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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年7月8日日曜日

新着論文(Science#6090)

Science
VOL 337, ISSUE 6090, PAGES 1-124 (6 July 2012)

Editor's Choice
Going up
上がり続ける
Nat. Clim. Change 2, 10.1038/NCLIMATE1597 (2012).
海水準上昇は色々な地域で同じように生じる訳ではない。海水準上昇には温度、塩分、海流の変化、氷床からの距離、氷床融解後の地軸の変化が複雑に影響するからである。モデル研究によるとそうした影響が最も出るのがアメリカの東海岸で顕著らしい。潮位計を調べてみてもこの地域は世界平均と比較して3-4倍早く上昇しており、グリーンランド氷床の融解とAMOCの弱化が関係していそうらしい。

Don’t Discount the Deep
深海を見くびるな
Front. Ecol. Environ. 10, 10.1890/120022 (2012).
熱帯の珊瑚礁生態系と同じく、深海の冷水サンゴもまた魚の住処を提供する点で生態的に重要である。カナダ沖の冷水サンゴの5年間にわたる調査から、サケの仲間(Sabastes sp.)の稚魚がウミエラなどとともに冷水サンゴ生態系を形成していることが分かった。商業的にも重要な魚であり、冷水サンゴの保全や保護政策も考える必要がある。

Drivers of Diversity
多様性の駆動力
J. Ecol. 100, 10.1111/ j.1365-2745.2012.01994.x (2012).
アフリカのアカシアを例にとると、アカシアが繁栄しているのは何故かそれを食べる大型の草食動物(キリンなど)が分布している地域と一致するらしい。草食動物による補食圧が高いことが他の植物種を淘汰し、競争圧を下げることで結果的にアカシアにとって最適な条件が形成されている可能性がある。

News of the week
Japan Reboots Nuclear Power, But Eyes Renewables
日本は原子力発電所を再稼働したが、目は再生可能エネルギーに
関西電力は大飯原発を再稼働させたが、科学者の中にはこの決定の正しさを疑うものもいる。神戸大の石橋克彦は「原発の地下にある断層が予期せぬ地震を招く可能性がある」として警鐘を鳴らしている。津波で起きた福島第一原発からの放射性物質の拡散を受けて地域住民をはじめとして大飯原発を止めるよう要請するものは多いが、夏の電力不足を受けて再稼働が決断された。先週、政府は太陽光・風力・地熱発電に対する助成金を設けると発表し、日本の原発への依存度を下げる方向に動き出した。環境エネルギー政策研究所所長の飯田徹也は「これまで再生可能エネルギーは不可能だと考えられていたが、福島第一原発の事故が日本のエネルギー政策を大きく変えた」と言う。

Climate Science Gets a Hug In U.S. Court Decision
気候科学がアメリカの議会の決定を受けてハグし合う
アメリカの連邦控訴裁判所は温室効果ガスが人々の健康と富みに悪影響を及ぼすとしてそれを規制する法案を制定した。産業同盟は「IPCCの結果に不適切に則っている」として反対したが、議長は「現存する科学的な証拠を鑑み、正しい結果かどうかを精査した上での決断」としている。規制法案は2007年にその原案が出されていたという。

What Gets Yaks High? 
何がヤクを高いところに引き上げた?
チベットの遊牧民は牛よりもヤクを積み荷を運ぶ動物として過去4,000年間利用してきた。
ヤクは牛と近縁でおよそ490万年前に分化し、高地に適応してきた(高度4,500mでも生きられるらしい)。ゲノム解読がなされた結果様々な知見が得られ、例えば酸素欠乏状態での動物の適応や食料が不足した極限環境下でのエネルギー摂取の最適化などに関与している遺伝子が明らかになった。牛などはこの遺伝子を持っていないらしい。人間の高山病や低酸素症(脳・肺水腫)の理解にも繋がる可能性がある。

