナムの地下水のヒ素濃度
Dieke Postma, Flemming Larsen, Nguyen Thi Thai, Pham Thi Kim Trang, Rasmus Jakobsen, Pham Quy Nhan, Tran Vu Long, Pham Hung Viet & Andrew S. Murray
東南アジアにおいては地下水のヒ素汚染が何百万もの人々の健康を脅かしている。ヒ素を含む鉄酸化物の還元と有機物の酸化がヒ素の生成に関与していると考えられている。しかし砒素濃度分布は空間的な変動が大きく、そうした広がりを生む原因についてはよく分かっていない。ベトナムのRed River流域における調査から堆積物の年代が古いものほど有機炭素の活性度も低く、ヒ素の含有量も低いことが分かった。

Hydrogen sulphide poisoning of shallow seas following the end-Triassic extinction
三畳紀の終わりの大量絶滅に続く浅海の硫化水素汚染
Sylvain Richoz, Bas van de Schootbrugge, Jörg Pross, Wilhelm Püttmann, Tracy M. Quan, Sofie Lindström, Carmen Heunisch, Jens Fiebig, Robert Maquil, Stefan Schouten, Christoph A. Hauzenberger & Paul B. Wignall
三畳紀の終わりの大量絶滅時には大気中の二酸化炭素濃度が高かったことが知られているが、その原因としては火山活動の活発化と森林火災が挙げられている。ドイツとルクセンブルクに露出している過去のテチス海の浅海の堆積物(黒色頁岩;black shale)から三畳紀-ジュラ紀境界における海の酸化還元状態と海洋生態系を復元。緑色硫黄細菌(green sulphur bacteria)の存在を示すイソレニエラタン(isorenieratane)というバイオマーカーの濃度が増加していることが分かり、有光層に硫化水素が多く存在したことを物語っている。また無酸素状態を示す緑藻も急増していた。テチス海の浅海は生物多様性のホットスポットでもあるため、硫化水素による毒が大量絶滅後の海洋生態系の回復を遅らせた可能性がある。

Variations in atmospheric sulphur chemistry on early Earth linked to volcanic activity
火山活動と関連する初期地球の硫黄の大気化学の変動
Pascal Philippot, Mark van Zuilen & Claire Rollion-Bard
過去の地球の火山活動は大気化学に大きな影響を及ぼしたと考えられるが、それらを復元することは難しい。南アフリカにある32億年前の地層(Mapepe Formation)中の火山灰層の岩石の硫黄同位体の特徴から、何段階かに分かれて起きた短期的な火山活動の増加が大量の二酸化硫黄を大気にもたらしたことが分かった。二酸化硫黄は紫外線による光分解反応によって分解されたと考えられる。

新着論文(Science#6101)

Science
VOL 337, ISSUE 6101, PAGES 1425-1572 (21 September 2012)

Editors' Choice
Surprising Origins
驚くべき起源
Nat. Commun. 3, 1041 (2012).
人間と魚の内耳の有毛細胞は非常に類似している。また多くの有羊膜類が傍鼓膜器官(PTO:paratympanic organ)を持つが、その進化的由来はこれまで明らかになっていなかった。ニワトリ胚を用いた実験で、PTOが魚類の呼吸孔器官に由来することを明らかになった。
>理化研・発生再生科学総合研究センターのプレスリリース

The Right Time and Place
正しい時と場所
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 15066 (2012).
感染症の広がりのモデリングについて。特に西ナイルウイルスがアメリカで大発生したのには「鳥の渡り」や「人間による蚊の輸送」などの「稀に起こる長距離輸送」が感染症拡大の原因となった可能性がある。

Heavyweight Measurements
重い重量の測定
Geophys. Res. Lett. 39, L17602 (2012).
地球温暖化がもたらす大問題のうちの一つは、高緯度の氷床が縮小することによって生じる海水準上昇である。暖かい水ほど体積が大きくなるため、海水準上昇の一部の原因は温度上昇であるが、海水の温度は測定できるが、海水の重量を測定することはこれまで難しいとされていた。しかし、海には海洋循環・潮汐・気圧の変化などの水圧に影響する諸効果を受けにくい海域が存在し、そうした海の海底に水圧を精密測定する機器を設置することで海水の重量の変化を測定することができるようになるかもしれない。太平洋で候補地がいくつか挙がっているらしい。

Dissolving CO2 in Brine
塩水へのCO2の溶け込み
Environ. Sci. Technol. 10.1021/es301598t (2012).
大気中の二酸化炭素捕獲・貯蔵の候補の一つは大陸に多数存在する高塩分地下水である。こうした高塩分水は過去の水循環の名残で、何百〜何千万年にわたって継続して存在してきたものがほとんどである。モデル研究から、そうした高塩分地下水にCO2を吹き込むと、初めは高塩分水を置換するが、徐々に溶け、理想的な貯蔵庫になることが分かった。同時に密度も増加させるためより安定な状態になるという。

News & Analysis
Warped Light Reveals Infant Galaxy on the Brink of the 'Cosmic Dawn'
歪んだ光が銀河の夜明け(Cosmic Dawn)に産まれたばかりの銀河の子供の姿を明らかにする。
Yudhijit Bhattacharjee
天文学者は最近ビックバン後生まれて間もない(5億年後)銀河を発見した。天文学者が発見した物体としては最も遠いところにある新たな記録となった。

Did Neandertals Truly Bury Their Dead?
ネアンデルタール人は本当に死者を埋葬したのか?
Michael Balter
フランスにおける新たな発掘は、「ネアンデルタール人は本当に死後に死者を埋葬していたのか?」という問題に疑問を投げかけている。

Ignition Facility Misses Goal, Ponders New Course
点火施設は目標を達成することができず、新たな道を熟考している
Daniel Clery
ローレンスリバモア国立研究所の国立点火施設(National Ignition Facility: NIF)は今月末に自発的な核融合点火(点火に必要なエネルギー以上のエネルギーを生む)を実現するという期限に間に合わないだろう。
※NIF は史上最大のエネルギーを有するレーザー装置。192本の NIF ビームのエネルギーを数ミリのターゲットに集中させることで、従来の実験室では到底作り出すことができなかった極限環境、具体的には惑星や星の内部に匹敵する1億度以上の温度、1,000 g/cm3 以上の密度、1,000億気圧の圧力の状態を作り出すことができる。

Cancers Join List of Illnesses Linked to 9/11 Attacks
「ガン」が9.11に関連した病気のリストに追加された
Jocelyn Kaiser
世界貿易センタービルの崩壊後の塵にさらされた結果ガンになった50人以上の消防士やその他の人に医療を施すことを、先週アメリカ政府が決定した。

Letters
Friends in Fungi
真菌類の中の友達
Gijsbert D. A. Werner and E. Toby Kiers
真菌類は作物や森林の生育を及ぼしているが、中には人間の役に立つフレンドリーな真菌類も存在する。菌根菌(Mycorrhizal fungi)は多くのメリットをもたらしている。例えば、
1、植物の成長に必要な栄養塩を供給する
2、乾燥に強くする
3、重金属を植物に取り込ませる
4、感染症を予防する
5、真菌類による病気を防ぐ
などが挙げられる。また炭素を吸収する上でも機能しており、「炭素循環」と「栄養塩循環」の2つの点で非常に重要である。菌根菌を有効活用することで必要な肥料の量を減らすことができ(世界は重篤なリン酸不足に陥っている)、収穫量を増大させることができる。真菌類を根絶するのではなく、敵と味方を区別する必要がある。

Perspectives
A Measurable Planetary Boundary for the Biosphere
測定可能な生物圏に対する’惑星の限界’
Steven W. Running
陸上植物の一次生産量は、人間による地球の生物資源(総一次生産量)消費限界を測定可能なものにする。現在人間は全体の約38%の総一次生産量を消費している。2050年には世界の総人口が40%増加することが予測されているが、残された資源のうち人類が利用可能な生物資源は全体の10%程度という見積もりもなされている。
…the obvious policy question must be whether the biosphere can support the 40% increase in global population projected for 2050 and beyond.
Crop production exceeds the natural ecosystem when augmented with irrigation and fertilizer applications. Cropland under irrigation has roughly doubled in the last 50 years, and fertilizer use has increased by 500%.
As some rivers are completely drained for agriculture and groundwater withdrawal limits are reached in some regions, irrigated crop area could decrease in coming decades.
The question is thus not whether humans will reach the global NPP boundary but when we will do so.

