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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年4月27日金曜日

新着論文(PNAS, PO)

Proceedings of the National Academy of Sciences
Vol. 109, No. 17 (24 April 2012)

Role of the Bering Strait on the hysteresis of the ocean conveyor belt circulation and glacial climate stability
Aixue Hu, Gerald A. Meehl, Weiqing Han, Axel Timmermann, Bette Otto-Bliesner, Zhengyu Liu, Warren M. Washington, William Large, Ayako Abe-Ouchi, Masahide Kimoto, Kurt Lambeck, and Bingyi Wu
ダンシュガード・オシュガーサイクル(DO cycle)は氷期に特徴的な気候変動であるが、氷期の初期や間氷期にはおこらないことが知られている。最先端のモデルシミュレーションからベーリング海峡の閉鎖によって北極海と太平洋の海水交換が停止することでこのような急激な気候変動が生じる可能性が示唆された。

Antarctic and Southern Ocean influences on Late Pliocene global cooling
Robert McKay, Tim Naish, Lionel Carter, Christina Riesselman, Robert Dunbar, Charlotte Sjunneskog, Diane Winter, Francesca Sangiorgi, Courtney Warren, Mark Pagani, Stefan Schouten, Veronica Willmott, Richard Levy, Robert DeConto, and Ross D. Powell
南極ロス海から得られた堆積物コア(ANDRILL-1B)を用いてPlioceneの海洋環境と海氷の張り出しを復元。3.3Ma頃から氷床拡大がスタートした?寒冷化によって南半球の偏西風が強化され、海洋循環も強化された?
McKay et al. (2012)を改変。
上図はPlioceneの中でも暖かい時期。下図はLate Plioceneの冷たい時期を表す。


Paleoceanography
19 April 2012 - 24 April 2012

Can we use ice sheet reconstructions to constrain meltwater for deglacial simulations?
Bethke, I., C. Li, and K. H. Nisancioglu
EMICsを用いて退氷期における融け水の子午面循環に与える影響を議論。融け水に対する感度の違いによって子午面循環が止まるもの、弱まるものが見られた。氷床量の復元結果は退氷期における融け水の役割を制約するには今ひとつ物足りない。

Origin of magnetic mineral concentration variation in the Southern Ocean
Yamazaki, T., and M. Ikehara
南インド洋で採取された堆積物コア中の陸源・生物源磁性鉱物を分析。MIS12から現在にかけて氷期に生物源の磁性鉱物が増加する特徴が観察され、鉄肥沃化(Iron Firtalization)が原因として考えられる。

新着論文(Nature #7395)

Nature
Volume 484 Number 7395 pp415-558 (26 April 2012)

Research Highlights
Methane from the Arctic Ocean
北極海からのメタン
2009年から2010年にかけて5回の航空機を用いた観測から、北極海の海氷の割れ目からメタンが放出されていることが観測された。しかもその量は沿岸域に匹敵する程度。将来の海氷の融解によってメタンの放出量が増えるのではないだろうか?

News in Focus
Ancient asteroids kept on coming
太古の隕石は来続けていた
地球が形成された初期の段階では隕石が多数地球に衝突していた(特に’重爆撃期’において)。これまで考えられていたよりも多かったかも?

Careers
A lab app for that
そのための研究室アプリ
研究室で使えるMacアプリの紹介。ただし、生物学者の一例のみ。

Articles
Deposition of 1.88-billion-year-old iron formations as a consequence of rapid crustal growth
Birger Rasmussen, Ian R. Fletcher, Andrey Bekker, Janet R. Muhling, Courtney J. Gregory & Alan M. Thorne
縞状鉄鉱層の形成は鉄を多く含んだ古代の海水に光合成生物の作った酸素がもたらされた結果、急激な酸化が起きたことが原因として考えられているが、酸素濃度が上昇した後の縞状鉄鉱層の形成のメカニズムについては謎のままである。西オーストラリアの地層中のジルコンの年代を測定したところ18億8千万年前という年代が得られた。この年代に起きた他のイベントを考えると、マントルの活動の活発化と地殻形成速度の上昇が原因?海底火山や熱水から鉄が供給されたのでは?

Antarctic ice-sheet loss driven by basal melting of ice shelves
H. D. Pritchard, S. R. M. Ligtenberg, H. A. Fricker, D. G. Vaughan, M. R. van den Broeke & L. Padman    
人工衛生を用いた高度のレーザー観測と雪表面の物理過程のモデリングから、南極の氷床が主に基底部の融解によって徐々に薄くなっていることが分かった。風が物理的に大きく影響している?

