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2012年3月6日火曜日

放射性炭素年代測定の新手法

Ultra Sensitive Radiocarbon Detection
Richard N. Zare
Nature vol. 482 (16 Feb 2012)
より。分光法を用いた放射性炭素年代決定の新しい手法の解説。

放射性炭素年代測定の歴史はこれまでβ線カウント→加速器という歴史を辿ってきた。

加速器を用いた放射性炭素年代測定(AMS-14C)では天然にごくわずか(0.0000000001%)しか存在しない放射性元素である14Cを質量分析によって測定するが、同重体として天然に存在する14Nの影響を排除しなければならない。

以下、AMS-14Cの簡単な原理。

予めグラファイトにした試料にセシウムのビームを照射することで負の炭素イオンを生成する。
負の炭素イオンは数MeVの電圧で光速の数%という速度まで加速される。
その後ガスまたは薄膜のイオン剥離装置(ion stripper)で正のイオンに変えられ、イオン検出器で検出されることとなる。

14Nは安定な負のイオンを形成しないため、純粋な14Cのみが検出器まで到達することとなる。


しかしながら、AMS-14Cは現在でも広く用いられているが、一般に「コストが高いこと」と、「施設が大きく維持が大変」というデメリットがある。


そこで新しく開発された新手法はより簡便で効率的な方法である。

まず試料は酸化されることで二酸化炭素に変えられ、二酸化炭素の赤外線の吸収を用いて同位体分析を行う

気体ごとに赤外線の吸収帯は異なるため、水蒸気や窒素の影響は考える必要はない。

二酸化炭素の吸収帯をより詳細に測定することができれば、12C、13C、14Cを分けることができる。

Galli et al. (2011, Physical Review Letters)は新しく’saturated-absorption cavity ring-down spectroscopy’と呼ばれる手法を開発し、赤外線を用いた放射性炭素年代測定を可能にした。

鏡の反射をうまく利用して赤外線の通過回数を増やし、赤外線の吸収効率を上げることで感度を高めるという工夫がなされているらしい。
また高出力の赤外線を用いることで吸収を飽和状態にさせ、測定を行うらしい。

この装置のサイズはわずか2×2 mのスペースに収まる程度で、コストも400,000米ドル(日本円にすると約4千万円)と加速器に比べて各安。
しかしこれからまだまだ安価になるよう改善が加えられてゆくらしい。

さらにこの手法のもう1つの利点は、何度も繰り返し測定ができることにある。
加速を用いた質量分析ではイオンビームを生成するために試料が消費されてしまうが、赤外線の吸収は試料を破壊することはない。

他の同位体も赤外線によって簡単に測定できる日が来るかもしれない。