Reports
Kepler-47: A Transiting Circumbinary Multiplanet System
ケプラー47:通過する周連星・多惑星システム
Jerome A. Orosz et al.
ケプラー宇宙望遠鏡が2つの軽い星の周りを周回する2つの小さな惑星を発見した。大きさはそれぞれ地球の3.0、4.6倍。地球に似てはいないが、いわゆる’生命存在可能ゾーン(habitable zone)’に位置し、液体の水が存在する可能性がある。

Unicellular Cyanobacterium Symbiotic with a Single-Celled Eukaryotic Alga
単細胞の真核性の藻類と共生する単細胞のシアノバクテリア
Anne W. Thompson, Rachel A. Foster, Andreas Krupke, Brandon J. Carter, Niculina Musat, Daniel Vaulot, Marcel M. M. Kuypers, and Jonathan P. Zehr
窒素が欠乏した環境下で窒素を得るには「窒素固定が可能な原核生物」と「光合成が可能な真核生物」の’共生’が重要である。最近、世界に普遍的に存在する浮遊性シアノバクテリアに前例にないほどの遺伝子欠乏が確認され、共生の可能性が浮上した。UCYN-A(uncultured nitrogen-fixing cyanobacterium)と名付けられたシアノバクテリアはrymnesiophyte(化石記録に残っている石灰化をする種の近縁)と相利共生していることが分かった。この珍しい関係性は共生のモデルとなり、プラスチド(色素体)や生命体の進化のアナログになるかもしれない。

2012年9月21日金曜日

新着論文(Nature#7416)

Nature
Volume 489 Number 7416 pp335-466 (20 Sep 2012)

EDITORIALS
Extreme weather
極端な気象
様々な企業が将来温暖化によって起きる(既に起きつつある)と考えられている異常気象(洪水、熱波、海岸浸食など)に注目しているが、異常気象を地球温暖化に結びつける前に、よりよいモデルの開発が必要とされている。個々の諸過程を正しく理解することで、気候モデルの確実性を増し、自信をつける必要がある。
 気候モデルは1年単位の気象予測に使用するのではなく、既に起きた異常気象の原因解明にこそ使うべき?しかしながら原因究明がそもそも可能か、誰にとって得があるのか、という問題も。

Return to sender
送り主への返送
研究に使用する動物の空輸の停止命令が生物医療研究に切迫した脅威をもたらしている。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Stellar duo tests Einstein’s theory
デュオの星がアインシュタインの理論を試す
Astrophys J. 757, L21 (2012)
徐々に軌道が縮小しつつある2つの白色矮星のペアはアインシュタインの一般相対性理論の正しさを支持する振る舞いをしている。非常に近接した軌道を周回する2つの星は重力波の放出によって徐々にエネルギーを失い、年間0.26ミリ秒で軌道が縮小すると予測されている。13ヶ月に渡る観測から、理論的な予想と同等の早さで軌道が縮小していることが分かった。

Memory boost with sleep
記憶は睡眠によって加速される
Nature Neurosci. http://dx.doi. org/10.1038/nn.3203 (2012)
睡眠によって最近起きた出来事を再現することで記憶がより定着することがマウスの実験から明らかになった。音で異なるレーンを走るよう訓練されたマウスが眠っている時に音を鳴らすと、海馬のニューロンに反応が見られ、特に記憶野で訓練を再現しているような兆候が見られたという。
※コメント
睡眠中に訓練を再現はしているけど、それで訓練の成果は確かに上がった(記憶定着した)のか??先日京大の研究チームが寝る子ほど海馬の発達が良いという研究成果を発表したというニュースをテレビで見ました。

Glowing is rare on the sea floor
海底では生体発光は稀
J. Exp. Biol. 215, 3335–3343; 3344–3353 (2012)
海底に生息している生物は同じく海底に生息している自由に泳げる生物に比べて生体発光をしないらしい。バハマの500-1,000m深に生息している生物をドレッジによって採取し調べたところ、およそ4倍の割合で後者が発光したという。
また他の研究では、同じくバハマの500-700m深に生息する生物を採取し暗闇で観測を行ったところ、海水によって減衰した太陽光や生体発光に近い波長帯をうまく目で感知している甲殻類がいることが分かった。ただし動作はうまく感知できないらしい。

Volcanic signs in Martian clays
火星の粘土鉱物に火山活動の兆候が
Nature Geosci. http://dx.doi. org/10.1038/ngeo1572 (2012)
火星の表面の粘土鉱物は火星の気候がかつて温暖・湿潤だったというよりはむしろ火山活動の結果かもしれない。粘土鉱物は水の存在下で火成岩が変質することでも生じるが、水に富んだマグマが固結することによっても生じる。フレンチ・ポリネシアの陸上にある溶岩は火星の鉱物と似たスペクトルを持つという。従って火星は必ずしも湿潤だった訳でなく、単に火山が多かっただけかもしれない。

Tagging molecules with fluorine
蛍光物質で分子をタグづける
Science 337, 1322–1325 (2012)
不活発な炭素-水素結合を蛍光する手法が開発された。マンガン・ポルフィリン(manganese porphyrin)を触媒に用いることで実現したらしい。あらゆる生体高分子を画像化することができるようになるかもしれない。

One million years of rubbing rocks
百万年間研磨された石
Geology 40, 851–854 (2012)
地球で最も乾燥した地域の一つ、アタカマ砂漠では妙に表面が滑らかな巨礫が確認されていたが、これは地震がきっかけとなって石同士が研磨された結果かもしれない。M5規模の地震は4ヶ月に一回は起きており、過去130万年間の間に40,000-70,000時間はそうした研磨を受けていた可能性があるという。

FEATURES
Burn out
焼き尽す
Michelle Nijhuis
アメリカ西部の森林は森林火災・気候変動・昆虫の大量発生による脅威にさらされている。生態系が激変しつつある。また大規模な森林火災の発生件数は年々増加傾向にある。

COMMENT
Plant perennials to save Africa's soils
アフリカの土壌を守るための多年生の植物栽培
「多年生の作物を栽培することがアフリカの土壌の健康を保護し、食料生産を増加させる」と、Jerry D. Glover, John P. Reganold, Cindy M. Cox.は言う。

BRIEF COMMUNICATIONS ARISING
Intensified Arabian Sea tropical storms
Bin Wang, Shibin Xu & Liguang Wu

Evan et al. reply
Amato T. Evan, James P. Kossin, Chul ‘Eddy’ Chung & V. Ramanathan
「アラビア海における嵐の頻度が増加したのは人為起源のブラックカーボンや硫化物などのエアロゾルの増加が原因」と発表した論文(Evanet al., Nature Vol. 479, pp. 94–97; 2011)に対するコメントとそれに対する応答。

NEWS & VIEWS
Searching for the cosmic dawn
銀河の夜明けを探る
Daniel Stark
ハッブル宇宙望遠鏡と「宇宙のレンズ」、つまり重力レンズ効果を組み合わせて、ビッグバン後5億年にさかのぼると考えられる銀河の、大きく拡大された姿が明らかにされた。この知見によって、銀河形成の初期段階を垣間見ることができる。

