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2012年7月30日月曜日

14Cと人工衛星から二酸化炭素の排出量を見積もる

Carbon from Tropical Deforestation
Daniel J. Zarin
22 JUNE 2012 VOL 336 SCIENCE

Using Radiocarbon to Go Beyond Good Faith in Measuring CO2 Emissions
MICHAEL BALTER
27 JULY 2012 VOL 337 SCIENCE
より。

人為起源の二酸化炭素排出量、森林破壊によって放出される二酸化炭素の量の見積もりについての最新の測定法・測定結果の紹介。

どちらも人為起源の二酸化炭素の排出量の見積もりに関する記事だったので、まとめて紹介したいと思います。

○放射性炭素(14C)を用いた化石燃料の燃焼起源の二酸化炭素放出量の見積もり

地球上に炭素は12C、13C、14Cの主に3つの同位体を持っていますが、14Cは放射性元素なので時間とともに壊変し、徐々に減っていきます。
半減期は「5730年」という値が現在最も信頼されており、5万年程度ですべて14Nに壊変してしまいます

石油や石炭は主に中生代(251Ma-65.5Ma)という非常に古い時代に死滅した陸上植物や動物・植物プランクトンの遺骸が素になっているため、これらは14Cが枯渇しています。
そのため人間活動によって化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)が燃やされ、大気中に二酸化炭素が放出されると、本来の14Cの量に比べて12Cや13Cの量が増え、徐々に14Cの相対的な量が減っていきます(希釈効果;Suess効果)。
これは13Cについても同じようなことが確認されており、例えば地表の13Cの量は12Cの希釈効果によって相対的に減りつつあり、それが木の年輪やサンゴの骨格に証拠として刻まれています

つまり、大気中の14Cの量を高精度に測定することができれば、毎年化石燃料の燃焼が素になって大気中に放出されている二酸化炭素の量を見積もることができます
(だし、ここで陸上のツンドラや泥炭地、海洋深層水などから出てくる’古い’二酸化炭素の量も含まれてしまいますが、ここでは量的に少ないと考えられるため無視します。また大気上層での14Cの生成率の変動も大きくないので無視できます。)

ただし、二酸化炭素の濃度や二酸化炭素中の同位体比は地球上のすべての地域で一定ではないことに注意が必要です。
それは「どこから二酸化炭素が放出されるか」、「どれだけの速度で放出されるか」、「大気がどれほどの効率で混ざるか」などに依存します。

例えば記事の中では、ニュージーランドの気候学者Jocelyn Turnbullの実際の測定の話が紹介されていますが、高さ150mの携帯電話の電波塔の頂上付近や航空機を用いて採取した大気試料の14Cの量を定期的に測定していたところ、6月の初めに14Cの量のスパイク的な現象が観測されました。
ちょうどこの時期、インディアナポリスで自動車レースが開催されていたことが原因と考えられました。ただし、レースに出場している車からの二酸化炭素放出ではなく、それを観に来た観客の乗る車から放出される二酸化炭素放出が原因と推定されています。

大気中の14Cの量を見積もるのを難しくしているのはこうした地域的な影響の他に、原子力発電所の影響もあるそうです。
原子力発電所では中性子の作用によって14Cが新しく生成され、それが大気中に混入するためです。原発が密集した地域では通常の値から20%ほど14Cの量が多くなるそうです。

また大気と海洋の二酸化炭素もかなりの量が絶えず交換しているため、見積もりを難しくしています。

例えばドイツの物理学者Ingeborg Levinの研究チームによる、スイス・アルプスと南極で採取された大気中二酸化炭素の14Cの測定結果からは、北半球の14CO2は南半球のそれに比べておよそ0.5%少なくなっていることが分かっています。これは主に北半球で化石燃料が燃焼されていることが原因と結論づけられています。
ただし産業革命以前はこの逆になっていたと考えられます。なぜなら南半球の海洋(つまり南大洋)では湧昇によって古い炭素(14Cが少ない)が表層にもたらされ、大気と交換するためです。

これまで、化石燃料の燃焼起源の二酸化炭素量は石油の使用量や各国の報告値に依っていました。個々の報告値から積み上げて全体の二酸化炭素放出量が推定されてきました。しかしこれらの値は’科学的’ではないし、各国の把握能力と信頼性に依存してしまうという問題がありました。
自動車から排出される二酸化炭素、家事によって放出される二酸化炭素など、見積もるのが困難なものもあります。

こうした大気中の二酸化炭素量や同位体のモニタリングは全世界の様々な観測所においてなされており、今後もその数は増えていくでしょう。

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○人工衛星の観測からの森林破壊由来の二酸化炭素放出量の見積もり

気候変動に関する政府間パネル第4次報告書(IPCC AR4)では森林破壊起源の二酸化炭素排出量は「年間1.6±0.6PgC」と見積もられましたが、これは主に各国がFAOに報告している統計値が基になっています。
そのため、各国の把握能力に強く依存してしまい、化石燃料燃焼起源の二酸化炭素排出量と似たような問題を抱えていました。

最近では人工衛星が地球を取り巻いており、様々な手法で地球を観測していますが、そうした人工衛星を用いた熱帯域の森林の見積もりが報告され始めたのはごく最近のことです。

2つの独立した研究から、熱帯雨林の炭素埋蔵量は「247PgC」と「228.7PgC」と見積もられました。
この数字と地上の観測記録、FAOの統計データ、人工衛星観測から分かる森林の減少量などを併せて、森林破壊起源の二酸化炭素排出量は2000-2010年の間で「年間1.0PgC」と見積もられました。

さらに最も最新の見積もりでは、2000-2005年の間で「年間0.81PgC」と以前よりも少なく見積もられています。ただし、この見積もりには森林の復活による二酸化炭素の吸収の効果は考慮されていません。

熱帯雨林の炭素埋蔵量の推定は各観測でそれほど大きくは違わないので、これらの差が生まれる原因は主に手法の問題と扱う範囲の問題と考えられます。

また以上すべての観測では泥炭地からの二酸化炭素吸収・放出は考慮されていません。実際インドネシアでは熱帯雨林からの二酸化炭素のうち半分はこうした泥炭地から放出されています。

人工衛星は広い地域をカバーでき、人工衛星が寿命を迎えるまで連続して観測が可能であるという最大のメリットがある反面、解像度が荒い、データを解釈するのに様々な仮定が必要などといった問題も抱えています。
人工衛星を上げれば万事解決するということはなく、統計、地上観測、人口衛星を用いたリモートセンシングのすべてが今後も重要になってくると思われます。
(山岳氷河、海洋生物生産、エアロゾル、雲の高度、温室効果ガスなどを観測する際にも同じようなことが言えると思います。)

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今回は「化石燃料の燃焼」「森林破壊」によって放出される二酸化炭素について扱いましたが、もうひとつ重要な二酸化炭素の放出源はセメント生産です。

また海による二酸化炭素の吸収が人為起源の二酸化炭素排出を打ち消す方向に働いていますが、その量も近年減少傾向にあると言われています。

さらに地球温暖化を考える上では、二酸化炭素以外の温室効果ガス(二酸化窒素、メタン、CFCs、水蒸気など)の寄与も無視できません。

このあたりの話もそのうち。