2012年4月24日火曜日

新着論文(DSR2)

Deep Sea Research 2
Volumes 61–64, Pages 1-204, (February – March 2012)

「北太平洋の現在と過去の気候変動ダイナミクス」特集
編集者:原田尚美、高橋耕造、Axel Timmermann、坂本竜彦

Paleoceanography of the last 500 kyrs in the central Okhotsk Sea based on geochemistry
Shinya Iwasaki, Kozo Takahashi, Takuya Maesawa, Tatsuhiko Sakamoto, Saburo Sakai, Koichi Iijima
堆積物コアのd18O、TC、CaCO3量を用いてオホーツク海の過去50万年間の表層海洋環境を復元。基本的に間氷期に高いTCとCaCO3。退氷期の初期には円石藻が卓越するが、後期には珪藻が卓越する。大気中のCO2変動にも寄与した?

Reconstruction of surface water conditions in the central region of the Okhotsk Sea during the last 180 kyrs
Boo-Keun Khim, Tatsuhiko Sakamoto, Naomi Harada
堆積物コアの生物源オパール, CaCO3, TOC、d15Nを用いてオホーツク海の過去18万年間の表層海洋環境を復元。暖かく栄養塩が豊富な間氷期に生物生産が増加。逆に氷期には海氷の張り出しの寄与によって生物生産は抑制。d15Nは解釈が難しい。2000年という短期間に劇的に生物層が円石藻→珪藻へと変化。

Khim et al. (2012) Fig. 4を改変。氷期-間氷期におけるオホーツク海の表層環境の推定。

Responses of the Okhotsk Sea environment and sedimentology to global climate changes at the orbital and millennial scale during the last 350 kyr
Sergey A. Gorbarenko, Naomi Harada, Mikhail I. Malakhov, Tatyana A. Velivetskaya, Yuriy P. Vasilenko, Aleksandr A. Bosin, Aleksandr N. Derkachev, Evgenyi L. Goldberg, Aleksandr V. Ignatiev
堆積物コアの過去35万年間にわたる生物活動の指標(生物源オパール・Baなど)と岩石物理的な指標(マグネ、粒度など)を測定。北半球の夏の日射量に対し、6.3-5.9kaのラグがみられた。

Sea surface temperature changes in the Okhotsk Sea and adjacent North Pacific during the last glacial maximum and deglaciation
Naomi Harada, Miyako Sato, Osamu Seki, Axel Timmermann, Heiko Moossen, James Bendle, Yuriko Nakamura, Katsunori Kimoto, Yusuke Okazaki, Kana Nagashima, Sergey A. Gorbarenko, Akira Ijiri, Takeshi Nakatsuka, Laurie Menviel, Megumi O. Chikamoto, Ayako Abe-Ouchi, Stefan Schouten
アルケノン、TEX86、TEX86L(高緯度の海洋にも適用できるよう改善したもの)から最終氷期、最終退氷期の表層水温を復元。海氷の張り出しの季節が変化した結果、バイオマーカーの生産される季節も変化し、温度復元結果に影響。温度変化の中にはAMOCの変動を起因とする偏西風帯の変化とそれに付随する黒潮の変動が関係していると考えられる。

Variability in North Pacific intermediate and deep water ventilation during Heinrich events in two coupled climate models
Megumi O. Chikamoto, Laurie Menviel, Ayako Abe-Ouchi, Rumi Ohgaito, Axel Timmermann, Yusuke Okazaki, Naomi Harada, Akira Oka, Anne Mouchet
MIROC(AOGCM)とLOVECLIM(EMICs)を用いてAMOCの変動と北太平洋の中層水の温度やベンチレーションの程度をモデリング。淡水によってAMOCが弱まると、2つのモデルとも北太平洋の温度躍層下部と中層水に温度上昇が見られた。太平洋のMOCはモデルごとに感度が異なった。ハインリッヒ1において低栄養塩・高酸素濃度の中層水が見られ、北太平洋の高緯度で沈み込みが強化したことを示唆しており、proxyデータとも整合的。

Millennial-scale variations of late Pleistocene radiolarian assemblages in the Bering Sea related to environments in shallow and deep waters
Takuya Itaki, Sunghan Kim, Stephan F. Rella, Masao Uchida, Ryuji Tada, Boo-Keun Khim
堆積物コアからベーリング海における過去60-10kaの放散虫の群集組成を復元。D/Oサイクルに対応した変動がみられた。MWP-1Aと1Bにおいて群集組成が大きく変化?