Insects converge on resistance
毒耐性に見られる昆虫の収斂進化
Noah K. Whiteman & Kailen A. Mooney
3億年にわたって分岐し続けた昆虫種が、植物のカルデノリド毒素に対する耐性をもたらす同一の単一アミノ酸置換を進化させてきていることは、収斂進化のめざましい例の1つである。

ARTICLES
A magnified young galaxy from about 500 million years after the Big Bang
ビッグバンの約5億年後の拡大された若い銀河
Wei Zheng et al.
ビッグバン後、約5億年が経過したときの初期宇宙の銀河はその暗さからこれまで十分に観測がなされてこなかったが、そうした暗い銀河は初期宇宙にはふんだんに存在し、重力によって拡大されており、星間物質を再イオン化した放射源として支配的であった可能性がある。

Oceanic nitrogen reservoir regulated by plankton diversity and ocean circulation
プランクトンの多様性と海洋循環によって調整されている海洋の窒素リザーバー
Thomas Weber & Curtis Deutsch
海洋性植物プランクトンの平均的な窒素:リン比(16N:1P)は、平均的な海水の栄養塩含有量(14.3N:1P)に近い値となっている。この状態は海洋の窒素収支に対する生物学的制御によって生じると考えられている。脱窒細菌によって生物が利用可能な窒素が除去されてしまうと、他の生物の生育にも重要な硝酸塩を作る(窒素固定)ような植物プランクトン(diazotrophic phytoplankton)が卓越する。プラントンの窒素・リン比を一定とし、海洋循環を組み込んだモデルから、このフィードバック過程が観測の2倍以上に相当する硝酸塩欠乏を引き起こすことが示された。見落としている現象のうち決定的なものは、最近種ごとに大きく異なることが示された個々の植物プランクトンごとのN:P需要である。そうした違いをモデルに組み込むと、海洋の窒素含量は増加し、プランクトンの平均的なN:P比を超える可能性すらある。それはこれまであり得ないと考えられてきたことで、浅い海洋循環によって妨げられている。従って、「プランクトンの多様性」とそれを繋ぐ「海洋循環」が海洋における固定された窒素の利用効率を決定していることを示している。

Afternoon rain more likely over drier soils
午後の雨は乾いた土壌の上に降りやすい
Christopher M. Taylor, Richard A. M. de Jeu, Françoise Guichard, Phil P. Harris & Wouter A. Dorigo
陸においては植生による被覆や土壌水分量が放射エネルギーの分配に影響を与えている。乾燥していると、土壌の水分不足が蒸発を抑制し、大気下部を暖め、乾燥化させる。従って土壌水分量と大気下層の対流や気温・湿度との間にはフィードバック過程が存在する。しかしながら、土壌水分量が世界各地における大気の対流にどのような影響を及ぼしているかは観測の不足とモデルにおける不確実性の問題からよく分かっていない。観測記録の分析から、午後の雨は周囲よりも乾燥した地域にこそ降りやすいことが分かった。半・乾燥化したような地域にこそ特徴が顕著に見られるという。多くの気候モデルで見られるような、湿った土壌ほど雨を降らせやすいという正のフィードバック過程は研究対象地域では見られなかった。従って、この知見が「なぜ総観規模のモデルで干ばつが現実よりも多く再現されてしまうのか」の一つの説明になるかもしれない。

2012年9月16日日曜日

新着論文(Science#6100)

Science
VOL 337, ISSUE 6100, PAGES 1265-1424 (14 September 2012)

Editors' Choice
Humans Mitigate Climate Change Effects
人間が気候変動の影響を和らげる
Proc. R. Soc. London Ser. B. 279, 10.1098/rspb.2012.1301 (2012).
20世紀初頭にJoseph Grinnellらによって収集されたカリフォルニアにおける脊椎動物の古典的な記録は、現在我々が気候変動がリス(Belding's ground squirrel; Urocitellus beldingi)に与えた影響を評価するのに貴重な情報を提供してくれている。74種のうち31種は既に絶滅しており、彼らの棲息範囲は縮小していた。縮小の原因を解析したところ、「冬の寒さ」が非常に重要であるらしい。興味深いのは、人間活動が水や食料を供給するので、気候変動が山岳の生物に与える負の影響に対して緩衝剤として働いてきたことである。最悪の場合、2080年までにこのリスの棲息に適したカリフォルニアの場所は99%失われてしまうと予想されている。

News & Analysis
Before the Dinosaurs' Demise, a Clambake Extinction?
恐竜の絶滅の前に、貝焼きの絶滅(Clambake Extinction)?
Richard A. Kerr
南極周辺から得られた記録から、6,500万年前の隕石衝突による恐竜を始めとする生物の大量絶滅よりも’わずかに前に’別の大量絶滅が起きていた新しい証拠が得られた。従来インドのデカン高原の洪水玄武岩を生む元となった大規模な火山活動が有毒かつ温室効果を持ったガスの排出を通して大量絶滅を起こしたという説があるが、隕石衝突が全球で普遍的に見られることから隕石衝突説が有力であった。南極半島の先端に位置するSeymour島における堆積物中の炭酸塩化石のδ18Oの測定から、デカン高原の火山活動がきっかけとなって急激に低層水温が7℃程上昇し、40%の低層の巻貝や二枚貝が絶滅したという。年代は地磁気逆転で得られており、「隕石衝突よりも20万年前にデカン高原における火山活動が開始し、その後4万年後には低層水温の上昇が始まった」というシナリオが提唱されている。

Charges Fly, Confusion Reigns Over Golden Rice Study in Chinese Children
Mara Hvistendahl and Martin Enserink
4年前に行われたアメリカを資金源とする研究で、中国の学徒達に遺伝子組み換えによって作られた米を食べさせていた事実の発覚が、中国メディアに波乱を呼んでいる。

News Focus
The Sound in the Silence: Discovering a Fish's Soundscape
静寂の中の音:魚の音景を発見する
Jane J. Lee
生物音響学(Bioacoustics)の第一人者であるArthur Popperは引退の用意を始めたが、「魚が音をどう認識しているのか」に関する彼の研究が霞むことはない。

Perspectives
Sir Bernard Lovell (1913–2012)
電波天文学(radio astronomy)の発展に貢献し、世界最大の電波望遠鏡の一つの設立も手がけたBernard Lovellについて。

Brevia
Adaptive Prolonged Postreproductive Life Span in Killer Whales
適応によって延長されたシャチの生殖活動停止後の寿命
Emma A. Foster, Daniel W. Franks, Sonia Mazzi, Safi K. Darden, Ken C. Balcomb, John K. B. Ford, and Darren P. Croft
閉経後のヒトの寿命が長いこととの関連で、生殖活動を終えた後の生物の寿命に注目が集まっている。閉経後の女性の存在が子孫の生存に有利に働く証拠は多いが、ヒト以外の生物ではほとんど分かっていない。ヒト以外で生殖能力を失った後の寿命が最も長いシャチ(killer whale)の母親は、生殖能力を失った後もずっとオスの子供が生き残れるように手助けをし続けるらしい。

Reports
Glacier Extent During the Younger Dryas and 8.2-ka Event on Baffin Island, Arctic Canada
Nicolás E. Young, Jason P. Briner, Dylan H. Rood, and Robert C. Finkel
グリーンランドのアイスコアの記録によれば、YDと8.2kaイベント時の寒冷化はそれぞれ~15℃、3~4℃であったと推定されている。ローレンタイド氷床の氷河の拡大とそれから独立した北極圏カナダ・Buffin島における山岳氷河の拡大の証拠から、8.2ka時の氷河拡大はYDのそれに比べて大きかったことを示す。YDの寒冷化は冬期に顕著であったのに対し、8.2kaイベント時は季節を問わない寒冷化であったらしい。

