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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年7月15日日曜日

新着論文(QSR#44-46)

Quaternary Science Reviews
Volume 44, Pages 1-240 (21 June 2012) 
'Quaternary Glaciation History of Northern Europe'特集号

New insights into the last deglaciation of the south-eastern flank of the Scandinavian Ice Sheet
Albertas Bitinas
Scandinavian Ice Sheet (SIS)の力学・形態・後退の歴史については不明な部分が多い。バルト海近傍のリトアニアの氷河の後退を詳細に復元。Salpausselkäモレーンを除いて氷床の後退は連続的に起きていたらしい。最終退氷期においては氷床の後退は面的な縮小というよりは厚さが薄くなったことによって特徴づけられる。kameテラスや台地状の氷河湖性kameは最終退氷期に活動的な氷床の突起や縁辺部に取り残された氷によって形成されたらしい。


Volume 45, Pages 1-134 (29 June 2012)
Rapid Communication
Green mosses date the Storegga tsunami to the chilliest decades of the 8.2 ka cold event
Stein Bondevik, Svein Kristian Stormo, Gudrun Skjerdal
死んだ植物のクロロフィルは光・水・酸素によって完全に分解されてしまう。ノルウエーの津波堆積物中に保存されたコケのクロロフィルは貝に富んだ堆積物中で光と酸素から遮断され、pHが7以上に維持されたことで分解を免れた。コケの放射性炭素年代は津波がコケを押し流し、堆積させた時間を明確に記録していると考えられる。8.2kaイベントの前後で北大西洋高緯度の古環境記録を解釈する際に、地震起源の津波と8.2kaイベントとを注意して区別する必要がある

Research and Review Papers
Speleothem isotopic evidence of winter rainfall variability in northeast Turkey between 77 and 6 ka
P.J. Rowe, J.E. Mason, J.E. Andrews, A.D. Marca, L. Thomas, P. van Calsteren, C.N. Jex, H.B. Vonhof, S. Al-Omari
トルコの石筍のd18Oを用いて77-6kaの古環境を復元。歳差運動の20ka周期が卓越しており、中国の鍾乳石やグリーンランドアイスコアの記録と類似。また晩氷期の流体包有物(洞窟内の滴下水)のd18Oもまた大きな負の値を示し、この時期に降水の変化があったことを支持している。降水量・水蒸気の起源の変化はMOCの変化やアジアモンスーンの変化と同期して起きている。d13Cの解釈は難しいらしい。

ITCZ and ENSO-like pacing of Nile delta hydro-geomorphology during the Holocene
Nick Marriner, Clément Flaux, David Kaniewski, Christophe Morhange, Guillaume Leduc, Vincent Moron, Zhongyuan Chen, Françoise Gasse, Jean-Yves Empereur, Jean-Daniel Stanley
ナイル川の三角州の堆積物コアを用いて8kaから現在にかけての(完新世)堆積形態を復元。堆積物コアの数は105本、放射性炭素年代は320点。軌道スケールでは低緯度の環境変動にナイル川の水文や堆積は支配されており、数千年スケールではENSOの変動に支配されている。

Volume 46, Pages 1-150 (16 July 2012)
Research and Review Papers
Centennial- to millennial-scale climate oscillations in the Central-Eastern Mediterranean Sea between 20,000 and 70,000 years ago: evidence from a high-resolution geochemical and micropaleontological record
Mario Sprovieri, Enrico Di Stefano, Alessandro Incarbona, Daniela Salvagio Manta, Nicola Pelosi, Maurizio Ribera d'Alcalà, Rodolfo Sprovieri
地中海中央部で採取された堆積物コアの生物組成・植物組成・地球化学的指標から70-20kaの古環境を推定。D/Oイベントやハインリッヒイベントに対応する環境変動が地中海からも得られた。D/Oの亜間氷期に大陸からの陸源物質の流入量が増加。またこの時期にG. ruberのBa/Caが増加し、地中海に流入する河川の流量が増加したことが示唆される。淡水キャップによって成層化が起き、水柱の酸素消費量に影響を及ぼした(浮遊性・底性有孔虫のd13Cに負のエクスカージョン)?HEのときには浮遊性有孔虫のd18Oが軽くなるが、氷山がイベリア半島沖に淡水を供給したことで、地中海の熱塩循環に影響したことが原因?特にHE2とHE5の影響が大きかった。

Fine scale sediment structure and geochemical signature between eastern and western North Atlantic during Heinrich events 1 and 2
H. Rashid, F. Saint-Ange, D.C. Barber, M.E. Smith, N. Devalia
ハインリッヒイベント(ここではH1とH2)の際のLabrador海の堆積相はnepheloid flow(比較的強い深層流によって運ばれる深海堆積物の懸濁物の流れ)と炭酸塩量の増加、IRDの存在、N. pacydermaのd18Oの負のエクスカージョンで特徴づけられる。北大西洋でこれまで得られた堆積物コアから各地のIRDの年代のずれなどを比較し、H1とH2の詳細な時間軸・空間分布を構築。Labrador海でもH0・H1・H1に対応する炭酸塩に富んだ層はHudson海峡では見られるが、Baffin湾では見られない。また北大西洋の東西でも堆積相が異なり、給源となった氷床の位置(εNdで推定)や海流によってどのように氷山が流されるかがIRDをはじめとする堆積相の変化に影響すると考えられる。陸棚の上と下でも堆積相は顕著に異なるため、堆積物コアの採取位置の違いが先行研究の解釈の食い違いを生んでいる?