Itaki et al. (2012) Fig.1を改変。ベーリング海、オホーツク海の海底地形図と表層流。


2012年4月23日月曜日

「低炭素エコノミー」(茅陽一ほか、2008年)

「低炭素エコノミー 〜温暖化対策目標と国民負担〜」
茅陽一、秋元圭吾、永田豊 著
日本経済新聞出版社
2008年11月出版

2012年4月21日土曜日

新着論文(Science #6079)

Science
VOL 336, ISSUE 6079, PAGES 269-380 (20 APRIL 2012)

Researth Highrights
The Sun’s Push
太陽の後押し
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 10.1073/pnas.1118965109 (2012).
南極アイスコアの10Beから過去9400年間の太陽活動を復元。アジアモンスーンの変動は太陽の変動だけでなく他の要因(火山活動や温室効果ガスなど)が大きく影響していると考えられる。

Can coral cope with climate change?
サンゴは気候変動に対処できるか?
Curr. Biol.  (2012)
GBRにて緯度方向にとった132地点でサンゴをサンプリングし種組成を見たところ、温度や白化現象に対する脆弱性に関係なく、種組成が大きく変化。温度が規定要因ではない?

News Focus
Evidence Mounts for Dam-Quake Link
ダム-地震のリンクの証拠が積上っている

四川大地震は上流のダム建設による水循環の変化が原因で起こった?

Perspectives
A Dive to Challenger Deep
チャレンジャー海溝への潜水
Richard A. Lutz and Paul G. Falkowski
最近のJames Cameronによるチャレンジャー海溝への潜水が深海の科学の新たな開拓を招いた。

Review
The State and Fate of Himalayan Glaciers
T. Bolch, A. Kulkarni, A. Kääb, C. Huggel, F. Paul, J. G. Cogley, H. Frey, J. S. Kargel, K. Fujita, M. Scheel, S. Bajracharya,and M. Stoffel
ヒマラヤの山岳氷河は他の氷河と同じく後退しつつあるが、カラコルム氷河のように安定しているものもある。しかしゆくゆくは後退し、水資源や災害の引き金となるだろう。

Articles
Dynamic Causes of the Relation Between Area and Age of the Ocean Floor
N. Coltice, T. Rolf, P. J. Tackley, and S. Labrosse

新着論文(Nature #7394)

Nature
Volume 484 Number 7394 pp287-410 (19 April 2012)

Research Highlights
Predicting the Indian monsoon
インドモンスーンを予測する
これまでインドモンスーンの予測は海表面水温の統計的な処理から経験的に求められていたが、George Mason大のチームが夏モンスーンの降水量と海表面水温との間には相関がないことを示し、さらに予測シミュレーションに対し改善を加えた。

News in Focus
Tsunami simulations scare Japan
津波シミュレーションの結果が日本を驚かす
東京大学の研究チームによる南海トラフの地震のもたらす津波の最大の大きさが公開された。2003年になされた予測を遥かに超える予測結果に。

News & Views
Fossil raindrops and ancient air
雨粒の化石と太古の大気

William S. Cassata & Paul R. Renne
太古の雨粒の痕跡が残る化石の解析から、27億年前の大気は現在の大気とほとんど同じであったことが示唆された。

Letters
Air density 2.7 billion years ago limited to less than twice modern levels by fossil raindrop imprints
Sanjoy M. Som, David C. Catling, Jelte P. Harnmeijer, Peter M. Polivka & Roger Buick
雨粒の化石は過去の大気密度を考える上で重要な記録である。室内実験で実際に火山灰に雨粒を落とし、終端速度や大気密度が雨粒の径に与える影響を評価し、化石の雨粒を解釈したところ、27億年前の大気密度は現在と同程度であることが分かった。「暗い太陽のパラドクス」の理解に一歩近づいた?

Formation of the ‘Great Unconformity’ as a trigger for the Cambrian explosion
Shanan E. Peters & Robert R. Gaines
カンブリア大爆発に先立つ大不整合(Great Unconformity)は海水のアルカリ度と大陸風化が大きく変化していたことの証拠と捉えられる。海水の組成の変化がカンブリア大爆発(硬組織を持った生物が地球史上初めて登場)のきっかけになった?

2012年4月17日火曜日

新着論文(CP)

Climate of the Past
22 March - 13 April 2012

Centennial mineral dust variability in high-resolution ice core data from Dome C, Antarctica
F. Lambert, M. Bigler, J. P. Steffensen, M. Hutterli, and H. Fischer
東南極氷床のアイスコア(Dome Cアイスコア)から過去80万年間のダスト(溶存態のCa2+、非海塩起源のCa2+、鉱物粒子)の量を高時間解像度で復元。9回のターミネーションにおいてダスト供給(鉄による肥沃化)はCO2の上昇に対して支配的な要因ではなかったと考えられる。またダストの供給量の変動は主に大気の循環場の変化が原因で、南大洋の温暖化よりも先行して起きていた
Lambert et al. (2012) Fig. 5を改変。
過去の9回のターミネーション(氷期→間氷期)において、二酸化炭素の増加や南極気温の増加に先立ってダストの供給量が増加していた。同じコアを扱っているけど、年代モデルは正しい??