Technical Comments
Comment on “Climate Sensitivity Estimated from Temperature Reconstructions of the Last Glacial Maximum”
J. Fyke and M. Eby
Schmittner et al. (Science Vol. 334, pp. 1385 (2011))はLGMにおける感度実験と古気候記録を用いた気候感度実験から低い感度を報告しているが、疑いの余地がある比較点の除外とモデルデザインの’建設的な’変更が気候感度の推定値を変える可能性について報告する。

Response to Comment on “Climate Sensitivity Estimated from Temperature Reconstructions of the Last Glacial Maximum”
Andreas Schmittner, Nathan M. Urban, Jeremy D. Shakun, Natalie M. Mahowald, Peter U. Clark, Patrick J. Bartlein, Alan C. Mix, and Antoni Rosell-Melé
Fyle & Edyによるデータの除外はほとんど正当化されず、彼らの統計はあまりに単純だ。しかしながら、モデルの構造の不確実性(特に大気の熱フラックスに関する式)が気候感度を低く見積もる可能性の指摘については称賛に値し、今後の研究で明らかにする必要があるだろう。

気になった一文集(English ver. No.2)

If people are seen as major contributors to the problems of climate change and loss of biodiversity, then people’s behaviour and attitudes must be a major part of the solutions.

Nature編集部 (Vol. 488  pp. 429)
生物多様性を保護する団体の設立を受けて。

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In conclusion, Robinson et al. highlight that the ongoing climate change may soon reach an amplitude sufficient to provoke an irreversible collapse of the GIS, because it seems that the 2 °C maximum warming target will be very hard, if not impossible, to realize.

Nature Climate Change 記事 (June 2012 pp. 397)
グリーンランド氷床が不可逆的に崩壊し始める温度の閾値についてのモデル研究から。

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The tragedy of the commons, wrote Hardin, is a dilemma arising from the situation in which multiple individuals, acting independently and rationally in their own self-interest, will ultimately deplete a shared limited resource, even when it is clear that it is not in anyone’s long-term interest for this to happen.

National Geographic 「The High Costs of Free Water
水資源枯渇問題を受けて。

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The future trajectory of greenhouse gas concentrations depends on interactions between climate and the biogeosphere.

Vonk et al., 2012, Nature (Vol. 489 pp. 5-170)
温暖化に伴う北極のツンドラの融解を受けて。

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The sea ice is in such poor health in spring that large parts of it can’t survive the summer melt season, even without boosts from extreme weather.


Nature記事。「Ice loss shifts Arctic cycles」Quirin Schiermeier著(Vol. 489  pp. 185-189)
北極の海氷の状態が変わりつつあることについて。

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Because mineral production continues to be necessary for economic development, the recycling and reuse of mining and mineral-processing wastes are important management strategies now and in the future.

Science 記事。

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“We’re going to try to string together as many pearls as we think we can identify from orbit, and then explore them as we drive along,”

Nature 記事。Curiocity関連。

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...he wants to stand in “the irrational middle” and show people the stark beauty of the highest reaches of our planet and the stark reality of how it’s changing.

Science 記事 (Vol. 337 pp. 795)
エベレスト山の気候変動に対するある著名な登山家が取りたい立場について。

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They lack the charisma of coral reefs, yet like reefs, these beds form a highly productive and diverse ecosystem, acting as the nursery for many kinds of fish as well as a home to sea turtles, manatees, birds, and a host of other sea creatures.

Science記事 (Vol. 336  pp. 1368)
海藻が生態学的に重要であることについて。

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Nevertheless, the paleoclimate record can provide invaluable information on how Earth’s climate responds to forcing, not just in the context of the next century, but also more generally.

If the goal of climate science is not just to predict the next 50 to 100 years of climate change, but also “to tackle the more general question of climate maintenance and sensitivity”, then arguably we must do so within a conceptual framework that augments the notion of climate sensitivity as a straightforward linear calibration of climate gain, with the possibility of nonlinear feedbacks and irreversible transitions in the climate system.

Science記事 (Vol. 337  pp. 918) 
古気候記録を用いた気候感度の推定について。

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Ironically, the improvement of air quality that results from the reduction in aerosol emissions may come at the price of increased atmospheric warming and more frequent tropical storms.

…arguably the most important required development is in higher- resolution simulations of the atmosphere and ocean, removing the need to rely on an empirical relationship between the number of storms and climate indicators.


Nature Climate Change記事「Counting the coming storms」(Aug 2012 pp. 575)
大西洋の台風が温暖化とともに頻度・強度がどう変化するかについて。

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In the context of oceanic plankton, this acidification is considered well within the range of present pH variability (about 1 unit). However, the pH environment near the cell surface is also impacted by the plankton themselves, as their own metabolism is constantly driving acid and CO2 in and out of the cell. When the metabolic factor is combined with global ocean acidification, future pH ranges at the boundary layer of plankton cells may be threatening, warn Flynn and colleagues.

Nature Climate Change記事 (Jul 2012 pp. 490)
海洋酸性化がプランクトンの体内のpHとどう相互作用するかについて。

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Owing to slow geological processes and interactions with the land and deep-ocean carbon reservoirs, it has been estimated that about one-third of the carbon dioxide emitted today will still be in the atmosphere 1,000 years from now.

Nature Climate Change記事「Future impact of today’s choices」(Jun 2012 pp. 397)

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2012年9月14日金曜日

新着論文(Nature#7415)

Nature
Volume 489 Number 7415 pp177-330 (13 September 2012)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Seals see glowing prey
アザラシは光る獲物を見る
ゾウアザラシは生物の発する発光の最大波長を見ることで暗い深海でも獲物を捕ることができると考えられている。インド洋南部に棲息する4匹のメスのゾウアザラシ(Mirounga leonina)にロギング装置を付けて人工衛星を用いて行動を観察したところ、3,386回の潜水による獲物探しと生体発光センサーの光の感知回数との間には正の相関が確認されたという。

Tigers and people can coexist
トラと人は共存することができる
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1210490109 (2012)
ネパールのChitwan国立公園にビデオカメラを設置し、ある地域において行動しているヒトとトラを観察したところ、同じ地域を共有しているものの争いはほとんど起きていないという。トラの80%は夜間に確認され、ヒトとは生活のリズムが異なっていることが争いが起きない理由として考えられる。国立公園から離れると、トラの95%が夜間に出現するという。

Engineered plants can use phosphite
作られた植物は亜リン酸塩を使うことができる
Nature Biotechnol. http://dx.doi. org/10.1038/nbt.2346 (2012)
ほとんどの作物はリン酸ベースの肥料に頼っており、また除草剤に耐性のある雑草の存在によっても生育が妨げられる。遺伝子組み換えによって別のリン酸から栄養を得ることのできる作物が作られれば、2つの問題を一度に解決できる可能性がある。遺伝子組み換えによって作られたモデル植物とタバコは、オルソ体のリン酸の存在下で亜リン酸から栄養を得ることができる。通常より必要なリンの量は30-50%少なくて済むだけでなく、雑草に対する耐性も上がるという。

Calm Sun promotes chilly winters
静かな太陽は寒い冬を促進する
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1029/2012GL052412 (2012)
ここ2年間のヨーロッパの異常に寒冷な冬は太陽活動が減少したことによる大気循環の変化が原因かもしれない。黒点数の記録とライン川の結氷の歴史記録から、AD1780年以降の14回の結氷イベントのうち10回は太陽活動が弱い時期に対応しているらしいことが分かった。太陽活動の低下が北大西洋の気圧場を変化させ、北極からの冷たい空気塊をヨーロッパにもたらした結果と考えられている。

