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2012年3月8日木曜日

漁業の今後

昨日大気海洋研で行われたシンポジウムにおける渡邊先生のお話で、日本の(世界の)漁業がこれまでどう発展してきて、そして今後どうなるかについて簡単にまとめ。

これまで漁業は基本的に狩猟採集型で、畜産・農業と比べると幾分原始的で「周回遅れ」という表現がなされるほど遅れていた。
最近になり栽培漁業(養殖)が発展し始め、畜産・農業に肩を並べ始めたかと思いきや、実はやっていることはやはり原始的である。

栽培漁業の内訳は5割が藻類で3割が軟体動物(ホタテ、カキ、ムール貝)で、魚類は1割程度に過ぎない。

藻類の場合、施設を用意するだけで、生育の場は完全に海である。つまり餌も環境も自然任せ。

軟体動物もしかり。幼生をロープにつるす、砂地にばらまくなどしかしない。

魚類だけ特殊で、いけすを用意し、餌を与え、管理する。
しかしながら例えば大型魚の養殖の場合、餌(主にイワシ類)は通常海から取ってきたものを与える。つまり結局自然依存型である。

また畜産の農業とで最も大きな違いは一次生産者から食肉までのエネルギー段階の違いである。

畜産:太陽光エネルギー→牧草による光合成エネルギー→牧牛
漁業:太陽光エネルギー→植物プランクトン→動物プランクトン→小型の魚→中型の魚→大型の魚

というように、畜産の場合一次生産を行う植物から牧牛へのエネルギーの輸送距離が非常に短く、管理することで生産をうまく循環させることができる。
一方で漁業の場合は生態的な階層構造があるためにエネルギーの輸送距離が非常に長い。

例えば今のスタイルの魚類の養殖は生産効率が非常に悪く高級魚向け。今後汎的に発展するとは思えない。

そこで渡邊先生が提案されているのが「適応」への道。

人間が自然を管理するのではなく、変わりゆく自然に人間がどう適応していくかが重要だということだ。

例えば自然界ではレジームシフトなど海洋環境の変化によっても生態系が複雑に変化し、漁獲量も安定しない(当たり年、外れ年がある)。

地球温暖化・海洋酸性化をはじめとする種々の気候・環境変動によっても今後当然生態系が変化し、漁業にも大きく影響してくるだろう。
シミュレーションによる気候変動予測結果などをもとに10年程度のスパンでもって漁獲計画を練る必要がある。経年変動があるので数年先でも予測は困難だという。




○コメント
以下は僕個人の考えだが、増え続ける世界の人口を養うにはおそらく畜産だけでは不十分で漁業もより活性化させる必要がある。
ただし中国のように乱獲に走るのではなく、いかに循環型の漁業を実現するかが重要で、あくまで自然に上手く適応しなければならない。特に日本のような国土面積が乏しい国においては周囲を取り囲む海の資源をフル活用しなければ今後の世界を生き抜くことはできない。
今後の世界を支配するのはアメリカ、中国、インド、その他の途上国であり、日本は経済・人口・社会的な立場すべて下降傾向にある。
再生可能エネルギー(洋上風力、波力、潮汐発電)、海底資源を含め、やはり「海」が日本の最後の砦かと。

また人工肉の生産にも僕個人は期待を寄せている。2年前のScienceがNatureか忘れたが、豚の人工肉の生産が実用段階に近づいているという記事を読んだ。純粋な組織培養だけで豚の筋肉組織を作り、ソーセージなどの加工食品にするというものだ。当然始めは口にするのを忌避する人もいるだろうが、そのうち当然のように食卓に並ぶ日も近いのではないだろうか。
例えば海の生物にこの技術を応用するとしたら、マグロやクジラなどの重要なタンパク源が挙げられるが、大味な赤身なら培養できそうな気がするのだが難しいのだろうか?
僕は白身魚(特にカサゴ、メバル、カワハギ)が好きだけども。