Inferred gas hydrate and permafrost stability history models linked to climate change in the Beaufort-Mackenzie Basin, Arctic Canada
J. Majorowicz, J. Safanda, and K. Osadetz
過去1400万年間のカナダのツンドラにおけるガスハイドレートの進化及び変動をモデルシミュレーションで再現。永久凍土が厚い時は氷の下のガスハイドレートが安定化し、大気のメタンのソースにはならないらしい。

Interpreting last glacial to Holocene dust changes at Talos Dome (East Antarctica): implications for atmospheric variations from regional to hemispheric scales
S. Albani, B. Delmonte, V. Maggi, C. Baroni, J.-R. Petit, B. Stenni, C. Mazzola, and M. Frezzotti
東南極に位置するTaors DomeにおけるアイスコアからLGMからHoloceneにかけてのd18Oとダストの供給量を復元。東南極氷床の縁辺部に位置し、ダストの供給場に近いと言う特徴がある。ローカルな特徴と大きな空間スケールの特徴(Dome Cの記録)の両方が見られ、ローカルな特徴はRoss海の退氷と関連がありそう。
Albani et al. (2012) Fig. 4を改変。
Dome Cの記録とTalos Domeの記録とを比較。大きくは一致しているが、特にダストの供給量に関してはローカルな影響も見られる。

2012年4月14日土曜日

新着論文(QSR#40)

Quaternary Science Reviews

Volume 40, Pages 1-106 (27 April 2012) 


Precession forcing of productivity in the Eastern Equatorial Pacific during the last glacial cycle
Elena V. Ivanova, Luc Beaufort, Laurence Vidal, Michal Kucera
コスタリカ沖で得られた堆積物コアから過去140ka(MIS6〜現在)の赤道東太平洋の湧昇システムにおける有孔虫・円石藻の群衆組成と一次生産量を復元。2万年周期の歳差運動による春と秋の日射量極大期の影響が大きい。またターミネーションの際にはさらなる栄養塩の供給があったと考えられる。
Ivanova et al. (2012) Fig. 4を改変。H1に一次生産量(PP)が増加?

An organic geochemical record of Sierra Nevada climate since the LGM from Swamp Lake, Yosemite
Joseph H. Street, R. Scott Anderson, Adina Paytan
Street et al. (2012) Fig. 6を改変。dの珪藻密度の変動が大きい。

カリフォルニアの Sierra Nevadaの湿地の堆積物コアから過去20kaの千年スケールの気候変動を復元。カリフォルニア海流の変動と同様の変動が見られ、北太平洋の大気-海洋循環が主要な駆動力となっていることが示唆される。

新着論文(Science #6078)

Science
VOL 336, ISSUE 6078 (13 April 2012)

Research Highlights
Climate Model Comparisons
気候モデルの比較
気候変動に対する生態系の応答のモデリングは一般に大きな不確実性を伴う。気候モデルそのものにも不確実性はあるし、生物の応答の仕方についても不確実性がある。将来の二酸化炭素濃度が植物の生理学にどのような影響を与えるかの理解も限られている。

News & Analysis
Ocean's Deep, Dark Trenches to Get Their Moment in the Spotlight
海深く、暗い海溝に光を当ててその瞬間を捉える

HADES (Hadal Eco- system Studies)の研究成果がまもなく公開される。10,000m深の超深海において生物が何を食べているかについて。

Sleep Study Suggests Triggers for Diabetes and Obesity
睡眠学は糖尿病と肥満症のきっかけを示唆している
睡眠の研究から、睡眠阻害(例えば睡眠時間の減少:1日5-6h睡眠、日照リズムの変化:24h→28h)が糖尿病と肥満症に結びつく可能性が示唆された。例えば睡眠が不足していると血液中のグルコースの量が通常より上昇し、健康を害するレベルにまで達する。またエネルギー消費率も8%ほど低下し、1年で6キロ体重が増加するほどのエネルギーに相当する。

Tougher Times for Any Life on an Early Mars?
初期の火星はいかなる生命にとっても生存困難だった?
月と惑星に関する会議における話題。モデル計算からは火星は誕生から現在まで冷たく、乾燥した状態を維持してきたことが示唆される。やはり氷が融点を超えることはなく、液体の水は存在しなかったのではないか。