News & Focus
Researchers Hail New Restoration Program Funds
研究者は新しい修復プログラム基金を歓迎する
David Malakoff
Deepwater Horisonの石油流出事故によって100年以上被害を被るであろうメキシコの湿地と海洋の生態系を修復するために、紛鉱を使う方法が最適かどうかを研究者は明らかにしなければならない。

News Focus
Turning Over a New Leaf in China's Forests
中国の森に新しい葉っぱを
Mara Hvistendahl
土地利用権の再分配は植林と持続可能な林業を活性化させることを狙いとしている。

Perspectives
The Seasonal Smorgasbord of the Seas
海における季節的なバイキング料理
Adrian Martin
観測とモデルの研究から光合成植物プランクトンの春のブルーミングの原因と結果が明らかに。

Research Articles
Eddy-Driven Stratification Initiates North Atlantic Spring Phytoplankton Blooms
Amala Mahadevan, Eric D’Asaro, Craig Lee, and Mary Jane Perry
観測と物理生物モデルを用いて春先の植物プランクトンのブルーミングを再現。ブルーミングには春先の光量増加と温度上昇に伴う成層化の発達の2つが重要だと考えられている。北大西洋においては渦によって駆動される海盆スケールの南北の密度傾度の減少が成層化に寄与していることが示された。温度上昇よりも20-30日早くパッチ状のブルーミングが起きていることからも渦の重要性が分かる。

Reports
Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport
Adam E. Bourassa, Alan Robock, William J. Randel, Terry Deshler, Landon A. Rieger, Nicholas D. Lloyd, E. J. (Ted) Llewellyn, and Douglas A. Degenstein
アフリカ北東部に位置するNabro成層火山は2011.6.13に噴火し、対流圏上層(及び成層圏)に大量の二酸化硫黄をばらまいた。二酸化硫黄は硫酸エアロゾルに変化しながら夏モンスーンによって水平及び鉛直方向に運搬され、成層圏にも拡散した。直接成層圏に達しなくても、気候によって間接的に成層圏に運搬されることがあることを示唆している。

ENSO Drove 2500-Year Collapse of Eastern Pacific Coral Reefs
Lauren T. Toth, Richard B. Aronson, Steven V. Vollmer, Jennifer W. Hobbs, Dunia H. Urrego, Hai Cheng, Ian C. Enochs, David J. Combosch, Robert van Woesik, and Ian G. Macintyre
東太平洋熱帯地域の珊瑚礁はENSOの影響が大きく出る地域であり、水温上昇などのストレスが大きい地域の一つである。将来ENSOが活発化すると予測されているが、この地域の珊瑚礁が将来の珊瑚礁(温暖化+酸性化+ENSO)のアナログになる可能性がある。珊瑚礁掘削によって過去6,000年分の履歴を明らかにしたところ、珊瑚礁は4.0-2.5kaの間は成長していなかったことが分かった。原因はENSOとITCZの変動?
Toth et al. (2012)を改変。4.0-2.5kaがハイエタスの期間に相当する。El Ninoが強い時期は、東太平洋においては大きな水温上昇が起きる。これが白化やpH低下を招いた?

Technical Comments
Comment on “Impacts of the Cretaceous Terrestrial Revolution and KPg Extinction on Mammal Diversification”
Olaf R. P. Bininda-Emonds and Andy Purvis
K/Pg境界後のほ乳類の台頭が遅れていた(delayed-rise仮説)ことに対してMeredith et al. (2011)は疑問を投げかけたが、彼らのデータは根拠が薄弱で、統計的に有為でないことを示す。

Response to Comment on “Impacts of the Cretaceous Terrestrial Revolution and KPg Extinction on Mammal Diversification”
William J. Murphy, Jan E. Janecka, Tanja Stadler, Eduardo Eizirik, Oliver A. Ryder, John Gatesy, Robert W. Meredith,and Mark S. Springer
Bininda-Edmond & Purvis (2012)は我々のデータが彼らのデータと有為には変わらないと指摘しているが、その仮説を支持する証拠は得られない。