NEWS IN FOCUS
Ice loss shifts Arctic cycles
氷の減少が北極のサイクルをシフトさせる
Quirin Schiermeier
今年の夏にはどのモデルシミュレーションによっても再現できていなかった、ほとんどの科学者が想像もしていなかった程に北極の海氷面積が低下した。次のIPCCの報告書(AR5)にも採用されているモデルでも2030年までに夏の海氷がゼロになる予測はなされていないが、現在の減少の傾向はそれがあり得そうなことを示唆している。多年氷は減少し、1年しか持たない氷の量が増えており、そうした氷は脆く融けやすい、明らかに北極の海氷は従来のモードから変化してきているという。北極の海氷の変化は海水中の光量や物理循環も変化させ、既に生態系への影響も見えつつあるらしい(動物プランクトン、魚類、甲殻類、海鳥などへの影響)。近年の研究で海氷の減少と北大西洋の気候との関連も明らかになりつつある。

Europe on alert for flying invaders
空飛ぶ侵入者への警戒にヨーロッパが入っている
Declan Butler
感染病を運ぶ蚊の蔓延が監視強化のガイドラインを促している。

FEATURES
Dive master
潜水マスター
Richard Monastersky
アメリカの潜水艇の旗艦であるAlvinは現在部分的にアップグレードされつつある。しかしながら、深海探査は現在苦難に直面している。

NEWS & VIEWS
Drought and tropical soil emissions
干ばつと熱帯土壌からの放出
Cory C. Cleveland & Benjamin W. Sullivan
過去の研究によって、気候変動と土壌からの温室効果ガス排出という正のフィードバックが示唆されている。干ばつによってそうした放出は抑制され、気候変動を緩和する可能性が示された。従来温度ばかりが考慮されてきたが、水循環プロセスがより重要である可能性がある。干ばつが土壌中におけるメタン消費や脱窒を妨げる効果が働くのが原因らしい。特に脱窒による亜酸化二窒素(温室効果ガスの一つで、そのほとんどが熱帯雨林から放出されている)生成が妨げられることで、温室効果を打ち消す働きが大きいらしい。ただし微地形の効果や、モデル間のばらつきが大きいという問題も。
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Strong spatial variability in trace gasdynamics following experimental drought in a humid tropical forest
Wood, T. E., and W. L. Silver
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB3005, doi:10.1029/2010GB004014
土壌中の水分量は生物地球化学的なプロセスを駆動する主要因の一つであり、炭素・栄養塩・微量気体(亜酸化二窒素など)の利用効率に影響している。樹冠通過雨量を制限するようなフィルターを用いて、プエルトリコの熱帯雨林において人工的に3ヶ月間の乾燥状態を作成し、微量気体放出・吸収量や栄養塩利用の変化を調査。地域的な不均質性を評価するために、尾根・斜面・谷の3つの地域で実施。一連の結果から乾燥が微量気体の放出量を減少させることが分かった。ただし地域的な差異が大きく、地形効果も正しく見積もることがモデルの改善に重要であるという。

The rainforest's water pump
Luiz E. O. C. Aragão
熱帯雨林における水循環はモデルも観測も最終的によく合うことが分かった。しかしそれは、森林破壊は熱帯における降水量を大きく低下させる可能性について警告している。
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Spracklen et al.の記事解説。

LETTERS
Observations of increased tropical rainfall preceded by air passage over forests
D. V. Spracklen, S. R. Arnold & C. M. Taylor
植生は、地表と大気の間の水分、エネルギー、微量ガスの流れを通して降水パターンに影響を与えている。森林が牧草や作物に置換されると、土壌や植生からの水分の蒸発散が減少することが多く、大気の湿度が低下して降水量が減少する可能性がある。熱帯の大規模な森林破壊によって降水量が局地的に減少することが気候モデルによって予測されているが、その影響の大きさはモデルやモデルの分解能によって異なっている。逆に観測研究では局地的な森林破壊と降水量の増加が結びつけられているが、より大規模な森林破壊の影響を調べることはできなかった。熱帯の降水量と植生に関する衛星リモートセンシングデータを利用し、大気輸送パターンのシミュレーションと組み合わせて森林が熱帯の降水に与える熱帯全体に与える影響を評価したところ、熱帯(南緯30度~北緯30度)の地表面の60%以上で、過去数日間に豊かな植生の上空を通過した大気は、貧弱な植生の上空を通過した大気と比較して、少なくとも2倍以上の降水を発生させていることが明らかになった。この経験的な相関は、森林による蒸発散が上空を通過する大気の水分量を維持することと整合的である。この経験的な関係をアマゾンの森林破壊の現在の動向と組み合わせると、水循環効率の低下によって、2050年までにアマゾン川流域全体で、雨季では12%、乾季では21%降水量が減少すると見積もられる。今回の観測に基づく結果は、(現実に起きている物理的な機構とフィードバックをさらに詳細に調べることのできる)気候モデルによる同様の見積もり結果を補完するものである。

Ploughing the deep sea floor
Pere Puig, Miquel Canals, Joan B. Company, Jacobo Martín, David Amblas, Galderic Lastras, Albert Palanques & Antoni M. Calafat
底引き網漁による魚類資源と底生生態系への直接的な影響は大きな注目を集めてきた。さらに底引き網漁は、海底堆積物の物理的性質、海水と堆積物の化学的交換、堆積物の流れを変える可能性もある。しかし物理的攪乱に取り組んだ研究のほとんどは、これまで沿岸や大陸棚の環境で行われている(堆積物の浸食、輸送、堆積過程が自然に起きている)。大陸斜面の上部において、底引きによって生じる堆積物の移動や除去によって深海底の地形が時間の経過とともに平坦になり、その本来の複雑さが低下することが分かった。この結果は、漁船団の工業化に続く最近数十年の間に、底引き網漁が深海地形の変化を大きく促進してきたことを示唆している。この種の漁業を全球規模で考えると、世界の海洋の多くの部分で大陸斜面の上部の地形が激しい底引き網漁によって変えられている可能性があり、陸上において農業耕作がもたらす影響に匹敵する影響が深海底に生じていると予想される。

Averting biodiversity collapse in tropical forest protected areas
William F. Laurance et al.
熱帯林の急速な破壊は、世界の生物多様性を危うくするものと考えられる。森林破壊が急激に進行する中で、保護区は絶滅危惧種および自然生態系プロセスを守る最後の砦となりつつある。しかし熱帯の保護区の多くは、それ自体が人類による侵食やその他の環境ストレスに対して脆弱である。圧力が高まる中、現在の保護区が生物多様性を維持することができるかどうかを知るのは重要なことである。この問題を解決するうえで重大な制約となっているのは、十分に大きく代表的な保護区の標本を用いた、幅広い生物群に関する生物多様性を表すデータが存在しないことである。世界の主要な熱帯地域全体から選んだ60か所の保護区の過去20~30年間の変化に関するデータセットの分析の結果、保護区の「健全性」には大きなばらつきが見いだされ、全保護区の半数ほどが効果的または及第点であったのに対し、残りの保護区では生物多様性の劣化が進んでおり、分類学的および機能的に驚くほど広い範囲で劣化が見られる場合が多いことがわかった。生息地の破壊、狩猟、および森林生産物の搾取が、保護区の健全性劣化の最も強力な予測因子であった。重要なこととして、保護区内の変化は保護区周辺の変化を強く反映しており、保護区の生態的運命を決定するうえで、保護区のすぐ外側の環境変化が、保護区内の環境変化と同じくらい重要であると考えられた。今回の知見から、熱帯の保護区は周辺環境と生態学的に密接に関係していることが多く、そうした環境の大規模な喪失および破壊を食い止めることができなければ、深刻な生物多様性の劣化が現実のものとなる公算が大幅に高まると考えられる。