Perspectives
F. Sherwood Rowland (1927–2012)
Ralph J. Cicerone, Mario J. Molina, and Donald R. Blake
フロンガス(CFC)がオゾン層の破壊に繋がることを証明したことでノーベル賞受賞に繋がったRowlandについて。最近ご逝去されたようです。

2012年4月13日金曜日

新着論文(PO)

Paleoceanography
22 March 2012 - 10 April 2012

Millennial scale changes in sea surface temperature and ocean circulation in the northeast Pacific, 10–60 kyr BP
Dorothy K. Pak, David W. Lea, and James P. Kennett
カリフォルニア沖の堆積物コアの有孔虫(G. bulloides)のMg/Caから過去60-10kaの水温を復元。最終退氷期に水温は7.4±0.8℃上昇。また氷期の千年スケールの変動においては3-7℃の水温変動と塩分変動(亜氷期に塩分上昇)を伴ったことが示唆される。
Pak et al. (2012) Fig. 1を改変。 

Refining the stable isotope budget for Antarctic Bottom Water: New foraminiferal data from the abyssal southwest Atlantic
J. L. Hoffman and D. C. Lund
ブラジル沖の堆積物コアの底性有孔虫のd18Oどd13Cから最終氷期から現在にかけてのAABWの深層水の組成を復元。LGMにはAABWによる輸送が強化していたか、上層での混合が抑制されていた?

Sea-surface temperature records of Termination 1 in the Gulf of California: Challenges for seasonal and interannual analogues of tropical Pacific climate change
McClymont, E. L., R. S. Ganeshram, L. E. Pichevin, H. M. Talbot, B. E. van Dongen, R. C. Thunell, A. M. Haywood, J. S. Singarayer, and P. J. Valdes
カリフォルニアのGuaymas Basinで得られた堆積物コアのアルケノンとTEX86温度計から最終氷期〜最終退氷期(25-6ka)の古水温復元。数千年の変動はITCZの位置・亜熱帯高気圧の強度変化と関連している様子。退氷期における温暖化の始まりは18-17kaに起こり、南大洋起源のシグナルと類似。現在観察されているような熱帯太平洋の季節変動・経年変動は氷期や退氷期には当てはまらない?
McClymont et al. (2012) Fig. 1を改変。

2012年4月12日木曜日

新着論文(Nature)

Nature
vol. 484 No. 7393 (12 April 2012)

Research Highlights
Hot tuff not so tough
熱い火山灰(タフ;tuff)はそんなにタフじゃない
イタリアでよく使われる建築資材のうち、火山灰を原料とするものは高温に弱いという特徴がある。火事の時に崩れる危険性が高い。ゼオライトが多く含まれることが原因なのだとか。

News in Focus
Slow progress to cleaner coal
進展は遅いが、よりクリーンな石炭へ
石炭燃焼によって発生する二酸化炭素を捕獲・貯留(CCS; Carbon Capture and Storage)することで、大気中への二酸化炭素放出量の削減に効果がある。しかし、こうした技術はコストがかさむために世界各国の技術開発が出遅れていたが、大きな二酸化炭素排出国である中国を始めとして、ようやく動き出したようだ。

Dreams of water on Mars evaporate 
:火星の蒸発岩に水がある?という夢
火星は現在は冷たく乾燥した惑星だが、昔は湖や海さえもあった可能性が広く研究者によって受け入れられている(流跡、リップルマーク、粘土鉱物の存在など)。しかし最新の3Dモデルけいさんでは二酸化炭素の温室効果だけではうまく火星を暖めることが出来ず、氷を融かすことができない。液体の水は氷の下などの限られた部分にしかなかった?
カギは硫黄酸化物による温室効果にある?8/5にはNASAの探査機が火星に降り立ち、新たな知見を与えてくれる予定。果たして火星に生命はいたのか。

Comment
Cleaning China’s air
中国の空気を綺麗にする
中国の大気汚染を改善するために、適応戦略が必要。石炭の燃焼削減など。

News & Views
Climate science: Aerosols and Atlantic aberrations
気候学 エアロゾルと大西洋の気候異常
Amato Evan
最先端の全球的気候モデルは、大気中へのエアロゾル放出と北大西洋における気温変動が結びついているとしており、人類の活動が極端な気候事象に影響していることを示唆している。

