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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年5月20日日曜日

新着論文(Ngeo#May 2012)

Nature Geoscience
Volume 5 No 5 pp301-363 (May 2012)

Editorial
Climate change dialogues
気候変動の討論
’Human influence on the planet is undeniable. Making a switch from exploitation to maintenance of natural resources depends on a step change in communication, to convince the Earth's population of the necessity for a fundamental change of course.’
「地球への人類の影響はもはや否定できない。根本的な変化の必要性を地球上に住む人類に確信させるためにも、自然資源を「搾取すること」から「維持すること」への転換をすることはコミュニケーションの段階的な変化次第である。」

Research Highlights
CLIMATE CHANGE: Agricultural impacts 
気候変動:農業の影響
J.Clim. http://doi.org/htt (2012)
食料需要の増大から中国においては農作物の2期作が広がりつつある。それによって気候が変化している。1996-2005年にかけて調査をしたところ、2期作が行われている地域は1期作の地域に比べて地表面気温の高く、乾燥していることが分かった。特に中国北東部で顕著。

PALAEOCLIMATE: Southern extent 
古気候:南の範囲
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/htw (2012)
西南極氷床のアイスコアを調べたところ、南極にも小氷期が訪れていたことが示唆された。南北両半球で同じく寒冷化が起きていることを考えると、小氷期の原因はAMOCの低下ではなく、太陽放射量の減少と火山噴火が頻繁に起きていたことであったことが示唆される。

News and Views
Glaciology: No ice lost in the Karakoram
氷河学:カラコラムの氷は融けていない
Graham Cogley
ヒマラヤ氷河が温暖化によってどう変化するかはまだよく分かっていない。カラコラムの氷河はほとんど融けておらず、従来考えていたよりも海水準上昇に寄与していないことが分かった。

Palaeoclimate: Hot spells on land
古気候:陸上が暑かった頃
Ross Secord
PETMを含めて、Paleocene-Eoceneには3回の温暖期があった。陸上の記録を詳細に調べてみると、これら3回の温度上昇は全て同一のメカニズム(大気への二酸化炭素、メタンなどの大量注入)によって起こっていたことが分かった。

Planetary science: Earth's ancient catastrophes
惑星科学:古代の地球の大災害
Tamara Goldin
地球形成初期には大量の小惑星が地球に衝突していたことが知られている(重爆撃期)が、地球は従来考えられていたよりも長期間小惑星の衝突に見舞われていたかもしれない。

Marine microbiology: Evolution on acid
海洋微生物学:酸の中の進化
Sinéad Collins
海洋酸性化に対して生物がどう適応するかを調べるために、実験室で進化を再現することが有効な方法である。石灰化を行う光合成植物プランクトンは進化によって適応できる可能性がある。

Sherry Rowland: Ozone and advocacy
シェリー・ローランド:オゾンと支援運動
Paul Crutzen
オゾン層の破壊を初めて発見し、世に広めたローランドの貢献について。

Letters
Response of the North Atlantic storm track to climate change shaped by ocean–atmosphere coupling
T. Woollings, J. M. Gregory, J. G. Pinto, M. Reyers & D. J. Brayshaw
温暖化によって熱帯低気圧の通り道がより北上する予測がなされているが、シミュレーションで北大西洋の熱帯低気圧の通り道の変化を予測したところ、北上かつ東寄りになる可能性が出てきた。ヨーロッパに大きな被害が出る可能性がある。モデルは不確実性が大きく、海洋循環場がうまく再現できると予測精度も向上することが期待される。

Atmospheric observations of Arctic Ocean methane emissions up to 82° north
E. A. Kort, S. C. Wofsy, B. C. Daube, M. Diao, J. W. Elkins, R. S. Gao, E. J. Hintsa, D. F. Hurst, R. Jimenez, F. L. Moore, J. R. Spackman & M. A. Zondlo
北極にはガスハイドレートや永久凍土として大量のメタンが蓄積されており、しかも北極海の海水はメタンに関して過飽和の状態にある。航空機を用いて北極のメタン濃度を計測したところ、海氷の割れ目や海氷量が変動しやすい地域でシベリアの大陸棚に匹敵するほどの大量のメタン放出が見つかった。一酸化炭素の量の変動は見られなかったため、燃焼由来のものではないと考えられる。

Slight mass gain of Karakoram glaciers in the early twenty-first century
Julie Gardelle, Etienne Berthier & Yves Arnaud
カラコラムの氷河は1999-2008年にかけて融解しておらず、むしろやや拡大していることが分かった。これは下流の河川流量が低下しているという観測事実とも整合的である。

Terrestrial carbon isotope excursions and biotic change during Palaeogene hyperthermals
Hemmo A. Abels, William C. Clyde, Philip D. Gingerich, Frederik J. Hilgen, Henry C. Fricke, Gabriel J. Bowen & Lucas J. Lourens
アメリカ・ワイオミング州のBigHorn盆地から得た古土壌の炭酸塩ノジュールからPaleoceneとEoceneにおける陸域のd13C記録を復元。PETMに似た温暖期であるETM2(Eocene Thermal Maximum 2)とH2 (Hyperthermal 2)はPETMと同様のメカニズムによって引き起こされた(大気への大量の炭素注入)ことを示唆している。また陸域の記録と海の記録は同程度の変化を記録しており、この変動が全球規模であったことを示唆している。PETMの時とは違い、陸域ほ乳類の種の激変には繋がらなかったようだ。

Abels et al. (2012)を改変。
PETMは詳細に観察すると、ETMとH2と呼ばれる2回の温暖化に分けることができる。炭素同位体の負の急激な変動はメタンハイドレートの崩壊を示唆しており、海と陸の両方にその記録が残っている。


Articles
Adaptive evolution of a key phytoplankton species to ocean acidification
Kai T. Lohbeck, Ulf Riebesell & Thorsten B. H. Reusch
円石藻の重要種(Emiliania huxleyi)をpHを低下させた(pCO2を上昇させた)海水化で飼育実験を行った(500世代に渡って無性生殖させ、進化を再現した)ところ、海洋酸性化に適応し、現在よりも石灰化量が増加することが示された。円石藻は海洋酸性化した海洋においても食物連鎖の礎を支えるかもしれない。

Pulses of carbon dioxide emissions from intracrustal faults following climatic warming
Niko Kampman, Neil M. Burnside, Zoe K. Shipton, Hazel J. Chapman, Joe A. Nicholl, Rob M. Ellam & Mike J. Bickle
炭素捕獲・貯留技術の発展には、地層中で二酸化炭素がどのように移動しているかを知ることが必要不可欠である。中でも関心を集めているのは、「二酸化炭素を注入したことで断層にどのような地球化学的な変化が起こるか、地震や断層の安定性にどう影響するか」などである。アメリカ・Utahにある天然の二酸化炭素貯蔵域を調べたところ、過去135kaを見ても変動が大きく、特に退氷期に大量のCO2が放出されていたことが分かった。氷床解放による地殻変動や地下水面の変化が原因で蓋が空いた?