新着論文(EPSL, GPC, PALAEO3ほか)

EPSL, GPC, PALAEO3, Quaternary International, Journal of Experimental Marine Biology and Ecology
※論文アラートより

Marine and terrestrial environmental changes in NW Europe preceding carbon release at the Paleocene–Eocene transition
Sev Kender, Michael H. Stephenson, James B. Riding, Melanie J. Leng, Robert W.O’B Knox, Victoria L. Peck, Christopher P. Kendrick, Michael A. Ellis, Christopher H. Vane, Rachel Jamieson
Earth and Planetary Science Letters, Volumes 353–354, 1 November 2012, Pages 108-120 
北海周辺のPETMにおける環境変化はよく分かっていない。Kilda海盆はPETMのきっかけとなった炭素放出(海底火山が活発化し、それまで海底化に保存されていたメタンハイドレートを不安定化させ、大気に温室効果ガスをもたらし、δ13Cの負のエクスカージョンを起こしたとする説)が起きた地点の候補の一つであり、この地点の炭素放出を明らかにすることは重要である。PETMに1,000年ほど先立って海洋の塩分成層が強まり、陸源物質の堆積が増加するのは「マグマ貫入によるテクトニクス的な変化」か「陸域の水循環の変化」のどちらかと解釈される。またPETMの始まりには海洋の成層化(低塩分のcystの増加)が強化され、陸源物質も増加するが、海水準の増加と併せて考えると、PETMの温暖化によって北西ヨーロッパの降水量が増加し、河川流入が増加した結果と考えられる。またPETMを境に花粉や胞子の組成が激変しており、植生も大幅に変わったと考えられる。
Kender et al. (2012)を改変。
PETMにおけるd13C、塩分成層の強さ、陸域の浸食速度の変化。

Variation of the winter monsoon in South China Sea over the past 183 years: Evidence from oxygen isotopes in coral 
Shaohua Song, Zicheng Peng, Weijian Zhou, Weiguo Liu, Yi Liu, Tegu Chen
Global and Planetary Change, Available online 11 September 2012, Pages (Accepted Manuscript)
南シナ海のXisha島で得られたハマサンゴ(P. lutea)のδ18Oを用いて過去183年間の冬モンスーンの風速を経験的に復元。1961年から2000年までの40年間の風速データとサンゴδ18Oを用いて経験的な線形の関係式を作成している。風速は3つの段階に分けられるという。風速の低下はEl Ninoとの対応が良いという。
Song et al. (2012)を改変。ハマサンゴから復元された南シナ海の風速の変動。

Ocean acidification and warming decrease calcification in the crustose coralline alga Hydrolithon onkodes and increase susceptibility to grazing
Maggie D. Johnson, Robert C. Carpenter
Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, Volumes 434–435, 1 December 2012, Pages 94-101 (Accepted Manuscript)
温暖化と海洋酸性化がサンゴ礁生態系に負の影響を与えることが予測されているが、カサブタ状の石灰藻(crustose coralline algae; CCA)に与える影響はよく分かっていない。CCAは海洋酸性化に対して脆弱な種の一つである。21日間にわたる酸性化実験で、石灰藻の重要種の一つHydrolithon onkodesが酸性化された海水下でどういった影響が出るのかや(重量変化など)、ウニ(Echinothrix diadema)の補食のされやすさがどう変化するかを調査。常温・低pCO2(高pH)に比べて、高温・高pCO2(低pH)の海水における実験の方がウニの補食が増加した。こうした海洋酸性化に対する生態的なカスケード構造の影響が評価されたのは初めてであるという。

Improving coral-base paleoclimate reconstructions by replicating 350 years of coral Sr/Ca variations 
Kristine DeLong, Terrence M. Quinn, Frederick W. Taylor, Chuan-Chou Shen, Ke Lin
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, Available online 10 September 2012, Pages (Accepted Manuscript)
ニューカレドニアのAmédée島で得られた2本のハマサンゴ(P. lutea)のSr/Caを測定し、過去250年間の古水温を復元。年代は高精度の230Th測定も用いて更正している。最大成長軸方向に沿った2本の平行したサンプリングの再現性は非常に良く、Sr/Caで0.021mmol/molで、これは温度にして0.39℃相当である。間違ったサンプリングパスの採用は温度にして-2.45℃〜+2.30℃のバイアスを生む可能性がある。ハマサンゴ個体の縦と横のコアでは有意な差は見られなかった。

Resolving Varve and Radiocarbon Chronology Differences during the last 2,000 years in the Santa Barbara Basin Sedimentary Record, California
Ingrid L. Hendy, L. Dunn, A. Schimmelmann, D.K. Pak
Quaternary International, Available online 7 September 2012, Pages (Accepted Manuscript)
カリフォルニア・サンタバーバラ海盆(Santa Barbara Basin; SBB)から得られた年縞堆積物は古気候において重要な記録であるが、年縞のカウントと放射性炭素年代によって独立した年代モデルが作成されている。しかしながら、これらは過去2,000年間において年代モデルが食い違っている。「海洋リザーバー年代:641±119年が現在も昔も成り立つのか」、「年縞数えは正しい精度でなされているのか」に着目し、検証を行った。ローカルリザーバー(ΔR)は80-350年の間で変動しており、一定でないことを示唆している。また数え落としもAD150-AD1700にあることが分かり、いくつかの縞は必ずしも1年刻みでないことを物語っている。こうした状況は河川流入量の低下・冬期の嵐の頻度が低下したことで、シリカ鉱物に富んだ岩屑の供給量が低下したことで生じたと考えられる。
Hnedy et al. (2012)を改変。
サンタバーバラ海盆から得られた堆積物中の陸源炭素試料と浮遊性有孔虫のミックスの14C年代と、INTCAL, MARINE09曲線との対比。

2012年9月8日土曜日

新着論文(EPSL, QSR, Ncom)

EPSL, QSR, Ncom
※論文アラートより

Environmental controls on B/Ca in calcite tests of the tropical planktic foraminifer species Globigerinoides ruber and Globigerinoides sacculifer
Katherine A. Allen, Bärbel Hönisch, Stephen M. Eggins, Yair Rosenthal
Earth and Planetary Science Letters 351-352 (2012) 270–280
G. ruber (pink)G. saccliferのB/CaがpHの指標になるかを評価。G. saccliferのB/CaはpHの増加とともに増加したが、一方でDICが増加することで低下した。これはホウ酸溶存種と炭酸溶存種がカルサイトの結晶格子に取り込まれる際に競い合っていることを示唆している。O. universaのB/Caに対する先行研究(Allen et al., 2011, EPSL)と同じくB/Caは塩分とともに([B]SWが増加するため)上昇したが、温度依存性は見られなかった。