Review
Emerging fungal threats to animal, plant and ecosystem health
動植物および生態系の健全性に真菌類が及ぼす新たな脅威
Matthew C. Fisher, Daniel. A. Henk, Cheryl J. Briggs, John S. Brownstein, Lawrence C. Madoff, Sarah L. McCraw & Sarah J. Gurr
Letter
Aerosols implicated as a prime driver of twentieth-century North Atlantic climate variability
21世紀の北大西洋における気候変動の主要因として関与していたエアロゾル
Ben B. B. Booth, Nick J. Dunstone, Paul R. Halloran, Timothy Andrews & Nicolas Bellouin
気候モデルを用いたシミュレーションから、ハリケーン活動の極大やサヘル砂漠の干ばつなど社会的に大きな影響をもたらしたさまざまな歴史的な気候事象に、人為起源のエアロゾルの放出が影響を与えたことが示唆された。エアロゾルは政策によって抑制可能であり、将来の気候変化を抑えるためにも、エアロゾルの抑制は重要な要素である。

2012年4月8日日曜日

ハワイ発の海洋酸性化の記録〜ハワイの海で有名なのはビーチだけではない〜

Physical and biogeochemical modulation of ocean acidification in the central North Pacific
John E. Dore, Roger Lukas, Daniel W. Sadler, Matthew J. Church, and David M. Karl
PNAS vol. 106 No. 30 (28 July 2009)
より。邦題をつけると「北太平洋中部における海洋酸性化の物理・生物地球化学的な調整」という感じ?

2012年4月5日木曜日

新着論文(QSR#36-39)

Quaternary Science Reviews
Volume 36, Pages 1-222 (12 March 2012)

SG06, a fully continuous and varved sediment core from Lake Suigetsu, Japan: stratigraphy and potential for improving the radiocarbon calibration model and understanding of late Quaternary climate changes
Takeshi Nakagawa, Katsuya Gotanda, Tsuyoshi Haraguchi, Toru Danhara, Hitoshi Yonenobu, Achim Brauer, Yusuke Yokoyama, Ryuji Tada, Keiji Takemura, Richard A. Staff, Rebecca Payne, Christopher Bronk Ramsey, Charlotte Bryant, Fiona Brock, Gordon Schlolaut, Michael Marshall, Pavel Tarasov, Henry Lamb, Suigetsu 2006 Project Members
2006年に新たに得られた水月湖の堆積物コアの記載について。新たな放射性炭素の較正曲線に追加できるデータとして期待が寄せられている。

Volume 37, Pages 1-104 (22 March 2012)
特になし

Volume 38, Pages 1-100 (30 March 2012) 

Post-LGM deglaciation in Pine Island Bay, West Antarctica
Alexandra E. Kirshner, John B. Anderson, Martin Jakobsson, Matthew O’Regan, Wojciech Majewski, Frank O. Nitsche
西南極のPine Island湾において新しく得られた堆積物コアについて。西南極氷床(氷床の基部が海水面下にあるため、海水準の変化に敏感に応答すると考えられている)の最初の融解はLGM-16.4Kaに起こり、海水準の上昇に対する応答と考えられる。

Volume 39, Pages 1-114 (16 April 2012) 


The mystery of the missing deglacial carbonate preservation maximum
Figen A. Mekik, Robert F. Anderson, Paul Loubere, Roger François, Mathieu Richaud
氷期に海洋がより成層化し、深層水に大量の炭素が蓄えられていたとすると、最終退氷期には深層の炭素が表層へと移動することで深層水の炭酸塩に関する飽和度が増し、炭酸塩の保存度が増すことが期待される。太平洋、大西洋、インド洋の熱帯域で得られた堆積物コアの炭酸塩の保存度を復元したところ、そうした傾向は特に見られなかった。原因としては以下の理由が考えられる。
1、有機物/炭酸塩の比の変化(赤道東太平洋)
2、堆積速度が遅く、生物擾乱の影響(赤道西太平洋)
3、AABW(深層水に富む)がより北上(赤道大西洋)

新着論文(Nature)

Nature
Vol. 484 No. 8 (05 April 2012)

Research Highlights
Heads up on a heat wave
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi. org/10.1029/2012GL051383 (2012)
米国立測候所が新しい気候モデルを開発。熱波の到来などを高い確度で予測できるらしい。今後予測結果と実際の気象との評価が行われる予定。

News in Focus
Glaciologists to target third pole
数週間のうちに始まる第三の極の環境計画(Third Pole Environment Program)について。特にチベットに存在する山岳氷河の今後の気候変動に対する変化のモニタリング計画。得られたデータは統合され、一般に公開される予定。IPCC AR4の時には2035年にチベットの山岳氷河が消失することが予測されたが、2010年の衛星観測計画(GRACE)からは確かに消失は進んでいるが、予想の10分の1の速度であることなどが示された。衛星観測と現場観測の擦り合わせが依然として必要。

