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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年7月18日水曜日

新着論文(PNAS)

PNAS
10 July 2012; Vol. 109, No. 28 
LETTERS (Online Only)
Importance of autumn Arctic sea ice to northern winter snowfall
Jianping Li and Zhiwei Wu
「北極海の海氷減少が北半球の異常現象を説明する」とするLiu et al. (2012, PNAS)の主張は面白いがもっと詳しい説明が必要だ。またこの発見は2年前に出されたWu et al. (2010, Clim Dyn)によって既に報告されている。Liu et al. (2012, PNAS)は北極振動(AO)と近年の海氷減少とは全く異なる現象だとしているが、海氷の定義が面積ではなく、範囲だとしている点がおかしい。またAOとも有為な相関が見られている。

Reply to Li and Wu: Arctic sea ice and winter snowfall
Jiping Liu, Judith A. Curry, Huijun Wang, Radley M. Horton, and Mirong Song
Wu et al. (2010, Clim Dyn)によって提示される以前から北極海の海氷と北半球の異常気象の関連性については報告されていたものの、有名な論文さえWu et al. (2010, Clim Dyn)は引用していない。北極振動と近年の海氷減少とは全く異なる現象だ。

PNAS Plus (Author Summaries and Research Articles)
Very high-temperature impact melt products as evidence for cosmic airbursts and impacts 12,900 years ago
Ted E. Bunch, Robert E. Hermes, Andrew M.T. Moore, Douglas J. Kennett, James C. Weaver, James H. Wittke, Paul S. DeCarli, James L. Bischoff, Gordon C. Hillman, George A. Howard, David R. Kimbel, Gunther Kletetschka, Carl P. Lipo, Sachiko Sakai, Zsolt Revay, Allen West, Richard B. Firestone, and James P. Kennett
「YDの原因となったのは隕石衝突である」とする説は未だにそれを完全に否定する証拠がないため依然として議論の的となっている。12,000kmも離れた18地点(北米、ヨーロッパ、アジア)のYDに対応するすべての地層から微小球(Microspherules;隕石衝突の証拠の一つとされる)が検出された。またいくつかの地点ではスコリア状のケイ質の小包(高温状態で形成?)も見つかった。これは隕石衝突が原因でできたArizonaのクレーターに見られる特徴や1945年のTrinity nuclear airburst(核実験?)で高いエネルギーが放出された際にできた物質の特徴に類似していることから、「YDの原因となったのは隕石衝突である」とする説を支持するものである。

Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Younger Dryas cooling and the Greenland climate response to CO2
Zhengyu Liu, Anders E. Carlson, Feng He, Esther C. Brady, Bette L. Otto-Bliesner, Bruce P. Briegleb, Mark Wehrenberg, Peter U. Clark, Shu Wu, Jun Cheng, Jiaxu Zhang, David Noone, and Jiang Zhu
YDにはグリーンランドの気温はOldest Dryas(H1に一致)と同程度に低下していたことがアイスコアのd18Oの記録から知られている。しかし、YDとODでは大気中の二酸化炭素濃度が50ppm違っていたたため、グリーンランドの二酸化炭素に対する感度が低下していた可能性を暗示している。北大西洋のSSTの復元とモデルシミュレーションからグリーンランドにおけるYDの温度低下はODと比較して約5℃高かったことを示す。大気循環の変化がグリーンランドにおけるd18Oと気温の関係を変えていた可能性がある。つまりグリーンランドの二酸化炭素に対する感度は従来考えられてきたよりも高く、アルベドフィードバックが効果的に働き温度が上昇することが示唆される。


17 July 2012; Vol. 109, No. 29
Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
1,500 year quantitative reconstruction of winter precipitation in the Pacific Northwest
Byron A. Steinman, Mark B. Abbott, Michael E. Mann, Nathan D. Stansell, and Bruce P. Finney
湿度の記録は木の年輪から得られることが多いが、湖の堆積物コアのd18Oデータを使って物理モデルシミュレーションを行うことで過去1500年間のアメリカ北西部の降水を復元を行った。中世気候変調期(MCA)に特に冬の湿潤化、小氷期(LIA)に乾燥化 が見られ、アメリカ南東部の砂漠地帯とは逆の結果が得られた。

Observationally constrained estimates of carbonaceous aerosol radiative forcing
Chul E. Chung, V. Ramanathan, and Damien Decremer
化石燃料や木材の燃焼によって大気中に放出される炭素質のエアロゾル(Carbonaceous aerosols; CA)はブラックカーボン(BC)と有機物(OM)から構成される。BCは太陽放射をよく吸収し、OMは吸収も散乱もする特徴がある。地上+衛星観測からCAの放射強制力を見積もったところ、+0.75W/m2という値が得られた(モデルでは0~0.7という値、IPCCでは1.6という値が見積もられている)。’ブラウン’カーボン(BrC)の存在も重要であることが分かった。CAの直接的な放射強制力は+0.65W/m2程度で、メタンのそれに匹敵するかそれ以上であることが分かった。
Ching et al. (2012)を改変。
全球の(A)CA(B)BC(C)OM(BrC含む)の排出量の分布。特にアフリカの熱帯雨林、東南アジアの都市部からの排出が多い。原因は焼き畑と質の悪い木材の燃焼。