A review of the AustralianeNew Zealand sector of the Southern Ocean over the last 30 ka (Aus-INTIMATE project)
H.C. Bostock, T.T. Barrows, L. Carter, Z. Chase, G. Cortese, G.B. Dunbar, M. Ellwood, B. Hayward, W. Howard, H.L. Neil, T.L. Noble, A. Mackintosh, P.T. Moss, A.D. Moy, D. White, M.J.M. Williams, L.K. Armand
Quaternary Science Reviews (in press)
南大洋のニュージーランド・オーストラリア周辺海域の最過去30kaの古気候復元のレビュー。最終氷期には南極周辺の海氷面積は拡大しており、氷河性砕屑物の記録より流出する氷山も増加していたことが分かっている。微化石の群集組成から海水温は7℃程度低かったと考えられている。STF, SAF, PFはすべて北上していた。ダストの量が増加していたため、鉄肥沃の可能性が考えられるが、生物生産が増加していた証拠は欠乏している。また氷期の海洋循環の変化は表層の栄養塩濃度を変化させ、CO2の脱ガスも制限していた。これは深層水のCO2貯蔵量を増加させ、炭酸塩補償深度を浅くしたと考えられる。また最終退氷期にはSST上昇とともに18kaに海氷が急激に後退し、深層水のCO2が大気にもたらされた。AAIWとLCDWに見られるδ13Cの差異は前者のガス交換が先に起きたか、或いは海氷面でのδ13Cの分配が大きく変化した可能性を示唆している。またACRの際には浮遊性有孔虫のδ18Oがわずかに重くなっており、SSTは低下、中層・深層水の形成は弱化していた。これはニュージーランドの山岳氷河の肥沃化などの陸域の記録からも支持される。ACRののち、深層のCO2が再びわずかに放出されるが、これはNADWの形成が再び活発になったことが原因である可能性が高い。また10ka以降、現在と同じ中層・深層水の形成が始まった。完新世初期にはSSTと気温ともに最大となっており、その結果STFは最も南下しており、また南極氷床も最小になっていた。その後完新世の中期・後期に向かってSSTと気温は低下して現在の状態に入っていくが、その過程で数千年スケールの変動が見られ、SSTや浮遊性有孔虫のδ18Oの変化として記録されているが、偏西風の位置の変動が原因として考えられる。

Evidence for methane production by saprotrophic fungi
Katharina Lenhart, Michael Bunge, Stefan Ratering, Thomas R. Neu, Ina Schüttmann, Markus Greule, Claudia Kammann, Sylvia Schnell, Christoph Müller, Holger Zorn and Frank Keppler
Nature Communications (4 Sep 2012)
生物圏におけるメタンはメタン酸化古細菌、バイオマス燃焼、石炭・石油採鉱によって主にもたらされており、わずかな量が真核生物の植物からもたらされている。腐栄養性の菌類もまたメタン酸化古細菌の関与なしにメタン生成をすることが分かった。好気的な環境下での菌類のメタン生成パスは環境中で未だ知られていなかったメタンの生成源として重要である。この重要な発見はメタン研究の新たな道を開拓し、さらにプロセスの特定に大きな助けとなると考えられる。

Latitudinal variations in intermediate depth ventilation and biological production over northeastern Pacific Oxygen Minimum Zones during the last 60 ka
Olivier Cartapanis, Kazuyo Tachikawa, Edouard Bard
Quaternary Science Reviews 53 (2012) 24-38
北東太平洋に存在する酸素極小層(OMZ)の過去の変動はよく分かっていない。ニカラグア付近で採取された堆積物コアの主要元素分析(Ti, Br, Si, K, Ca, U, Mo, Ni)から50kaのOMZの挙動を復元し、その変動を説明するメカニズムを考察。UとMoは最終退氷期に濃度が上昇するが、有機物に敏感なNiの濃度上昇は確認されなかった。また最終氷期には炭酸塩含有量は有機物・生物源オパール量と数千年スケールの変動が逆相関していた。最終退氷期の500-900m深のOMZの変動は表層の生物プロセスというよりはむしろ海洋循環を起源とする酸素欠乏によって支配されていると考えられる。南北からもたらされる中層・深層水の酸素濃度に大きな変化があったと考えられる。またMIS3には生物生産と間隙水の酸素濃度との間には同位相の変動が見られず、遠隔地の海水の酸素濃度や海水のガス交換がOMZの強度に影響していたと考えられる。Papagayo湧昇セルはCosta Rica Domeの生物生産と逆相関で変動しており、ITCZの緯度方向の移動と関係があると考えられる。またOMZの緯度方向の変化は南北の中層水の相対的な影響の変化を反映していると考えられる。

2012年9月7日金曜日

新着論文(Science#6099)

Science
VOL 337, ISSUE 6099, PAGES 1137-1264 (7 September 2012)

Editors' Choice
Constraints from Above
上空からの制約
Geophys. Res. Lett. 39, L15709 (2012).
エアロゾルは雲への間接的な影響を通して気候に大きな影響を与えている。その雲形成・寿命・放射特性への間接効果がもたらす影響の不確実性は大きく、それは過去や将来の気候変動に対する放射強制力の推定にも大きな不確実性をもたらしている。しかしながら気象的な変数(気温、気圧、湿度、対流)の影響でそれらの不確実性を低減することは難しい。全球の気候モデルを用いた研究から、人工衛星観測によって得られたデータを用いて、エアロゾルの一部が液体の水の形成プロセスに与える効果を決定できる可能性が出てきた。さらに「エアロゾルが洋上の雲の短波放射に与える影響は従来考えられていたよりも小さい」可能性があることが分かった。

Flexible and Fast
柔軟で速い
Nat. Commun. 3, 10.1038/ncomms2021 (2012).
高速通信用の素材として、これまで有機高分子や非晶質のシリコン、酸化物が主体の薄い膜状のトランジスタが使われてきたが、高周波数での使用には向いていなかった。すべてグラフェンで構成される曲げることも可能な変調器回路は4つのシグナルを暗号化することができるらしい。

Reports
Evidence for NOx Control over Nighttime SOA Formation
A. W. Rollins, E. C. Browne, K.-E. Min, S. E. Pusede, P. J. Wooldridge, D. R. Gentner, A. H. Goldstein, S. Liu, D. A. Day, L. M. Russell, and R. C. Cohen
室内実験においてはNOxが大気中の有機エアロゾルの化学合成に関係していることが示されていたものの、大気観測において両者が同時に観測されたことはこれまでなかった。カリフォルニアにおける大気観測から、夜間に粒子状の有機硝酸塩がNOxとともに増加すること、有機高分子の存在下ではその反応が抑制される(NO3との迅速な反応を通して)ことが分かった。夜間のほとんどの二次的有機エアロゾルの形成は人為的なNOxの排出の産物であるNO3が原因であると考えられ、NOx排出削減が有機エアロゾル濃度の低下に繋がると考えられる。

2012年9月6日木曜日

新着論文(Nature#7414)

Nature
Volume 489 Number 7414 pp5-170 (6 September 2012)
簡略版。

Research Highlights
The mystery of high seas methane
海の高いメタンの謎
Science 337, 1104–1107 (2012)
海洋の酸素に富んだ海域ではメタンの濃度が驚くほど高いが、微生物の活動がそれを上手く説明してくれる可能性がある。従来リン酸を使用するために微生物がメチルスルホン酸を使用している可能性が指摘されていたが、この酸が何処からくるのかについてはよく分かっていなかった。Nitrosopumilus maritimusと呼ばれる微生物はメチルスルホン酸を合成する遺伝子を持っていることが分かった。この重要な遺伝子は他の微生物にも見られ、こうした微生物がこれまで説明できなかった海洋のメタン源を説明してくれるかもしれない。

Pruning back carbon estimates
炭素の推定を刈り込む
Biogeosciences 9, 3381–3403 (2012)
「木の高さ」を熱帯雨林の炭素貯蔵量の見積もりに組み込むと、約13%貯蔵量は減少するという。様々な熱帯の木の重量・高さ・密度などのデータから炭素貯蔵量を見積もったところ、特に「木の高さ」がバイオマスの推定に重要で、地域差が見られたという。バイオマスの地図から炭素量を推定するための確度を増すには、リモートセンシングのデータと現場観測を併せることが重要のようだ。