News & Views
A tale of two hemispheres
Shakun et al. (2012)の解説記事。

Article
Global warming preceded by increasing carbon dioxide concentrations during the last deglaciation
Jeremy D. Shakun, Peter U. Clark, Feng He, Shaun A. Marcott, Alan C. Mix, Zhengyu Liu, Bette Otto-Bliesner, Andreas Schmittner & Edouard Bard
最終退氷期の温暖化と二酸化炭素の上昇との関係について。全球の温度指標のプロキシを80個まとめて、アイスコアから得られた二酸化炭素濃度と比較。基本的には「温度上昇」が「二酸化炭素濃度上昇」に先立っているが、二酸化炭素は温暖化の増幅システムとして、最終退氷期の温暖化のほとんどの部分を説明することができる。

Letters
Past extreme warming events linked to massive carbon release from thawing permafrost
Robert M. DeConto, Simone Galeotti, Mark Pagani, David Tracy, Kevin Schaefer, Tingjun Zhang,David Pollard & David J. Beerling
PETMの原因は軌道要素の変化に伴う北極・南極周辺の永久凍土の融解と温室効果ガスの大量の放出が原因?

新着論文(EPSL, GCA)

Earth and Planetary Science Letters
Volumes 329–330, In Progress (1 May 2012)

Model limits on the role of volcanic carbon emissions in regulating glacial–interglacial CO2 variations
Raphael Roth, Fortunat Joos
最終退氷期において氷床解放によって火山活動が活発化したことで、大気中の二酸化炭素濃度の上昇(100ppm)に寄与したという仮説をモデルで検証。同位体(d13C、Δ14C)はうまく再現できず、火山活動の寄与は小さいと考えられる。しかしながらモデルの不確実性が大きい。

Seawater transport during coral biomineralization
Alexander C. Gagnon, Jess F. Adkins, Jonathan Erez
87Sr、43Ca、136Baを添加した海水化でサンゴを飼育し、SIMSで骨格断面の元素分布をプロファイリングすることで、サンゴの石灰化プロセスを考察。
(1)海水と石灰化母液との間で陽イオン交換が起こること
(2)海水が石灰化母液のある場所まで速やかに運搬されること
が分かった。しかし運搬の速度は場所ごとに不均質性がある(30〜342分)。


Geochimica et Cosmochimica Acta
Volume 84, Pages 1-628 (1 May 2012)

Evalidation of environmental controls on the δ13C of Arctica islandica (ocean quahog) shell carbonate
Erin C. Beirne, Alan D. Wanamaker Jr., Scott C. Feindel
飼育したホンビノスガイ(Arctica islandica)のδ13Cと周囲の海水のDICのδ13Cを比較。代謝由来の炭素の寄与は10%以下で、ほとんどがDIC由来。殻の成長率も特に影響なし。大西洋の過去の海水のδ13Cを探る指標として有望。

A high resolution δ13C record in a modern Porites lobata coral: Insights into controls on skeletal δ13C
Nicola Allison, Adrian A. Finch, EIMF
ハワイのハマサンゴ(Porites lobata)の骨格の断面をSIMSを用いて詳細にδ13C測定。温度でも海水のDICの変化でも説明できない変動が得られた。前の論文で得られたδ11Bから得られたpHとも、δ18Oとも相関は見られず。代謝由来のCO2の寄与の割合というよりもむしろδ13CO2が影響しているもよう。代謝由来のCO2は呼吸、食餌、光合成など様々な要因の組み合わせ。

Boron and oxygen isotope systematics for a complete section of oceanic crustal rocks in the Oman ophiolite
Kyoko Yamaoka, Tsuyoshi Ishikawa, Osamu Matsubaya, Daizo Ishiyama, Kazuya Nagaishi, Yuko Hiroyasu, Hitoshi Chiba, Hodaka Kawahata
オマーン・オフィオライト(Oman Ophiorite; 陸上に隆起した海洋地殻の地層)のδ11Bとδ18Oを測定。深度方向に温度が上昇するという特徴が得られた。海水が熱水変成に寄与したことも示唆。

2012年4月1日日曜日

新着論文(Ngeo#April 2012)

Nature Geoscience
April 2012, Volume 5 No 4 pp229-300

Research Highlights
Dust and Rain
J. Clim. http://doi.org/hrb (2012)
60年間の気象観測データからAtlantic Multidecadal Oscillationの正のフェーズとサヘルの降水(ダストの減少)との間に相関が見られた。ダストの減少は大西洋をさらに暖めるという正のフィードバック効果がある。

Cretaceous circulation
Paleoceanography http://doi.org/hrc (2012)
白亜紀の魚の歯のεNdから白亜紀の北大西洋における深層水の形成を復元したところ、より北極側で8,000万年前から起こっていたことが分かった。

Emissions blend
Biogeosciences 9, 689–702 (2012)
フィンランドの松の放出する揮発性の有機物(エアロゾルの一種)を詳しく調べたところ、木ごとに異なる化学物質を放出していることが分かった。

News & Views
Climate science: Constraints on the high end
Isaac Held
深刻な温暖化の可能性を我々は真摯に受け止める必要がある。

Fossils from above
Alicia Newton
’暗い太陽のパラドクス’に関して。日射量が低かったにも拘らず温暖な気候を維持するには、温室効果ガスの濃度が高かっただけでなく窒素濃度が2倍ほど高いことが必要だったという’窒素仮説’がある。それを示すためには始生代の大気圧を求める必要がある。火山灰に刻まれた過去の雨の化石が過去の大気圧を探る手だてになるかもしれない。特に地面に達する際の水滴の終末速度は大気の密度(つまり大気圧)に関係するからである。

Letters
Broad range of 2050 warming from an observationally constrained large climate model ensemble
Daniel J. Rowlands, David J. Frame, Duncan Ackerley, Tolu Aina, Ben B. B. Booth, Carl Christensen, Matthew Collins, Nicholas Faull, Chris E. Forest, Benjamin S. Grandey, Edward Gryspeerdt, Eleanor J. Highwood, William J. Ingram, Sylvia Knight, Ana Lopez, Neil Massey, Frances McNamara, Nicolai Meinshausen, Claudio Piani, Suzanne M. Rosier, Benjamin M. Sanderson, Leonard A. Smith, Dáithí A. Stone, Milo Thurston, Kuniko Yamazaki, Y. Hiro Yamazaki & Myles R. Allen
数千もの気候モデルを用いて将来のアンサンブル予測をしたところ、温室効果ガス削減なしの中程度の排出シナリオの場合には2050年には1961-1990年比で1.4-3.0度平均気温が上昇することが分かった。

Trends and seasonal cycles in the isotopic composition of nitrous oxide since 1940
S. Park, P. Croteau, K. A. Boering, D. M. Etheridge, D. Ferretti, P. J. Fraser, K-R. Kim, P. B. Krummel, R. L. Langenfelds, T. D. van Ommen, L. P. Steele & C. M. Trudinger
二酸化窒素は長寿命の温室効果ガスであるだけでなく、オゾンを破壊する物質として注目されている。南極とタスマニアの万年雪(フィルン)から1940年以降の二酸化窒素の濃度とδ18O、δ15Nを測定したところ、明瞭な季節変動が見られ、成層圏からもたらされる二酸化窒素と海洋からもたらされる二酸化窒素を区別するのに有用である可能性が示された。長期の傾向は人類による窒素肥料の使用が原因と考えられる。
Park et al. (2012) Fig.1を改変。
二酸化窒素濃度(a)の増加傾向と二酸化窒素中の窒素同位体(δ15N)の減少傾向が明瞭に見られる。

Influence of the tropics and southern westerlies on glacial inter hemispheric asymmetry
Patrick De Deckker, Matthias Moros, Kerstin Perner & Eystein Jansen
氷期において千年スケールの気候変動が両極シーソーの形で現れていたが、南半球では特に偏西風帯の位置が緯度方向に変化したと考えられている。オーストラリア南部で得られた堆積物コアから33,000年前から10,000前までの水温を含む様々な環境指標を復元したところ、ハインリッヒイベント(北半球の寒冷化)に対応する温暖化のシグナルが捉えられた。偏西風帯が南下したことで暖流が熱帯の熱を極側に運んだ証拠と考えられる。
De Dekker et al. (2012) Fig. 1を改変。
偏西風帯と亜熱帯前線(STF)の位置が対応しており、極向きの熱輸送に重要。


Links between iron input and opal deposition in the Pleistocene equatorial Pacific Ocean
Richard W. Murray, Margaret Leinen & Christopher W. Knowlton
赤道太平洋の生物生産は鉄などの微量元素によって制限されており、栄養塩が多いにも関わらず生物生産が低い海域(HNLC)となっている。氷期においては塵(鉄を含む)の供給が増えたことで生物生産は強化したと考えられる。堆積物コアから過去100万年間の鉄の供給量と生物源オパール量、有機物輸送量を復元したところ、氷期-間氷期サイクルに対応して連動していることが分かった(特に鉄とオパール、つまり珪藻の生物生産)。’鉄仮説’を強く支持する結果に。
Murray et al. (2012) Fig. 3を改変。
氷期に鉄の供給量が増えるとオパールの生産が増え、間氷期に鉄の供給量が減るとオパールの生産が落ち込む。