NEWS & VIEWS
Brief but warm Antarctic summer
短いが暖かい南極の夏
Eric J. Steig
南極のJames Ross島で掘削された氷床コアの酸素・水素同位体の測定から得られた気温記録は、南極半島における最近の温暖化傾向の原因について再考の必要性を示している。これまで南極の昇温の原因はオゾンホールの形成に伴う大気循環の変化と考えられてきたが、温暖化の傾向は人類がCFCsを排出するよりも前の1920年代から始まっている。またこのタイミングは南極の他の地域や南半球の温暖化のタイミングとも一致している。統計的にもこれが自然変動とするには無理があるため、確信を持って異常な温度上昇であると結論づけられる。将来の温度上昇についてはまだ不明なところが多いが、二酸化炭素によるわずかな放射強制力が南極の温度上昇には大きく効いている可能性が高い。

LETTERS
Activation of old carbon by erosion of coastal and subsea permafrost in Arctic Siberia
J. E. Vonk, L. Sánchez-García, B. E. van Dongen, V. Alling, D. Kosmach, A. Charkin, I. P. Semiletov, O. V. Dudarev, N. Shakhova, P. Roos, T. I. Eglinton, A. Andersson & Ö. Gustafsson
温暖化とともに永久凍土が融けると、それは大気へと大量の炭素を放出する。北極周辺の東シベリアに存在する世界最大の大陸棚(East Siberian Arctic Shelf; ESAS)の堆積物の露頭(Ice Complex Deposits)と海中の永久凍土層が大きな炭素の貯蔵庫となっているが、それらの融解や分解に対する脆弱性はよく分かっていない。近年の北極の温暖化は予想以上に早く進行しており、それらは特にESAS地域で顕著である。そのため、こうした極地における炭素放出と気候との関わりをよりよく理解することが急務となっている。本論文では、Ice Complex Depositsから放出される炭素量がESASにおける炭素放出の大部分を担っており、海や土壌から出てくる量を圧倒している。同位体を利用したモデリングから、ESASにおいて活性化している古い炭素は年間44 ± 10 TgCと推定され、従来の推定値よりも一桁多いことが分かった。うち3分の2が大気へと二酸化炭素として放出され、残りの3分の1は再び再堆積していると考えられる。この更新世に堆積した炭素に富んだ沿岸部と海洋底の地層が崩壊し、浸食されることにより、温暖化に対する北極の増幅機構がより強化されると考えられる。

Recent Antarctic Peninsula warming relative to Holocene climate and ice-shelf history
Robert Mulvaney, Nerilie J. Abram, Richard C. A. Hindmarsh, Carol Arrowsmith, Louise Fleet, Jack Triest, Louise C. Sime, Olivier Alemany & Susan Foord
ここ50年間で南極の温暖化と複数の棚氷の崩壊や氷河の後退が確認されているが、温暖化は東南極に顕著な特徴で、西南極ではあまり確認されておらず、西南極から得られる古気候記録は南極半島の気温を代表していない可能性があった。今回南極半島先端近くに位置するJames Ross島から得られたアイスコアの水素同位体(δD)から過去14kaの気温を復元したところ、南極の気温は完新世初期の温暖期のあと、9.2-2.5kaは比較的安定しており、その後2.5-0.6kaに寒冷期を迎え、この時に棚氷が発達したと考えられる。現在の温暖化のペースは明らかに自然の変動を逸脱している(前例がない)。現在間氷期の安定期と同程度にある気温が将来も上がり続けると、棚氷を不安定化させ、さらなる溶解へと導くと考えられる。またそうした不安定はより南下し南極半島の深奥部まで広がっていくだろう。

新着論文(JGR)

JGR-Oceans
20 June 2012 - 5 September 2012
An intensification trend of South Pacific Mode Water subduction rates over the 20th century
Liu, C., and L. Wu
20世紀において、SPMWの形成速度が早まっている。原因としては風の強化に伴う風応力curlによる鉛直ポンプの強化が考えられる。一方、SAMWの形成が強まっているのは混合層
が深くなったこと、移流が強化されたことが原因と考えられる。結果、南太平洋においてモード水の形成速度が早まっている。

The effect of biological activity, CaCO3 mineral dynamics, and CO2 degassing in the inorganic carbon cycle in sea ice in late winter-early spring in the Weddell Sea, Antarctica
Papadimitriou, S., H. Kennedy, L. Norman, D. P. Kennedy, G. S. Dieckmann, and D. N. Thomas
南極Weddel海の22の海氷観測ステーションにおいてbrine(淡水が氷に取り込まれる際に生じる塩分の高い水。塩分58以上、水温-3.6℃以下。)を採取。brineには周囲の表層海水に比べてアルカリ度や種々の溶存物質(全炭酸、硝酸、リン酸)が枯渇しており、これらは保存量としてふるまっている。全炭酸が低下する原因として主要なものは「炭酸塩の沈殿」と「CO2の脱ガス」の2つのプロセスであると考えられる。

Southern Ocean fronts: Controlled by wind or topography?
Graham, R. M., A. M. de Boer, K. J. Heywood, M. R. Chapman, and D. P. Stevens
南大洋においては極前線・亜熱帯前線の位置が物理・生物学的なプロセスにおいて非常に重要である。気候モデル(HiGEM)を用いて南大洋の海底地形と風がこれらの前線に与える影響を考察。地形が前線の数と強度にかなり重要な要因であるが、位置との関係は小さい。温暖化実験では南大洋の偏西風の軸が南に1.3º移動することが示されたが、それによって南極周回流(ACC)の位置に変化は生じなかったが、一方で亜熱帯前線(STF)は徐々に南下することが示され、STFは風によって大きく影響を受けると考えられる。海水温のデータを用いて前線の位置を推定するのは信頼できないし、また海面高度のデータを用いて前線の位置の時間変動を議論するのは難しそうである。

A global analysis of ENSO synchrony: The oceans' biological response to physical forcing
Messié, M., and F. P. Chavez
1993-2010年の海洋観測データからENSOが物理的・生物的変数に与える影響をEOFで評価。EOFの第1モードで同期した変化が見られた。特に赤道太平洋の水温の鉛直構造が明瞭なパターンを示した。1997/1998年のエルニーニョの際に全球の新生産量が約0.6-0.9PgC減少した原因としては、栄養塩躍層(ntricline)の深化と湧昇の弱化が原因と考えられる。単純な2層モデルで人口衛生観測から得られている一次生産量を再現することが出来た。赤道太平洋の中央部においては水平移流がクロロフィルⅡの濃度を説明可能。

On the variations of sea surface pCO2 in the northern South China Sea: A remote sensing based neural network approach
Young-Heon Jo, Minhan Dai, Weidong Zhai, Xiao-Hai Yan and Shaoling Shang
南シナ海北部(華南島の近く)において得られたSSTとクロロフィルa濃度の衛星観測データから海洋表層のpCO2を推定。わりといい精度で(~13μatm)推定できるらしい。現場観測のpCO2も整合的。また沿岸部ほどpCO2の変動が大きく、沿岸湧昇や入り江のプリューム(河川水の影響か?)が原因と考えられる。

A large increase of the CO2 sink in the western tropical North Atlantic from 2002 to 2009
Geun-Ha Park and Rik Wanninkhof
熱帯大西洋の北西部にて海洋観測によってられた海洋表層fCO2の膨大なデータ(137航海分)を用いて、同海域の近年の炭素吸収量を推定。海水fCO2は大気fCO2の上昇率と同じかより小さく、同海域がCO2に関する吸収源(sink; -0.06 ± 0.18 mol/m2/yr)として寄与していることを示唆している。Takahashi et al. (2009)による気候値では+0.11mol/m2/yrであった。大西洋の長期モニタリングステーション(BATS, ESTOC)の結果とも合わない(こちらは逆にCO2吸収能力が減っている)。